離婚の慰謝料を強制執行するためには?
ざっくりポイント
  • 強制執行の条件とは?
  • 強制執行の対象となる財産とは?
  • 強制執行をする流れとは?

目次

【Cross Talk 】離婚時の慰謝料を回収するには不動産執行や債権執行をする

相手に離婚時の約束を強制的に守らせるにはどうすればいいのでしょうか?

強制執行を行うことで金銭等を回収できる可能性があります。

離婚と強制執行について、詳しく教えてください。

離婚時の慰謝料を回収するためには強制執行を行う

離婚時に取り決めた養育費、慰謝料、財産分与などの金銭支払いが滞ったり、面会交流が拒否されたりした場合、諦める必要はありません。相手が約束を履行しないとき、あなたの権利を強制的に実現する最終手段が「強制執行」です。

これは相手の財産を差し押さえるなど非常に強力な手続きですが、行うためには厳格な条件と正しい手順が必要です。この記事では、強制執行とは何か、手続きの条件や対象となる財産、具体的な流れなどについて弁護士が解説していきます。

強制執行とは?

知っておきたい離婚のポイント
  • 強制執行とは?
  • 強制執行にかかる費用とは?

強制執行とはどのようなものなのでしょうか?

ここでは、強制執行の概要とかかる費用について解説していきます。

強制執行の費用

「強制執行(きょうせいしっこう)」とは、裁判所の手続きを通じて、債権者(お金を請求する側)の権利を、強制的に実現する非常に強力な手段です。

離婚後の金銭的な取り決め(慰謝料、財産分与、養育費など)や、面会交流について合意したにもかかわらず、相手方がその約束を履行しない場合、まずは当事者間で任意での支払いや履行を求めますが、相手が応じない場合には強制執行を選択することになります。具体的には、裁判所の命令に基づき、債務者(支払う義務のある側)の財産を差し押さえるなどして、滞っている金銭を回収します。

ただし、強制執行の申立てには、裁判所に納める実費と、弁護士に依頼する場合の弁護士費用が発生することを理解しておきましょう。

例えば、金銭債権を回収するための「債権執行」を申立てる場合、裁判所に納める収入印紙代(債務名義1通につき4,000円)と、連絡用の郵便切手代(郵券)として3,000円〜5,000円程度が必要です。差し押さえの対象や手続きの種類によって、費用は変動します。

弁護士費用は、法律事務所によって料金体系が異なりますが、一般的には、事件を依頼する際に発生する着手金と、実際に金銭回収などの成果が得られた場合に発生する報酬金があります。強制執行におけるこれらの費用は、回収を求める債権額に応じて設定されることが多いです。

例えば、債権額が300万円以下では、着手金は債権額の4%~8%程度、報酬金は実際に回収できた額の4%~16%程度で設定している法律事務所が一般的です。

関連記事:養育費を強制執行するデメリットは?会社が拒否などお金をとれない場合はどうする?

離婚時、強制執行ができる条件

知っておきたい離婚のポイント
  • 離婚問題で強制執行ができる条件とは?
  • 強制執行には債務名義が必要

離婚問題で強制執行をするにはどのような条件が必要ですか?

ここでは、強制執行できる条件について解説していきます。

債務名義がある

強制執行を行うためには、まず「債務名義(さいむめいぎ)」と呼ばれる公的な文書が必要です。これは、請求者(債権者)が相手方(債務者)に対して特定の権利(金銭の支払い請求権など)を持っていること、その権利の範囲を公的に証明する、強制執行の根拠となる書類です。

離婚問題において「債務名義」となり得る主な文書は、手続きの種類によって異なります。

協議離婚 執行認諾文言付き公正証書
離婚調停・審判 調停調書・確定した審判書
離婚訴訟・慰謝料請求訴訟 確定判決・和解調書 など

上記のうち、裁判所の手続きを経ずに当事者の合意に基づいて作成できる「公正証書」は、「執行認諾文言(強制執行されても異議がない旨の文言)」を付すことで、すぐに強制執行の債務名義とできるため、協議離婚の際に非常に有効な手段となります。

住所を把握している

強制執行の申立ては、原則として相手方の住所地を管轄する裁判所に対して行う必要があります。また、手続きを進める上で、裁判所から相手方へ書類を確実に送達する必要があるため、強制執行を実行するためには、相手方(債務者)の現住所を正確に把握できていることが必須条件となります。

相手方が転居しているなどで現住所が不明な場合は、弁護士に依頼することで、住民票の除票や戸籍の附票を取得するなどの調査が可能になります。これにより、過去の住所から現在の住所まで辿ることができ、住所特定に繋がる場合があります。住所が不明なままでは、手続きを進めることが困難になるため、事前の調査が重要です。

差し押さえる財産を特定できている

債務名義があり、相手の住所がわかっていても、強制執行の対象となる財産が特定できていなければ、手続きを進めることはできません。例えば、預金を差し押さえる場合は「どの銀行のどの支店にある預金か」、給与を差し押さえる場合は「勤務先(会社名や所在地)」など、具体的な情報を特定する必要があります。

相手方と離婚後に疎遠になり財産の状況が全く分からない場合、そのままでは強制執行は「空振り」に終わるリスクが高くなります。

そのため、申立ての前に、財産調査の手続き(弁護士会照会など、または民事執行法に基づく財産開示手続など)を利用し、債務者名義の差し押さえるに足る価値のある財産を特定しておくことが、強制執行を成功させるための重要な鍵となります。

強制執行の対象となる財産

知っておきたい離婚のポイント
  • 強制執行の対象となる財産とは?
  • 不動産や給料の差し押さえが一般的

離婚問題で強制執行をするにはどのような条件が必要ですか?

ここでは、強制執行できる条件について解説していきます。

不動産執行

不動産執行は、相手方(債務者)が所有する土地や建物といった不動産を対象とする強制執行です。

強制競売 不動産を差し押さえ、裁判所が競売にかけ、その売却代金から債権を回収する方法
強制管理 不動産を売却せず、その不動産から生じる収益を差し押さえて債権を回収する方法

債権執行は、相手方が第三者に対して持っている「債権(お金を受け取る権利)」を差し押さえる手続きです。具体的には、以下のようなものが対象となります。

給与債権 勤務先から受け取る給与
預貯金債権 銀行など金融機関に対する預金
売掛金債権 個人事業主などが取引先から受け取る売上金

債権執行では、差し押さえ命令が支払元(第三債務者、例:銀行や勤務先)に送達されれば、債権者(請求者)が直接その第三者から金銭を取り立てることができるため、不動産のように換価(売却)の手続きが不要で、比較的迅速かつ簡便に回収できます。

動産執行

動産執行は、相手方の自宅や倉庫にある動産(現金、貴金属、骨董品、自動車など)を差し押さえ、これらを売却して金銭を回収する手続きです。執行官が債務者の自宅などに立ち入って行われます。

手続き自体は比較的簡便ですが、回収対象となる動産には制約が多いのが実情です。生活に必要な衣類、寝具、家具、家電や、66万円以下の現金など、差押えが法律で禁止されている動産が多いため、期待したほどの回収額が得られず、費用倒れになるリスクもあります。

金銭回収以外の「非金銭執行」

強制執行は金銭の回収だけでなく、金銭以外の義務の履行を強制するためにも使われます。これを「非金銭執行」といいます。離婚問題においては、子どもの引渡し(親権者や監護者に指定された側が子どもを現実に引き渡すよう求める)や、面会交流の実施を拒否された場合にこの手続きが用いられます。

特に面会交流については、執行官が無理やり連れてくる直接強制は子どもの福祉に反するため認められていません。そのため、一定の期限までに面会交流を実施しなければ金銭の支払いを命じるという「間接強制」の手続きが取られます。これにより、心理的な圧力をかけて、義務の履行を促すことになります。

離婚における強制執行をする流れ

知っておきたい離婚のポイント
  • 離婚における強制執行をする流れとは?
  • 裁判所に申立てをする必要がある

離婚における強制執行はどのように行われるのでしょうか?

ここでは、離婚における強制執行をする流れについて解説していきます。

債務名義の取得

強制執行の前提として、まずは、執行認諾文言付き公正証書、調停調書、確定判決などの「債務名義」が必要です。

既に債務名義を持っていても、強制執行を開始するためには、その書類が相手方に送達されたことの証明(送達証明)を取得し、さらに債務名義に「執行文の付与」(強制執行を許す旨の文言の記載)を受けなければなりません。これらの手続きは、債務名義を作成した公証役場または裁判所で行います。

差押え財産の確認

強制執行を成功させるため、事前に差し押さえる財産を具体的に特定することが極めて重要です。預金なら「金融機関名と支店名」、給与なら「勤務先(会社名)」を把握しておく必要があります。この情報が不明な場合、弁護士による調査や、裁判所の財産開示手続などを利用して情報を取得します。

裁判所へ強制執行を申立てる

特定した財産に基づき、必要書類を揃えて地方裁判所へ強制執行を申立てます。債権執行の場合、原則として債務者の住所地を管轄する裁判所ですが、勤務先や銀行の所在地を管轄する裁判所でも申立てが可能です。
申立書には、請求する債権や差し押さえたい債権の内容などを記載した目録を添付します。申立てには、収入印紙代4,000円と郵便切手代(3,000円〜5,000円程度)などの費用がかかります。

差押え命令の取得

申立てが裁判所に認められると、裁判所は「差押命令」を発令し、その正本が債務者(相手方)と第三債務者(銀行や勤務先など、支払義務を負う方)に送達されます。この命令により、第三債務者は債務者への支払いが禁止され、債務者は預金の引き出しなどができなくなります。

金銭の回収

債務者に差押命令が送達されてから一定期間(通常1週間または4週間)が経過すると、債権者(請求者)は「取立権(とりたてけん)」を取得します。この権利に基づき、債権者は裁判所を介さず直接、第三債務者へ連絡し、差し押さえた金銭の支払いを求めることができます。
回収が完了したら、裁判所にその旨を「取立届」で報告し、手続きを完了させます。

まとめ

離婚時の養育費、慰謝料、財産分与などの金銭的義務や、面会交流の取り決めが守られない場合、強制執行はあなたの権利を実現するための強力な法的手段です。
強制執行を行うには、債務名義(公正証書、調停調書など)の取得、相手方の住所と差し押さえる財産(預金、給与、不動産など)の特定という条件を満たす必要があります。特に債権執行は比較的迅速な回収が可能です。
手続きは複雑ですが、泣き寝入りせず、弁護士のサポートのもとで権利の回収を目指しましょう。離婚問題でお悩みの場合は、当事務所にご相談ください。