熟年離婚の財産分与について解説いたします
ざっくりポイント
  • 財産分与は夫婦が協力して築いた財産が対象となる
  • 年金は分割が可能。不動産など現物の財産は分割方法が3つある
  • 基本的に財産分与で税金は課されないが、場合によっては譲渡所得税・贈与税が課される可能性がある

目次

【Cross Talk 】そもそも財産分与とは?

熟年離婚の予定があり財産分与について調べています。そもそも財産分与ではどんな財産を分けることができるのでしょうか?

夫婦が協力して築いた財産が分与の対象です。例えば、夫が働きに出て妻は家事をしていた場合でも、妻は財産の形成に寄与したとみなされ、財産分与を請求できます。

熟年離婚における財産分与の方法や注意点とは?

熟年離婚は婚姻期間が長いため、分与の対象となる財産が多くなる傾向があります。特に不動産(持ち家)やまだ受け取っていない退職金などは「どうやって分割したら良いのか分からない」という声は少なくありません。
まず財産分与とは何か、財産分与の対象となるもの・ならないものを解説した後、熟年離婚における財産分与の方法や注意点をお伝えしていきます。

財産分与とは?

知っておきたい離婚のポイント
  • 夫婦が協力して形成した財産が分与の対象となる
  • 財産分与ができる期間は離婚から2年以内。早めの分割を

離婚時の財産分与はいつ行えば良いのでしょうか?

当事者に都合の良いタイミングで分与を行っても問題はないですが、請求できる期間は離婚後2年以内と定められています。

財産分与とは

離婚時に婚姻期間内に2人で形成した財産を分割する行為を財産分与と呼びます。
財産分与ができる期間は離婚から2年以内で、2年を超えると家庭裁判所に調停を申し立てることができなくなります。

基本的に夫婦で公平に分配することとされていますが、離婚後に生活費を稼ぐことが出来ない、不貞・DVなど離婚の原因を作ったことに対する慰謝料を上乗せするといった理由により、1/2で分割されない場合もあります。

二人で話し合って財産分与の内容を決めますが、意見がまとまらないときには財産分与請求調停※2(離婚前は夫婦関係調整調停)により、調停委員や裁判官を交えて話し合います。

財産分与の対象になるものとならないもの

分与の対象となる財産は「結婚中に夫婦で協力して形成した財産」です。

預貯金や不動産、有価証券などについては、婚姻期間中に夫婦で協力して得た財産と評価されれば、財産分与の対象となります。
夫または妻の単独名義での不動産でも、所有者(名義人)が働きに出ており一方は家事をしていた場合など、二人で分担して財産を形成したとみなされるのであれば、共有財産となります。
一方で、相続・贈与によって得た財産や嫁入り道具、結婚前の預貯金などは単独の財産となります。

夫婦のどちらかが借金をした場合※3は各人の債務となりますが、二人で住んでいた住宅のローンなど共同生活をする上で借りた金銭は分与の対象となります。

熟年離婚での財産分与の方法

知っておきたい離婚のポイント
  • 年金は分割できる。退職金は協力して形成した財産であれば分与が可能。
  • 不動産(持ち家)がオーバーローンの場合は特に注意が必要。入念に話し合い、合意した内容を公正証書に記載する

不動産など現物の財産はどうやって分割すれば良いでしょうか?

現物の財産は現物分割・代償分割・換価分割という3つの方法があります。

年金は分割

熟年離婚では、既に年金を受け取っている、もしくは近いうちに年金を受け取る予定という場合が多いでしょう。

離婚した場合に2人の婚姻期間中の保険料納付額に対する厚生年金を分割し、それぞれ自身の年金とすることを年金分割と呼びます。※4

年金分割には合意分割と3号分割という2つの制度があります。
合意分割は

・婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)がある
・当事者の合意または裁判手続きにより割合を定めた
・離婚をした日の翌日から2年以内(請求期限)を経過していない

という3つの要件を満たした際に利用できます。※5

一方で、会社員・公務員などの配偶者から扶養されていた方(国民年金の第3号被保険者)が

・婚姻期間中に2008年4月1日以後の国民年金の第3号被保険者期間がある
・離婚をした日の翌日から起算して2年以内(請求期限)を経過していない

という2点を満たした場合には3号分割として年金を分割します。
3号分割に関しては、当事者間の合意は必要ありません。

不動産(持ち家)

結婚中に持ち家を購入した際には住宅ローンが残っているか否か、住宅ローンが残っている場合はオーバーローン(住宅ローンの残債が住宅の売却価格を上回ること)ではないかという点が重要となります。

住宅ローンが残っている持ち家はまず二人で話し合い、売却するかどちらかが住み続けるかを決めます。売却する際には売却代金をローン返済に充て、代金が残った場合には2人で分割します。
オーバーローンで売却してもなおローンが残るときには、ローンを誰がどのくらい負担するかを取り決めます。

基本的には、離婚時に不動産を売却した方が後にトラブルが起こる可能性が低くなります。
どちらかが住み続けることにした場合には、後のトラブルを避けるためにも、住み続ける方を名義人にした方が良いでしょう。
例えば、名義変更が出来ないと、名義人である元配偶者に固定資産税の納税通知書が送付されることになります。また、家を譲る元配偶者がローンの返済をする約束をしていたものの返済が滞ってしまった際に、住み続ける方は最終的に家を競売にかけられることになり、追い出されてしまいます。

ローンが残っており名義変更が難しい場合は、ローンを支払う方、負担する割合などを話し合いで決めます。
オーバーローンの家で離婚後の返済が厳しい場合には、ローンを契約している金融機関が売却の可否と売却価格を承諾した上で売却する「任意売却」という方法で家を売り、金融機関との間で、月々の返済額を減らしてもらったり、返済期間を延ばしてもらったりするように交渉することを選ぶ方もいます。

退職金

退職金も夫婦が協力して形成した財産であれば分与の対象となります。
まだ退職金を受け取っておらず、将来受け取ることが予想される場合でも、一般的には財産分与の対象になるとされています。※6

そのため、退職金を分与するか否か、分与する場合にはその割合を話し合って決めましょう。

現物の財産は現物分割・代償分割・換価分割という方法がある

不動産・貴金属など現物の財産は分割が難しいですが、分割には3つの方法があります。
現物財産をそのまま分ける現物分割、どちらかが財産を譲り受け、譲り受けた方が譲った方に相応の金銭または財産を分与する代償分割、売却して代金を分ける換価分割です。
財産の種類や2人の意向などを考慮しながら話し合い、3つの方法のうちいずれかを選びましょう。

財産分与について取り決めた後は、離婚給付等契約公正証書※7を作成すれば、決定した内容が書面化されるため、いざというときに役立つ可能性があります。

加えて、離婚給付等契約公正証書の「強制執行認諾」の項目において、相手が約束を破った(例:住宅ローンの支払いを負担すると約束したのに支払いが滞った)ときに「強制執行を承諾する」旨を記載すると、わざわざ裁判を起こさなくても簡単な手続により相手の財産を差し押さえられるようになります。

熟年離婚における財産分与の注意点

知っておきたい離婚のポイント
  • 財産分与では基本的に税金は課されないが例外がある
  • 高額な不動産を譲る場合、離婚前であれば控除制度を活用できる

熟年離婚の財産分与で注意すべきポイントはありますか?

財産分与は基本的に税金が課されませんが、譲渡所得税・贈与税がかかる場合があります。

熟年離婚の場合は婚姻期間が長いため、財産分与の対象となる財産が多い傾向にあります。

財産分与では基本的に税金がかかりませんが、不動産や株式など金銭以外の財産を譲った場合には譲渡所得税が課される可能性があります。
また、分与された財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額や全ての事情を考慮してもなお多過ぎる場合、または、贈与税・相続税を免れるために離婚したと認められる場合には贈与税が課されます。※8

ただ、離婚前であれば「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」※9によって基礎控除110万円と最高2,000万円まで贈与税の控除が可能です。

夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われた場合など、一定の要件を満たす場合には、必要書類を添付して、贈与税の申告をすることが必要となります。
高額な不動産を夫婦どちらかが譲り受ける場合には、離婚前に有効な制度を活用しておくと良いでしょう。

※1 法務省 財産分与
※2 裁判所 財産分与請求調停
※3 神戸市役所 夫または妻名義で借入れた住宅ローンやサラ金等の借金は、どのように取り扱えばよいか。
※4 法務省 年金分割
※5 日本年金機構 離婚時の年金分割
※6 法務省 家族法制部会 資料10財産分与制度に関する論点の検討 左13P
※7 日本公証人連合会 Q. 離婚に関する公正証書は、どのような条項から成り立っているのですか。
※8 国税庁 離婚して財産をもらったとき
※9 国税庁 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除

まとめ

このページでは、財産分与の対象となるものならないもの、年金や退職金などの分与方法、分与における注意点などを解説してきました。
熟年離婚の財産分与は、対象となる財産の価額が多くトラブルになりやすい傾向があります。話し合いの長期化やトラブルを回避するために、離婚に詳しい弁護士に相談しながら分割を進めていきましょう。