

- 托卵とは?
- 托卵を理由に離婚や慰謝料を請求することができる
- 托卵離婚の際に養育費の支払いを拒否するための方法
【Cross Talk 】托卵を理由に妻に対して離婚や慰謝料を請求することはできますか?
妻が産んだ子どもが夫である私の子どもではない可能性があります。このような托卵行為が判明した場合には、妻に対してどのような請求ができますか?
托卵を理由として、妻に対して離婚や慰謝料を請求できる可能性があります。
托卵を理由とする離婚や慰謝料請求について、詳しく教えてください。
妻が出産した子どもの父親が、夫以外の男性であることが発覚することがあります。妻が夫に真実を隠したり、嘘をついたりして、夫の子どもとして育てさせていた場合、このような行為を「托卵」と呼ぶことがあります。この記事では、托卵の概要や、托卵が判明した場合の親子関係がどうなるのか、また、妻に対して離婚や慰謝料を請求できるのかといった疑問点について、弁護士が解説していきます。
托卵とは?

- 托卵(たくらん)とは?
- 托卵が判明した場合、親子関係を否定できるか?
妻の托卵行為が判明した場合、親子関係はどうなるのでしょうか?
ここでは、托卵の意味と親子関係の取り扱いについて解説していきます。
托卵(たくらん)とは?
托卵とは、もともと鳥類に見られる行動の一つを指し、自分の卵を他の鳥の巣に産み付けて、その鳥にひなを育てさせる習性を意味します。
このような動物の行動になぞらえて、人間社会では、妻が夫以外の男性との間にできた子どもを夫の子どもであると偽り、育てさせる行為を指す言葉として使われています。具体的には、妻が夫の子どもではないと知りながら、それを隠して自分の子どもだと信じ込ませる形で夫に養育させる行為が該当します。
また、妻自身、夫の子どもではないという確証を持っていない場合があり、夫以外の男性との子どもである可能性を認識したまま、夫の子どもとして養育しているということもあります。
このような「托卵」行為が非難されるポイントとしては、配偶者である夫自身に「自分の子どもであると信じ込ませて」あるいは「他の男性との子どもであることを隠して」育てさせているという点が挙げられるでしょう。
妻がこのような托卵行為を行う場合には、様々な理由が考えられますが、不倫をしている・していた事実を隠したい場合や、父子関係を巡るトラブルに発展するのを避けたい、夫の経済力に頼りたいなどがあります。
托卵が判明した場合、親子関係はどうなる?
それでは、妻の托卵行為が判明した場合、夫と子どもの親子関係はどうなってしまうのでしょうか。他の男性の子どもであるため、当然に父子関係が否定されるのでしょうか。
夫と子どもの間に自然的血縁関係がないことが判明した場合であっても、結婚期間中に生まれた子どもについては、生物学上の親子関係の有無にかかわらず、夫の子どもとして推定されることになるため、法律上の親子関係が生じることになります。
法律上の母子関係については、出産の事実により明らかになるため問題になることは多くありませんが、「生まれてきた子どもの父親が誰なのか」については、しばしば問題となります。そのため、民法には法律上の父子関係を早期に確定して子どもの利益を図るために、嫡出(ちゃくしゅつ)推定の規定が設けられています。
この嫡出推定の規定により、妻が婚姻中に妊娠した子どもは、夫の子どもと推定されます。また、妻が夫と結婚する前に妊娠していたとしても、婚姻が成立した後に生まれた場合には、同様に夫の子どもとして推定されることになります(民法第772条1項)。
したがって、結婚期間中に生まれた子どもについては夫の子どもと推定されることになるため、托卵行為が発覚した場合にも、法律上の父子関係が発生することになります。
托卵を理由として離婚するには?

- 托卵を理由に離婚するためにはどうすればいいのか?
- 話し合いがまとまらない場合には、離婚調停や離婚裁判を行う必要
妻の托卵行為を理由に離婚をすることができますか?
ここでは、妻の托卵行為を理由に離婚をするための方法について解説していきます。
DNA鑑定をする
托卵を理由に離婚を考える場合、いくつかの重要な手続きを経る必要があります。
まずはDNA鑑定によって親子関係を科学的に確認することが第一歩となります。その後、親子関係の扱いについて慎重に考え、必要に応じて離婚に向けた調停や裁判の準備を進めることが重要です。
子どもとの血縁関係に疑念を抱いた場合、DNA鑑定を行うことで自分と子どもの間に血縁関係があるかどうかを確認できます。DNA鑑定では、唾液や血液、爪、毛髪などからDNA型を分析し、科学的根拠に基づいて親子関係の有無を判定します。
鑑定は、専用のキットを使用して行う簡易的な「私的鑑定」では2~4万円程度、裁判所に提出可能な「法的鑑定」では7~10万円程度が相場です。結果は依頼先によりますが、約1~2週間で得られるため、迅速に確認が可能です。このような科学的な証拠を得ることは、今後の話し合いや法的手続きの土台を築く上で非常に重要です。
親子関係をどうするかを話し合う
DNA鑑定の結果、子どもとの間に血縁関係がないことが判明した場合、親子関係をどうするかを考える必要があります。
法的には、婚姻期間中に生まれた子どもは夫の子どもと推定されるため、親子関係が存在するものとして扱われます。この場合、扶養義務や養育費の支払い義務が発生します。
親子関係を解消するには、嫡出否認や親子関係不存在確認の手続きを取ることが必要です。一方で、血縁がないと分かっても、子どもとの間に築かれた愛情や絆を考え、親子関係を維持したいと感じる場合もあるでしょう。
したがって、親子関係をどうするかの判断は慎重に行うべきであり、夫婦間でしっかりと話し合うことが求められます。
調停離婚や裁判離婚が認められる可能性がある
親子関係に関する決断がついた後、離婚についての話し合いを進めます。
協議離婚は当事者同士が合意し、離婚届を提出することで成立しますが、合意に至らない場合は家庭裁判所での調停や訴訟に進むことになります。離婚訴訟では、裁判所が法定離婚事由に基づいて離婚の可否を判断します。
托卵は、夫の子どもではないと知りながら子どもを育てさせる行為であり、「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当する可能性が高いとされています。また、妻が夫以外の男性との間に子どもをもうけた場合、これは不貞行為に該当します。
いずれの場合も裁判所が離婚を認める可能性が非常に高いといえます。
托卵離婚で慰謝料を請求できる可能性がある

- 托卵を理由に妻に慰謝料を請求できる?
- 慰謝料を受け取るまでの手続きの流れは?
托卵を理由に妻に対して慰謝料を請求することはできますか?
ここでは、托卵を理由とする慰謝料請求の可否や、その方法について解説していきます。
托卵という行為そのものは、夫の権利を侵害し、大きな精神的苦痛をもたらす行為であるため、それ自体を理由に慰謝料を請求できる可能性があります。また、妻が婚姻中に他の男性と関係を持ち、その結果として妊娠した場合は、「不貞行為」に該当し、この点でも慰謝料請求が可能です。さらに、離婚を伴う場合、慰謝料請求は一般的に「托卵や不貞行為が原因で夫婦関係が破綻し、離婚に至ったこと」を根拠に、離婚慰謝料として請求することも可能です。
請求可能な金額や具体的な方法については、個々の状況や事情によって異なるため、正確な判断には専門家の助言が役立ちます。
托卵を理由に妻へ慰謝料を請求する方法として、以下のような方法があります。
話し合いにより支払ってもらう
直接相手と交渉して慰謝料を求める方法です。この方法は、費用がかからず、迅速に解決する可能性があります。しかし、感情的な対立に発展しやすく、後々「言った・言わない」といったトラブルになるリスクがあります。そのため、交渉内容を記録に残しておくことが推奨されます。
内容証明郵便を送付する
内容証明郵便を利用して慰謝料を請求する方法も有効です。この方法は相手と直接顔を合わせる必要がなく、感情的な衝突を避けられるメリットがあります。また、裁判に進展した際、慰謝料請求を行った証拠として活用することも可能です。ただし、内容証明郵便には法的な強制力はない点を理解しておく必要があります。
裁判を提起して請求する
裁判所を通じて慰謝料を求める方法です。この場合、裁判官が夫婦間の状況や事実を総合的に考慮し、適切な慰謝料額を判断します。裁判で確定した判決が守られない場合には、相手の財産を差し押さえる強制執行の手続きを取ることができます。ただし、裁判を起こすには費用がかかり、法的知識や証拠の準備が求められます。
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托卵妻と離婚する際に養育費の支払いを拒否する方法

- 托卵妻と離婚する際、養育費の支払いを拒否する方法とは?
- 親子関係不存在確認や嫡出否認の手続きが必要
托卵妻と離婚する際、子どもの養育費の支払いを拒否することはできますか?
養育費の支払いを拒否するためには、嫡出否認や親子関係不存在確認などによって父子関係を否定する必要があります。
親子関係不存在確認調停・訴訟
子どもの出生を知ってから長期間が経過している場合や、嫡出否認の訴えができない場合には、「親子関係不存在確認調停・訴訟」を利用できます。この手続きは、法律上夫婦が婚姻中に生まれた子どもでも、実際には夫の子どもではない場合に親子関係を否定するためのものです。
例えば、妻が妊娠した時期に夫が長期間別居していたり、夫婦関係が既に破綻していたために性的関係を持つ機会がなかったりする場合に利用できます。
まずは家庭裁判所に調停を申立て、当事者間で親子関係が存在しないことについて合意を目指します。合意が成立し、裁判所が必要な調査を経てそれを認めれば、親子関係不存在の審判が下されます。
もし合意に至らない場合は、親子関係不存在確認訴訟を提起することで裁判所に判断してもらいます。この手続きが成功すれば、法律上の親子関係が否定され、養育費の支払い義務もなくなります。
嫡出否認調停・訴訟
子どもが出生してから3年以内であれば、「嫡出否認調停・訴訟」を利用して親子関係を否定することが可能です。嫡出否認は、妻が生んだ子どもが夫の子どもでない場合に、その事実を明らかにするための手続きです。まずは調停を申立てて、DNA鑑定の結果などを基に当事者間で話し合いを行います。
妻が「夫の子どもではない」と合意し、裁判所がその合意を正当と認めた場合、調停が成立します。ただし、合意に至らない場合は嫡出否認訴訟を提起し、裁判所の判断を仰ぐ必要があります。訴訟で夫の主張が認められれば、親子関係が法的に否定され、養育費の支払い義務がなくなります。
この手続きは「子どもの出生を知ってから3年以内」という厳しい期間制限があるため、迅速に対応することが重要です。
権利の濫用を主張する
親子関係不存在確認や嫡出否認の手続きができない場合でも、「権利の濫用」を主張することで養育費の支払いを拒否できる可能性があります。権利の濫用とは、法律上の権利行使が社会通念や道徳に反し、不当と認められる場合に、その権利行使を無効とする考え方です。
以下のような事情がある場合には、妻による養育費の請求は権利濫用として否定される可能性があります。
ただし、夫がこれまで十分に養育費を負担していなかったり、妻の収入が少なかったりする場合には、養育費の支払いを拒否することが困難になることもあります。
まとめ
妻の托卵行為により、夫の子どもでないことが判明したとしても、当然に父子関係が消滅するわけではありません。まずは、DNA鑑定や夫婦間の話し合いによりトラブルの解決を図る必要があります。また、托卵行為を行っていた妻に対しては、慰謝料を請求できる可能性があり、さらに離婚後の養育費の支払いを拒否できる可能性もあります。
妻の托卵が発覚して離婚や慰謝料請求を検討されている方は、はやめに弁護士に相談するようにしてください。嫡出否認の訴えには3年という期間制限があるため、早期の対応が必要となります。
当事務所には、離婚トラブルの解決実績のある弁護士が在籍しておりますので、お困りの方はぜひお気軽にお問い合わせください。