配偶者がアスペルガー症候群であることを理由にした離婚は可能か
ざっくりポイント
  • アスペルガー症候群であることを理由にした離婚は可能か
  • アスペルガー症候群であることを理由にした離婚で慰謝料は請求できるか
  • カサンドラ症候群と離婚の関係

目次

【Cross Talk 】夫がアスペルガー症候群でコミュニケーションができない!離婚できないですか?

夫と離婚を考えています。結婚してからわかったのですが、夫は発達障害の一種であるアスペルガー症候群というものだそうで、コミュニケーションが取れなくて我慢の限界です。アスペルガー症候群であることを理由に離婚はできますか?

協議や調停で離婚できるならば離婚は可能です。ただ、相手が拒む場合には、アスペルガー症候群という理由だけでは離婚裁判を起こせず、夫婦関係が破綻していて「婚姻を継続し難い重大な事由がある」として民法770条1項5号に該当する場合である必要があります。

そうなんですね!私の場合はどうでしょうか?

アスペルガー症候群であることを理由に離婚をすることはできる?

配偶者が発達障害の一つの種類であるアスペルガー症候群であること理由に離婚はできるのでしょうか?

協議離婚・調停離婚であれば、当事者が合意していれば離婚は可能です。離婚協議・離婚調停で合意ができない場合には離婚裁判を起こすのですが、離婚裁判を起こすには民法770条1項所定の離婚原因が必要です。

本記事では、アスペルガー症候群を理由に離婚はできるのかについて解説いたします。

アスペルガー症候群であることは離婚原因となる?

知っておきたい離婚のポイント
  • 協議離婚・調停離婚は協議で離婚できるが、裁判離婚をする場合には離婚原因が必要
  • アスペルガー症候群は直接の離婚原因ではないが、「婚姻を継続し難い重大な事由がある」として770条1項5号の離婚原因となりうる可能性はある。

相手がアスペルガー症候群であることを理由に離婚することはできるのでしょうか?

アスペルガー症候群であること自体は、離婚原因とはならないのですが、アスペルガー症候群が原因で婚姻関係が破綻しているような場合には「婚姻を継続し難い重大な事由がある」として離婚原因となることがあります。

アスペルガー症候群とは?

アスペルガー症候群とは、発達障害の一種で、現在では正式には自閉スペクトラム症として取り扱われている疾患の一般的な名称です。
このページでは、アスペルガー症候群という表記で統一します。

診断はアメリカ精神医学会の診断基準DSM-5に記述されている、以下の5つの基準を満たすと診断されます。

1.複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的欠陥があること
2.行動、興味、または活動の限定された反復的な様式が2つ以上あること(情動的、反復的な身体の運動や会話、固執やこだわり、極めて限定され執着する興味、感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ など)
3.発達早期から1,2の症状が存在していること
4.発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されていること
5.これらの障害が、知的能力障害(知的障害)や全般性発達遅延ではうまく説明されないこと

アスペルガー症候群の特徴

アスペルガー症候群の特徴として、

・周囲の人間との交流が難しい
・特定の物事に強いこだわりを持つ
・日常生活がパターン化し柔軟に対応するのが難しい
・他の精神疾患を併発しやすい

といった、特徴があります。

そのため、結婚をしたものの、コミュニケーションが難しいことが多く、離婚を考えるきっかけにもなります。

アスペルガー症候群は離婚原因になる?

ではこのアスペルガー症候群であることは離婚原因になるのでしょうか。

裁判離婚を請求するのに離婚原因が必要

協議離婚・調停離婚の場合、相手が離婚に合意していれば離婚は可能です。
しかし、相手が離婚を拒む場合、離婚裁判をする必要があります。
離婚裁判を起こすためには、民法770条1項各号所定の離婚原因に該当する必要があります。

アスペルガー症候群であることは離婚原因になるか

アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)であることは直接規定されていません。
民法770条1項4号では「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない」ことは離婚原因となる旨が規定されていますが、アスペルガー症候群はこれにはあたらないといえるでしょう。

これは、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。」というのは協力や扶助といった民法が規定する夫婦の義務が果たせない状態をいい、アスペルガー症候群というだけではこれにあたらないと考えられるからです。

しかし、アスペルガー症候群が原因となって、夫婦関係が破綻してしまったような場合には、5号の「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当し、離婚原因があると判断できる場合があります。

アスペルガー症候群であることを理由として慰謝料の請求は可能?

アスペルガー症候群であることが原因で離婚をする場合に、慰謝料の請求は可能なのでしょうか。

慰謝料とは、精神的苦痛に対する損害賠償として支払われるものですが、アスペルガー症候群であることだけで精神的苦痛を負ったというのは無理があり、慰謝料の請求は難しい可能性が高いです。

ただし、夫婦関係の破綻の過程で、DV・モラハラが発生しているようなケースでは、精神的苦痛を負ったとして慰謝料請求が可能な場合もあります。

アスペルガー症候群の夫(妻)との関係が原因で陥るカサンドラ症候群とは?

知っておきたい離婚のポイント
  • カサンドラ症候群とは
  • カサンドラ症候群は離婚原因になる可能性が高い

実はアスペルガー症候群である夫との結婚生活に疲弊して、私自身もうつ病であるという診断を受けています。これが原因で離婚は可能でしょうか。

いわゆる「カサンドラ症候群」といわれる状態ですね。「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当すれば離婚は可能です。

カサンドラ症候群とはなにか、離婚との関係を含めて確認しましょう。

カサンドラ症候群とは?

カサンドラ症候群とは、アスペルガー症候群の方と結婚した配偶者が、コミュニケーションを築けないことなどによるストレスが原因で、不安障害・抑うつ状態となることをいいます。

カサンドラ症候群の特徴

アスペルガー症候群の配偶者とのコミュニケーションがうまくいかないことが原因で発生するもので、

・抑うつ状態
・睡眠障害
・自己肯定感の低下

などで苦しむことになります。
カサンドラ症候群自体は疾病ではないのですが、上記の状態が強いと不安障害・うつ病として診断されることもあります。

カサンドラ症候群を理由に離婚はできる?

カサンドラ症候群といえる状態になっている場合も、協議離婚・調停離婚であれば、当事者が合意していれば離婚は可能です。
離婚裁判を起こす場合の離婚原因となるかについては、アスペルガー症候群だけのときと同じように、「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」と評価できるかどうかによって決められます。

アスペルガー症候群で離婚をしたいと思ったときの行動

知っておきたい離婚のポイント
  • アスペルガー症候群の特徴を把握して関係改善を検討する
  • 他の離婚原因がないかも検討する

実際に離婚をする場合には、どのようなことに気をつけるべきでしょうか。

アスペルガー症候群の特徴を把握して関係改善ができないかを検討し、難しい場合には離婚を検討しましょう。離婚をする場合にはアスペルガー症候群であるということだけに着目するのではなく、他に離婚原因がないかも検討します。

アスペルガー症候群で離婚をしたいと思ったときには、どのように行動すべきでしょうか。

アスペルガー症候群の特徴をきちんと把握して関係修復を試みる

アスペルガー症候群の方とは、通常のコミュニケーションは難しいものの、特徴を把握してコミュニケーションを図ることで、コミュニケーションがしやすくなることが知られています。

一度に複数のことを同時進行するのが苦手である場合には一つずつ問題を解決するようにする、決断が難しいのであれば決断しやすい問いかけをするなど、その方の特性に合わせたコミュニケーションをきちんと図り、関係修復を試みましょう。

カウンセラーなどに相談して心理的負担を和らげる

カサンドラ症候群という言葉があるように、アスペルガー症候群の配偶者と関係を構築していくのは、心理的負担が大きいかと思います。
上述の関係改善とともに、必要に応じてカウンセラーなどに相談して心理的負担も軽減するようにしましょう。

他の離婚原因がないかも検討する

アスペルガー症候群の配偶者と離婚したい!と考えることによって、アスペルガー症候群のみを原因として離婚を進めようと考える方もいます。

しかし、アスペルガー症候群が原因で夫婦関係が破綻した過程で、DVやモラハラなど、離婚や慰謝料が認められやすい行為が行われていることがあります。

また、同時に相手が不貞行為を行っているような場合には、不貞行為を主張して離婚をしたほうが、慰謝料請求を含めて有利に離婚をすることができます。
他の理由で離婚ができないかを、検討してみましょう。

まとめ

このページでは、相手がアスペルガー症候群であることを理由に離婚ができるか、ということを中心にお伝えしました。
アスペルガー症候群で離婚をしたい、という場合には、婚姻関係の破綻があるかどうかを実質的に検討する必要があります。
婚姻関係の破綻を認めることができる状況か、収集すべき証拠にはどのようなものがあるか、などを確認するために、まずは弁護士に相談してみてください。