
- 認知症の配偶者との離婚はできる?
- 認知症の配偶者と離婚するための手続きとは?
- 認知症の配偶者との離婚は弁護士に相談すべき?
【Cross Talk 】認知症の配偶者と離婚できますか?
認知症の配偶者と離婚することは可能なのでしょうか?
認知症の程度によって選択すべき離婚の手続きが異なることになります。
認知症の配偶者との離婚について、詳しく教えてください。
長年の介護の末、「もう夫婦関係を続けるのは難しい」と離婚を考える方もいらっしゃいます。しかし、配偶者が認知症の場合、そもそも離婚することは可能なのでしょうか。
この記事では、認知症の配偶者と離婚するための条件、意思能力の有無による手続きの違い(成年後見人の選任の必要性)、裁判で離婚が認められるためのポイントなどについて弁護士が解説していきます。
認知症になった配偶者と離婚できる?

- 認知症になった配偶者と離婚できる?
- 認知症を理由に裁判離婚をすることはできない
配偶者が認知症になった場合、相手と離婚できるのでしょうか?
ここでは、認知症の配偶者との離婚できる場合・できない場合について解説していきます。
相手に意思能力があり協議が成立すれば離婚できる
離婚は、基本的に夫婦間の合意があれば理由を問わず成立します。これは、配偶者が認知症と診断されている場合でも同じです。
離婚の方法については、「意思能力(判断能力)がある場合」か「判断能力が不十分な場合」によって異なります。
まず、認知症の症状が軽度で、会話が成立し、離婚が自身の生活にどのような影響をもたらすかを理解し、自分の意思を明確に表示できる状態であれば、協議離婚が可能です。この場合、認知症でない方との離婚手続きと同様に、話し合い(協議)により合意し、離婚届を提出すれば離婚は成立します。
これに対して、認知症が進行し、離婚の合意や話し合いが難しくなっている場合は、意思能力がないとみなされ、協議離婚は成立しません。その場合は、家庭裁判所での調停・裁判へと進みます。
相手が離婚に応じない・応じられない場合
話し合いで配偶者の同意が得られない場合や、認知症の進行により意思能力が不十分で合意に至れない場合は、家庭裁判所の手続きに進みます。
まず、認知症の症状が軽度でも離婚に同意しない場合は、一般の離婚と同様に離婚調停を申立てます。調停でも不成立に終わると、最終的に離婚訴訟を提起して、裁判所に離婚を認めてもらうことになります。
また、認知症が進行し、会話が成立しない、または自分の意思を表示できないほど判断能力が失われている場合は、本人を相手に離婚訴訟を提起してもそのまま離婚することはできません。まず成年後見人を家庭裁判所に選任してもらい、その成年後見人を相手方として離婚訴訟を提起する必要があります。成年後見人は、判断能力が不十分な本人に代わって、財産管理や法的な手続きを行う代理人です。
認知症は法定離婚事由に該当する?
離婚訴訟で離婚を認めてもらうためには、民法で定められた離婚事由のいずれかに該当する必要があります。法定離婚事由の一つに「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」がありますが、認知症そのものは、この「強度の精神病」には該当しないと考えられています。
裁判所がこの事由で離婚を認めるのは極めて稀であり、精神病を理由とする離婚請求では、離婚後に病気の配偶者が療養生活を送るための十分な財産的・物理的な対策が講じられているかが厳しく問われます。
しかし、認知症であっても、法定離婚事由の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するとして離婚が認められる可能性はあります。
例えば、認知症によって夫婦関係が長期間破綻している、あるいは配偶者が自身のことを認識できなくなり、夫婦としての協力・扶助義務を果たせない状態にあるなど、婚姻関係の修復が不可能な状況であると裁判所に判断されれば、離婚が認められることがあります。ただし、その場合も、認知症の配偶者の離婚後の生活保障について、具体的な計画と対策が非常に重要視されます。
認知症の配偶者と離婚をするための手続き

- 認知症の配偶者と離婚するための手続きとは?
- 認知症の程度によって離婚手続きが異なる
認知症の配偶者と離婚をするためにはどうすればいいのでしょうか?
ここでは、認知症の配偶者と離婚するための具体的な手続きを解説していきます。
意思能力がある場合
認知症と診断されていても、症状が軽度であり、離婚がもたらす結果や離婚条件(財産分与、親権など)を理解し、自分の意思を表明できるだけの判断能力が残っている場合は、以下の通りに通常の離婚手続きを利用できます。
意思能力が不十分な場合
認知症が進行し、離婚の意思を理解したり、自分の意思を適切に表明したりする能力がないと判断される場合、本人と直接協議や調停を行うことはできません。この場合は、後見制度を利用し、配偶者の成年後見人を選任したうえで、成年後見人を相手方として離婚訴訟を提起する手続きが必要になります。
まず、配偶者(本人)の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、「成年後見開始の申立て」を行います。申立てには、医師の診断書や本人の財産に関する資料、親族の意見書など多くの書類が必要です。家庭裁判所は、調査や鑑定を経て、本人の代わりに法律行為や財産管理を行う成年後見人を選任します。
なお、近親者が成年後見人候補者となる場合もありますが、離婚訴訟が想定されるような申立てでは弁護士など第三者の専門家が選任されるのが一般的です。また、既に申立人が後見人に就いている場合は、成年後見監督人を相手方として訴訟を進めます。
成年後見人が正式に選任された後、その成年後見人を相手方として離婚訴訟を提起します。この場合、通常の離婚とは異なり、調停を経ずにいきなり訴訟を提起できることが多いです(調停前置主義の例外)。
成年後見人は、本人(認知症の配偶者)に代わって裁判上の手続きを進めますが、離婚という身分行為についてまで代理する権限はないため、成年後見人との間で協議離婚や調停離婚を成立させることはできません。裁判を通じて、法定離婚事由に基づき、裁判所の判断によってのみ離婚が成立します。この際にも、裁判所は、離婚後の認知症の配偶者の生活保障について、最大限の配慮を求めてきます。
認知症の配偶者と離婚したい場合は弁護士に相談すべき

- 認知症の配偶者との離婚を弁護士に相談するメリットとは?
- 成年後見人の選任手続きも任せられる
認知症の配偶者との離婚は弁護士に相談すべきなのでしょうか?
ここでは、弁護士に相談・依頼するメリットについて解説していきます。
離婚の成否について見通しが立てられる
配偶者の認知症というデリケートな問題が絡む離婚は、手続きの入り口で迷う方がほとんどです。
弁護士は、配偶者の認知症の進行具合や日常生活の様子を踏まえ、意思能力(判断能力)の有無を判断します。その結果、協議離婚を目指すべきか、それとも成年後見人の選任から入るべきかという、離婚に向けた最初の具体的な指針を明確に提示できます。
裁判離婚に進む場合、「婚姻を継続し難い重大な事由」などの法定離婚事由が認められるか、また、離婚後に配偶者の生活保障をどう具体的に計画するかなど、法的な見通しを立てた上で、取るべき行動や準備すべき証拠について的確なアドバイスを提供してもらえます。
成年後見人の選任を任せられる
配偶者の認知症が重度で意思能力がない場合、離婚訴訟の前提として成年後見人を選任しなければなりません。
この成年後見開始の申立て手続きは、膨大な申立書類の作成、医師の診断書や親族の意見書の収集など、非常に煩雑です。弁護士に依頼することで、これらの煩雑な手続きを全て一任できるため、申立人の時間的・精神的負担が大幅に軽減されます。
裁判手続きも一任できる
認知症の配偶者との離婚は、ほとんどの場合、複雑な裁判手続きを避けられません。弁護士は、成年後見人を相手方とする離婚訴訟の提起から、法廷での主張・立証活動まで、幅広い手続きを代理します。
また、認知症が軽度で話し合いが可能な場合でも、症状がある配偶者と離婚条件について話し合うことは、非常に精神的ストレスを伴います。弁護士が交渉窓口となることで、依頼者は直接のやり取りを避けつつ、法的に有利な条件(財産分与や慰謝料など)を獲得するための交渉を一任できます。
まとめ
配偶者が認知症を患っていても離婚は可能ですが、その手続きは意思能力の有無によって大きく異なります。症状が軽度で会話が成立する場合は協議・調停が可能ですが、意思能力が不十分な場合は、まず成年後見人を選任し、その上で離婚訴訟を提起するという複雑な手順が必要です。
認知症は民法の「強度の精神病」には該当しないと判断される可能性が高いですが、「婚姻を継続し難い重大な事由」がある場合には、離婚が認められます。成年後見人選任や煩雑な裁判手続きをスムーズに進めるためにも、専門的な知見を持つ弁護士のサポートが不可欠です。認知症の配偶者との離婚にお悩みの方は、ぜひ当事務所にご相談ください。






