熟年離婚を検討しているものの、お金がない場合にやっておくべきことを解説いたします。
ざっくりポイント
  • 熟年離婚で請求しうるお金は、財産分与・年金分割・慰謝料・養育費・別居中の婚姻費用
  • 基本的に夫婦で協力して形成した財産は、分与の対象
  • 離婚前に生活費のシミュレーションをしておく。請求について不明な点は弁護士にご相談を

目次

【Cross Talk 】熟年離婚したいけどお金がありません。

結婚して25年経ちますが、子どもが独立したので離婚したいです。今はパートで働いているので、離婚後の生活費が心配で踏み切れません。

まずは離婚時に請求できるお金を知っておきましょう。配偶者より収入が低くても家事などをして財産の形成に協力した場合には分与を請求できます。離婚後の生活費をシミュレーションしておくことも重要です。

詳しく教えてください。

熟年離婚で請求できるお金、離婚前にやっておくべきことを解説していきます。

「熟年離婚したいけどお金がないから諦めている」という方は多いのではないでしょうか。
財産分与・年金分割など、まずは離婚時に請求できるお金を把握しておきましょう。離婚後の生活費を試算しておくことも重要です。離婚時に請求できるお金、熟年離婚の注意点、離婚前にやっておくべきことを解説していきます。

熟年離婚で請求できるお金を知っておこう

知っておきたい離婚のポイント
  • 離婚では、財産分与・年金分割・慰謝料・養育費・別居中の婚姻費用が請求しうる
  • 熟年離婚は共有財産が多く、取り決めに時間がかかる事例が多い

専業主婦ですが、財産分与を請求できますか?

はい。夫婦の一方が働きに出てもう一方が家事などで協力した場合は、財産形成に貢献したとみなされる可能性があります。

熟年離婚で請求しうるお金は5種類、退職金も分与できる?

熟年離婚に明確な定義はありませんが、婚姻期間の長い夫婦の離婚を指します。

厚生労働省の「2022年度 離婚に関する統計の概況」※1によると、夫婦の同居期間が「20 年以上」の割合は、上昇傾向にあり2022年には 21.5%となっています。

一般的に熟年離婚で請求しうるお金は以下の5種類です。

1.夫婦の共有財産の分与
2.別居中の婚姻費用
3.年金分割
4.養育費
5.慰謝料

夫婦の共有財産とは、夫婦が婚姻期間中に協力して築いた財産です。結婚前の預貯金や相続・贈与で得た財産は除外されます。
夫婦の一方のみが働きに出ていた場合でも、もう一方が家事などをして財産の形成に貢献した際には共有財産とみなされます。
退職金については、既に支払われているか、働いていた期間と婚姻期間が重なっているかなどの事情により、財産分与の対象となる可能性があります。

夫婦は婚姻費用を分担する義務がありますので、夫婦のうち収入が低い(またはない)方は別居中の生活費など結婚生活に必要な費用を請求可能です。
また、年金分割制度により離婚した夫婦は婚姻期間中の保険料納付額に応じた厚生年金を分割することができます。離婚時の年金分割が行われると、婚姻中の厚生年金の支給額の計算の基となる報酬額(標準報酬)の記録が分割され年金額を2人で分割することが可能となります。

子どもの養育費は、裁判所の「算定表※2」を基に算定される事例が多いです。

配偶者にDV・モラハラ・不貞行為などがあった場合は、精神的苦痛に対する損害賠償として慰謝料も請求できます。

熟年離婚は共有財産が多く、取り決めに時間がかかる傾向が

夫婦の婚姻期間が長いと、共有財産が多くなり財産分与の取り決めに時間がかかる傾向にあります。
特に離婚後は新たな住まいを見つける必要があり、不動産の分与でトラブルになるご家庭もあるでしょう。

そのため、まずは2人の財産を全てリストアップしてから、個人の財産と共有財産に分ける作業を行っていくことをおすすめいたします。共有財産か否かで意見が合わない場合には、調停を利用して解決に向けて話し合うという方法もあります。
裁判所での手続きが難しい方は、弁護士に代理人となってもらい交渉を依頼することも可能です。

熟年離婚でお金がない・・・離婚前にやっておくべきこととは

知っておきたい離婚のポイント
  • 現在の生活費を基に離婚後の生活費をシミュレーションし、仕事や住む場所を確保する
  • 財産分与・慰謝料などで分からないことがあれば弁護士にご相談を

生活費を計算してみたら、離婚してもやっていけそうです。あとは財産分与で分からない部分があるのですが・・・。

「お金がなくて離婚できない」という方でもまずは試算してみることが重要ですね。分からない部分は離婚に詳しい弁護士に相談してみましょう。

生活費をシミュレーション

まずは、離婚後の生活費をシミュレーションしておきましょう。子どもと一緒に住む場合には子どもと自分の生活費、教育費などを試算します。
家賃・光熱費・通信費・娯楽交際費など、現在の生活でかかっている費用を基に収支をシミュレーションしていきましょう。
なお離婚後、経済的に厳しいことが予測される場合には、配偶者との交渉次第ですが、財産分与を多めにもらうという方法があります。

仕事や住む場所を確保する

離婚前に、離婚後の仕事や住まいを確保しておきましょう。
学生の子どもと同居する場合には、子どもの通学を考え居住地を選ぶ必要があります。転校させたくないという方は、現在の住居を譲ってもらうことを検討しましょう。

高齢になると「離婚後の仕事や住まいがなかなか見つからない」という方も多いかもしれません。
できれば現在の住居を譲り受けることが望ましいですが、困難な場合には実家や公営住宅を視野に入れておきましょう。

財産分与・年金分割などの準備

財産分与・年金分割など離婚に向けてお金の準備をしておきましょう。
財産分与は財産をリストアップし、夫婦で話し合い、共有財産を分与します。

年金分割には「合意分割」と「3号分割」の2種類があり、合意分割は双方の合意によって年金を分割します。割合は夫婦の合意または裁判手続きによって決まった割合です。※33号分割は専業主婦(夫)の方など、国民年金第3号被保険者の方からの請求で年金を分割する方法で、分割割合は2分の1ずつです。
あらかじめ分割後に年金で得られる額を把握しておきましょう。

財産分与や慰謝料などの取り決めができた際には、公正証書の作成をおすすめします。公正証書の作成には手数料と時間がかかりますが、公正証書には「強制執行認諾文言」を入れることが可能です。

強制執行認諾とは、金銭の支払い義務を負う人が、その支払いを滞らせた時には直ちに強制執行を受けることを認諾するものです。公正証書に記載しておくと、これを債務名義として直ちに強制執行の手続きが可能となります。

離婚問題に詳しい弁護士に相談する

熟年離婚での財産分与は、共有財産が多いためトラブルが起こる事例が多い傾向にあります。
特に退職金は意見が合わずトラブルに発展してしまう事例が多くなっています。※4

財産分与などにお悩みの方は、離婚問題に詳しい弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

まとめ

熟年離婚で請求できるお金を知り、離婚後の生活費をシミュレーションしてみましょう。
慰謝料や財産分与・養育費などで不明な点がある方、悩んでいる方はまず弁護士へ相談してみるという選択肢があります。離婚問題の実績が豊富な弁護士と問題解決を目指しましょう。

※1 厚生労働省「2022年度 離婚に関する統計の概況」左5頁
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/rikon22/dl/suii.pdf
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/rikon22/index.html
※2 裁判所 平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html
※3 法務省 年金分割
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00019.html
※4 ベリーベスト法律事務所監修『後悔しない!離婚の準備と手続き』114頁(ナツメ社、2022年、第2版)