DNA鑑定をしたところ親子ではないとされた場合
ざっくりポイント
  • DNA鑑定をしたところ親子ではないとされた場合の法的な問題
  • 親子関係を否定するための手続き
  • 問題解決のためのポイント

目次

【Cross Talk 】DNA鑑定をしたら親子ではないとの結果が…どうすればいいですか?

家族のことでご相談があります。子どもが大きくなるにつれ私にも妻にも似てないため、DNA鑑定を行ってみたところ、親子ではないという鑑定結果がでました。ショックで何をすればいいかわかりません。

まずは今後どうしたいかから整理しましょう。すぐに冷静になれといっても難しいでしょうから、ゆっくりと考えていきましょう。

ありがとうございます。今後のことや法的に親子関係がどうなるかなど教えてください。

DNA鑑定をして親子ではないとされた場合の法的問題や対応方法

DNA鑑定をした結果、親子ではないという結果が出た場合に、どうすればいいのでしょうか。今まで親子として生活をしてきて、法律上もそう取り扱われてきたのですが、生物学上の親子関係が否定される場合には法的にはどうなるのか?その後どのような手続きや対応をすべきなのか、について確認しましょう。

DNA鑑定をした場合に親子関係がなかった場合の対応方法

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  • DNA鑑定をした場合に親子関係がなかった場合の法的な親子関係について
  • 親子関係を否定するための法的な手続き

まず法的な親子関係はどうなるのですか?

手続きをしなければ法的な親子関係は続きます。親子関係を否定するための手続きとして、嫡出子としての推定を受けるかどうかによって、嫡出否認の訴え・親子関係不存在の訴えのいずれかを利用します。

法的な親子関係がどうなるかについて確認しましょう。

子どもは現状どのような法的地位にあるか

婚姻中に生まれてた子ども(嫡出子)の取り扱いについては、民法772条が次のように定めています。

(嫡出の推定)
第七百七十二条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

また、婚姻関係にない男女間で生まれた子については、民法779条が次のように定めています。


(認知)
第七百七十九条 嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。

まとめると、以下のようになります。

  • 婚姻中に妊娠した子どもは夫の子どもの推定を受ける
  • 婚姻してから200日を経過した後に生まれた子どもについては婚姻中に妊娠したものと推定する(=夫の子どもと推定する)
  • 離婚・婚姻の解消をしてから300日以内に生まれた子どもについては婚姻中に妊娠したものと推定する(=夫の子どもと推定する)
  • 以上の3つの状況に当てはまる場合以外は認知をすることで子どもとして認められる

生物学上の親子関係がない場合でも、民法772条の規定する状況にあてはまれば法律上は夫の子となります、、認知をしていれば子として取り扱われます。

特に手続きしなければどうなる?

DNA鑑定の結果親子関係が否定される場合でも、それだけでは法律上の親子関係が否定されるわけではありません。
そのため、特に何も手続きをしなければ、法律上の親子関係はそのままです。

親子関係を否定するための手続き

親子関係を否定するための手続きには、

  • 嫡出否認の訴え
  • 親子関係不存在確認の訴え

という2種類の手続きがあります。
嫡出否認の訴えとは、民法772条の推定が及ぶ子どもについて、嫡出であることを否認することで自分の子どもではないと主張するための手続きです(民法774条)。
この手続は、民法775条により、子どもまたは親権を行なう母を相手方とする訴訟です。
もっとも、嫡出否認の訴えは子の出生から1年以内に行なう必要があり、1年を経過した場合には提起ができません。
嫡出子との親子関係を否定する方法は、原則として嫡出否認の訴えによります。

出生から1年以上が経過した場合には、例外的に親子関係不存在確認の訴えで親子関係を争うことも考えられます。
平成12年3月14日付の最高裁判所判決も、「民法772条により嫡出の推定を受ける子につき夫がその嫡出であることを否認するためには、専ら嫡出否認の訴えによるべき」と判断しつつ、「民法772条2項所定の期間に内に妻が出産した子について、妻が右子を懐胎すべき時期に、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ、または遠隔地に居住し、夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には、右子は実質的には民法772条の推定を受けない嫡出子に当たるということができるから、同法774条以下の規定にかかわらず、夫は右子との間の父子関係の存否を争うことができる」と判断しています。

例えば、懐胎したであろう時期に、夫が刑務所に収監されていた、長期の海外出張で性的関係の機会がなかった場合には、親子関係不存在確認の訴えをすることができるかもしれません。

もっとも、親子関係不存在確認の訴えは、出生から1年を超えた場合には嫡出否認の訴えが認められないという原則を覆す手続きです。
そのため、親子関係不存在確認の訴えが認められるハードルはかなり高いです。
実際、DNA鑑定の結果、親子関係不存在確認の訴えをしたものの、それまでの親子としての関係性を考慮して親子関係不存在を認めないという最高裁判所判例があります。
そのため、DNA鑑定により生物学上の親子関係が存在しなくても、上述のような性的関係の機会が存在しないという事情が存在しない場合、法律上の親子関係が否定されないことに注意が必要です。

DNA鑑定で親子関係がなかった場合の諸問題

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  • DNA鑑定で親子関係がなかった場合に発生する問題を確認

DNA鑑定で親子関係がなかった場合には、ほかにどんな問題が発生するのでしょうか?

離婚の問題等がありますので、合わせて確認しましょう。

DNA鑑定で親子関係がなかった場合にはどのような問題が発生するのでしょうか。

夫は離婚を請求することができる

夫は離婚を請求することができます。
夫と子どもの間に親子関係が認められないということは、妻が不貞行為をしていたことになります。
協議離婚・調停離婚で合意が得らない場合でも、民法770条1項1号によって離婚原因があるとして、離婚裁判の請求ができ、これによって離婚をすることができます。

離婚をする場合に夫は妻に慰謝料を請求できる

妻は不貞行為をしていたことになるので、離婚原因をつくったとして、離婚に際して夫は妻に慰謝料の請求をすることが可能です。

夫は本当の父親に慰謝料を請求できる

不貞行為の相手方が婚姻関係を知りつつ不貞をしていたのであれば、不貞の相手方に対しても慰謝料請求が可能です。

親子関係が否定されれば養育費の支払いの必要はない

離婚後に相手が子どもを養育する場合、法律上の親子関係が否定されれば養育費の支払いはありません。
上述したように、嫡出否認の訴えの期間が経過して、親子関係不存在確認の訴えが退けられた場合には養育費の支払い義務があることになるので注意をしましょう。
ただし、本当の父親から養育を受けられるような場合などには、支払う必要はありません。

結婚している間は妻には婚姻費用の分担をする必要がある

注意が必要なのは、子供との親子関係が存在しないことが発覚したからといって、離婚をせずに家にもお金を入れないことは認められません。
結婚している間は婚姻費用を分担する義務があり、離婚するまではこの義務を履行する必要があります。
ただし、有責配偶者であることに鑑み減額・あるいは請求できなくなるという状況も発生しえます。

DNA鑑定で親子関係がなかった!問題解決のためのポイント

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  • DNA鑑定で親子関係がなかった場合の問題をどう解決するか

DNA鑑定の結果親子関係がないとされた場合、この問題を解決するためのポイントはありますか?

どうしても気が動転してしまうことは避けられません。第三者を巻き込んで冷静に今後の方針を決めて、手続きをすすめるようにしましょう。

DNA鑑定で親子関係が否定されたような場合に、この問題を解決するためのポイントはどのようなものでしょうか。

1)まずは今後の方針を決める
DNA鑑定の結果親子関係がない、さらにはその子どもとの親子関係を法律的に否定することができない、となった場合に、すぐに冷静になることは難しいかもしれません。
もっとも、上述のとおり、嫡出否認の訴えは1年以内に行う必要があり、親子関係不存在確認の訴えのハードルも高いため、親子関係を争うかどうかといった、下記の基本的な方針は早めに決めたほうが良いです。

  • 子どもとの親子関係を争うか
  • 離婚をするのか
  • 子どもの親権を獲得するか
  • 妻や本当の父親に損害賠償請求をするのか

妻との交渉を冷静に行うか弁護士に依頼する

子供との親子関係を争う場合には、上述のように嫡出否認の訴えまたは親子関係不存在確認の訴えを提起することになります。
離婚をする場合・妻や本当の父親に損害賠償請求をする場合、相手との交渉が必要となります。
いずれにせよ法律上の判断が必要となりますので、ご自身で全て抱え込むのでなく、弁護士等の専門家にご相談ください。相手と冷静に交渉できないような場合でも、弁護士に依頼すれば、相手との交渉の代理を依頼することができるので、相手と直接顔を会わせる必要がなくなります。

まとめ

このページでは、DNA鑑定の結果、子どもとの親子関係がなかったとされる場合についてお伝えしました。
夫としてはショッキングなうえに、最近の最高裁判所の判例によると法的な親子関係の否定もできない場合もあるので、対応は慎重に行なうべきです。
精神的に辛いなかで、相手との交渉や法的手続きを行うことになるので、まずは弁護士に相談してみてください。

この記事の監修者

弁護士 水本 佑冬第二東京弁護士会 / 第二東京弁護士会 消費者委員会幹事
一つひとつの案件が、ご依頼者さまにとって重大な問題であることを忘れずに、誠実に職務に取り組みます。