自己破産で借金をなくすためには、家計簿をきちんと付けて家計の状況を把握しておく必要があります。
ざっくりポイント

  • 自己破産の手続きをするためには裁判所に家計の状況を報告しなければならない。
  • 浪費やギャンブルが判明すると免責が認められないこともある。
  • 家計の状況を正確に報告するためには、自己破産の準備段階で家計簿をしっかり付けておくことが重要。

目次

【Cross Talk 】自己破産をするために家計簿が必要なのはなぜ?

私は現在複数の金融機関から借入をしているのですが、月々の返済が厳しく、自己破産をせざるを得ないと考えています。自己破産をするためには家計簿が必要だと聞いたことがあるのですが、それは本当でしょうか?

自己破産の手続きにより借金を帳消しにしてもらうことを「免責」といいます。裁判所は免責を認めるかどうか判断する際にその方の家計の状況をチェックします。家計簿は家計の状況を裁判所に報告する際に提出が必要となるのです。

免責を認めてもらうために家計の状況を裁判所に報告しなければならないとは知りませんでした。具体的にどのようなことを報告すれば良いのでしょうか?

裁判所に家計の状況を報告するために家計簿は必要

「自己破産するためになぜ家計簿が必要なのだろうか?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。自己破産の手続きにおいて、裁判所は「この方に免責を認めて本当に大丈夫か」という点を慎重に審査します。その審査のために必要となるのが「家計の状況」と呼ばれる資料です。家計簿は裁判所に提出する「家計の状況」を作成するために必要となります。

自己破産手続きに家計簿が必要?

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 弁護士に相談する段階では家計簿は必ずしも必要ではない。
  • 申立ての際に裁判所に家計の状況を報告する必要があるので家計簿はなるべく細かく付けておく。

破産手続きにおいて家計簿が必要なことはわかりましたが、どの段階から家計簿をつけ始めれば良いのでしょうか。私は今まで家計簿をつけてきませんでしたが、その場合、自己破産の手続に支障はあるのでしょうか。

家計簿は裁判所に自己破産の申立てをするにあたって家計の状況を報告するために必要なものです。今まで家計簿をつけてこなかったとしても、破産の準備段階で直近の家計の状況がわかれば問題ありません。

それを聞いて安心しました。では、自己破産について弁護士の先生に相談するときに家計簿は必要なのでしょうか。そもそも破産の手続きの流れがよくわかっていないので、基本的なことから詳しく教えてください。

相談段階では不要

まず、自己破産の手続きの大まかな流れについて確認しましょう。
借金の返済が困難になり自己破産しなければならないかもしれないと思ったら、早めに弁護士に相談し、自己破産が可能かどうか、どのような手続きで進むのか、費用はどの程度かかるかなどを確認しましょう。

弁護士に依頼することを決めたら、弁護士への委任契約書を作成し、裁判所に自己破産を申立てるための準備に入ります。後程詳しくご説明する通り、裁判所に自己破産の申立てをする際に家計の状況を申告する必要があります。
では、家計簿はどの段階で必要になるのでしょうか?

家計簿は家計の状況を申告する際に必要になるものですので、裁判所に自己破産の申立てをする準備の段階、つまり弁護士に依頼した後に用意すれば問題ありません。
もっとも、弁護士費用を分割で支払う場合には毎月支払い可能な金額を申告する必要がありますし、家計の詳しい状況が分かった方が弁護士も的確なアドバイスをすることができます。可能であれば弁護士とのご相談の際に家計簿を持参した方が良いでしょう(毎月の家計の収支を大まかに把握しておくだけでも有用です。)。

そこで、普段からできるだけこまめに家計簿を付けておく、あるいは「もしかしたら破産しなければいけないかもしれない」と思った時点で家計簿を付け始めることをおすすめいたします。もちろん、自己破産することを決断してから家計簿をつけ始めても、手続き上の問題は特にありません。

家計簿と家計収支表の違い

一般的に、家計簿とは、家計の収入と支出を記入した帳簿のことです。決まった形式等はありませんが、通常は毎日の収入、支出を1円単位で記録し、お金の流れが明らかになるように作成します。

これに対し、家計収支表は、家計簿等をもとに1か月単位の収入、支出を項目ごとに集計して一覧表にしたものです。家計収支表を作成することで、他の月との比較が容易になり、家計を健全に保つ助けとなります。

自己破産で家計簿の提出が必要な理由

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 自己破産の条件である債務者が支払不能にあることを明らかにするために必要となる
  • 財産隠し、浪費、偏頗弁済などの免責不許可事由がないかを調査するために必要となる

なぜ自己破産をする際に家計簿の提出が必要になるのですか?

家計簿の提出が必要とされるのは、債務者が支払不能にあることを明らかにするためと、財産隠しや浪費などの免責不許可事由がないかを調査するためです。

支払不能状態であるか確認するため

自己破産が認められるための条件に、債務者が支払不能にあることがあげられます。
支払不能とは、債務者が支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいいます。
したがって、債務が多額であったとしても、債務者の収入、支出から弁済ができる状態と判断された場合、支払不能とはいえず、自己破産が認められないことになります。
家計簿は、家計全体の収入、支出を明らかにし、支払不能にあるかどうかを確認するために必要です。 

免責不許可事由がないかを確認するため

自己破産は借金を帳消し(免責)もらうために申立てるものですが、一定の事由に該当する場合、免責が認められません。そのような事由を免責不許可事由といいます。
免責不許可事由については破産法に詳細な規定がありますが、代表的なものとしては財産隠しをしたこと、浪費やギャンブルで財産を減少させ、または債務を負ったこと、一部の債権者にだけ優先的に弁済をすること(偏頗弁済)などがあげられます。

家計簿を提出することによって、浪費やギャンブル、偏頗弁済をしていないかを確認できます。このように、裁判所が債務者に免責不許可事由がないかを確認するためにも、家計簿が必要になるのです。

関連記事:自己破産で免責不許可事由があったけど、免責された場合

財産を隠していないか確認するため

財産隠しをすると免責不許可事由に該当するだけでなく、詐欺破産罪が成立する可能性があります。
詐欺破産罪は10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金または懲役と罰金の併科という非常に重い刑罰が科されることになっており、財産隠しが行われていないかを確認するためにも、家計簿の提出が必要です。

自己破産手続きのための家計簿の付け方

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 収入と支出を項目ごとに記録しておく必要がある。
  • 給与明細や領収書など、収入や支出を証明するための資料も必要となる。

自己破産の申立ての際に家計の状況を報告する必要があることはわかりました。では、「家計の状況」にはどのような項目があるのでしょうか。「家計の状況」の内容によって免責が認められなくなることもあるのですか?

家計の状況は収入と支出に大きく分かれており、それぞれ細かく記入する必要があります。自己破産は、破産者が家計を見直したうえで、法律上借金を帳消し(免責)にして破産者を再出発をさせることが目的の制度です。そのため、裁判官から見て破産者の家計状況が不明のままでは、借金を帳消し(免責)にしても破産者が生活を再建できるのか分からず、破産手続き自体を進めることができません。「家計の状況」は裁判所が破産手続きをどう進めていくか、ひいては免責を認めるかどうかを判断する際に重要な資料となります。

なるほど。だから家計簿をきちんとつけておかなければいけないのですね。「家計の状況」に記入しなければならない項目について詳しく教えてください。

収入

収入には、給与だけでなく、受給を受けている生活保護、失業保険、年金、援助者からの援助などが含まれます。複数の勤務先からそれぞれ賃金を受け取っている場合、給与のほかに個人事業収入がある場合、賞与が支給された場合には、別の項目に分けて記入する必要があります。
収入には、自己破産を申立てる本人のものだけでなく、世帯を同じくしている配偶者や家族などのものも含まれるので、給与明細に記載されている手取りの金額を記載しましょう。

内容を証明する書類として、申立人の給与等については給与明細、生活保護、失業保険、年金については受給証明を提出する必要があります。内容を証明する書類を提出する以上、「家計の状況」に記入する金額は正確なものでなければなりません。

親族などの援助者から援助を受けた場合には、誰からの援助なのかも記入しなければなりません。援助ではなく借り入れの場合には債権者にカウントする必要があるなど自己破産の手続きに大きく影響しますので注意しましょう。

また、業者からの借入も収入の欄に記入する必要があります。例えば、給与などでは家計のやりくりができずサラ金などからお金を借りて生活費に充てているような場合です。もっとも、自己破産することがわかっているにもかかわらず新たに借入をすると、免責が認められないだけでなく、刑法上の詐欺罪に該当する可能性もありますので、債務整理の依頼を決めた後には行うべきではありません。また、金融機関からの借り入れだけでなく、知人、友人、家族などから借金をしたときや、会社の従業員貸与制度を利用した場合にもこれに該当する可能性があります。

保険の解約返戻金や給付金など「家計の状況」の項目にない収入がある場合には「その他」の項目に記入します。これについても証明を求められることがありますので、支払通知書等の写しを保管しておくようにしましょう。

家賃

ここからは支出の項目についてご説明いたします。
家賃は、マンションやアパートの賃料や土地の利用料(地代)を意味します。証明するための書類として賃貸借契約書等を提出する必要がありますので、正確な金額を記入します。
持ち家の場合で住宅ローンがない場合には0円となります。

駐車場代・ガソリン代

車を所有している場合には、駐車場を借りるために支払っている賃料やガソリン代を記入します。駐車場の賃貸借契約書、ガソリンを入れたときの領収書などの提出を求められることがあります。
車検等による支出があった場合も、金額の記載が必要です。

光熱費

ガス、水道、電気などの光熱費の支払いに要した金額を記入します。口座引落等であれば通帳や利用履歴で金額を証明することができますが、コンビニエンスストアなどで支払っている場合は領収書の写しを必ず保管しておくようにしましょう。

電話・通信費

携帯電話、自宅の固定電話、インターネットの利用料などです。これらについても領収書の控えを必ず保管しておく必要があります。

新聞書籍

新聞や書籍の購入費用です。

食費

自宅で食事を作るための材料費や、外食の際に要した費用の合計額を記載します。月によって変動が大きく、正確に記載するのが難しい項目ですが、あまり高額になると裁判所に浪費を疑われる可能性があります。買いものや外食のときのレシートや領収書を保管するなどしてできる限り正確に記入できるようにしましょう。

医療費

病院で診察を受けたり、薬局で薬の処方を受けたりしたときの費用です。食費と同様に月によって変動が大きい項目ですので、病院や薬局からもらえる領収書を保管しておくようにしましょう。

教育費

子どもが通う学校の学費や、塾、習い事等にかかる費用です。

遊興費

遊興費とは、遊びや趣味に使用したお金をいいます。この項目は裁判所が免責を認めるか判断するにあたって特に重視されますので注意が必要です。
破産法には免責が認められない事由が定められています(第252条第1項各号)。これを「免責不許可事由」といいます。その中に「浪費または賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、または過大な債務を負担したこと」という事由があります。つまり、パチンコ、競馬、競輪などのギャンブル、あるいはキャバクラ、ホストクラブ等での浪費により大金を使ったり借金をしたりしたときは免責を認めないという規定です。

もっとも、ギャンブルや浪費で借金をしたからといって常に免責が認められないわけではなく、「破産手続き開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるとき」には、裁判所の判断で免責を認めることができるとされています(第252条第2項)。これを「裁量免責」といいます。

つまり、借金を作った原因についてきちんと反省し、今後同じ過ちを繰り返さないという姿勢を見せれば、裁判所の裁量により免責を認めてもらえる可能性が高くなります。
ところが、自己破産の準備段階に入ったにもかかわらず依然としてそのような生活を改められていないとしたら、「免責を認めてもまた同じ過ちを繰り返すに違いない」と判断され免責が認められない可能性が高まります。これが、自己破産の手続きにおいて「遊興費」の項目が重視される理由です。

もちろん自己破産をする方が遊びを一切してはいけないわけではなく、常識の範囲内であれば遊興費があっても免責は認められます。しかし、破産の準備期間はできる限り節約した方が、免責が認められやすくなります。遊興費を支出したときには浪費やギャンブルに使っているわけではないということを裁判官にきちんと示すため、領収書など金額を証明するための書類を保管し、正確な金額を記載することが重要です。

交際費

交際費とは、知人・友人との食事や、ちょっとした贈りものをするための費用をいいます。遊興費と同様に過大な浪費に繋がるおそれがあるため、裁判所が注意してチェックする項目です。どこでいくら使ったか後から説明できるよう、飲食店などを利用した際にはできる限り領収書をもらっておくようにしましょう。領収書をもらえないときには自分で明細をメモしておくだけでも自己破産の手続きにおいて有効な資料となります。

その他

以上の項目に当てはまらない支出は「その他」の項目に記入します。互助会などの積立金の支払いや税金、保険料の支払いなどがこれに当たります。

自己破産手続きのための家計簿作成の注意点

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 家計簿作成の注意点
  • 弁護士には嘘をつかずに正直に申告することがもっとも重要

自己破産手続きのために家計簿をつける場合にはどのような注意が必要でしょうか。

いくつかありますが、もっとも重要なのは弁護士には嘘をつかずに正直に申告するようにしてください。

自己破産手続きを進めるために家計簿をつける場合にはどのような注意が必要でしょうか。

適当な申告はNG!嘘をつかずに正直に申告をするのが大切

もっとも重要な注意点として、
弁護士に対して嘘をつかずに正直に申告するようにしてください。

家計簿・家計の状況を提出するにあたって、支出がある場合には、レシート・領収書とともに、銀行口座の履歴などで確認ができます。

例えば、身内にこっそり銀行振り込みで返して、その分を食費につかったことにするとしても、銀行振込に身内への送金があれば、裁判所・管財人は必ず見つけるので、その説明をする必要があります。
嘘をついたのが弁護士に解ってしまうと、弁護士は信頼関係が無くなったとして辞任する可能性があります。

弁護士が辞任をすると、
依頼によって止まっている債権者からの督促が再開する、また別の弁護士を探す必要があり別の弁護士費用がかかるなど、大きな不利益を被ります。

また、弁護士が気づかずに申立てをした場合で、裁判所・破産管財人に解ってしまうと、虚偽の説明をしたとして、免責不許可事由となり、最悪の場合免責がされなくなってしまいます。
都合が悪いことがあっても、弁護士には嘘をつかずに正直に申告し、以後の対応を検討するようにしましょう。

詳細に記載する

家計簿への記載は詳細に行いましょう。
上述の書式を参照すれば、水道光熱費という欄があります。
3つを合計した金額を記載しても良いのですが、水道代・電気代・ガス代ときちんと分けて書くことができれば、より丁寧です(欄外に内訳を記載しておくこともあります)。

世帯ごとに申告をする

家計簿の記載は世帯ごとに申告を行います。
夫婦の一方または双方が自己破産をする場合、夫が自分の収入・支出についてのみ記載するにとどまるような記載はできません。
共働きの場合には、配偶者の収入・支出に関する書面(給与明細など)も提出する必要があります。

娯楽費が多いと説明を求められる可能性も

収入と比較して高額の娯楽費が計上されている場合、裁判所から具体的な内容について説明を求められる可能性があります。
自己破産は債務者の借金を帳消しにして経済的に再生させるための手続きなので、収入に比して不相当に高額な娯楽費が計上されている場合は、節約するよう指示されることもあります。

やむを得ない場合はレシートがなくても問題ない

電車・バスなどの公共交通機関の料金を支払った場合や自動販売機で買いものをした場合など、そもそもレシートがもらえないことがありますし、レシートを紛失してしまうこともないとはいえません。
そのようなやむを得ない場合は、レシートがなくても問題にはなりません。

タバコ・お酒の記載方法

タバコ・お酒などの嗜好品への出費について、コンビニやスーパーで購入することが多いことから、食費と一緒に記載してしまうことがあります。
しかし、タバコ・お酒については基本的には嗜好品という項目を作って申告することにしましょう。
あまりにも額が多い場合には、浪費と捉えられ免責不許可事由となる可能性があるので、家計と相談してあまりにも多い場合には、なるべく早い段階から量を減らすことも検討する必要があります。

まとめ

自己破産は、借金を帳消しにしてもらえるという点で債務者にとって大きなメリットがある制度ですが、他方で金融機関等の債権者には少なからず負担を強いることになります。
裁判官は、申立ての際に提出された資料等を元に「この方に免責を認めていいのか」ということを慎重に判断します。その際に重要になるのが「家計の状況」です。「家計の状況」を作成するためには、家計簿をできるだけ細かく付ける必要があります。
自己破産を申立てる際に作成しなければならない書類の種類は多く、記入すべき内容も複雑です。確実に免責を認めてもらうためには、破産手続きの専門家である弁護士主導の元で自己破産の手続きを行うのが最善の方法です。「借金の返済が難しい」とお困りの際には、できるだけ早く弁護士にご相談することをおすすめいたします。