自己破産をしたら持ち家、車、給与はどうなるのか、その内容をご説明いたします。
ざっくりポイント
  • 破産手続きには、管財事件と同時廃止がある
  • 一般的には持ち家は処分して換価されるが、車は換価されない場合がある
  • 給与については破産財団に組み込まれ、処分できないものがあるが、破産手続開始決定後の給与債権については、原則的には自由財産となる(破産法34条参照)

目次

【Cross Talk 】自己破産をしたい!でも財産を清算するなら家と車って処分されちゃうの?給料ももらえなくなるの?

自己破産をしたいと考えていますが、所有する家や車、あるいは毎月の給料はどのような扱いとなるのでしょうか。

なるほど、ご相談者さんのご心配はごもっともでしょう。まず、破産手続にも種類があり、管財事件(裁判所が選任する破産管財人が、財産を処分して、破産手続上の配当を行う。)と同時廃止(目ぼしい財産がない場合や借金を抱えるに至った事情に問題となる点がないため、配当手続きを行わず、破産手続を手続き開始と同時に廃止し、破産の効果が生じる。)があります。
持ち家がある場合は、一般的には、管財事件となり、処分の対象となります。また、自家用車を保有している場合、外国製の高級車であるなど一定の価値があるものを除き、減価償却期間(一般に、初年度登録から乗用車は6年、軽自動車は4年)を経過していれば、原則として評価ゼロで計算されるため処分されない可能性があります。給与債権については、破産手続開始決定後の給与の全部が、破産財団に組み込まれるわけではありません。
破産手続は、経済的な更生の機会を与えることを目的としているため(破産法1条)、そこまでご心配されるようなことにはならないことが一般的です。

なるほど、大変にわかりやすくて、安心しました。

自己破産をしたら持ち家、車、給与はどうなるのでしょうか。

自己破産をした場合に、住む家を手放さなければならないのか、また、自動車や、会社より支払われる給与はどのような取り扱いとなるのか、不安を感じることと思います。一般論としては、持ち家は売却しなければならず、普通乗用車については、すでにローンを完済している場合で新車購入時より6年を経過している場合には、車の価値が低いと評価され、手元に残すことができる可能性があります。また、給与についても、破産手続開始決定時に確定していた給与債権のうち、一般的には1/4のみ破産財団に帰属します。以下、それぞれの内容について、簡単に説明していきます。

自己破産したら家と車は売られちゃう!?

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 資産として持ち家がある場合は売却される可能性が高い
  • 自動車の場合、減価償却が終了していると、無価値と判断されて売却されない場合がある

自分がした借金が原因で自己破産するわけですから、仕方のないことは重々に理解しています。それでも、やはり、自宅と自家用車が売却されてしまうことには、いくばくかの心理的な抵抗があります。

そうですよね。せっかく購入した自宅や車などには、思い入れがあることは少なくはないでしょう。ご自宅などの不動産は、一般的には多額の資産価値があることから、「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足」しないため、管財事件(破産管財人が介入して、換価、配当手続きを行う。)となり、処分されます。
車については、ローンが完済されていない場合、ディーラーに所有権が留保されていることが多いため、ディーラーから引き揚げを求められることが一般的です。

同時廃止の場合

同時廃止とは、債権者に配当すべき財産がないことが明らかで、かつ、借金を抱えるに至った事情に破産法上の問題が見当たらない場合に、債権者への配当手続きを進める必要がないとして、破産手続き(換価・配当)を行わず、破産手続きを廃止することを言います。この同時廃止に該当せず、換価・配当を行う場合を、管財事件と言います。

裁判所によって、同時廃止と管財事件の振り分けには違いがありますが、東京地方裁判所破産再生部では、破産手続費用について、20万円としていることから、破産財団を形成する資産の項目のうち、一つでも20万円を超過する場合には、管財事件となります。管財事件が破産手続の原則です。

なお、現金については、99万円までは自由財産として、換価不要として認められますが、上記の「20万円」という基準を超えるため、管財事件となります。

管財事件の場合

持ち家があることで、20万円以上の資産があると判断され、管財事件となった場合であっても、輸入車等(もしくは、アンティーク価値がある)の高級車を除き、減価償却期間(普通乗用車6年、軽自動車・商用車4年)を経過している場合には、無価値と評価され、売却されない場合もあります。

担保がついている場合

一般的には、個人が保有する資産のなかで、不動産が最も価値のあるものであることから、持ち家は破産手続きにおいて換価(売却)されてしまうことがほとんどです。

しかし、オーバーローンの事例のように、その不動産に付着するローン残高が不動産価値の1.5倍を超過する場合には、破産財団の資産として計上されないため、原則として、直接に破産手続きで処分は破産管財人と住宅ローン会社の協議により、どのような手続きで売却するのかについて話し合われます(別除権(抵当権などの優先弁債権があること)の問題があり、管財人が売却手続きを行うのか、それとも、ローン会社が個別に担保権を実行するのかについて、話し合いがなされます。)

自己破産後も持ち家に住み続ける手段は?

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 家族に持ち家を購入してもらって賃借する
  • リースバックを利用する

自己破産をすると絶対に今の持ち家に住み続けられませんよね?

家族に不動産を購入してもらったり、リースバックを利用すれば住み続けられる可能性はあります。

自己破産後に持ち家に住み続けることはできるのでしょうか?

家族に持ち家を購入してもらう

自己破産をすると住宅の所有権を失うので、所有者として住み続けることはできません。
しかし、「住み続ける」という観点からは家族に当該持ち家を購入してもらい、賃貸物件として借りると、所有権を失うものの、住み続けることは可能です。
このときに注意が必要なのが、購入するときに住宅ローンが使えないので、住宅の購入は一括で行う必要があります。
そのため、一括でお金を出すことができる場合に限られます。
また、破産管財人を通じての対応となるため、購入金額が相場より下回ることはありません。
したがって、持ち家の相場金額を一括で支払う資力が家族にあれば検討できますが、現実的に用いられることは少ないです。
なお、自己破産前に家族などに名義変更をすることは、財産隠しとして、自己破産において禁じられる行為です。

持ち家をリースバックする

ローンが残っている持ち家を売却することを「任意売却」と呼んでいます。
通常は住宅を利用したい人がこれを買い受けるので、売却した人は自宅を退去する必要があります。
しかし、住宅を買いたい人の中には、他人に貸し付けて賃料を受け取って利益を得る不動産業者もいます。
これらの業者に不動産を買い取ってもらい、その人から不動産を賃借する方法での任意売却のことを、リースバックと呼んでいます。
リースバックをすれば、所有権を失いますが、不動産には賃貸物件として住み続けることが可能です。
ただし、適切な金額での売却が求められ、破産管財人の許可も必要です。
以上のとおり、自宅の売却などは、自己破産手続の中で禁止行為に当たらないように進める必要があります。持ち家がある場合には、慎重に手続きを進める必要があるので、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

自己破産しても給料・未払いの退職金はもらえるの?

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 未払いの給料は、破産手続開始決定以前の労働にて取得するものについては、その1/4を破産財団に組み入れられる
  • 退職金についても原則としては、給料と同様の扱いである
  • 将来の退職金請求権は実際に支給されるか不確かであるため、その見込み額の1/8について、破産財団に組み入れられる

自己破産した場合、給与はどのようになるのでしょうか。ずっと、差し押さえられるなどの取り扱いなのでしょうか。

自己破産は、「債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。」(破産法1条)ため、破産財団を構成する財産を破産者が破産手続開始時に有する財産に特定しています(破産法34条1項:固定主義)。そのため、破産手続開始決定後に取得した給料債権については、自由財産(新得財産:破産手続開始決定後に取得した財産)に該当するため、破産財団に組み入れられず、自由に処分することができます。

給料・退職金の3/4はもらえる

破産手続開始決定以前に取得している給料債権であっても、原則として、その3/4は差押禁止部分(民執152条1項1号)であるため処分されず、3/4は自分のものにできる。また、「退職手当」(152条2項、つまり退職金)も同じ扱いとなります。

将来もらえる給料・退職金はどうなる?

破産手続開始決定以前に取得している給料・退職金債権は、その3/4は差押禁止部分(民執152条1項1号)であるため残すことができ、1/4が換価の対象となるため、手元に残せないのが原則です。
しかし、給与債権については、給与額や事案により判断し、給与の1/4についても換価を行わず、実務上自由財産として処理される場合が少なくありません。
「退職手当」(152条2項、つまり退職金)については、原則通り、退職金の1/4が換価の対象となる場合が多く、3/4のみ残すことができます。

どの給料、退職金が対象になるの?

対象となる給料、諸手当は原則的には、破産手続開始決定時の原因によって取得したかどうかによって、判断されます(破産法34条1項)。
退職金・給料の貰える額の計算は難しいので弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

まとめ

この記事では、自己破産した場合の、自宅や自家用車の取り扱い、及び給与がどのように扱われるのかについて、簡単に説明してきました。しかしながら、内容は複雑で、中には法的な判断の必要な事柄もあります。より詳細を知りたい場合には、弁護士に相談してみると良いでしょう。