自己破産したら、問答無用で全財産が没収されてしまうのかについて、説明いたします。
ざっくりポイント
  • 原則、破産手続開始時にある一切の財産は、処分の対象となる。
  • しかし、破産手続きの目的は生活再建であることから、法や裁判所が生活に必要不可欠と定めた財産は処分されない。

目次

【Cross Talk 】自己破産したら、着るもの食べるもの全て没収されてしまうの?

自己破産を考えているのですが、家財道具含め全ての財産が没収されたり、処分されてしまうのでしょうか、とても不安です。

自己破産をしたからといって、全ての財産が処分されてしまうわけではありません。法律や裁判所が生活に必要不可欠と定める財産などは、自己破産手続きをしたとしても、手元に置いておくことができますので、どのようなものが置いておくことができるのか、説明していきましょう。

自己破産すると、問答無用で全財産が処分されてしまうのでしょうか。

自己破産すると、持っている財産は全額没収されたり、処分されてしまうのではないかと不安になられる方は少なくないと思います。
結論から言うと、自己破産したからといって、全ての預貯金が持っていかれたり、給与が持っていかれたり、明日食べることに困ってしまうということはありません。
そもそも自己破産手続きは、借金が返せなくなったとしても、もう一度生活再建の機会を与えてもらう制度です。裁判所が法律に則って、生活に必要不可欠と定める財産などを除いた財産と、現在抱えている債務とを清算する手続きで、満足な返済を受けられなくなる債権者の犠牲の下に成り立っています。ここでは、法律や裁判所が必要不可欠と定める財産にはどのようなものがあるのかを、簡単に説明します。

自己破産したら処分されてしまう財産

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 自己破産をしたら処分されてしまう財産
  • 東京地方裁判所管轄では20万円以上の価値の財産は原則として処分されてしまう

自己破産をしたら処分されてしまう財産にはどのようなものがあるのでしょうか。

東京地方裁判所や多くの裁判所では、基本的に20万円以上の価値がある財産については処分されてしまう対象となると考えておいてください。

自己破産をしたら処分されてしまう財産にはどのようなものがあるのでしょうか。

自己破産手続きで処分される財産の基本的な考え方

まず、個人の破産手続きで、財産が処分されるかどうかついての基本的な考え方を確認しましょう。
自己破産手続きは、債務者が自身の財産では一般的・継続的に債務を返済できない支払不能であるときに開始され、手元に残った財産を債権額に応じて債権者に平等に配当し、残った債務については免責するというものです。
そのため、債務者の手持ちの財産は全てお金に替えることが基本です。

参考 破産法34条1項
第三十四条 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。

ただし、破産手続きは生活をすることができなくなることを許容するものではないので、一定の自由財産については手元で持っておくことを認めるほか、お金に替えるのに手間や費用がかかるような場合等には、そのまま債務者が持っておくことができます。

20万円以上の財産は原則処分されてしまう?

以上のような一般論から、自己破産手続きでお金に替えられる資産は、次のようなもののうち、20万円以上の価値を持つものとされています。

・不動産
・自動車など
・株などの有価証券
・FX・仮想通貨
・貸付金・売掛金などの債権
・貴金属・ブランド品など
・退職金の一部
・生命保険・個人年金(解約返戻金)

なお、20万円という基準は、東京地方裁判所で自己破産をする場合の基準で、多くの裁判所でも採用されているので一つの目安になりますが、東京地方裁判所以外では必ずしも20万円というわけではないので、詳細は弁護士に相談してください。

不動産

不動産については一般的にその多くが20万円以上の価値があるため、処分されます。
不動産がなければ住む場所がないので、生活に必要最小限では?と考える方もいらっしゃるでしょうが、住む場所は賃貸でも確保できるため、所有している不動産は処分されます。
なお、住宅ローンを完済していない場合には、住宅ローン債権者が抵当権という権利を持っているため、不動産を競売にかけることができ、破産手続きとは別に先行してこの権利を行使するため、自宅を失う点では変わりません。

自動車など

自動車やバイクもお金に替えられる対象となりえます。
生活するために使っているという方も多いでしょうが、公共交通機関を利用することできる等の考えから、時価で20万円以上の価値がある場合には処分されてお金に替えられます。
自動車・軽自動車・バイクについては、使っているうちに価値が減るのですが、会計上の減価償却という考え方が価値の参考になります。
自動車の場合、会計上の減価償却では6年で価値がないものとして取り扱います(軽自動車は4年・バイクは3年 この期間のことを「法定耐用年数」といいます。)。
そのため、法定耐用年数を超えていれば、価値はないとするのが通常です。
ただ、人気の機種等で、市場価格で20万円以上の価格がつくようなものについては、法定耐用年数を超えていても、お金に替えられる対処となります。
なお、自動車ローンで購入し、所有権が自分ではなくお金を借りた会社にある場合(所有権留保という担保が設定されている。)には、お金を貸した会社は破産手続きとは独立して自動車を引き揚げて売却してしまうことが可能なので、破産手続きとは別途先行して処分されることとなります。

株などの有価証券

株・手形・小切手・国債などの金融資産については、生活のために必要とはいえないので、20万円以上の価値があるかを問わず金銭に換えられる対象となります。
20万円以上であるかを問わないのであれば、現金にしてしまったほうが、自由に使えるので、破産手続きの弁護士費用や裁判所への予納金にするなどのためにお金に替えてしまうことがあります。
しかし、このような行為は財産隠しと疑われることがあるので、行う場合には弁護士と相談しながら、お金の流れをきちんと説明できるようにしましょう。

FX・仮想通貨

FXや仮想通貨は、取引所を通じて取引を行います。
取引を行う際にはお金を預ける必要があり、お金を返してもらう権利も資産として、株などの金融資産と同様に金銭に換えられる対象となります。

貸付金・売掛金などの債権

人にお金を貸している・個人事業主などで売掛金があるような場合、法律上はお金を支払ってくれと請求する債権があることになり、これも資産として取り扱われ、回収のうえ金銭化されます。

貴金属・ブランド品など

貴金属・ブランド品などの資産もお金に換えられる対象となりえます。
ただ、売却しても価値がつかないような場合には、この対象にならないこともあります。
なお、分割で購入している場合には、自動車のように所有権がローン会社にあって、ローン会社が引き上げてお金に替えることができる場合もあります。
この場合には、破産手続きとは別に処分されます。

退職金の一部

退職金は、法律上は給与の後払いという性質をもっており、退職をしていない段階でも現時点での退職金から以下の取り扱いに従って計算した金額が20万円以上ある場合には、資産の対処として取り扱われることになっています。
退職金は次の区分で取扱が異なります。

・まだ退職していない場合:現状で退職した場合の退職金の1/8
・既に退職したがまだ受け取って居ない場合:退職金の1/4
・既に受け取った退職金:預貯金と同様に扱われる。

もしお金に換えられるとなった場合でも、今の仕事を辞めて退職金を作るのではなく、自己破産手続きの中でその金額に相当する額を支払っていくことになります。

生命保険・個人年金

生命保険・個人年金の中でも解約返戻金があるタイプのものは金融資産として扱われます。
そのため20万円以上の解約返戻金がある保険については、お金に替える対象となります。
自己破産をするので解約されないように名義を変える行為は財産隠匿行為で、破産管財人から取り戻しの対象とされるとともに、免責不許可事由になるので、絶対にやめましょう。

自己破産しても処分しなくて良い財産

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 自由財産は処分しなくても良い
  • 自由財産の内容
  • 自由財産の拡張

自己破産をしても処分しなくて良い財産にはどのようなものがあるのでしょうか。

自己破産をする際処分しなくても良い財産のことを「自由財産」と呼んでいるので、その内容について見てみましょう。

自己破産をしても処分しなくても良い財産は次の通りです。

自由財産は処分しなくて良い?

上述したように、自己破産においてお金に替えられず、そのまま申立人が所持したままで良い財産があり、このような財産のことを「自由財産」と呼んでいます。
自由財産には次のようなものがあります。

新得財産

破産手続きは、財産と借金の清算を開始した時点での申立人の財産を清算の対象にするものであり、その後に取得する財産については、申立人の自由財産としてお金に替えられることはありません。
こうした後から手に入った財産のことを新得財産と呼んでいます。
そして、破産手続き開始決定後の財産は新得財産になります。

差押禁止財産

債務者の財産への強制執行手続きについて定める民事執行法には、差し押さえることができない財産(差押禁止財産 民事執行法131条:差押禁止動産 民事執行法152条:差押禁止債権)が規定されています。
破産法34条3項2号では、差押禁止財産は自己破産手続きにおいても原則として差し押さえることができないとしています。
例としては、「生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具(民事執行法131条1号)」などが挙げられています。

99万円以下の現金

自己破産手続きにおいては99万円以下の現金は持っておくことができるとされています。

拡張された自由財産

20万円以上の価値はあるため破産財団に組み入れられるのが相当であるものの、申立人の生活に必要不可欠な財産がある場合には、裁判所に申立てて自由財産となるよう、自由財産の拡張の手続きをとります(破産法34条4項)
例としては、

・足が不自由であり自分が使えるように改造された自動車
・重病で二度と加入できない生命保険

などが挙げられますが、実際に認められるかは裁判所の判断によります。

管財人が破産財団から放棄したもの

破産財団となるものの、管理やお金に替えるコストが極めて高い、買い手がつかないなどの理由で、破産財団から放棄するような場合があります。
この場合には自由財産として保持することが可能です。
ペットや、買い手がつかない山奥の土地などが例として挙げられます。

自己破産したら家族の財産も処分の対象になる?

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 自己破産手続きにおける不利益は本人のみ
  • 家族の財産は差押の対象にはならない

自己破産をする場合、お金に替えられる対象となるものであれば、家族の資産も処分の対象になりますか?

いいえ、本人の資産のみが対象です。

自己破産をする場合、お金に替えられる財産となるのは、本人のもののみです。

自己破産しても家族の財産は処分の対象にならない

自己破産手続きは人ごとに手続きが行われ、たとえ親子や配偶者などで、家計が同一でも、家族の財産は処分の対象にならずお金に替えられることはありません。

実質的に本人の財産である場合には処分の対象になることも

注意が必要なのは、名義は他人の財産でも、実質的に見ると破産者本人の財産であると評価できる場合には、処分の対象になることがあります。
例えば、夫の給与を妻の口座に振り替えて管理しているような場合、妻名義の口座は自己破産手続きの対象になっていないので処分の対象にならないとすると、財産を隠すことが容易です。
そのため、実質的に本人の財産であると評価できる場合には、処分の対象になることがあります。

手放したくない財産は、他の債務整理を検討

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 自己破産ではなく他の手続きを検討
  • 任意整理・個人再生で差し押さえを回避

子どもがまだ小学生で引っ越しをしたくないので、自宅の差し押さえは避けたいのですが、なにか良い手はないでしょうか。

任意整理や個人再生などの方法で財産を手放さずに債務整理をすることも可能です

自己破産は手続きの特性として、今ある財産の清算を伴いますので、どうしても手放さなければならない財産が多いものとなっています。
しかし、債務整理=自己破産ではないので、他の手続きを利用して財産を手放さずに債務整理ができる可能性を検討しましょう。

任意整理とは

債務整理の方法の一つが、裁判所の手続きをとらず、直接債権者と交渉して借金を分割返済する方法である任意整理です。
任意整理であれば、合意した分割返済さえできていれば財産をお金に替える必要なく、返済を楽にすることができます。
ただし、借金の元金を36回~60回の分割で支払う必要があり、この支払いができない場合には任意整理を行うことができませんし、応じてくれるかどうかは債権者によります。
また、自動車や住宅のローン債務については、契約通りの返済でないと換価処分されてしまうので、任意整理の対象とはできません。

個人再生とは

任意整理ができない場合の対応方法として個人再生があります。
個人再生とは、自己破産と同じように裁判所に申立てをして、借金を減額してもらい分割で返済していく手続きです。
自己破産のように手続きの中でお金に替えるものではないので、返済ができるのであれば、財産を差し押さえられることなく手続きをすすめることができます。
個人再生でも、債権者が抵当権や、所有権留保などで担保を持っている場合には、債権者が手続きとは別途これらの資産を換価処分してしまいます。
ただし、住宅ローンを使って住宅を購入した場合で、かつオーバーローンの状態にある場合には、住宅ローン特則を利用することで、住宅を守ることが可能です。

いずれの手続きも長期間返済をすることが前提であるため、それなり以上の収入のあることが大前提となり、借金の額が大きくなる前に手続きを行う必要があります。
財産を守りながら債務整理をしたい場合には、なるべく早く弁護士に相談するようにしてください。

まとめ

このページでは、自己破産をする場合に、財産は全て処分の対象になってしまうのかについてお伝えしました。
生活に必要不可欠なものについては手元においておけるので、一文なしで生活再建を始めなければならないということはありません。
どうしても処分されたくない財産がある場合には、他の債務整理手続きを検討することも必要となります。
なるべく早く弁護士に相談するようにしてください。