- 自己破産では退職金も財産として回収対象になる
- 回収される金額は雇用状況・受給タイミングで異なる
- 適切な対策や制度利用で保護できるもある
【Cross Talk】自己破産すると退職金はどうなる?
自己破産を考えているのですが、退職金はどうなってしまうのでしょうか。
退職金の扱いは、現在の雇用状況や受給のタイミングによって大きく変わります。必ずしも全額が回収されるわけではありません。
そうなんですね。具体的にはどのような基準で決まるのか、詳しく教えてください。
自己破産を検討している方にとって、退職金がどのように扱われるかは重要な関心事でしょう。退職金は将来の生活資金として期待している方も多いかと思いますが、自己破産手続きでは一定範囲で処分対象となります。
ただし、退職金の取り扱いは在職中か退職後か、既に受け取っているかによって大きく異なります。また、中小企業退職共済制度などの特別な退職金は、保護される場合もあります。
本記事では、自己破産における退職金の具体的な取り扱いと、回収される場合の対処法などについて、詳しく解説します。
自己破産すると保有する財産は処分・回収の対象に
- 自由財産以外は自己破産によって処分・換価の対象になる
- 受け取り前の退職金も、破産手続き開始時点で既に保有している財産とみなされる
自己破産すると、保有している財産はどうなるのでしょうか。
一定額の自由財産を除いて処分の対象になるので、高価な財産は保有しておくことができません。
自己破産とは、借金の返済が困難になった債務者が、裁判所に申立てを行い、法的に借金の支払い義務を免除してもらう手続きです。債務者にとって経済的な再出発を図るための制度として位置づけられています。
自己破産手続きにおいては「自由財産」という概念が存在します。自由財産とは、破産者が生活を維持するために最低限必要とされる財産のことで、破産手続きをしても処分・換価されません。自由財産は、99万円以下の現金や生活に欠かせない家財道具などが該当します。
一方で、自由財産として認められる範囲を超えた財産については、自由財産の拡張の申立てが認められた場合を除き、原則として処分・換価の対象となり、債権者への配当に充てられます。
このように、自己破産を行うと生活に最低限必要な自由財産を除き、保有している財産は基本的に処分の対象となります。
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自己破産すると退職金は回収される
一般的に処分対象となる財産は、現在手元にある預貯金や不動産、自動車といった、具体的に保有している資産です。そのため、まだ受け取っていない退職金については「現在保有している財産ではない」として、処分対象から外れるのではないかと思われがちです。
しかし、退職金は過去に提供した労働に対する対価として支払われるものであり、実質的には破産手続き開始前の賃金が後払いされているという性質を持っています。つまり、法的には退職金請求権は破産手続き開始時点で、既に保有している財産的価値として扱われます。
以上の理由により、自己破産手続きにおいては退職金も回収の対象となっています。
自己破産における退職金の取り扱い
- 在職中は見込み額の8分の1、退職後は見込み額4分の1が回収の対象になる
- 受け取っている退職金は全額回収の対象になる
自己破産すると、退職金も回収されてしまうのでしょうか。
退職金も回収の対象ですが、受け取るタイミングによって取り扱いが異なります。
在職中の場合
通常、退職金も預貯金などの財産と同様、自己破産によって破産財団に組み込まれるのが原則です。しかし、民事執行法152条2項では、退職金の4分の3が差押禁止債権として定められています。
そして、破産法34条3項2号では、差押禁止債権は破産財団に属さないとされています。つまり、退職金の4分の3は破産財団に組みこまれないということになります。これは退職金が労働者の生活を支える重要な資金であることを考慮した保護規定です。
ただし、在職中は退職金を実際に受け取れる見込みが不明確であるため、裁判所の実務的な運用としては、将来の不確実性(会社の倒産リスクや懲戒解雇の可能性など)を考慮して4分の1をさらに2分の1に圧縮した、8分の1のみを破産財団対象として扱っています。
例えば、退職金見込み額が400万円の場合、回収される退職金は以下のように計算され、50万円が回収対象となります。
400万円×1/8=50万円
退職後、まだ退職金を受け取っていない場合
退職後に自己破産し、これから退職金を受け取る予定がある場合、先ほど説明した原則通り退職金の4分の3が差押禁止債権となるため残りの4分の1が回収の対象となります。
例えば、退職金見込み額が400万円の場合、回収対象となる退職金は以下のように計算し、100万円が回収対象となります。
400万円×1/4=100万円
既に退職金を受け取っている場合
退職金を既に受け取った後で自己破産する場合、退職金は既に現金や預貯金として手元にある状態なので「現金・預貯金」として扱われます。現金や預貯金は差押禁止債権ではないので、現金99万円以下、預貯金20万円以下が自由財産となり、それを超える部分は処分の対象です。
退職金400万円を銀行振り込みで受け取った場合、もとの預貯金がなかったとすれば20万円まで自由財産となるため、残額の380万円が回収の対象になります。
上記の通り、退職金の額が同じく400万円であっても、在職中なら50万円、退職後・退職金受け取り前なら100万円がそれぞれ回収対象です。このように、自己破産のタイミングが在職中、退職後・退職金受け取り前、退職後・退職金受け取り後かにより、処分対象となる財産の範囲が変わるので理解しておきましょう。
回収される退職金を支払えない場合の対処法
- 裁判所が適切と判断した場合に自由財産の拡張が認められる
- 自由財産の拡張申立て後の任意整理への切り替えは認められにくい
回収される退職金を支払えそうにない場合、どうすれば良いでしょうか。
自由財産の拡張を申立てるという方法があるので、それについて解説します。
退職金の額が高額であるほど回収される金額も多くなるため、指定された額を支払えない場合もあります。そういったときは、自由財産を拡張してもらう方法があります。
本来、自由財産は現金の場合で99万円まで、預貯金の場合で20万円までと定められています。しかし、裁判所への申立てにより、破産者の生活の状況、財産の種類や額、破産者が収入を得る見込みなどの事情を考慮し、裁判所が適切と判断した場合に自由財産の拡張が認められる場合があります。
自由財産の拡張は、破産手続き開始決定日の1ヶ月の間に行わなければなりません。また、自由財産の拡張が認められるかどうかは裁判所の判断にゆだねられるので、本人が希望しても認められないこともあります。その場合、自由財産の拡張を申立てるのではなく、任意整理など自己破産以外の債務整理を検討するという選択肢もあります。
ただし、自由財産の拡張申立て後の任意整理への切り替えは認められにくいため、どの債務整理を選択すべきか判断に迷うときはあらかじめ弁護士などの専門家に相談しておくことをおすすめします。
自己破産しても回収されない退職金
- 退職金制度によっては差押禁止が明文化されている場合もある
- どの範囲まで保護されるかは、そのときの事情による
中小企業退職共済制度の退職金なども、回収されてしまうのでしょうか。
退職金の種類によって取り扱いが異なるので、これについても解説します。
これまで説明してきたのは、通常の企業から直接支払われる退職金の場合ですが、退職金には様々な種類があります。各制度によって自己破産した場合の取り扱いは異なり、例えば以下のような退職金については全額が自由財産として扱われる可能性もあります。
- 中小企業退職共済制度による退職金
- 小規模企業共済制度による退職金
- 確定拠出年金
- 確定給付企業年金
- 厚生年金基金
これらの退職金制度では基本的に差押禁止が明文で定められており、受給権を財産として処分することが認められていません。また、受給開始前の段階では原則として解約や現金化ができないため、破産管財人が任意に換価して債権者に配当することもできません。
もっとも、どの範囲まで保護されるかは債務者の年齢や再就職の可能性、扶養家族の有無、退職金額などを総合的に考慮し、裁判所が判断します。したがって「必ず全額が守られる」とは限りませんが、これらの共済や企業年金は、法律上の保護のために、通常の企業退職金よりも自由財産として扱われやすいといえるでしょう。
また、支給見込額の8分の1相当額が20万円以下の退職金債権であれば、自由財産と認められるため、回収の対象とされません。
まとめ
自己破産では退職金も処分対象となりますが、受け取るタイミングによって回収される範囲が大きく変わります。在職中なら退職金見込み額の8分の1、退職後で未受領なら4分の1、既に受け取っている場合は自由財産を超える全額が対象となります。
回収される退職金を支払えない場合、自由財産の拡張申立てという方法がありますが、認められるかは裁判所の判断次第です。また、中小企業退職共済制度や確定拠出年金などは法的保護があるため、通常の企業退職金より自由財産として扱われやすくなります。
自己破産のタイミングや退職金の種類によって結果が大きく変わるため、手続き前に弁護士に相談し、最適な方法を検討することが重要です。









