婚姻費用と家賃について解説いたします。
ざっくりポイント
  • 婚姻費用は家賃も含めて算定されるが、実費で支払われるわけではない
  • 基本的に、婚姻費用は裁判所の「婚姻費用算定表」を基に算定する
  • 婚姻費用の取り決めは2人で話し合う。意見がまとまらない場合は調停へ

目次

【Cross Talk 】婚姻費用は家賃も請求できるのでしょうか?

別居中です。私は配偶者より収入が低く、特に家賃が負担になっています。婚姻費用として家賃も請求できますか?

婚姻費用は衣食住に必要な費用なども含まれますので、家賃も対象となります。ただし、一般的には、実際にかかった費用を請求することはできません。

詳しく教えてください。

婚姻費用に家賃は含まれるが、請求には注意点がある

別居中は夫婦のうち収入が多い人が少ない(またはない)人に婚姻費用を支払う義務があります。
婚姻費用には家賃も含めて算定しますが、標準的な家賃を超えるものは認められない可能性があります。また、離婚の原因を作った有責配偶者からの婚姻費用の請求は認められにくい傾向にあります。
今回は婚姻費用に含まれるものや有責配偶者の婚姻費用請求、婚姻費用の取り決めの手順を解説していきます。

基本的には家賃も婚姻費用に含まれるが、請求できない事例も

知っておきたい離婚のポイント
  • 婚姻費用は結婚生活に一般的に必要とされる費用を指し、家賃も含まれる
  • 実際にかかった費用ではなく、算定表を目安に請求する

別居中で一人暮らしですが、都心の3LDKの部屋に住んでいます。家賃も婚姻費用として請求できますよね?

家賃も婚姻費用に含まれますが、標準的な家賃を超える部分は認められない可能性があります。

婚姻費用に含まれるものとは

夫婦は、たとえ別居中であっても婚姻費用を分担する義務がありますので、収入が多い人は少ない(またはない)人に婚姻費用を支払います。

民法※1第760条 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。

婚姻費用とは結婚生活を続けていくために一般的に必要な費用で、衣食住にかかる費用・医療費・交際費などが含まれます。家賃は「住」の費用ですので、基本的に婚姻費用に含まれます。
ただし、一人暮らしにもかかわらずファミリー向けの豪華なタワーマンションに住むといった、標準的な家賃を超える費用は、婚姻費用としては認められない可能性が高いでしょう。
また、婚姻費用は実際にかかった費用を請求するのではなく、一般的には、裁判所の「婚姻費用算定表」を目安として算定されます。

婚姻費用は裁判所の「婚姻費用算定表」を基に算定する

婚姻費用や養育費は、お互いの収入や子どもの年齢・人数などによって算定されます。
婚姻費用は裁判所の「養育費・婚姻費用算定表」を目安にしましょう。

基本的には婚姻費用から家賃を支払うことになります。
ただし、夫婦で家賃を別途支払うことに合意した場合には、婚姻費用とは別に家賃が支払われます。
「事情があり、算定表より婚姻費用を多めにもらいたい」という方は、相手と交渉してみましょう。

有責配偶者が婚姻費用を請求する場合

不貞行為やDVなど婚姻関係破綻の原因を作った配偶者を「有責配偶者」と呼びます。

有責配偶者の収入が配偶者の収入より低い場合には、有責配偶者には配偶者に対して婚姻費用を請求できる権利がありますが、離婚の原因を作った側ですので請求が認められにくい傾向にあります。
しかし、夫婦間に子どもがいて有責配偶者と子どもが一緒に暮らす場合には、子どもの生活費を請求できます。

婚姻費用の取り決め方法と請求の手順

知っておきたい離婚のポイント
  • 婚姻費用は2人で話し合い、話がまとまらない場合は調停へ
  • 弁護士に相談してみるという選択肢も

婚姻費用の金額で揉めています。心身ともに疲れてしまったのですが、誰かに代理を依頼しても良いのでしょうか?

弁護士が代理人として交渉できます。まずは無料相談を利用してみてはいかがでしょうか。

2人で話し合う

まずは婚姻費用について2人で話し合います。
別居にあたって必要な費用(家賃・食費・新しい家具や家電・引っ越し費用・子どもの生活費など)をリストアップし、負担してもらいたい費用を交渉しましょう。

なお、2人で購入した家があり、婚姻費用を支払う義務がある人が住宅ローンも負担する際には、婚姻費用を少し減らすといった事例もあります。
また、婚姻費用は、離婚時もしくは再び同居するときまで請求できます。

合意した場合は書面に残す

婚姻費用について合意したときには、合意書・公正証書といった書面に残します。
合意書は私的文書ですが、公正証書は公的な文書で、証拠力が高いといわれています。
また、公正証書には、婚姻費用を支払う義務を負う人が「支払いをしなかった際には直ちに強制執行を受けることを承諾する」という「強制執行認諾文言」を入れることが可能です。※2
強制執行認諾文言を公正証書に記載しておくと、調停・審判などをしなくても強制執行の手続きができるようになります。

話がまとまらないときには、婚姻費用の分担請求調停を申し立てる

合意ができない、何らかの事情で話し合いができない場合には、婚姻費用の分担請求調停※3を申し立てます。
調停では、調停委員が夫婦の資産・収入・支出などについて双方から事情を聴く、必要に応じて資料を提出してもらうなどの方法で状況を把握したうえで、提案やアドバイスをしながら合意を目指します。
話し合いがまとまらない、または相手が欠席して調停が不成立になったときには、自動的に審判に移行し、裁判官が決定(審判)を下します。

調停が成立

調停が成立すると、成立した内容どおりに婚姻費用をもらうことが可能です。
調停調書を作成すると、相手が約束を果たさなかったときに家庭裁判所に対して履行勧告・命令の申出をすることが可能です。家庭裁判所では、取り決めを守るように、相手に対して説得・勧告・命令を行います。※4

調停が不成立になった際は審判に移行※5

調停が不成立になると審判に移行し、裁判官が一切の事情を考慮して審判を下します。不服があるときは、審判から2週間以内に不服の申立てをすれば、高等裁判所に再審理をしてもらうことも可能です。ただし、内容によっては再審理ができないこともあります。
不服の申立てをせずに2週間が過ぎた、または高等裁判所で不服申立てが認められなかったときには、審判が確定します。

まとめ

家賃は、結婚生活を続けていくために一般的に必要な費用として婚姻費用に含まれますが、例外的に認められないこともあります。
婚姻費用に関する取り決めは、まず2人で話し合い、合意できない際には調停を申し立てます。何らかの理由で話し合えない、顔を合わせたくないなどの事情がある方、話がまとまらない方は、弁護士への相談をおすすめいたします。

この記事の監修者

弁護士 岩壁 美莉第二東京弁護士会 / 東京第二弁護士会 司法修習委員会委員
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