慰謝料を請求する側であってもされる側であっても、自己破産をするときには注意が必要
ざっくりポイント
  • 自己破産をしても慰謝料の支払い義務は消滅しないことがある。
  • 慰謝料を請求する権利は、自己破産をするときに資産と判断されることがある。
  • 自己破産するべきかどうかは状況によって異なるので専門家にご相談を。

目次

【Cross Talk 】借金に加えて慰謝料を請求されたら、自己破産で解決できる?

私は30代の会社員です。数年前に消費者金融から借金を始め、現在3社から合計約400万円の借り入れがあります。年収は手取りで500万円程度です。毎月の返済額が膨らみ返済が厳しくなってきたため自己破産を検討しています。

いわゆる多重債務の状態ですね。借り入れの総額と年収を考慮すると、自己破産をした方がいいかもしれません。

実は、もう一つ問題があるのです。私は現在、ある人から100万円分の慰謝料を請求されています。争ってはいますが、多かれ少なかれ相手の請求が認められる可能性が高いのではないかと思っています。
もしそうなったら借金の返済はますます難しくなると思いますが、「自己破産しても慰謝料は支払わなければいけない」と以前聞いたことがあるので不安を感じています。

自己破産によって借金や損害賠償義務などの債務を免れることを「免責」といいます。仰るとおり、慰謝料を請求されている場合、その部分については自己破産をしても免責が認められない場合もありますので注意が必要です。

どのような場合に免責が認められ、どのような場合に免責されないのか、詳しく教えていただけますでしょうか。

自己破産をしても慰謝料の支払い義務については免責が認められない場合もある。

自己破産では債務者は債務が免責されます。慰謝料も不法行為に基づく損害賠償請求による債務であり、免責の対象となります。
ただ、非免責債権として、一部の不法行為に基づく損害賠償請求権は免責されないとしています。
慰謝料を請求する側・される側になった場合に自己破産とどのような関係となるかを確認しましょう。

慰謝料を請求されている側の自己破産手続き

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 慰謝料を請求されている側が自己破産手続きをする場合の注意
  • 慰謝料が免責される場合とされない場合があるので注意する

慰謝料を請求されている側が自己破産をする場合にはどのような注意が必要なのでしょうか。

一般的に慰謝料と呼ばれるものは法律上、不法行為に基づく損害賠償請求権なので、免責される場合とされない場合があるので注意が必要です。

不法行為に基づく損害賠償請求権を請求されている側が自己破産する場合にはどのような注意が必要でしょうか。

慰謝料は不法行為に基づく損害賠償請求権

そもそも慰謝料と一般的に呼ばれるものは、民法上では不法行為に基づく損害賠償請求です(民法709条)。
そのため、この不法行為に基づく損害賠償請求権が、法律上どのように取り扱われるのかを確認する必要があります。

不法行為に基づく損害賠償請求権も免責されうる

不法行為に基づく損害賠償請求権は、請求する側からは債権で、請求される側にとっては債務
です。
債権・債務関係があるという意味では、お金を貸している債権者・お金を借りている債務者と同様で、自己破産によって免責の対象になりえます。

非免責債権とは

債務は免責の対象になるのですが、一部の債務については非免責債権として免責されないことが規定されています。
例えば、養育費や税金とともに、一部の不法行為に基づく損害賠償請求権が非免責債権とされています。
次項以降で具体的に確認しましょう。

悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権は免責されない

非免責債権について定める破産法253条1項2号は「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」については免責されないとしています。
悪意で加えたというのは、単に損害賠償の対象となることを知っていたのみではなく、犯罪行為のような形で損害を与えた場合に限定されます。
そのため、例えば車のブレーキを踏み間違えて民家に衝突し、物的損害を出したとします。その場合は、過失にすぎず、悪意で加えた不法行為による損害賠償請求権とはいえないため
免責されます。

故意・重過失によって生命、身体に加害を加えた不法行為に基づく損害賠償請求権は免責されない

同じく非免責債権について定める破産法253条1項2号は「破産者が故意又は重大な過失により加えた方の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」を規定しています。
そのため、例えば交通事故で相手に重症を与えたような場合で、重過失を認定された場合には、その損害賠償請求権は免責されません。

離婚時の慰謝料は免責されうる

離婚をするときに慰謝料の請求ができる場合があります。

離婚をする場合に、離婚をすることについて原因を作った方に対して、その相手側から慰謝料の請求ができる場合があります。
この慰謝料も損害賠償請求権であり、対象となる行為が、人の生命又は身体を害したわけではなく、また悪意で加えた不法行為ともいえない場合には、免責されます。

ただ、養育費については免責されないのは、上述の通りです。

浮気・不倫をした場合でも免責される可能性が高い

離婚となった原因が浮気・不倫にあるような場合には、離婚の原因を作ったとして、慰謝料の請求をされることになります。

浮気・不倫のような、夫婦関係の信頼関係を破壊する行為でも、「悪意で加えた不法行為」とは解釈できず、免責される可能性が高いです。

債権一覧表に記載しなかった場合

非免責債権について定める破産法253条1項6号は、「破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権」については非免責債権としています。
実際の実務では、自己破産の申立てをする際に、債権一覧表という形で裁判所に提出することになり、
これに慰謝料の記載をしなかった場合には免責されないことになります。

破産手続開始決定後に発生した慰謝料

免責の対象になるのは「破産手続開始決定」までに発生した慰謝料です。
そのため、破産手続開始決定後に発生した慰謝料については免責の対象になりません。

免責されなかった場合


免責されなかった場合には当然支払う必要があります。

一括で払えない場合には分割での支払いを求めて相手と交渉をすることになります。
なお、支払い時期については破産手続きとの兼ね合いを考えながら行うことになるので、自己破産の依頼をする弁護士と相談しながら行います。

慰謝料を請求する側の場合には損害賠償請求権が資産になる場合も

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 「損害賠償を請求することができる権利」は債権と呼ばれ、資産にあたる。
  • 損害賠償請求権は自己破産の手続において換価と配当の対象となることがある。

もう一つ質問をさせてください。私は数カ月前、横断歩道を渡っているときに信号無視の車に衝突され、足を骨折する大けがを負いました。ところが車の運転手は任意保険に加入していなかったのです。
事故によって治療を強いられ、仕事ができなくなるなど大変な思いをしたので、何とか相手に損害請求をしたいと考えています。

それは大変でしたね。
交通事故の被害に遭った場合、治療費はもちろん、仕事をしていれば本来得られたはずの利益や、入通院を強いられたことによる慰謝料、加えて後遺症が残ったときにはその分の慰謝料などを請求することができます。
しかし、相手が無保険ということであれば、慰謝料を請求しても回収の見込みがあるかどうかが問題となります。

不法行為損害賠償請求権は債権という資産

自己破産には「同時廃止事件」と「管財事件」という2つの種類があります。「同時廃止事件」か「管財事件」どちらに振り分けられるかは様々な要素がありますが、破産者の資産に限っていうと、目立った資産がなければ「同時廃止事件」と扱われ、債務を免除するだけで終了します。

しかし、破産者が現金、不動産などの資産を所有しているような場合には、「管財事件」として、資産をお金に換えて債権者に分配する手続きが行われます。このような手続きを「換価」と「配当」といいます。

そして現金、不動産のように目に見えるものではありませんが、「債権」も資産にあたります。例えば、「預貯金が資産である」ということには誰しもが納得するのではないでしょうか。預貯金は、金融機関に対して預けている現金を引き出すよう請求することができるという債権の一種です。同様に、「不法行為に基づく損害賠償請求権」という債権も自己破産の手続きにおいては資産として扱われることがあります。

請求が可能な場合には資産と認定されて自己破産できない場合も~交通事故の慰謝料を考える

もう少し具体的に考えてみましょう。
Aさんはかつて事業運営のためにB銀行から約200万円の借り入れをしたが、その後に体を壊して仕事ができず返済の目処が立たなくなったので、自己破産を検討しているとします。Aさんが持っている資産はわずかな現金と50万円程度の預貯金のみで、預貯金を切り崩して毎月の返済と生活費に充てているとしましょう。

これだけ見ればAさんは破産手続きによりB銀行に対する借金を免責されても何ら問題ないように思えます。
しかし、実はAさんは半年前にCさんが運転する車にはねられて大けがを負い、近々、Cさんが加入していた保険会社D社から慰謝料として300万円を受け取る予定になっているとしたらどうでしょうか。

もしAさんに同時廃止による免責を認めると、AさんはB銀行から借りている200万円の借金の返済義務を逃れることができ、他方でD社から300万円の慰謝料を受け取ることができることになります。B銀行としては「300万円を受け取る予定があるなら、借金の返済に回してほしい」と思うのが自然です。そこで、このような場合にはD社に対する損害賠償請求権がAさんの資産として扱われ、換価・配当の対象となるのが一般的です。

回収の見込みがない慰謝料がある場合には自己破産手続き

上の例では、Aさんは将来保険会社から確実に300万円相当の損害賠償を受けることができるという前提でご説明しました。しかし、回収の見込みがない場合もあります。

例えばAさんの交通事故の相手方であるCさんが任意保険に加入しておらず、無保険であった場合はどうでしょうか。この場合、AさんはCさんに直接損害賠償請求をしなければなりません。Cさんが任意の請求に応じない場合には、裁判所に訴訟を提起して判決を取り、それに基づいて強制執行という手続きをとらなければいけないこともあります。

しかし、強制執行したからといってCさんに資産があるとは限りません。Cさんに目立った資産がなければ、Aさんは自分が被った損害に対する賠償を受けることができず、言わば「泣き寝入り」を強いられることになります。

このように、第三者に対する損害賠償請求権があっても回収の見込みがない場合には自己破産を検討せざるを得ない場合もあります。ですので、自己破産をすべきかどうかは、状況に応じて判断する必要があります。

相手が自己破産をした場合に損害賠償請求ができるか

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 相手が自己破産をした場合に損害賠償請求ができるか
  • 非免責債権である場合には

相手が自己破産した場合に慰謝料請求をする場合はどうなりますか?

同じように慰謝料が免責されるのか、されないのかによって扱いが異なります。

相手が自己破産した場合に、自分が慰謝料請求をする場合、免責債権・非免責債権か、によって異なります。

慰謝料が免責される債権にあたる場合には債権の届出を行う

慰謝料が免責の対象になる債権にあたる場合、その処理は破産手続の中で処理されます。
相手が自己破産を弁護士に依頼した段階で、債権調査票というものが弁護士から送られてくるので、慰謝料の額の届出を行います。

また、破産手続きが始まると裁判所から債権届出書が送られてくるのでこれも記載して提出します。
破産手続きでは、債務者の財産をお金に換えて、お金から債権額に応じた配当を行い、残った金額を免責することにしています。
もっとも、個人の自己破産では配当がない場合が多く、慰謝料の請求は難しいことが多いです。

慰謝料が非免責債権にあたる場合には債務名義の取得を検討

慰謝料が非免責債権にあたる場合には、自己破産後も債務者に対して請求が可能です。
債務者に対し請求しても支払がない場合には、債務名義を取得します。

債務名義とは、強制執行をする際に必要な文書で、民事執行法22条に規定されています。
最も典型的な場合は確定判決(同条1号)なので、相手に対して裁判を行って勝訴判決をもらうことになります。

相手の財産に強制執行を行う

相手が任意に支払いをしない場合には、取得した債務名義を基に、強制執行を行います。

自己破産をするような場合では強制執行の対象としてめぼしい財産はないのが通常です。
それでも、相手の給与については原則として手取り金額の1/4まで差し押さえをすることができ、一度差し押さえれば慰謝料全額回収するまで回収が可能です。

自己破産後に払ってもらう交渉をしてみる

免責がされた債権についても、自己破産後に任意に支払うことは禁止されていません。
そのため、自己破産の手続きが終わった後に払ってもらえないか交渉をしてみることも検討しましょう。

まとめ

今回は慰謝料と自己破産の関係について、請求する側とされる側に分けて解説いたしました。
破産をすべきかどうかは状況によって判断する必要があります。そのため、どのような理由で慰謝料を請求されているのか、あるいはしているのかという事情によって判断は異なってきます。正しい知識に基づいて判断をしないと、「自己破産をしたのに慰謝料の支払い義務が残った」「同時廃止になると思って自己破産をしたのに管財事件になった」といった思わぬ事態になりかねません。
自己破産すべきかどうか迷ったときには、法律の専門家である弁護士にご相談することをおすすめいたします。