債権者が任意整理に応じない場合の理由とその際の対処法を解説いたします!
ざっくりポイント
  • 任意整理とは裁判所を通さずに債権者と個別の交渉をすることをいう
  • 任意整理に応じるかは債権者次第なので応じない業者もある
  • 一度も返済していないなど債務者側の事情で応じてもらえないこともある

目次

【Cross Talk 】任意整理したいけど債権者は必ず応じてくれるのですか?

借金の返済が遅れがちで、業者からの督促が厳しくなってきました。任意整理をして少しでも返済額を減らせないかと考えているのですが、取り立ての厳しい業者も任意整理に応じてくれるのでしょうか?

任意整理は個別の交渉ですので、応じるかどうかは債権者の自由ということになります。債権者が貸金業者等である場合、任意整理に応じてくれることが多いですが、中には任意整理には応じない業者もあります。また、一度も返済していないなど、状況が悪い場合も交渉に応じてもらえない可能性があります。

応じてもらないこともあるんですね…どうしたらいいでしょうか。

債権者には任意整理に応じる義務がある?

任意整理は自己破産や個人再生などと比べると簡易な手続きで心理的な抵抗も少ないため、債務整理を検討する場合、まずは任意整理できないかと考える方が多いようです。
しかし、任意整理はあくまで話し合いですから、任意整理を検討する際は、債権者が任意整理に応じてくれるかどうかを考慮する必要があります。
今回は、債権者が任意整理に応じない場合があるのか、あるとすればどのように対応すればいいのかについて解説いたします。

任意整理とは

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 任意整理は裁判所を介さない債権者との個別の交渉
  • 任意整理には財産を手放す必要がない、官報に載らない等のメリットがあるが債権者が応じてくれないおそれも

任意整理は自己破産とどう違うのですか?

任意整理は自己破産のような裁判所の手続きではなく、各債権者と個別に交渉して金利や債務額、毎月の返済額等を見直す手続です。裁判所を介さないので柔軟な解決ができますが、あくまで交渉ですので、債権者が交渉に応じるとは限らないというデメリットがあります。

任意整理とは

任意整理とは、債務者が債権者と個別に交渉して、利息のカットや毎月の返済額の減額など、返済条件を改める手続き
をいいます。

他の債務整理方法との違い

債務整理の方法には、任意整理以外に自己破産や個人再生という手続きがあります。
自己破産や個人再生手続きは、裁判所の手続きであるため、要件や方式が法律によって厳格に定められています。
これに対し、任意整理には特別な法律上の制限等はありませんので、柔軟な解決が可能になります。
不動産や自動車など価値のある財産を残すことができます
し、どの債務を任意整理の対象にするか選ぶことも可能です。
また、任意整理をしても官報に載ることはないので、債権者以外に任意整理をしたことを知られるおそれは少ないといえます。

このように、任意整理には他の債務整理にはないメリットがいろいろあります。

ただし、任意整理には他の債務整理にはないデメリットもあります。
自己破産や個人再生では債務の免除や大幅な減額を得ることができますが、任意整理の場合、
自己破産や個人再生ほど大きな効果は期待できません。

また、自己破産や個人再生は裁判所の決定であり最終的には債権者も従うしかないのですが、任意整理はあくまで交渉にすぎないため、
債権者が交渉に応じるとは限りません
(債権者には任意整理に応じる義務はありません)。
ですから、任意整理は必ずうまくいくとまではいえないのです。

債権者が任意整理に応じない場合と対応方法

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 貸金業者ではない債権者は応じてくれない可能性がある
  • 貸金業者でも任意整理には応じない会社もある

任意整理に応じてくれないのはどんな場合が考えられますか?

まず、債権者が貸金業者ではない場合が考えられます。貸金業者の多くは任意整理に応じてくれますが、中には任意整理に応じない会社もあるので注意が必要です。また、通常は任意整理に応じてくれる業者であっても、一度も返済していないなど状況が悪いと任意整理に応じてくれない可能性があります。

債権者は任意整理に応じる義務はない

まず、任意整理はあくまで債権者と債務者の話し合いによって行われる債務整理手法です。
そのため、
債権者としては任意整理に必ず応じなければならないとする義務はなく
、応じるのも応じないのも自由です。
そして、任意整理に応じる義務がない以上、次のような場合には任意整理を断られることがあります。

相手が貸金業者ではない

債権者が貸金業者である場合、任意整理に応じてくれるのが一般的です。
貸金業者は、大勢の債務者に貸付けをしており、一部の債務者が返済をできなくなるリスクは当然想定したうえで事業を継続しています。
債権者が任意整理を拒んだ場合、債務者が自己破産や個人再生をする可能性があり、そうなると債務が免除または大幅に減額されてしまいます。
「自己破産や個人再生をされるぐらいなら、任意整理で多少譲歩してでも返済を続けてもらう方がまし」ということで、多くの貸金業者が任意整理に応じてくれるケースが多いのです。

これに対し、債権者が個人や勤務先の会社等、貸金業者ではない場合、債権者は貸金業者のように厳格な審査のうえに事業として貸付けをするのではなく、債務者との人的関係に基づいて貸付けをする場合が多いでしょう。

そうなると、貸金業者のように冷静な損得勘定だけで任意整理への対応を決めるとは限りません。任意整理を申し出ると、債務者に裏切られた、だまされたと感じて立腹し、約定通りの返済を強硬に求められることも珍しくないのです。

また、債権者が貸金業者でない場合、貸金業法の規制が及ばないため、弁護士が任意整理等の依頼を受けた旨の通知(受任通知)を送付しても、債務者への直接の取り立てを止めることができません。
このようにみると、貸金業者ではない債権者に対し任意整理を申し出るかどうかは、債権者と債務者との関係性や債権者の性格などを考慮して、個別に判断することになるでしょう。

それ以外にも、債権者が国や自治体である場合、つまり税金の場合は、任意整理には応じてもらえません。
税金は法律に基づいて公平に課されるべきもので、たとえ自己破産をしても免除されるものではありません。
そのため、任意整理で税金の減額等を申し入れても応じてもらうことはできないのです。

なお、債権者が貸金業者ではないと言っても、いわゆる闇金の場合は対応が異なります。
闇金は貸金業登録を受けていないので、形式的には貸金業者にはあたりません。
しかし、闇金は通常、法律で認められた上限をはるかに上回る高利で貸し付けをしているので、闇金との契約は不法原因給付に該当して無効になり(民法708条)、利息だけではなく元本も返済する必要はないとされています。

任意整理に非協力的な会社

多くの貸金業者は任意整理に応じてくれますが、例外的に任意整理に非協力的な会社もあります。
そういった貸金業者の場合、債務整理の通知をすると裁判を起こして債務全額の返済を請求し、分割返済に応じないことがあるのです。
そうなると、他の債権者が任意整理に応じてくれたとしても、結局は自己破産等をせざるをえなくなることもありえます。

そのような事態を防ぐには、任意整理に応じてくれる貸金業者かを事前に確認をし、応じてくれそうにない貸金業者に対しては、任意整理を持ち掛けず従前どおりの返済を続けていく必要があります。
このような貸金業者の見分けは専門的な知識、経験がないとできませんので、債務整理に注力している弁護士に依頼をすることが望ましいといえます。

返済期間が長過ぎる提案をする場合

任意整理に協力的な会社であっても、あまりにも返済期間が長すぎる提案をすると、断わられることがあります。
例えば、1社に50万円の借り入れがあるとして、毎月1,000円の支払いを500回分割で払うことを提案したような場合には、まず間違いなく貸金業者は断ります。

長期間債権管理の必要があるうえに、毎月1,000円程度の支払いしかできないという提案をする場合、そもそも返済ができない場合であり、自己破産をするのが適切であることが多いです。
債権管理のコストや、返済できなくなる可能性があることから、あまりにも長期の提案は任意整理では応じてもらえません。
実務上はおおむね36回~60回(3年~5年)程度で任意整理がまとまることが多いですが、貸金業者によっても異なるので、債務整理に詳しい弁護士等に相談してみましょう。

一度も返済していない・取引期間が短い

一度も返済していない場合や、取引期間が極端に短い場合には、任意整理を断られる可能性があります。
一度も返済していない場合や、取引期間が極端に短い場合、債権者は利息によって利益を受けられておらず、また元金のみの返済としても支払ってもらえる可能性は極めて低いと考えるのが通常です。

そのため、任意整理を断るか、取引期間と同じ分割しか認めない(例:5回しか返済していない場合に5回分割しか認めない)可能性が高いです。
取引期間が短いかどうかの判断は、取引期間が概ね1年以上あるかどうかによって判断されます。

高額の遅延損害金がついている場合

最終返済日から長期間経過しており、高額の遅延損害金がついている場合に、元金のみで分割の和解を申し出ると貸金業者が断ることがあります。

任意整理を申し出る場合には、弁護士側からは遅延損害金を含まず、元金のみを長期の分割とする、いわゆる東京三会基準に準拠した提案をします。
このときに、長期間延滞をしており高額の遅延損害金を請求できる状態になっている場合には、遅延損害金の一部または全部を含めての返済としなければ任意整理に応じないことがあります。

裁判を起こした等

貸金業者が既に裁判を起こしている、裁判で判決が下っており、既に強制執行の準備をしている場合には、任意整理に応じないことがあります。

貸金業者が既に裁判を起こしている場合には、費用がかかっていることもあり、従来どおり元金のみを長期の分割での交渉は難しいことがあります。

そのため、遅延損害金の一部・全部を認めて和解交渉をして任意整理をする場合があります。
既に貸金業者が判決を取得しており、強制執行による回収のほうが確実であるような場合には、貸金業者にとって任意整理することにメリットがないため、そもそも任意整理に応じてもらえないことがあります

二度目の任意整理である

一度任意整理をしたものの、返済できなくなった場合に、残った残額を元に再度任意整理の申し込みをすることがあります。
例えば、50万円の元金について任意整理をして、毎月1万円を20ヶ月返済し、残り30万円となったところで返済できなくなったときに、30万円を基準として60回分割にして毎月5,000円の分割返済の任意整理のやり直しの提案をすることがあります。

一度貸金業者としては任意整理に応じているにもかかわらず、再度任意整理を申し込まれた場合には、返済がきちんと行われるか不安になるのはやむを得ないことです。
そのため、
再度の任意整理に応じてもらえないこともあります。仮に任意整理に応じてもらえたとしても、返済条件が厳しいものになる可能性もあります。

借金に担保・保証人がついている

借金に担保・保証人がついている場合には、任意整理の申し込みをしても、応じてもらえないことがあります。
債権者としては、これ以上債務者に督促をしても無駄なので、担保となっているものを売却して回収する、保証人に請求することになります。

高齢である場合

高齢であるような場合には、あまり長期の分割には応じてもらえないことがあります。

例えば、定年間近である場合には、現在は収入があっても、定年後には収入が下がることになり、任意整理で決めた金額の支払いができなくなる可能性があります。
また、年金などから支払う場合でも、高齢になると急な病気で医療費がかかるなど、返済できなくなる可能性も高くなります。
任意整理に応じてもらえない、分割回数を短くしなければならないことがあります。

相手が任意整理に応じない場合にはどうすれば良いのか

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 相手が任意整理に応じない場合の対応
  • 応じない会社以外とのみ任意整理を行う・自己破産や個人再生に切り替えるなど

相手が任意整理に応じない場合にはどうすれば良いのでしょうか。

いくつか対応策を知っておきましょう。


相手が任意整理に応じない場合にはどうすれば良いのでしょうか。

応じない業者以外とだけ任意整理をする

任意整理に応じない業者以外とだけ任意整理をすることを検討しましょう。

例えば、A・B・Cという会社があり、C社が任意整理に応じない会社だった場合には、C社とは任意整理を行わず、A・Bとのみ任意整理をすることが可能です。
これによって、3社に対して返済が継続できるのであれば、任意整理に応じない業者以外とだけ任意整理をすることも選択肢の一つです。

自己破産を行う

任意整理をあきらめ、
自己破産を行うことを検討しましょう。

自己破産は破産法に基づいて免責をしてもらえるので、任意整理に応じない会社があっても利用することが可能です。

個人再生を行う

任意整理をあきらめ、個人再生を行うことも検討しましょう。

個人再生を行えば民事再生法に基づいて債務を減額してもらえる可能性があるので、任意整理に応じない会社があっても利用することが可能です。
住宅ローンで購入した自宅がありこれを維持したい、自己破産をすると資格制限となり今の職業の退職を強いられるような場合には、自己破産を利用せずに個人再生を行うことを検討します。

まとめ

任意整理に応じてくれない場合とその際の対処法について解説しました。
任意整理に応じてくれない場合に該当するおそれのある方は、早急に債務整理に詳しい弁護士にご相談すると良いでしょう。