残業代を支払わない場合にどのようなペナルティの対象になるか、未払い残業代の請求方法を解説いたします。
ざっくりポイント
  • 会社が法的に支払うべき残業代を支払わないことは給与の未払いにあたる
  • 会社が残業代を支払わない場合労働基準監督署による是正勧告や刑事罰などの対象になる場合がある
  • 労働者側には自分で直接請求をしたり、労働審判や民事裁判を起こすなどの方法がある

目次

【Cross Talk 】会社が残業代を支払わない場合はどんなペナルティがあるの?

会社が残業代を支払ってくれません。残業代を請求しようと思うのですが、そもそもこういったことで会社にはどんなペナルティがあるのでしょうか。

法的に支払うべき残業代を支払わない場合、労働基準監督署による是正勧告や、罰金などの刑事罰の対象になる可能性があります。

残業代を支払わないことは、公的なペナルティの対象になる可能性があるのですね!自分からは未払いにどのように対処できるのかも教えてください!

会社が支払うべき残業代を支払わない場合、是正勧告や刑事罰などを受ける可能性がある

せっかく頑張って残業をしたのに、会社が残業代を不当に支払わない場合は、会社に残業代を請求したくなるのも無理はありません。
会社員をはじめとする労働者は労働基準法等によって保護されており、会社が法的に支払うべき残業代を支払わないことは、原則として違法行為に該当します。

そこで今回は、会社が残業代を支払わない場合に、どのようなペナルティがあるのか、未払いの残業代の対策方法などを解説いたします。

残業代を支払わない会社に課せられるペナルティ

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 会社が残業代を支払わない場合、労働基準監督署の是正勧告の対象になる場合がある
  • 法的に支払われるべき残業代が支払われない場合、懲役刑や罰金刑が科される可能性がある

労働者は労働基準法などの法律で保護されていますよね。会社が残業代を不当に支払わない場合、どのようなペナルティがありますか?

会社が法的に支払うべき残業代を支払わない場合、労働基準監督署による是正勧告を受けたり、労働基準法が規定する刑事罰の対象になったりする可能性があります。

残業代の内容

いわゆる残業代とは、労働者が所定労働時間を超えて働いた場合に支払われる賃金のことです。
賃金とはいわゆる給与(給料)のことなので、法的に支払われるべき残業代を支払わないことは、給与を支払わないことと同じです。

所定労働時間とは、一般に始業時刻から終業時刻まで、通常勤務しなければならないと雇用契約で定められている労働時間のことです。

労働基準法において、労働時間の上限は原則として1日8時間、週40時間と定められており、法定労働時間といいます。
法定労働時間を超えて労働者が残業をした場合は、会社は通常の賃金よりも割増(原則として1.25倍)の残業代を、原則として支払わなければなりません。

残業代不払いは行政による制裁の対象になる

残業代の不払いは、行政による制裁の対象になることがあります。具体的には、労働基準監督署による是正勧告です。
労働基準監督署は、企業が労働基準法などの労働法をきちんと守っているかを監督する機関です。労働基準監督署は厚生労働省の出先機関であり、各都道府県に存在します。

是正勧告とは、労働基準監督署が労働基準法違反などの法令違反を発見した場合に、違反をした企業に対して是正するように促すものです。
労働基準監督署は企業が労働関連の法令を遵守しているかを監督するために、立入検査を行ったり、必要な書類の提出を求めたりなどの権限を有しています。

書類検査などの結果、残業代の不払いといった企業の法令違反を発見した場合に出されるのが、是正勧告です。
是正勧告はあくまで行為の是正を促すものであり、法的な拘束力はありませんが、悪質な法令違反を何度も繰り返すような場合には、労働基準法違反などを理由に送検し、検察庁が起訴して刑事罰を追求される可能性があります。

刑事罰

残業代を支払わない場合、労働基準法に違反します(労働基準法第37条)。

労働基準法に違反する残業代の未払いについては、同法により罰則が定められています。罰則の内容は「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」です(労働基準法第119条)。
懲役とは、刑務所をはじめとする刑事施設に強制的に収容されて、所定の刑務作業をしなければならない刑罰です。

6ヶ月以下の懲役とは、原則として1ヶ月以上6ヶ月以下の期間について、懲役刑を科されるということです(刑法第12条第2項)。
罰金とは、強制的に金銭を徴収される刑罰です。30万円以下の罰金とは、原則として1万円以上30万円以下の金銭を、罰として徴収されることを意味します(刑法第15条)。

罰則を科されるのは一般に会社の代表者や経営者ですが、場合によっては、部下に違法な残業を直接命令していた管理職や責任者が刑事罰を受けることもあります。
また、会社の代表者だけでなく、事業主である会社も罰則の対象です(労働基準法第121条)。会社に罰則が科される場合、懲役として刑事施設に収容することはできないので、罰金が科されます。

残業代を払わせるためには

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 会社に残業代を支払わせるには、労働基準監督署に通告する、自分で会社に直接請求するなどの方法がある
  • 会社が支払いに応じない場合、労働審判や民事裁判などの法的手段も検討

会社が残業代をどうしても支払ってくれません。残業代を支払わせるにはどんな方法がありますか?

労働基準監督署に通告すると、間接的に残業代が支払われる可能性があります。請求方法として、自分で直接請求することもできますが、応じない場合は労働審判や民事裁判を検討することも必要です。

労働基準監督署に通告

会社が残業代を支払わない場合、労働基準監督署にその旨を通告する方法があります。
通告の結果、労働基準監督署が動くべきと判断すれば、立入検査などの調査をしたうえで、会社に是正勧告などの措置をとる可能性があります。

ただし、労働基準監督署には多くの相談や通告などが寄せられるため、労働基準監督署が必ず動いてくれるとは限りません。
未払いの残業代を証明する確固たる証拠があるなど、労働基準監督署を動かすだけの材料があることも重要です。

注意点として、労働基準監督署の仕事は労働基準法などの法律を企業にきちんと守らせることです。労働者のかわりに未払いの残業代を回収してくれるわけではありません。
労働基準監督署による勧告などが行われることで、会社が残業代を支払うように間接的に促されるということになります。

会社に直接請求する

機関や第三者に相談せずに、自分で会社と交渉して残業代を請求することは可能です。
自力で交渉した結果、会社が残業代を支払ってくれれば問題ありません。しかし、1人の労働者がいうことだからなどと、会社が請求に応じてくれない可能性があります。

また、会社に残業代を請求した結果、会社や上司から嫌がらせを受けたり、残業代と関係のない無理難題を押し付けられたりするなどの可能性もあるため、会社に残業代を請求した結果、事態が悪化してしまった場合には、無理をせずに労働問題に知見のある弁護士に相談するのがおすすめです。

労働審判・民事裁判などの法的手段

会社が残業代の支払いに応じない場合、労働審判や民事裁判などの法的手段を検討する方法があります。
労働審判とは、残業代の未払いなどの労働問題について、労働審判官と労働審判員が審理して解決を図る手続きです。

労働審判は裁判所による手続きですが、一般的な裁判に比べて迅速で柔軟な解決ができる可能性があります。ただし、労働審判が確定するには会社側が審判の内容に同意しなければなりません。

会社の意思に関わらず残業代を支払わせるには、訴訟を提起して裁判で争うことになります。訴訟は審判と比べて手続きが複雑で手間もかかるので、労働問題に詳しい弁護士にご相談することをおすすめします。

まとめ

会社が法的に支払うべき残業代を支払わないことは、給与の未払いにあたります。労働基準法違反として是正勧告の対象になったり、刑事罰として懲役や罰金が科されたりする可能性があります。
会社に残業代を支払わせるには、自分で直接請求したり、労働審判や民事裁判を起こしたりする方法があります。無理をして事態が悪化してしまわないように、早めに弁護士に相談することも重要です。