- 内定を取り消すことができるのは、一定の要件を満たす場合に限られる
- 内定の取り消しが違法な場合は、取り消しが無効であると主張する
- 内定取り消しになった場合の相談先として、総合労働相談コーナーや弁護士がある
【Cross Talk 】内定の取り消しは違法なの?
就職が決まったと思ったのに、企業に内定の取り消しをされてしまいました。内定の取り消しが違法になる場合があるのですか?
内定は労働契約の一種とされ、一定の要件を満たした場合にのみ内定の取り消しが可能です。要件を満たさない違法な取り消しをされた場合は、取り消しの撤回を求めたり、損害賠償を請求したりするなどの対応方法
があります。
内定の取り消しが違法になる場合があるんですね。取り消しの要件についても詳しく教えてください!
就職が決まったと思っていた企業から内定を取り消されてしまうと、求職者にとっては生活に大きな影響が生じます。
内定は単なる約束と思われがちですが、法的には一種の契約
であり、一定の場合にしか内定の取り消しは認められません。
そこで今回は、内定の取り消しが違法になる場合や、取り消しをされた場合の対応方法について解説いたします。
企業の内定取り消しは適法か
- 内定は労働契約の一種
にあたるので、無条件に取り消すことはできない - 内定を取り消すことができるのは、一定の要件を満たす場合に限られる
企業が内定を取り消すことは適法かについて教えてください。
内定は労働契約の一種とされており、無条件に取り消せるわけではありません。企業が内定を取り消すには、一定の要件を満たす必要があります。
内定とはどのような状態か?
内定とは、法的には労働契約の一種です。
内定は、将来の入社を約束することという意味で捉えられるのが一般的ですが、法的には、内定は単なる約束ではありません。
具体的には、内定は「始期付解約権留保付労働契約」
と呼ばれるものであり、労働契約の一種にあたります。
つまり、企業が求職者に内定を出すことは単なる約束ではなく、労働契約を結んだものと法的にみなされるのです。
また、内定はすでに労働契約が締結されたものとみなされるので、労働契約の予約とも異なります。
内定は労働契約の一種ですが、通常の労働契約とは異なる、以下の特徴があります。
・始期付であること
企業が内定を出すことで労働契約自体は成立していますが、実際に労働者が労働を始める時期(始期)は、入社時から
です。
例えば、企業が内定を出したのが10月であり、入社時が翌年4月の場合は、契約が成立したのは10月ですが、労働の始期は翌年4月にあたります。
・解除権の留保付であること
解除権の留保とは、企業が労働契約を解除する権利を有している
(留保している)ことです。
内定は労働契約の一種ですが、通常の労働契約とは異なり、一定の場合には企業が契約を解除することができます。
内定を取り消すことができる場合
内定を取り消すことは、留保している解除権を行使することにあたります。
ただし、企業は自由に解除権を行使できるわけではなく、一定の要件を満たす場合にのみ、解除権を行使して内定を取り消すことが認められる
のです。
判例によれば、内定を取り消すことができるのは、以下の2点の両方を満たした場合
に限られます。
①内定を取り消す事由が、内定を出した当時に知ることができず、または知ることが期待できないような事実であること
②上記の事実を理由として内定を取り消すことが、解除権の留保の趣旨や目的に照らして、客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認できること
上記2点の要件を一般に満たす可能性がある場合の例として、以下のものがあります。
・留年などを理由に、卒業見込みであった学校を入社時までに卒業できなくなった
・内定後に業務に支障が生じるような健康的な問題が見つかった
・提出された履歴書に重大な虚偽があった
・内定後に重大な刑事事件を起こした
また、企業の業績の悪化を理由に内定を取り消す場合は、以下のリストラ(整理解雇)の4要件を考慮したうえで、内定の取り消しの可否を判断します。
①人員削減の必要性があること
②人選や人選の基準について合理性があること
③解雇(内定の取り消し)回避の努力義務が履行されたこと
④手続きに相当性があること
企業の内定取り消しが違法であると判断できる場合の対応方法
- 内定の取り消しが
違法な場合は、取り消しが無効であると主張
する - 内定の取り消しについて、賃金や損害賠償の請求も検討すべき
違法な内定の取り消しをされた場合は、どのような対応方法がありますか?
内定の取り消しが無効であるとして取り消しの撤回を求める方法があります。また、本来得られたはずの賃金や、支出した費用などを損害賠償請求することも検討しましょう。
内定取り消しを無効であると主張する
違法な内定の取り消しをされた場合は、内定取り消しが無効だと主張する方法
があります。
内定の取り消しが無効であることが認められれば、有効な内定に基づいて、その企業で労働できる地位にあることが確立されるからです。
内定の取り消しが無効であると主張するには、まずは企業に対して、内定取り消しの理由を書面で通知することを請求します。
取り消しの理由が書面で通知されたら、取り消し理由に反論して無効であると主張したうえで、内定の取り消しの撤回を求める書面を、内容証明郵便で企業に送付します。
企業が内定の取り消しに応じない場合は、裁判所の手続きである労働審判や労働裁判を検討する必要があります。
賃金の請求をする
違法な内定の取り消しが行われた後に、本来その企業で就労できるはずの期間が過ぎた場合は、その期間の賃金を企業に請求しましょう。
違法な内定の取り消しが行われた場合は、実際には就労していないとしても、それは企業の拒否によって就労できないに過ぎないため、賃金を請求する権利は喪失していないからです。
例えば、本来4月から就労するはずであった場合に、内定の取り消しによって一ヶ月労働できなかった場合は、一ヶ月分の賃金を請求します。
損害賠償を請求する
違法な内定取り消しをされた場合は、損害賠償の請求を検討しましょう。
内定を取り消されたことで、別の企業に再就職するための活動や引っ越しなどを余儀なくされた場合は、それらにかかった費用の損害賠償を請求できる可能性があります。
内定取り消しになった場合の相談先
- 内定取り消しになった場合の相談先として、
総合労働相談コーナーがある - 内定取り消しについて弁護士に相談すると様々なメリットがある
内定取り消しになった場合に、どのような相談先がありますか?
内定取り消しの相談先は、総合労働相談コーナーや弁護士などです。弁護士に依頼すると、違法な取り消しにあたるかを判断したり、本人にかわって会社と交渉したりしてくれるなどのメリットがあります。
総合労働相談コーナー
内定取り消しになった場合の相談先として、総合労働相談コーナーがあります。
総合労働相談コーナーは全国の労働基準監督署などに設置されている、労働問題について相談する総合的な窓口です。
総合労働相談コーナーは解雇・雇止め・内定取り消し・賃金の引下げ・パワハラなど、あらゆる分野の労働問題を相談の対象としています。
労働問題について必要に応じて助言・指導・あっせんなどを行うほか、権限を有する他の担当部署への取り次ぎや、裁判所や法テラスなどの情報提供も行っています。
弁護士
内定取り消しになった場合は、労働問題に詳しい弁護士に相談する方法があります。
労働問題の経験が豊富な弁護士に相談すると、企業が行った内定の取り消しが違法であり無効にできる可能性があるかについて、的確に判断することが期待できます。
また、内定の取り消しが違法であることを証明するために、どのような法的主張をすべきか、どのような証拠を集めるべきかについても、適切なアドバイスが可能です。
内定の取り消しについて弁護士に依頼すると、本人に代わって企業と交渉したり、必要に応じて労働審判や訴訟などの裁判手続きを利用したりするなどの対応をしてくれることがメリットです。
まとめ
内定は労働契約の一種であり、一定の要件を満たす場合にのみ、内定の取り消しが認められます。
要件を満たさない違法な内定の取り消しが行われた場合は、企業に対して取り消しの撤回を要求したり、賃金や損害賠償を請求したりするなどの対応方法があります。
不当な内定の取り消しをされた場合は、取り消しの撤回や損害賠償請求などをスムーズに進めるために、労働問題に詳しい弁護士に相談するのがおすすめです。