個人再生手続についてご説明します。
ざっくりポイント
  • 自己破産は自宅を売却する必要があるが、個人再生の場合には残すことができる場合がある
  • 自己破産をすると就業できない職業があるが、個人再生にはそのような職業制限はない

目次

【Cross Talk】借金は返せないけど、自己破産はしたくない!自宅も残せて資格制限もない個人再生ってどんな手続!?

「個人再生」という制度を耳にしましたが、自己破産とは何が違うのでしょうか。

個人再生も自己破産も、簡単に言えば債務整理という借金を整理して、経済再建するための手続という点では共通です。また、破産ないし再生手続を利用したことにつき、官報に掲載される点も共通です。
他方、自己破産は、今ある手持ちの財産で借金を返しきれない場合には、返しきれなかった借金については返済義務を免責してもらうことができ、以降返す必要がなくなりますが、個人再生の場合には、借金の金額を大幅に減縮した上でそれを原則として36回に分割して3年間かけて返済をしていく手続であるという点が大きく異なります。
また、自己破産の場合、住宅を含めて手持ちの財産は、生活必需品を除きすべて処分しなければなりませんが、個人再生の場合には、住宅ローン特則(民事再生法10章以下参照)が利用できる場合には住宅を残すことができます。
また、自己破産の場合には、破産手続中は、警備員になれないなどの職業制限がありますが、個人再生の場合にはこうした法的な資格の制限はありません。

なるほど、大変わかりやくすくご説明いただきまして、ありがとうございました。

個人再生手続ってどんな手続なのか?そのメリット・デメリットとは?

借金が多額に上り返済ができない場合、自己破産をする以外にも、個人再生手続と呼ばれる制度を利用することができます。個人再生手続を利用すれば、借金の額を大幅に減縮して原則として3年間かけて分割で支払っていくことが可能になります。

個人再生手続の場合、自己破産手続と異なり、住宅を残す道があり、また、資格の制限などを受けることもありません。しかしながら、個人再生手続を利用するには厳格な要件があるため、誰でも利用できる手続ではありません。ここでは、個人再生手続の内容とメリット・デメリットを説明します。

個人再生の特徴を教えて!

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 給与所得者等個人再生の場合には、債権者が反対しても手続を進めることができるが、可処分所得の2年分が弁済金額の下限になるので、弁済金額が高額になる可能性が高い
  • 個人再生の場合は住宅ローン特則の利用により自宅を残せる場合がある。

個人再生の特徴とはどういったものなのでしょうか。

個人再生は、本来法人のための民事再生手続を個人でも利用できるように設けられたものです。その特色は、個人の事業を継続し、住宅を維持したまま、借金の金額を減縮して分割して返済しやすくすることで、手続利用者の経済的な更生を図る点にあります。

個人再生には、1)小規模個人再生と、2)給与所得者等個人再生の二種類の手続がありますので、それぞれの内容について、以下説明します。

小規模個人再生って?

小規模個人再生は、①「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」があり、 ②借金総額が5,000万円以下である場合に申立てが可能です。

メリット)
最低弁済基準額と清算価値(自己破産した場合に債権者に配当される金額)のいずれか高い金額まで、債務が減免されます。

例えば、負債総額が3,000万円の場合で、清算価値が100万であったとすると、返済しなければいけない借金は、300万円まで減縮されます(負債総額3,000万円の場合の最低弁済基準額は債務の10分の1まで)。他方、清算価値が500万円であった場合には、500万円まで減縮されることになります。

デメリット)
債権者の多数(債権者の頭数の半数以上または、議決権総額の1/2を超える多数の場合)が、再生計画に反対すると、その時点で再生手続は廃止となり、終了します。

給与所得者等個人再生って?

給与所得者等個人再生は、上記の①②の要件に加えて、③給与またはこれに類する定期的な収入を得ていることという、より積極的な収入の安定性が必要になります。

メリット)
債権者の意見を聴き取りはしますが、再生計画に対して反対が多数であっても、裁判所の許可があれば手続を進めることができます。

デメリット)
弁済金額が、可処分所得の2年分と定められるケースが多く、小規模個人再生に比較して弁済金額が高額になる可能性が高い。

自己破産・任意整理との比較

他の債務整理手続である自己破産・任意整理と比較してみて個人再生がどのような手続か確認しましょう。

・借金の減額
任意整理は、元金を長期分割払いにしてもらい、利息・遅延損害金をカットしてもらうにすぎません。そのため、元金はすくなくとも支払いをしなければなりません。
一方自己破産は原則すべての債務を免除してもらうことが可能です。
大幅に減額してもらう個人再生は、債務の減額に関しては両者の中間的な手続であるといえます。

・裁判所への申し立て
自己破産は個人再生と同様に裁判所に申し立てをして行う手続です。
申し立てをしてから裁判所で再生計画の認可がある分すこし個人再生のほうが面倒ではあります。
一方任意整理は裁判所への申し立てを必要とせず、個々の債権者との交渉のみを行います。

・手続の難易度
裁判所への申立てと連動することですが、自己破産手続・個人再生手続ともに申立書類作成・添付書類の収集などの手続があります。
この手続は破産法・民事再生法という根拠になる法律に基づくもので、自己破産が借金免除・個人再生が借金の大幅減額を一方的に行うものである以上、非常に厳格ですので、手続も非常に複雑です。

一方交渉にすぎない任意整理は、債権者が自己破産・個人再生に準ずるような事情の提出を求めることもないので、手続自体は非常に楽です。

・支払い義務
任意整理と個人再生は減額の幅に程度の差こそあれ3年を目安とした毎月の支払義務があります。
一方、自己破産は借金が免除され、支払い義務がありません。
一番早く経済的に立ち直ることを考えれば、自己破産が早いということになります。

住宅資金貸付債権に関する特則の特徴を教えて!

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 住宅ローン特則の利用の類型には4つの形式がある
  • 住宅ローン特則の利用には、厳格な要件があり、一定の場合には住宅ローン特則が利用できない

住宅ローン特則(住宅資金貸付債権に関する特則)で家を残せるとはどういったことでしょうか。

住宅ローン特則とは、住宅ローン以外の債務を整理して、住宅を残したいといった要望に対応する法制度です。
また、住宅ローンによって購入した家には通常担保権がついており、ローンの支払が滞れば競売にかけられてしまいますが、生活の拠点がなくなってしまうと、仕事も難しくなり、通常の生活に復帰することが難しくなるといった不都合が生じます。こうした不都合を回避する選択肢として、住宅ローン特則の制度があります。なお、住宅ローン特則の利用には、一定の条件があります。

住宅ローン特則の形式)

・期限の利益回復型・そのまま型 ※基本的には従前の条件で返済を継続する方法
・リスケジュール型 ※一定の支払猶予が得られる方法
・元本猶予期間併用型 ※上記2つの併用型
・合意型 ※金融機関と上記と異なる内容を合意する方法

ところで、住宅ローン特則における「住宅」とはどういった意味でしょうか。

住宅ローン特則における「住宅」とは)

住宅ローン特則が利用できる「住宅」とは、「個人である再生債務者が所有し、自己の居住の用に供する建物であって、その床面積の二分の一以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されるもの」をいいます(民事再生法196条1号)

したがいまして、例えば、住宅を購入したものの、投資用で第三者に貸している場合や、事業用の店舗として利用している場合には、本条における「住宅」には含まれません。

住宅ローン特則が使えない場合)

どんな場合でも、住宅ローン特則が使えるわけではありません。住宅ローン特則が使えない主な場合としては、以下のものがあります。

    • 住宅ローン以外の抵当権等が登記されている場合(例:サラ金等債権、または不動産担保事業資金借入等を行っている場合。)
    • 住宅に共同抵当権が設定されていて、共同担保の目的となっている他の不動産に後順位抵当権者等がいる場合

      ※共同抵当権とは、原則として、1つの債権を担保する目的で複数の不動産(住宅の場合は、家とその敷地)に共同抵当権を設定する場合(左記説明は法的には、狭義の共同抵当権の場合です。)。

  • ペアローンの場合
    近年は共働き世帯が増加していることなどの事情から、夫婦で住宅ローンの借り入れを行うといったケース(こうした借入を「ペアローン」といいます。)があります。

    この場合であっても、夫又は妻のいずれの金融機関も担保権の実行をする恐れがない場合には、住宅を喪失する恐れが実質的になくなることを理由として、住宅ローン特則を利用できる場合があります。
    ここはかなり、法的に難度が高い分野ですので、弁護士に相談するとよいでしょう。

個人再生が向いている人向いていない人

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 任意整理ができないけど、住宅ローンがあって自宅を維持したい場合
  • 職業制限で自己破産が利用できない場合

個人再生の向き不向きはありますか?

基本的に任意整理はできないけども、住宅ローンがある・資格制限がある、といった事情で自己破産も利用できない場合に利用するのが良いと思います。


個人再生が向いている人・向いてない人は次の通りです。

任意整理での支払いが難しいが住宅ローンがあって自宅を維持したい

任意整理をする場合には、元金を36回(3年)分割で支払うことになります。
たとえば、300万円の債務がある場合には月々8万4千円程度の支払が必要となります。
例外的に60回(5年)程度の分割になる場合もありますが、それでも5万円程度の支払が必要となります。

毎月の支払が厳しい場合には任意整理を利用できず、基本的には自己破産を利用することになります。
しかし、住宅ローンがある場合には、自己破産をすると住宅ローン債権者も手続に参加してもらうことになるので、住宅ローン債権者は自宅につけている抵当権を行使して自宅を競売にかけて債権の回収をはかることが可能です。つまり自宅を失うことになります。

上述したとおり、住宅ローン特則を利用すれば、任意整理ができない状況でも自宅を失わないで債務整理をすることができますので、個人再生を選ぶのが向いています。

任意整理での支払いが難しいが自己破産をすると職業制限がかかる可能性がある

任意整理をすることができない人が、自己破産をすると今の職業に制限がかかる場合があります。
警備員・宅建士・保険募集人のような他人のお金を預かる可能性のある職業については、自己破産の申し立てをすると、欠格事由という条項にひっかかり、登録ができない状態になります。

個人再生は自己破産と同じく裁判所をつかう手続ですが、利用によってこのような制限を受けません。
自己破産による職業制限がかかるような人は個人再生が向いています。

自己破産をしたくないからという理由だけで個人再生を選ばない

任意整理は難しい場合には自己破産を選択するのが基本です。
自己破産によって債務が0になれば、経済的な立て直しを早く行うことができます。
任意整理が難しいときに、多くの人が「自己破産だけは嫌です」と答えます。
実際「自己破産」へのイメージは非常に悪く、手続中は様々な制限があります。

しかし、だからといって個人再生を選べば、3年は支払いをする必要があり、支払いできなかった場合にはあらためて自己破産をしなければなりません。
自己破産手続によって生活に制限があることもありますが、多くの人は多少不便ではあっても、生活環境が大きく変わってしまう人は少数です。

どの手続が向いているかは弁護士と相談して行うのがよい

どの手続がその人に向いているかは、債務総額・収入・本人の希望によって人ごとに異なります。
自分ではこの手続…と思っていても、実際には他の手続が向いているようなこともあります。
債務整理については弁護士が無料で相談を受け付けているので、まずは相談をしてみてください。

まとめ

いかがでしたでしょうか。ここでの説明は、法的な説明が多かったことから、内容が難しかったと思います。簡単に結論をまとめますと、「個人再生は自己破産とは異なり、住宅を残せる場合があって、かつ、資格制限を受けなくて済む」という内容となります。
いずれにしても、難しい内容でありますので、弁護士に相談してみると良いでしょう。