債務整理に年齢制限はありませんが、高齢者の場合には配慮すべきポイントがあります。
ざっくりポイント
  • 債務整理をするにあたって法律上年齢制限はありません
  • よって高齢者でも債務整理をすることはできます
  • 任意整理・個人再生は長期にわたって返済を継続していく手続きなので、年齢によっては利用が難しい場合も

目次

【Cross Talk】高齢者も債務整理は可能ですか?

私は65歳なのですが、大きな病気をして治療のために多額の借金をしてしまいました。債務整理をすることはできるのでしょうか。

債務整理の主要な3つの手続きである、任意整理・自己破産・個人再生といった手続きの利用にあたって、法律上、高齢を理由とした年齢制限はありません。
ただし、任意整理・個人再生などの手続きを利用する際には、返済ができるのかが見られるため利用が厳しくなる場合があるということ、また自己破産においては住宅ローンの終わった自宅の保有は難しいといえることに注意が必要です。

高齢者の債務整理の注意点を知ろう

債務整理には任意整理・自己破産・個人再生という手続きがありますが、高齢を理由に利用ができなくなる、という法律の規定はありません。
とはいえ、任意整理・個人再生は3年から5年程度借金を返済していく手続きですので、本当に支払いができるのか?収入は?健康状態は?といったことが考慮されることになり、事実上難しいことになります。
また賃貸ではなく購入した自宅を保有している場合に、個人再生によっても住宅を維持することは難しいので、任意整理以外では自宅は手放す可能性が非常に高いという事も考慮しておくべきです。

高齢者の借金苦が問題に

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 十分な貯蓄がないまま定年退職・老後を迎える人が多いなか、高齢者の借金苦は社会問題になっている

まもなく定年というところですが、老後の資産が足りないような人は私のように十分な貯金をしなかった無計画な人だけでしょうか。

いいえ、昨今「老後破産」という言葉をよく耳にするようになり、高齢者の借金苦は身近な問題になっているんですよ。

「老後破産」「老後2,000万円」といった最近のトピックに代表されるように、高齢者の借金苦は無計画に過ごしてきたツケであるとか、低所得や病気などを理由とする突発的なもの、と言い切れる時代ではなくなりました。
日本経済を象徴する年功序列型社会といわれるものが当たり前ではなくなっており、中小の企業では退職金を支給しない企業も増えています。
そのため、余程現役時代に高所得を維持して、計画的に資産形成をしていたような場合でもない限り、だれでも老後に経済的に破綻することがありうる世の中になっているのが現状です。

債務整理手続き自体に年齢制限はない

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 債務整理の3つの主な方法に高齢を理由とする年齢制限はない

債務整理をする場合には何歳以上は利用することができない、というようなことは無いのですか?

はい、ありません。

借金などの債務の返済に困った場合に行う債務整理ですが、その方法には任意整理・自己破産・個人再生という3つの方法があります。
任意整理は、貸金業者との個別の交渉になるので、年齢制限をする法律上の規定はありません。

自己破産は破産法に基づく手続きなのですが、破産法には年齢を理由とする手続制限はありません。
個人再生は民事再生法に基づく手続きなのですが、民事再生法にも年齢を理由とする手続制限はありません。
よって高齢を理由として、債務整理の手続きを利用できないとするものではない、という事になります。

高齢者の債務整理における注意点

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 任意整理・個人再生は返済を継続できない場合には利用が難しくなる
  • 住宅ローンを完済しているような場合には個人再生によって自宅を維持することが難しい

債務整理を利用できることはわかりましたが、手続きにあたって注意する点はありませんか?

返済能力に関する注意点と、不動産に関する注意点があります。また万が一の事も併せて知っておいてください。

高齢者も債務整理をすることができるのですが、主に3点注意をしておいてください。

任意整理・個人再生の利用が高齢であるが故に難しいケースがある

債務整理の中でも任意整理・個人再生を利用する際には高齢であるがゆえに利用が難しいケースがあります。
というのも、この2つの手続きは返済を続けていくことが前提の手続きです。

そのため、返済を続けられなければ利用できませんので、返済をするための収入の存在は不可欠といえます。
債務整理が必要な高齢者の多くが、年金しか収入がない、高齢ゆえに仕事が見つけられない、といった事に直面します。
また、任意整理・個人再生ともに3年から長いと5年程度の支払い継続が想定される手続きです。

今は年金もあって働けていても、3ヶ月後・半年後に病気で収入が途絶えている…というケースも珍しくありません。
そのため、任意整理においても貸金業者としては、嘱託社員としての再雇用が切れる期間までしか交渉に応じないなどという事が想定されます。
また、個人再生においては、返済の計画として、どのように返済のための原資を捻出するのかを合理的に説明できなければなりません。

以上に加えて健康状態が良好であるような事まで求められる可能性もあります。
以上より、高齢者が任意整理・個人再生をするには高いハードルがあるといえます。

自宅を持っている場合の自己破産について

よく、自宅がある場合には、個人再生で自宅を維持できます、という情報を目にするかと思います。
これは、住宅ローンで自宅を買って、主にオーバーローン(ローン残高が住宅の価値を上回る状態)と呼ばれる状態になっている場合にあてはまることです。
高齢者が自宅である土地・建物などの不動産を保有している場合には、そのローンはすでに返済済みということが考えられます。

また、その不動産を担保にお金を借りる不動産担保ローンを利用していることが考えられます。
いずれの場合でも、自宅を維持することは難しいと考えられます。

そのため、債務整理の手続きと一緒に、どこに住むのか、頼るところが無いような場合には生活保護などの手続きを利用するなど、生活をどうしていくか、という事も併せて考えておかなければならない事を知っておきましょう。

相続との関係

万が一自分がこのまま借金を抱えた状態で亡くなった場合の相続のことも併せて知っておいてください。
相続というと、自宅をどう分けるか?相続税をいかに抑えるか?など、資産がある人だけの話であると思っている方が非常に多いのです。

しかし、相続は自宅・預金・株などの有価証券といったプラスの財産だけではなく、借金・買掛金などの債務も引き継ぐことになっています。
家族には借金があることを言えず内緒にしている、相続人になる人とはもう一切の交流がなくなっている、という場合でも相続は発生します。

借金があるような場合には相続人としては相続放棄という手続きを利用することにより、債務を負わなくすることができるのですが、この手続きは原則として相続開始から3ヶ月以内に行うことを必要としています。
そのことを知っている債権回収担当は、相続開始当初は督促をせずに、期間がたってから督促を開始することがあるのです。

実際にはこのようなケースでは例外的に相続放棄が認められるのですが、混乱した相続人が支払いをしてしまうような事が発生しかねません。
そのため、なんとか頑張って支払っているが、自分にいつ何があるかわからない…というのであれば、遺書やエンディングノートといったもので、借金の相続があることを伝え、相続放棄をスムーズにできるようにしておくのが望ましいといえます。

まとめ

このページでは、高齢者の債務整理についてお伝えしてきました。
「老後破産」「老後2,000万円」に代表されるように、老後の借金苦といった問題は、一部のごく例外的なケースに限られるものではなく、身近な問題であるといえます。
高齢者も債務整理をすることができるのですが、収入・健康面・不動産といった高齢者特有の問題がありますので、弁護士に早めに相談をするようにしてください。