任意整理には、借金額の上限・下限はあるのでしょうか。
ざっくりポイント
  • 法律上、任意整理には上限も下限も決められていない
  • 上限は債務の額毎月支払うことができる金額の関係による

目次

【Cross Talk】私の借金は少ないけれども、任意整理をするのに制限はあるのか?

借金の返済が苦しいなぁとは思うのですが、私の場合借金がそこまで多いわけでもないんです。任意整理って借金がいくらからできるか?という下限はあるのでしょうか。

任意整理にはいくらからという下限はありません。借金返済が厳しいなぁと思うのであれば、事態が悪化する前に任意整理をするのがお勧めですよ。

そうなんですね!逆になんですが、債務がいくらまでなら任意整理ができるっていう上限はあるんですか?

法律上、任意整理は債務がいくらまでしかできないといった上限を定めるものはありません。上限に関してはその人が毎月いくら払えるかなどによります。

借金の任意整理には、いくら以上の借金がないとできないという下限・いくら以上借金があるとできないという上限はあるのでしょうか?

法律上は上限も下限もありません。下限は無いと考えておいてかまいませんが、上限は任意整理ができる「総債務額÷36回」で計算される額を毎月の支払い可能金額が超えている場合には事実上できないと考えておくとよいです。

任意整理ができるかどうかをどうやって弁護士は判断しているか

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 任意整理ができるかどうかを判断するのは「支払いができるかどうか」という点が重要
  • 総債務額を36回(60回)で分割した金額の支払いができない場合には任意整理が難しいと考える

そもそも、この依頼者は任意整理が可能だというのはどうやって判断しているのですか。

任意整理は返済を継続することが前提の手続きです。そのため、「払えるのかどうか」ということが最大の判断基準なのです。

そうなんですね!「払えるのかどうか」という判断はどうやってするのですか?

原則として総債務額を36で割った金額を毎月払えるかどうかで判断します。たとえば、借金が300万円であった場合には、36で割ると8.333333…万円なので、36ヶ月、3年間余裕をもって毎月8万5千円、後で述べる最小の場合でも60ヵ月の5年間で毎月5万円の支払いができない場合には任意整理は難しいと考えます。

借金に関する法律相談を弁護士が受けた場合に、その依頼者にとって最適な手続きが何か、任意整理ができるのかをどうやって判断するかというと、基本的には債務額と毎月返済できる金額のバランスがどうなっているかという事によります。

つまり、借金が同じように100万円ある人でも、収入が安定しており毎月確実に3万円程度を返済できるような場合には任意整理が選択肢に上がってきますし、他方で病気や怪我で仕事ができず安定した収入がないような場合には、返済することができませんので任意整理を利用すべきではない状況といえます。

つまり、任意整理は借金がいくらから~いくらまであった場合に利用できるというような金額の上限・下限のみから判断されるわけではなく、あくまでその人がいくら払えるか?という事と債務の金額の関係によって判断されている、と考えてください。
また、任意整理はあくまで借入先との話し合いによって任意に分割での返済を認めてもらうものであるため、借入先が分割支払いの交渉に応じてくれる相手であるかということも重要な判断要素となります。

任意整理ができる借金の額の下限はない

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 任意整理は貸金業者とする契約なのでお互いの合意さえできれば自由に決めてよい。

任意整理ができる下限はない…ということでしたが、もう少し詳しく聞いてもいいですか?

はい、自己破産や個人再生は、それぞれ破産法・民事再生法を利用するための要件の1つとして「支払不能」(=もう支払えません)ということを要求しています。これに対して任意整理は貸金業者と今ある債務の返済方法を協議して合意する契約です。契約については、どのような契約をするかは当事者の自由なので、債務が少額である場合でも任意整理の交渉をすること自体は可能なのです。

債務整理の方法には、主に自己破産・個人再生・任意整理があります。
自己破産は破産法という法律によって行う手続であり、破産法は自己破産するための要件として「支払不能」になっていることを要求しています。
債務は基本的には返済する義務があるものなので、返済が容易であるのに自己破産をすることで債務を免除させることはできません。

ですので、「本当にもう支払いができなくなりました」というところまできて、経済的な立ち直りを目的として債務の免除を認めるために「支払不能」という条件を付しています。

同様に個人再生について定めた「民事再生法」も利用するための条件として「支払不能のおそれ」という条件を規定しています。
これに対して、任意整理は何かの法律に従って借金を強制的に減額・免除するものではなく、債務者(の代理人である弁護士)と債権者が話し合って個々の債務についての支払い条件を決め、従来の貸金契約にかわる新しい契約を結ぶ行為です。

契約については、法律で禁止されている行為を除いて自由に決めることができます。
そのため、債務が少額だから利用できない、ということはありません。

もっとも、10万円前後といったように借金の金額があまりに少額である場合は、債権者が細かい分割支払いの合意をしてくれない可能性が高いですし、任意整理のための弁護士費用でかえって負担が大きくなってしまう場合もありますので、必ずしも任意整理が適するとは言い難いことには注意が必要です。

任意整理ができる借金の額の上限は事実上「債務額÷36」(最長「債務額÷60」)が毎月払える金額

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 「債務額÷36」(最長「債務額÷60」)を毎月払える場合が任意整理ができる上限

上限についてはどうなのでしょうか。

こちらも下限と同じように法律上は自由ですが、原則として「債務額÷36回」で計算した金額を支払えるかどうかが重要となります。

その「債務額÷36」というのはどこから出てくるのですか?

個人再生の分割払いが原則3年36回とされていることなどとの兼ね合いから貸金業者が任意整理に応じる相場のようなものなのですが、基本的には36回(3年)の分割が上限で、長いもので60回(5年)で応じてくれる場合があるのです。
つまり「債務額÷36」、少なくとも「債務額÷60」で出てくる月々の支払い額が払えない場合、任意整理が難しくなります。また、債務者の年齢や借り入れの時期、裁判で判決を取られてしまっているかなどといった具体的な事情によって、これらよりも少ない分割回数でしか応じてくれないこともあるので注意が必要です。

それ以上の分割になっても払える場合でもダメなのでしょうか。

貸金業者もあまりにも長期の分割にすると債務者から最後まで支払ってもらえないリスクが高くなります。
支払ってもらえなくなった債権は不良債権となるので、きちんと処理をしなければならないのが金融実務のルールです。
少額の債権のための管理のコストもあるので、無意味に長期の返済になるくらいであればさっさと自己破産をしてほしい、という考え方のようです。

まとめ

このページでは任意整理に上限・下限があるのかについてお伝えしてきました。
法律などによって規定されているものではないのですが、事実上の制限はあります。
債権者や借入の状態によっては特殊な配慮が必要な場合もありますので、債務整理が得意な弁護士に相談するようにしてください。