債務整理をする前の資産の名義変更は慎重に
ざっくりポイント
  • 債務整理の手続き次第で名義変更が可能かどうかが異なる
  • 任意整理ではショッピング・自動車・家などの対象物にローンが組まれていない限り、名義を変更しても影響はない
  • 自己破産・個人再生では名義変更は慎重にする

目次

【Cross Talk】債務整理をする以上、名義変更は弁護士と相談しながら慎重に!

借金の返済が思うようにいかないので債務整理を考えているのですが、そうすると自分の車がとられたり、保険が解約されたりしないか心配です。
名義を変えておけば大丈夫でしょうか。

手続きによります。
そもそもそういった資産を残して借金だけをなんとかしたい…というのは、気持ちはわかるのですがやはり虫が良いといえます。
また、自己破産・個人再生の手続きをする場合には資産隠しとの評価がされる可能性がありますので、どうしても必要なのでしたら弁護士と相談しながら行ってください。

債務整理をする場合に家や車の名義を変更する場合には慎重に!

借金の返済に困った場合には債務整理を検討するのですが、その際に家や車の名義を家族のものに変えてしまっておけばそのまま持っておけるのでは?と考える方も多いかもしれません。
しかし、本来ならば借金などの債務は全額きちんと契約通りに支払わなければならないのであって、払えない場合には持っている資産はお金に換えて返済に回さなければならないのが筋です。
名義変更を行ってしまうと財産隠しと評価される場合があるので、どうしても名義変更が必要であれば弁護士と相談しながら行うようにしましょう。

債務整理手続きの概要

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 債務整理の手続きの概要を知っておこう

そもそも債務整理ってどんな手続きなのでしょうか。

債務整理には種類があるので、前提として確認しておきましょう。

前提になる「債務整理」という手続きがどういうものなのかを知っておきましょう。

債務整理とは

債務整理とは、借金の返済に困った場合に、その方の状況に適した手続きを利用して、借金返済を免除してもらったり、返済の負担を軽くしてもらったりすることをいいます。
債務整理には、任意整理・自己破産・個人再生といった個別の手続きがあり、債務の額や返済能力、資産状況や職業といったものを総合的に考慮して、その方に応じた手続きを利用します。

任意整理とは

任意整理というのは、直接債権者と交渉して借金を減額させる方法をいいます。
後述する自己破産・個人再生は裁判所への申立てを行うのに対して、任意整理は銀行・消費者金融など貸金業者と個別に交渉をする点に特徴があります。
債務の額や利息・遅延損害金といった条件について交渉し、支払いを軽くする手続です。

自己破産とは

自己破産手続きは、裁判所に申立てを行って、債務を免除してもらう手続きです。
他の手続きと異なる点としては、裁判所に借金の返済義務を免除してもらうことになるので、最も早く借金から解放される手続きです。

個人再生とは

個人再生手続きとは、裁判所に申立てを行って、債務を減額したうえで返済をしていくものです。
警備員や宅建士などの資格を持って仕事をしている場合や、住宅ローンを利用して自宅を手に入れた方が自宅を維持する場合には、自己破産手続きを利用できません。
そのような場合で、かつ任意整理では支払いができないという場合に利用することが多い手続きです。

債務整理ごとの車の名義変更

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 任意整理の場合で自動車ローンで購入したのでなければ名義を変更しても問題はない
  • 自己破産・個人再生では車の名義を変更してはいけない

それぞれの債務整理のケースで車の名義変更がどのような影響を及ぼすか教えていただいても良いですか?

いろいろなケースがあるので確認してみましょう。

債務整理ごとに車の名義変更をするとどうなるかを確認しましょう。

自動車ローンで購入した車の名義変更について

自動車の購入について自動車ローンによって購入した場合についてどのような法律関係になっているか確認しておきましょう。

自動車ローンで自動車を購入した場合、車の所有権は次の2種類であることが想定されます。

・ローンで購入した方の名義になっている
・ディーラーや信販会社の名義になっている

自動車ローンで購入した場合には、返済できないときに自動車を引き上げて売却して返済に当てたいと債権者は考えます。

そのため、後者のように自分たちの名義にしておく(所有権留保)、もしくは名義は購入者にしても契約で売却不可としておくことがあります。
後者の場合は、購入者が名義変更をすることができません。
前者の場合は名義変更すること自体は可能ですが、契約内容次第では売却・名義変更自体ができない場合があります。
債務整理の有無にかかわらず、自動車ローンを組んで購入した場合には、名義変更ができないと考えておくのが良いでしょう。

任意整理の場合の車の名義変更

では自動車ローンを完済した・一括で購入していたなどで、任意整理をした後に車の名義の変更はできるのでしょうか。
任意整理は債権者との交渉結果の毎月の返済ができれば良いので、車の名義変更自体は法的には問題ありません。
しかし、任意整理の返済ができなくなった場合に自己破産・個人再生になる場合には手続き上後述するような問題が発生することは知っておくべきです。
どうしても名義変更をしたいのであれば、依頼する弁護士に相談して行うべきでしょう。

自己破産の場合の車の名義変更

自己破産の場合の車の名義変更はしてはいけません。
車は資産として申告する対象になります。
そのため、事前に名義変更をして資産から外すと、財産隠匿行為として、免責不許可事由となります。

仮に自動車の価格が非常に低い場合には、自由財産として持ち続けることができます(裁判所によって異なるが目安として20万円以下)。
その場合でも、名義変更をすると「他にも財産を隠しているのではないか?」と疑われることになる可能性が高くなり、調査をするために同時廃止で手続きをすすめることができず管財人が選任される少額管財となる可能性が高くなります。
自動車に乗っていることは、自動車の任意保険の引き落としの銀行履歴などによって判明するので、裁判所に隠せる可能性は極めて低いです。
車の名義変更は絶対に行わないようにしましょう。

個人再生の場合の車の名義変更

個人再生の場合も同様に財産隠匿行為となります。
隠匿した分は返済額に上乗せされることになりますので、やはり車の名義変更をしてはいけません。

債務整理ごとの家の名義変更

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 住宅ローンがある場合の家の名義変更
  • 債務整理をする場合の家の名義変更

家の名義変更についても同じですか?

家は価値が大きなものになるので、そもそも家があることで債務整理ができるかどうかが問題となるケースもあります。ケースをわけながら見てみましょう。

自宅を所有しているときに家の名義を変更するとどうなるのかを確認しましょう。

住宅ローンがある状態で家の名義を変更するとどうなるか。

前提として、家を購入する方は住宅ローンで購入する方がほとんどです。
住宅ローンで家を購入した場合、債権者はその住宅に抵当権という担保権をつけます。
抵当権というのは、住宅ローンのような被担保債権の返済がない場合に、家を売却してそこから返済を受けることができる権利です。

法律上は家の所有権を売却したとしても、抵当権はついたままなので、家を持っていようがいまいが住宅ローンの支払いをしなければ抵当権が実行され売却されてしまいます。
そのため、家を購入する方は、抵当権を消してから購入するか、抵当権があることを前提に低い金額に見積もって購入します。
抵当権を消してもらうためには、住宅ローンを完済しなければなりません。
結論として、事実上住宅ローンがある状態で家の名義の変更はできないと考えておきましょう。

任意整理の場合の家の名義変更

以上を前提に、任意整理をした場合には、家を名義変更することは自由です。
これは、車の場合と同じく、任意整理をする場合、任意整理後の返済をつづけていければ問題ないので、家の名義変更が影響しません。
しかし、こちらも車の場合と同じく、支払いができなくなって自己破産や個人再生に移行する場合には、問題になるので安易に行うべきではありません。

自己破産の場合の家の名義変更

自己破産の手続前に家の名義変更を行うと財産隠しと認定されやすく、車の場合と同じく免責不許可事由になり得ます。
また、自宅には抵当権がついている以上、名義変更をしたとしても自宅を保有し続けられない可能性が高いです。
そのため、名義書換をしても全くメリットがなく、むしろデメリットばかりがあるといえます。
破産手続きとしては財産隠匿行為と認定されるほか、名義変更が贈与と認定された場合には、受け取った側に贈与税が発生することもあります。

なお、住宅ローンが残っていて、アンダーローン(住宅の額のほうが債務の額よりも多い)の場合には任意売却も検討しましょう。

一方、住宅ローンが残っていないような場合には、債務の額と住宅の額を比べて、そもそも支払不能といえるかが問題となります。
つまり、上述のように自宅に500万円の価値がある場合で、債務が400万円である場合には、冷たいようですが自宅を売却すれば債務は返済できる状態なので、支払不能とはいえません。

個人再生の場合の家の名義変更

オーバーローン(債務の額のほうが住宅の額よりも多い)場合に個人再生をするのであれば、素直に住宅資金特別条項でそのまま住宅ローンを払えばいいだけになります。

アンダーローンのときやローンが返済し終わっている場合には支払不能といえない可能性があります。個人再生は、返済できなくなったときの救済措置ですので、支払不能・支払不能のおそれがあることが要件になります。
そのため、資産とされる不動産の額次第では、支払不能ではないといえるでしょう。

名義変更をする際の注意点

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • そもそも名義変更ができるのか?名義変更に意味があるのか考える
  • 確実に任意整理をすることができる場合以外は不利に働くことが多いので弁護士と相談しながらする。

どうしても名義変更をする場合にはどのような注意が必要でしょうか。

ここまでお話してきたように、名義変更ができないようなケースや、名義変更に意味がないケースが多いです。任意整理で最後まで確実に返済できるケース出ない限り悪い影響が出ると考えておくべきです。どうしても必要である場合には、弁護士と相談をしながら行いましょう。

ここまでお伝えしてきたとおり、

・自動車ローンが残っている状態で自動車を売却することは名義がディーラーなどにある場合は名義変更自体そもそもできない

・住宅ローンで購入した家を名義変更しても抵当権が残っているのでどのみち競売で売却される

などで、名義変更自体が手続きとしてできない・やっても意味がない、ということのほうが多いです。

名義変更をするという場合の動機は

・財産として残したい

・手続きとしてせざるを得ない

のどちらかですが、前者の場合にはそもそも債務整理が必要な状況で財産を不正な手段で残すことができないことは容易に想像がつき、後者の場合には債務整理手続き、特に自己破産・個人再生の場合にはきちんと説明できるように配慮しながら慎重に行うべきといえます。

名義変更をこっそりやるようなことによって弁護士から信頼関係が築けないと債務整理を辞任される可能性もあります。
どのような希望がある場合でも、まずは弁護士に相談をするのが良いでしょう。

まとめ

このページでは債務整理手続きにおいての名義変更についてお伝えしてきました。
保険や車・家などの重要な財産を失いたくない…という希望はわかりますが、それは本来支払いをきちんとしたうえで認められることです。
安易な名義変更はできないと考えておき、どうしても名義変更が必要である場合には、弁護士と相談しながらすることをおすすめします。