うつ病が原因で自己破産はできるのか
ざっくりポイント
  • 自己破産をするための要件は「支払不能」といえること
  • うつ病が原因で就労不能となったような場合には支払不能といえる
  • うつ病であるという事で自己破産手続きに及ぼす影響

目次

【Cross Talk】うつ病が原因で自己破産できる?

私はうつ病で現在療養中です。借金があるのですが、うつ病が原因で自己破産ってできるのでしょうか?

自己破産の要件は支払不能といえるかどうかです。借金をした原因次第では免責不許可事由にあたる場合でも、少額管財にはなりますがきちんと手続きをすれば免責されます。

詳しく教えてもらってよいですか?

うつ病が原因で自己破産をする場合の手続きがどうなるかを知ろう

うつ病が原因で自己破産を考える方がいらっしゃいます。ここに「うつ病が原因」と言っても、もともと借金はなかったもののうつ病が原因で収入がなくなり借金をしたような場合や、もともと借金があって返済していけどもうつ病が原因で仕事ができなくなり返済ができなくなった、というようなパターンが考えられます。
自己破産の要件は「支払不能」なのでいずれの場合でも自己破産手続きは可能ですが、借り入れ原因が免責不許可事由に当たる場合には、同時廃止は利用できず、少額管財で手続きをすすめます。
うつ病であることによって診断書の提出は求められる可能性がありますが、手続きを利用することができない、著しく不利になるといったことはありません。

自己破産をするための要件

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 自己破産をするために必要なのは支払不能
  • うつ病が原因で収入が減った・なくなったことにより返済できないような場合や返済しなかった場合に支払不能が認定される

うつ病になったことが原因で自己破産ができなくなる、ということはありませんか?

自己破産手続きの要件である支払不能に該当するかどうかで考えるべきですが、手続きが利用できなくなるということはありません。

自己破産をするための要件と、うつ病であることとの関係について見てみましょう。

自己破産手続きをするための要件

自己破産手続きをするための要件について見てみましょう。
自己破産手続きについての規定をおいている破産法15条では、「支払不能」となった場合を規定しています。

支払不能について詳しく解説

「支払不能」がどのような場合をいうかについては、用語の定義について規定する破産法2条11号「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態…をいう。」としています。

この法律の条文は難しいと思いますが、簡単に言うと、期限が来ている債務が支払えない状態がずっと続いている、という場合をいい、一時的に手元にお金が無くなって払えないという状態はこれに該当しないということになります。

要は、たとえば今月は冠婚葬祭で支払うことができるお金が無くなったけども、収入がしっかりしており来現の給料やボーナスで全部返してしまえるような場合には支払不能にないといえます。
また、手元でお金が全く回っていないような場合でも、使っていない高級車がある、自宅があるなどで、それを売却すれば返済ができるような場合も、一時的には返済ができなくなっていても、売却をすれば返済が可能なので支払不能にあたりません。

想定しているのは、収入が下がってしまった・無くなってしまった場合や、借金の額があまりにも多く収入から返済できない場合をいいます。

実務上はどうやって判断しているか

借金がいくらあったら自己破産・収入がいくらを切ったら自己破産という明確な基準があるわけではなく、あくまで支払不能は借金の内容と返済可能な金額のバランスによって判断されます。
実務においては、任意整理が借金の元金を36回分割で支払っていくもので、36回を超える長期の分割はあまり認められていないことから、借金の元金総額を36回分割で今の家計から順調に支払ができるかが一つの目安となります。

たとえば、借金が200万円の場合には、約5万6千円の支払を毎月行うことができるかによって検討して、この支払ができないような場合には支払不能と考えて良いといえます。
また,「支払を停止」したときは,支払不能が推定されるので(破産法15条2項),例えば弁護士に依頼をして債権者への支払を止めたり,収入が減った・なくなったことにより支払できなくなってしまったりしたときには,「支払不能」の要件を満たすことになります。

うつ病である場合には自己破産はできるか

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • うつ病になったというだけで自己破産をするわけではなく支払不能かで考える
  • うつ病によって手続きに与える影響

支払不能になっているかで自己破産かどうかを決めるのはわかりました。
ここまでうつ病であることについては一切お話しがないのですが、うつ病で自己破産手続きができない、影響が出るということはありませんか?

うつ病だからといって自己破産手続きができないわけではありません。手続きの中で収入が減った・得られなくなったということの説明をするためにうつ病の診断書を提出する必要がある場合があります。

うつ病であることと自己破産手続きの関係について見てみましょう。

うつ病であることが自己破産と直接はつながらない

まず、うつ病であることが自己破産手続きを利用するための要件である「支払不能」とは直接つながりません。
うつ病であることによって、休養が必要になり収入が減る・無くなることもありますし、治療のために出費が増えるということはありえます。

しかし、休養が必要になったからといって、必ず収入が減る・無くなるというわけではありません。
労働災害と認定される場合には労災保険がおりますし、傷病手当金・失業手当・障害年金など手当になる制度はたくさんあります。

うつ病で収入が減る・無くなった場合には支払不能になることも

しかし、現実に傷病手当金は報酬の2/3しか出ませんし、失業手当には受給期間があります。
うつ病で障害年金を得ることは難しいという現実もあります。
その結果収入が大幅に減る・得られないという事態に陥ることもあるでしょう。
このような場合には支払不能となることはあり、そうなると自己破産手続きを利用することができます。
なお、自己破産手続きの利用について、うつ病や他の精神疾患があるような場合には利用することができないとする規定はありません。

任意整理・個人再生は長期間返済義務があるので自己破産の方が心の疲れはとれるといえる

債務整理には自己破産の他にも任意整理・個人再生という手続きがあります。
自己破産とこの2つの手続きは、返済をする必要性があるかどうかという違いがあります。
任意整理・個人再生は、約3年間は返済をつづける必要があります。

ですので、収入がまったく無いような場合には利用することができませんし、例えば勤務を減らしている・残業をしないようにしてもらっているなどでなんとか返済ができるような場合でも、途中で退職となると返済ができなくなってしまいます。
支払不能といえる状態であるのであれば、自己破産で免責をしてもらって、しっかり休養をするほうが心の疲れをとるのに良いといえます。

同時廃止・少額管財の振り分けについてうつ病が影響する可能性は低い

自己破産手続きについては同時廃止・少額管財という2つの種類の手続きがあります。
同時廃止は管財人という人がつかずに簡単に終わる手続きで、少額管財は管財人がつく正式な手続きです。
借り入れについて免責不許可事由がなく、資産も無いような場合には同時廃止で終わりますが、借り入れ原因について免責不許可事由があるような場合(ギャンブル・遊興・浪費など)や、処分する資産がある場合には少額管財となります。

うつ病であるということで、同時廃止・少額管財になるということはありません。
ただ、うつ病や他の精神疾患が原因で、ギャンブルや遊興・浪費というものに走ったというような場合には、少額管財になることもやむを得ないといえます。

申立てに診断書を提出することになる

自己破産の申し立てをするにあたっては、借り入れの経緯・返済不能に陥った事情を説明する必要があります。

この中で、たとえば、うつ病で収入がなくなってしまってやむを得ず生活費の補てんのために借金をした、というような説明をすることになります。
このような説明をするにあたって、本当にうつ病で借金をしたということの整合性をとるために、診断書の提出を申立時にすることが考えられます。

まとめ

このページでは、自己破産手続きをするにあたってうつ病であることがどう関係してくるか、についてお伝えしてきました。
支払不能であるといえる場合には自己破産手続きを利用することができ、うつ病が支払不能といえる原因になるのが一般的です。
うつ病その他の精神疾患で自己破産ができなくなるということはないので、安心して弁護士に相談をするようにしてください。