家のローンが残っている状態で個人再生をするとき、どうすれば家を残すことができるのか解説します。
ざっくりポイント
  • 住宅ローンが残っていても家を残すことができる場合があるのが個人再生の特徴
  • 家を残すためには「住宅資金貸付債権に関する特則」を利用する
  • 「住宅資金貸付債権に関する特則」を利用するためには条件がある
  • 保証会社が代位弁済した場合6か月以内に申立てをする必要がある

目次

【Cross Talk】個人再生なら自宅を残すことができるの?

借金の返済が苦しいので債務整理をしたいと思っています。10年前に住宅ローンを組んで家を建て、住宅ローンがまだ3,000万円残っています。家族と一緒に暮らしているので何とか自宅を残したいです。

個人再生という債務整理の手続があります。個人再生では、一定の条件を満たせば家を残したまま借金を減額することが可能です。

個人再生とはどのような手続で、家を残すためにはどうすればよいのでしょうか。詳しく教えてください。

個人再生ってどんな手続?

個人再生は借金を整理するための手続の一つで、裁判所に申立てを行い一定の基準によって減額された借金を原則3年間で分割して返済していくものです。
個人再生と似た債務整理の手続に自己破産がありますが、自己破産では借金を帳消しにしてもらえる代わりに、住宅ローンが残っている不動産は債権者である金融機関か破産管財人に処分されてしまうのが通常です。一方、自己破産と異なり、個人再生なら「住宅資金貸付債権に関する特則」を利用することにより住宅ローンを支払い中の自宅を残すことができます。ただし、この特則を利用するためにはいくつかの条件があります。

個人再生時の住宅ローンが残っている場合の取り扱い

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 貸し倒れリスクを避けるため、住宅ローンを組むときは担保権が設定され、保証会社と保証契約を締結する
  • 住宅ローンの支払いが滞ると保証会社が代位弁済を行う
  • 担保権が実行されると、自宅不動産は取り上げられてしまう

個人再生なら必ず自宅を残せるわけではないのですね。

そのとおりです。どうすれば自宅を残すことができるのか解説する前に住宅ローンが支払えなくなったときに金融機関がどのような手続を行うのか説明しましょう。

個人再生では「住宅資金貸付債権に関する特則」を利用することにより自宅の不動産を残すことができますが、あくまで「特則」ですので、個人再生なら常に自宅の不動産を残せるわけではありません。
住宅資金貸付債権に関する特則について理解する前提として、住宅ローンにおける保証契約について解説いたします。

金融機関にもよりますが、住宅ローンを組むときには保証会社と保証契約を締結するのが一般的です。金融機関がもっとも避けたいことは、債務者が住宅ローンを返済できなくなり、貸し倒れが発生してしまうことです。貸し倒れを防ぐために金融機関は住宅ローン契約を締結するに際して契約者に返済能力があるのかどうか審査を行いますが、審査を通ったからといって契約者が必ずローンを完済してくれるとは限りません。
そこで金融機関は、不動産に担保権である抵当権を付けるとともに保証会社との間で保証契約を結んで貸し倒れリスクを回避しようとします。この場合、住宅ローンの返済が一定期間滞ると保証会社が債務者に代わって住宅ローンの残債を金融機関に支払い、貸し倒れリスクを引き受けます。これを「代位弁済」といいます。
すると、今度は保証会社が金融機関に代わって契約者に住宅ローンの残債を請求することができます。このことを「求償」といい、代位弁済を受けた保証会社が債務者に債務の履行を請求できる権利を「求償権」といいます。
それでも債務者が返済に応じない場合には、保証会社は抵当権を付けていた不動産を競売にかけて債権を回収しようとします。

つまり住宅ローンに付いている抵当権は金融機関が住宅ローン債権を、あるいは保証会社が求償権を確実に回収するためのものでこれらの債権を担保しているということになります。
自己破産や個人再生の手続をしている途中であっても担保権の実行は可能ですので、金融機関、あるいは保証会社が代位弁済をして求償権を取得し、担保権を実行すれば、住宅は競売にかけられ処分されてしまうことになります。
これを避けるための手段が「住宅資金貸付債権に関する特則」です。

個人再生における住宅資金貸付債権に関する特則

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 自宅不動産を利用するためには住宅資金貸付債権に関する特則を利用する
  • 住宅資金貸付債権に関する特則を利用するにはいくつかの条件がある
  • 保証会社が代位弁済を行った場合には、6か月以外に申立てをする必要がある

個人再生でも自宅が取り上げられてしまう場合があることが理解できました。では、住宅資金貸付債権に関する特則を利用して自宅を残すためにはどうすればよいのでしょうか。

住宅資金貸付債権に関する特則を利用するための条件について説明します。特に注意が必要なのは保証会社から代位弁済を行った旨の通知が届いた場合です。

住宅資金貸付債権に関する特則とは?

住宅資金貸付債権に関する特則とは、個人再生の場合に用いることができる住宅ローンに関する特則です。住宅ローンのみを債務整理の対象とせずに従来どおり支払いを継続しながら、他の債務を個人再生手続によって減額したり、分割払いにすることができます。「住宅資金特別条項」あるいは「住宅ローン特則」と呼ばれることもあります。この制度を利用することにより、自宅を残したまま借金を整理することが可能になります。債務整理には小規模個人再生と給与所得者等再生の2種類がありますが、どちらの場合であっても住宅資金貸付債権に関する特則を利用することは可能です。
ただし、住宅資金貸付債権に関する特則を利用するためには次の要件を充たしている必要があります。

・再生債務者が個人であること
・住宅ローンの対象は再生債務者が所有し自ら居住するための建物であること
・建物の床面積の半分以上が自分の居住用であること
・住宅の抵当権が住宅ローンの債権者または保証会社のみ設定されている(住宅の上に住宅ローン関係の抵当権以外の担保権が存在しない)こと
・住宅以外の不動産(敷地など)にも住宅ローンの抵当権がついている場合は、その抵当権よりも優先順位の低い抵当権が他についていないこと
・住宅ローンが新築または購入やリフォームに必要な資金の借入れまたは借り換えであること
・分割払いで設定されていること

以上のように、住宅資金貸付債権に関する特則を利用するための要件は複雑で、さらにより細かな条件も存在しますので、詳しくは法律の専門家である弁護士に相談すると良いでしょう。

住宅ローン資金貸付に関する特則の「巻戻し」って?

最初に説明したとおり、住宅ローンの返済が遅れると、保証会社が金融機関に代位弁済して求償権を取得します。住宅ローンを組む際には不動産に担保権が設定されるので、保証会社が求償権を取得すると担保権も金融機関から保証会社に移転します。すると、債権者が住宅ローンを貸し付けた金融機関から保証会社に変わってしまうことになります。この場合でも住宅資金貸付債権に関する特則は使えるのでしょうか。
住宅ローンが支払えなくなったときに保証会社が代位弁済を行うのは一般的に行われていることですので、もし保証会社が求償権を取得したときに住宅資金貸付債権に関する特則が一切使えないとすると、そもそもこの制度が設計された意味がなくなってしまいます。そこで、一定の条件下で「巻戻し」という制度を設けています。巻戻しをすると保証会社による支払いはなかったことになり、銀行が住宅ローンの支払いを受け取る、という従前の状況に戻すということが可能です。

その際に気を付けなければいけないのは、巻戻しをするためには保証会社が代位弁済をしてから6か月以内に個人再生の申立てをしなければならない点です。
ところが、個人再生には申立書のほか多数の添付書類が必要となるため、申立てをするためには準備の期間が必要です。つまり巻戻しの制度を利用できる期限が近づいてから動き出したのでは遅い可能性があります。また、住宅ローンの延滞による利息や遅延損害金の支払いをしなければならず、延滞が延びるとその金額が大きくなってしまう点にも注意が必要です。
そのため、住宅ローンの支払いに不安や滞りがある場合にはできるだけ早く債務整理の専門家に相談し、個人再生の申立ての準備を行うべきです。債務整理の専門家として申立ての準備やアドバイスを行ってくれるのが弁護士です。

まとめ

いかがだったでしょうか。個人再生を利用したときに住宅を残すためにはどうすればよいのか理解していただけたでしょうか。
個人再生をして自宅を残すためには住宅資金貸付債権に関する特則を利用する必要がありますが、この特則を利用するためにはいくつかの要件が存在します。まずはご自身が住宅ローン資金貸付に関する特則を利用することができるのか確認する必要があります。
すでに保証会社による代位弁済が行われている場合には特に注意が必要です。住宅ローン資金貸付に関する特則を利用するためには代位弁済が行われてから6か月以内に個人再生の申立てをする必要があるからです。
大切な自宅を残しつつ借金を整理したい方は、できるだけ早く、法律の専門家である弁護士に相談することをお勧めいたします。