残業代請求をする際の上限はあるのか?
ざっくりポイント
  • 残業とは規定の労働時間を超える労働をすること
  • 残業には従業員の過労死防止などの観点から上限が設けられているが、上限を超えたとしても残業代はもらえる
  • 残業制限を超える残業をさせる会社への対応策を知る

目次

【Cross Talk】労働時間には上限があるの?上限を超えた場合には残業代はどうなるの?

私の会社は激務で同僚も含めて皆帰宅するのが深夜になります。
よく残業は週何十時間までにしましょうというお話を聞くのですが、残業には上限があるのでしょうか。
また、上限を超えた場合残業代はもらえないものなのでしょうか。

残業には上限が定められております。
ただあくまでこれは労働者保護のために会社を縛るためのものであって、実際に労働をした場合にはそれに対応する残業代の支払義務が発生します。

残業には上限があるが、上限を超えたとしても残業代を受け取ることができる

会社と従業員の間の雇用契約において、1日何時間働くことになるかは明記する必要がありますが、時期・曜日・会社の業績など様々な要因でどうしても事前に定められた労働時間を超えて残業をしてもらう必要がある場合があります。
とはいえ、あまりにも長時間労働を強いることになると、過労死・自殺・精神疾患などのおそれがあることから、時間外労働については労働基準法で上限が定められています。
この規定は労働者を保護するための規定ですので、この規定に違反して労働した場合でも残業代の支払いを受ける権利はあります。

「残業」とは1日8時間・週40時間を超える労働のこと

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 「残業」は法律では所定労働時間を超える労働のことを言う
  • 時間外労働についての基礎を知る

そもそも「残業」について詳しく教えてもらえますか?

残業というのは一般用語であって、法律上は労働契約で定められた時間を超える労働のことをいいます。

まず「残業」をする場合の法律関係をしっかり把握しておきましょう。

残業とは

一般的に定時を超える労働の事を「残業」と呼んでいますが、あくまでこれは一般的な用語であり、法律上では残業という言葉は使いません。
法律では、契約で定められた労働時間があり、その時間を超える労働をした場合には時間外労働として、給与の支払いにカウントすることになります。

労働時間の基本

労働時間については、会社が労働者を雇用する際の雇用契約の中で定めることになっています。
ただし、労働時間については上限が定められており、原則として休憩時間を除いて1日8時間・週40時間を超えることができません(労働基準法第32条第1項・第2項)。
この労働時間は何も私たちが一般的に「残業」として認識している定時以後に残って仕事することのみならず、早出・お昼休憩返上しての仕事など、契約で定められた超過分の労働が含まれます。

36協定とは

労働基準法32条の規定の通りであるならば、1日8時間・週40時間を超える残業は認められないようにも読めますが、労働基準法第36条の規定に沿えば、それを超える勤務をさせることも可能となります。
この労働基準法第36条の規定に沿うためにする協定のことを36協定(さぶろくきょうてい)と呼んでいます。
ただし、36協定を結んだからといって、無制限に残業させることを認めるものではなく、後述する通り上限があります。

労働時間についての詳細は「36(サブロク)協定があれば残業(時間外労働)は自由にさせられる?残業代請求はできるの?」で詳しくお伝えしておりますので、ご確認ください。

会社が従業員にさせる残業には上限がある

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 残業をさせることができる場合でも上限がある
  • ただし上限を超える残業をさせた場合でも賃金は支払わなければならない

わが社では36協定が結ばれているようなのですが、毎日深夜に及ぶ残業になっています。残業の上限を教えてください。

残業の上限は月80時間とされています。ただこれを超える労働をしたとしても賃金が支払われなくなるわけではありません。

労働時間は法定されており、36協定があれば残業をさせることができるのですが、それは無制限に認められるものなのでしょうか。

時間外労働の上限について

36協定により労働基準法第32条の規定を超える労働をさせることができるのですが、無制限に時間外労働をさせることを認めることはできません。
「過労死」として労災認定される目安となる過労死ラインというものが定められており、
・1ヶ月あたりの時間外労働時間が月100時間を超える場合
・2~6ヶ月にわたり80時間を超える場合
には、死亡結果と仕事との間に強い関連性が認定されるとしています。
このような事情を踏まえ、いわゆる「働き方改革」として「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が第196回通常国会で成立し、大企業については2019年4月から施行されており、その他の企業については2020年4月から施行される予定です。
その内容によると、労働基準法上

  • 時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間
  • 臨時的な特別の事情があって労使が行為する場合でも、時間外労働は年720時間以内・時間外労働と休日労働は月100時間未満、2~6ヶ月平均80時間以内とする必要がある
  • 月45時間を超えることができるのは、年6ヶ月まで
    とされ(労働基準法第36条第4項、6項)、違反に対しては6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金という刑事罰が規定されることになりました(労働基準法第109条1号)。

上限を超えた場合に残業代は請求できるのか

上記法改正は大企業についてはすでに適用されており、その他中小企業等については2020年4月からの規制となりますが、現実にこの時間を超える残業をさせられた時には、残業代請求はできるのでしょうか。
この点については、残業代請求はできます。
上記の規定は、企業に時間外労働を制約するように定められた規定であり、上限を超えた時間外労働をした労働者の時間外労働に対する給与を制限するものではないからです。

会社が上限を超える残業をさせる場合の対策

このような規定があっても、会社が時間外労働時間の制限にひっかからないようにするために、様々な方策を強要してくることが想定されます。
典型的には、労働時間をタイムカードで管理をしている場合には、タイムカードを先に切ってしまうように指示をするような事が想定されます。
このような場合には、後日の残業代請求などに備えて、タイムカード以外に会社で労働していた事実を示すことができる証拠を確保することは必須です。
例えば、

・業務でパソコンを使用しているような場合にはパソコンのアクセスログ
・建物の入退館を管理しているような場合には、入退館履歴に関する記録
・会社内でSNSを利用しているような場合にはその利用記録
・電子メールを利用したような場合にはそのメールの送受信に関する日時が確認できる記録

このような記録は退職後に取得することは困難となることが想定されますので、できる限り早期に収集を開始することが望ましいといえます。

まとめ

このページでは、残業時間に関する上限と、上限を超える残業をした場合の残業代請求についてお伝えしてきました。
残業時間は法律では時間外労働時間として考えることになっており、時間外労働時間については昨今上限が設定されて、大企業ですでに適用されている状態です。
ただ、この上限は長時間労働を制約するためにあるのであって、残業代をカットするための法律ではないので、残業代請求には影響しません。
ただし、時間外労働の上限を超える場合には刑罰の適用がされる可能性があるため、会社として残業をさせている実態を隠そうとする可能性が十分にあります。
このような場合には専門家の知識を借りずに残業代請求をするのはリスクも伴うため、弁護士に相談するなどして早めから対応をするようにしてください。