未払い残業代請求が失敗してしまう具体例を解説します。
ざっくりポイント
  • 残業についての証拠があるかどうかが重要
  • やはり残業代請求に詳しい弁護士に依頼すべき
  • 準備を怠ると残業代請求に失敗する
  • 会社側の典型的な反論を知っておくべし
 
目次

【Cross Talk】残業代請求が失敗することもあるの?

毎日のように長時間働いているのですが、残業代をもらっていません。残業代を請求したいのですが、うまくかないこともあるんでしょうか?

確かに、残業代請求が失敗するケースもあります。残業代を請求できないのに請求して失敗すると、使用者との関係が悪くなってしまうおそれがあります。ですから、残業代請求が失敗するケースに当たらないかを事前に検討しておく必要があります。

失敗することもあるんですね…。詳しく教えてください!

残業代を請求したいけどうまくいくか不安……。

残業代を請求したいけどうまくいくか不安で踏ん切りがつかないという方はいらっしゃいませんか?

たしかに、残業代請求に失敗すると、それまでにかけた手間や費用がむだになるだけでなく、会社に悪い印象を持たれてしまうリスクもあります。

そこで今回は、未払い残業代請求が失敗するケース9例を解説します。失敗例を知ることで、未払い残業代請求の勝率をUPさせましょう。

残業代請求の5つの失敗例【準備編】

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 残業代請求には証拠が必要
  • 請求額にもよるが残業代に詳しい弁護士に依頼するのが望ましい

どういう場合に残業代請求が失敗するのですか?

まず、多くの労働者に共通する基本的な失敗例を5つ紹介しましょう。

自力ですべて行おうとする

未払い残業代の請求は、次のような手順で進めるのが一般的です。

  • 証拠の収集
  • 証拠に基づく残業代計算
  • 使用者との交渉
  • 交渉で合意できない場合は労働審判、訴訟

どの手順においても、どのような証拠が必要か、どのように証拠を入手するのか、どのように残業代の計算を行うのか、どのように交渉を進めるのが効果的か、どのように裁判所に提出する書類を作成すればいいのかなど、専門的な知識が必要になります。

専門的な知識がない方が自力ですべてを行おうとするのは非常に困難です。残業代請求に自信がある方以外は、専門家に相談しながら進めていくことをおすすめします。

証拠が不十分

残業に関する証拠が不十分な場合、そもそも残業代を正しく計算できません。仮に何らかの根拠で残業代を計算したとしても、使用者が簡単に支払いに応じるとは限りません。

使用者が残業代の支払いに応じない場合,労働審判や訴訟といった裁判所の手続を利用することになります。しかし、裁判所は証拠に基づいて残業代請求が認められるかどうかを判断します。証拠が不十分だと、労働審判や訴訟をしても負けることになります。

このように、証拠がなければ残業代請求は認められないので、的確な証拠を入手する必要があるのです。

証拠の集め方については、「未払い残業代請求のための証拠の集め方」をご覧ください。

消滅時効が完成してしまう

賃金請求権は、2年間行使しない場合、時効によって消滅します(労働基準法115条)。

ここでいう「賃金」には残業代も含まれます。

したがって、給料支払い日の翌日から2年が経過すると、たとえ時効のことを知らなくても消滅時効が完成してしまい、残業代を請求できなくなってしまいます

消滅時効の完成を防ぐには、訴訟や労働審判の申し立てなどの裁判上の請求をする必要があります。裁判上の請求をすると、それまで進行してきた時効期間をリセットすることができるのです。これを時効の中断といいます。

時効の完成が間近に迫っており、裁判上の請求をする時間的な余裕がない場合は、内容証明郵便を送付して時効の完成をいったん止めることができます。これを時効の停止といいます。

時効の停止は、一定期間、時効の完成を猶予させるだけですから、6ヶ月以内に裁判上の請求をする必要があります

残業代請求に詳しくない弁護士に依頼してしまう

弁護士は、法律事務の全般を取り扱うことができます(弁護士法3条)。

ただしこれは、扱うことが法律上許されているという意味であり、すべての弁護士があらゆる法律事務に精通しているわけではありません。

医師が内科、外科、整形外科など専門医に分かれているように、弁護士にもそれぞれ得意分野、不得意分野(知識・経験の乏しい分野)があるのです。

そのため、依頼した弁護士が残業代請求に詳しくない場合、本来認められるべき請求が認められなくなったり、認められる額が少なくなったりするおそれがあります。

弁護士の探し方については、「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」を参考にしてみてください。

請求額が少なく赤字になる

自力で請求する場合にはほとんど費用がかかりませんが、さきほど解説したように、自力ですると失敗しやすくなります。

ですから、残業代請求に詳しい弁護士に依頼するのが望ましいのですが、弁護士に依頼するとどうしても着手金・報酬などの弁護士費用がかかってしまいます。

着手金は残業代請求額の〇%、報酬は請求が認められた額の〇%と決められることが多いのですが、この計算式とは別に、最低額のとりきめ(たとえば着手金は最低10万円)とするなどをするのが一般的です。

そのため、請求額が少ないと、残業代請求が認められても赤字になるか、ほとんど手元に残らないということもありえるのです。

法律事務所によって着手金・報酬の基準が異なりますので一概にはいえませんが、請求額が数十万円というような場合には、弁護士に依頼すると費用の方が高くなってしまうと思われます(お金だけの問題ではない、という場合もあるので、まずは相談してみましょう。)

弁護士費用については、「残業代請求のための弁護士費用・相場はどのくらい?」を参考にしてみてください。

残業代請求の4つの失敗例【法的反論編】

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 管理監督者、みなし労働時間制、みなし残業制などの会社からの反論が考えられる
  • 会社からの反論が認められるには厳しい要件を満たす必要がある

それ以外にも残業代が請求できない場合がありますか?僕は管理職だから残業代は出ないと言われています……。

管理監督者に当たるという主張ですね。ほかに会社からの反論として考えられるものは、みなし労働時間制であるという主張、みなし残業(固定残業制)だという主張、労働者が勝手に残業したという主張などがあります。管理監督者などの要件を満たしている場合には、残業代の請求は認められません。

管理監督者だと反論される

「監督若しくは管理の地位にある者」については、労基法の労働時間や休日、休憩に関する規定が適用されません(労基法41条2号)。

労働時間に関する規定が適用されないため、法定労働時間を超えた場合の割増賃金(いわゆる残業代)を払う義務もないということになります。

したがって、管理監督者に当たると判断された場合、残業代請求はできないということになります。

ただし、管理監督者とは、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべき」とされており(昭和63・3・14基発150号)、管理職の名称が与えられていても管理監督者には当たらないと判断された裁判例も多数存在します。

みなし労働時間制だと反論される

みなし労働時間制(裁量労働制)とは、実際に労働した時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間、働いたとみなす制度をいいます。

仮にみなし時間が8時間であったとすると、実際には8時間を超えて労働したとしても、8時間労働したとみなされることになるので、残業代(割増賃金)を請求することはできません。

ただし、みなし時間が10時間であったとすると、法定労働時間8時間を超える2時間分の残業代を請求することができます。

また、みなし労働時間制は、対象業務や導入するための手続などについて労基法で厳格な要件が定められており、会社がみなし労働時間制であると主張しても、要件を満たしていない場合もあります。

詳細は「外回り営業職で「事業場外みなし労働」の対象者だから残業代は出ないと言われた場合」をご確認ください。

みなし残業(固定残業制)だと反論される

みなし残業(固定残業制)とは、実際の残業時間にかかわらず、一定の時間分の残業をしたとみなして毎月定額の残業代を支払う制度をいいます。「月給○○万円(××時間分の時間外手当△万円を含む)」といった賃金の定め方をしている場合がみなし残業制の典型例です。

上の例でいえば、実際の残業時間が××時間以下だった場合、あらかじめ決められた定額の残業代のほかに残業代を請求することはできません(××時間残業をしていなくても、定額の残業代は支払われます)。

ただし、実際の残業時間が××時間を超える場合には、超過分の残業代を請求することができます。

詳細は「みなし残業制(固定残業制)で月30時間・40時間・50時間の場合の残業代計算方法」をご確認ください。

勝手に残業したと反論される

使用者から、残業禁止命令に反して勝手に残業したと主張される場合があります。

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。使用者の明示の命令がないのに勝手に働いたのだから、使用者の指揮命令下に置かれていたとは言えず、労働時間には当たらないと反論されるのです。

以下の裁判例は、使用者から残業禁止命令が出されているにも関わらず、労働者が仕事を行った事案について、当該仕事時間の労働時間制を否定しています。

神代学園ミューズ音楽院事件(東京高裁平17・3・30労判905・72)
使用者が従業員に対し、「繰り返し36協定が締結されるまで残業を禁止する旨の業務命令を発し、残務がある場合には役職者に引き継ぐことを命じ、この命令を徹底していた」ことから、「残業時間を使用者の指揮命令下にある労働時間と評価することはできない」

この裁判例は、36協定が締結されるまでの間残業を禁止する旨の業務命令が繰り返し労働者に発せられ、かつ残務がある場合には役職者に引き継ぐ命令が徹底されており、明確に残業が禁止され、かつ実質的に残業を解消する措置が執られていた点に特色があります。

そのため,明確に残業が禁止されていない場合や、残務がある場合の配慮がなされていない場合には、残務を処理していた時間も労働時間と評価され、残業代を請求できる可能性があります。

たとえば、残業禁止命令を出したにもかかわらず、残業をしなければとうてい終わらないような業務を指示し、残務がある場合の配慮もなされていない場合には、使用者の指揮命令下にある労働時間とできる可能性があります。

詳細は「指示なし残業だ、残業は許可制だ、残業は禁止していた」と反論されたら?」をご確認ください。

まとめ

今回は、未払い残業代請求が失敗するケースを紹介しました。未払いの残業代についてお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。