残業代請求の基礎となる、残業代の計算方法を分かりやすく説明します。
ざっくりポイント
  • 残業代計算のキホンを知っておきましょう。
  • あなたの働いた時間が「残業時間」にあたるかが重要
  • 週40時間、1日8時間」を超えたら残業代が発生する
  • 残業の「割増率」を知っておきましょう。
  • 残業代請求・簡易計算ツールでざっくり計算しておく
 
目次

【Cross Talk】残業代の計算方法

先生、僕、外回り営業で毎日長い時間働いているんですけど、残業代は出てないんです。安い月給でさらに長時間働かないと、貧乏ヒマなし状態なので、ちゃんともらいたいと思ってます。でも、そもそも僕の残業代っていくらなんだろう。先生、残業代ってどうやって計算するんですか。

ざっくり簡単に言うと、週40時間1日8時間を超えたら残業代は発生します。そして、所定の労働時間が8時間を超えたら、それ以降は割増した時給で残業代を計算するんです。これは基本どの職業でも同じです。

僕、ぜったい毎日8時間以上働いてます。

私の残業代はいくらなの?

毎日残業をしているけれども、ご自身がもらえる残業代が本当はいくらなんだろうと思われる方は多いと思います。給与明細を見ても残業代の内訳(残業時間・1時間当たりの基礎賃金)まで詳細は記載されていることはほとんどありません。

勤務形態や就業規則なども絡み、残業代の計算は複雑そうです。今回は、ご自身の残業代を計算する上で必要な基本知識などを分かりやすく図解も含めて解説していきたいと思います。

とりあえず、残業代がいくらになりそうか、ざっくり知りたいという方は、残業代請求・簡易計算ツール をご利用ください。

わたしの残業代はいくら?残業代計算のキホン3つ

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 残業代(割増賃金)がいくらかの計算は、3つの数字の掛け合わせ!
  • 割増率は法定されているので、残業時間(A)と1時間当たりの基礎賃金(B)の計算方法を知っておきましょう。

残業代の計算って難しそう……算数苦手なんです!! 基本から教えてください。お願いします!

基本となる計算式は決まってます!細かい数字の前に、まずは、計算式と法律用語の意味を大体でいいので理解しましょう。

残業代の計算方法はややこしそうに思えますが、基本となる計算式は以下となります。

残業代計算の方法の図解

図解の中ほどの部分の計算式を抜き出したものが残業代計算の基本部分です。分かりやすいようにアルファベットを振りました。

請求できる残業代 =残業時間(A)×1時間当たりの基礎賃金(B)×割増率(C)

これが基本の計算式です。

残業代:通常の労働時間または労働日の賃金に割増率を乗じて計算した賃金
残業時間:法定労働時間を超える労働時間
1時間当たりの基礎賃金:労働契約上の賃金を1時間当たりの単価に直したもの
割増率:労働基準法に基づく割増率%

あなたの残業代がいくらかは、このA×B×Cの3つで計算できるということを覚えておいてください。大事なのは、残業時間(A)と1時間当たりの基礎賃金(B)です。割増率(C)、は法律で決まっているので、当てはめるだけです。

後で説明しますが、割増率(C)については、残業代には、法内残業と法外残業があります。法外残業は法律で「割増賃金」が支払われることになります。

割増というのは、法定労働時間を超えたら、それ以降の時間については、会社側は割増した時間給を払わなければいけないということです。国がこの割増率を労働基準法であらかじめ決めておき、労働者を守っているのです。海外では休日では1時間当たりの基礎賃金の2倍払わないといけないという国もあります。

例えば、月給制の正社員の場合、残業時間(A)については、働いていない待機時間等が残業時間にそもそもあたるのか、働いた証拠がないような場合はどうしたらよいのかといったことが問題になることが多いです。1時間当たりの基礎賃金(B)については、1時間当たりの基礎賃金の細かい計算方法を知ることが有用です。

どれだけ働いたら残業代が発生するの?「残業時間」を計算する

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 「所定労働時間」を超えたら残業代が請求できる
  • 「法定労働時間」は1日8時間、週40時間
  • 法定外残業(法外残業)には割増賃金の支払いが義務付けられる

残業時間の定義ってなんでしょうか?

簡単に説明すれば、会社が決めた「所定労働時間」を超えたら、残業時間です。法定労働時間を超えるなどしたら、さらに割増賃金の支払いも受けられますよ!

まず、所定労働時間とは、労働契約上の始業時(労働時間の開始時)から終業時まで(労働時間の終了時)までの時間から、労働契約上の休憩時間を差し引いた時間をいいます。この「所定労働時間」を超えて働いている時間については、残業代が発生します。

そして、労働基準法32条は、原則として、1日8時間週40時間を超えて労働させることを禁止しており(法定労働時間)、所定労働時間の限界を定めています。法律で決められているので、会社が就業規則などでいくら長く労働時間を決めていたとしても、1日8時間、週40時間を超えたら所定労働時間を超えることになり、残業代が発生します。

ご自身が働いている時間を1週間ざっと計算してみて、どのくらいの時間を「残業」として働いているのかを算出してみましょう。

例えば、就業規則などで9時~18時が定時、1時間の休憩時間とされていたら、所定労働時間は8時間です。18時を超えて21時まで仕事をしていたら、3時間の残業となります。これが、月間で20日間同じだけ残業を行えば、月間で60時間の残業時間となります。

なお、休憩時間や遅刻・早退をした分の時間などは除きます。

例外)小規模企業の場合:週当たりの法定労働時間が44時間になることもある。

法内残業と法外残業

法内残業(法定内残業)とは、会社が定めた「所定労働時間」を超えているが、法定労働時間内で行われる残業のことをいいます。割増賃金(後述)の支払い義務はありません。

法外残業(法定外残業)とは、法定労働時間などを超えた残業のことをいいます。超えた部分は割増賃金の支払い義務があります。災害などの臨時の必要がある場合や、労働者と使用者が協定を結ぶなどの場合には、労働基準法は例外として時間外労働をおこなうことを許しているのです。

言葉だけでは分かりにくいと思います。具体例でみてみましょう。会社の所定労働時間が7時間であって、9時間労働したケースで考えます。

法定内残業の理解のための図解1

残業時間は所定労働時間を超えた2時間です。法定労働時間は1日8時間ですので、残業時間の1時間は法内残業で割増賃金とはなりません。残りの1時間は法外残業となるので、割増賃金となります。

法定労働時間には、週40時間の制限もあるので、そちらについて詳しく知りたい方は「残業代計算における法定労働時間「週40時間超」の計算方法」をご覧ください。

「労働時間」に入るか、入らないかを知っておきましょう。

  • 拘束時間=所定労働時間となるの?
  • 「持ち帰り残業」は残業代に入る?
  • 休憩や仮眠で待機している時間がある場合は、労働時間に入るの?
  • 通勤時間は労働時間に入るの?
  • 出張は労働時間にはいるの?

このようなケースは、残業時間に入るのか入らないのか難しいものです。詳しく調べることをお勧めします。

持ち帰り残業について詳しくは、「持ち帰り残業は労働時間に含まれるか?」をご覧ください。

仮眠時間や移動時間について詳しくは、仮眠時間、移動時間は労働時間・残業の計算に含まれる?をご覧ください。

会社員で月給制。残業代計算で重要な1時間当たりの基礎賃金はいくら?

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 1時間当たりの基礎賃金(B)は、手当を除いた月額給与÷月平均所定労働時間
  • 月平均所定労働時間は年間の所定労働日数から計算する

さっきの図解の(B)1時間当たりの基礎賃金ってどうやって計算するんですか?1時間当たりの基礎賃金って計算が難しそう……

1時間当たりの基礎賃金は、基本は1か月にもらった給料を「1ヵ月に働く平均時間数」(月平均所定労働時間)で割れば良いんです。ただ、その給料と「1ヵ月に働く平均時間数」(月平均所定労働時間)については注意が必要です。一緒に見ていきましょう!

派遣社員やアルバイトの場合は時給換算で給与が決まっていますが、正社員の方は、月給として給与が決まっていることが多いため、ご自身の1時間当たりの基礎賃金を会社から説明されている方は少ないのではないでしょうか。あなたの1時間当たりの基礎賃金がいくらなのか、パッと分かりにくいので、どのように計算するかを解説していきます。

残業代が発生する時間数を計算することができれば、次は、残業をした1時間当たりの基礎賃金の計算です。 もう一度計算式を掲載しておきます。

残業代計算の方法の図解
請求できる残業代 =残業時間(A)×1時間当たりの基礎賃金(B)×割増率(C)

図解の上記部分を抜き出すと以下の通りになります。

1時間当たりの基礎賃金(B)=手当を除いた月額給与÷1ヵ月に働く時間数(月平均所定労働時間)

例えば、就業規則上、手当を除いた月額給与が30万円、「1ヵ月に働く平均時間数」(月平均所定労働時間)が168時間であった場合を考えてみます。

30万円÷168時間=1、786円(端数切り上げ)

これが基本となる1時間当たりの基礎賃金となります。

ここでは、単純化するために「1ヵ月に働く平均時間数」(月平均所定労働時間)を168時間としましたが、実際の計算は年間全体でみて計算するため、もうちょっと複雑になります。

これは、残業代の計算上、月ごとに労働時間が変わると1時間当たりの基礎賃金も変わってしまい、計算が非常に煩雑になるのと労働者保護のため、月平均労働時間の計算は、法律で年間通してみたときの1時間当たりの基礎賃金を算出するように規定されています。

例えば、年末年始など休みが多いときに1時間当たりの基礎賃金が高くなり、祝祭日がない月は残業単価が低くなってしまうのは同じ残業をしているのに、1時間当たりの基礎賃金が変わるのはおかしいからです。

「月平均の労働時間数」を計算する方法

月平均所定労働日数の計算方法
ステップ1:年間所定労働日数=1年間の日数(365日)- 1年の休日合計日数
ステップ2:年間所定労働時間数=年間所定労働日数×1日の所定労働時間
ステップ3:月平均所定労働時間数=年間所定労働時間数÷12か月

簡単に1本の式で表すと以下の通りになります。

月平均所定労働時間=(365日-1年の休日合計日数)×1日の所定労働時間÷12ヵ月

月平均所定労働時間の計算方法については、別のコラムにて詳細に解説しますので、そちらをご覧ください。

月額給与額から除外するべき手当

なお、1時間当たりの賃金の算出の基礎となる月給からは、以下の7種の手当は除かれます。(労働基準法37条5項、労働基準法施行規則21条3項)

  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住宅手当
  • 臨時に支払われた賃金
  • 一か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)

除外するべき手当に該当するか否かは、名称ではなく実質的に判断されます。上記手当の名目で、従業員全員に一律に一定額支給されているという場合には、除外するべき手当に該当しないと判断される可能性があります。

残業代における割増率をもとに1時間当たりの基礎賃金を計算してみよう

さっきも言ってましたけど、法定時間外の労働だったりすると、残業代が割増になるんですよね?どのくらい割増しちゃうんだろ?気になりますね!

法定時間外労働だけなら25%です。休日労働かつ深夜労働のケースだと60%にもなるんです!こんなに多いと残業代請求の額も、なかなか大きくなりそうですね。

法律では、法定労働時間を超えた残業時間については、所定労働時間内の時間給よりも高い時給が支払われるように規定されています。その割合を「割増率」と言います。残業した時間の単価は、1時間当たりの基礎賃金にこの割増率をかけて計算します。これを「割増賃金」といいます。

なお、会社は、法律上、1週間に1回は休日を与えることが義務付けられています(法定休日)。法定休日に働いた場合、残業代の代わりに休日割増賃金が発生します。また、午後10時から午前5時までの間労働をしていた場合、所定労働時間内であるか否かにかかわらず、深夜割増賃金が発生します(割増賃金について詳しく知りたい方は、「【図解】残業代の計算に必要な時間単価の「割増率」とは?」を参考にしてみてください。)。

表にすると以下の通りです。

残業代・割増率の図解

ただし、法定内の時間に収まる時間の残業の場合(法内残業)は、割増の時間給は適用されず、通常の時間給となります。

それでは、具体的に割増率に基づいて1時間当たりの基礎賃金で計算してみましょう。

月額給与が30万円で1日8時間働き、21日出勤した場合 の1時間当たりの基礎賃金は、以下の通りです。
30万円÷(8時間×21日)=30万円÷168時間=1,786円(端数切り上げ)

法外残業であれば、割増率が+25%となります。
1,786円×(100%+25%)= 1,786円×125%2、233円(端数切り上げ)

休日労働かつ深夜労働であれば休日労働35%に深夜労働25%を加えるので60%の割増率になります。
1,786円×(100%+35%25%)=1、786円×160%2,858円(端数切り上げ)

【具体例】残業代がいくらになるか実際に計算してみよう

さっきまでの説明で大体のことはわかりました!実際に残業代を計算してみて、どのくらい請求できるか確認してみたいな~

具体例を見て、自分もどの程度の残業代請求ができるか実感するのが大切です。残業代の計算は残業代請求のキホン!これができれば請求の第一歩を踏み出したといえるでしょう。

計算式だけ見ていてもなかなかイメージがつかみにくいと思います。そこで、いくつかの具体例に基づいて計算してみましょう。 ここで、残業代の計算式をおさらいします。

請求できる残業代 =残業時間(A)×1時間当たりの基礎賃金(B)×割増率(C)

【前提】月平均所定労働時間は168時間とする。深夜労働・休日労働はなし。遅延損害金を考慮しない。

【具体例1】
正社員、1日8時間が所定労働時間、月給は30万円(諸手当除く)。入社後10か月に渡って毎月60時間の残業をしていた場合。

残業時間(A):月60時間×10か月=600時間
1時間当たりの基礎賃金(B):30万円÷168時間=1、786円(端数切り上げ)
割増率(C):100%+25%=125%
残業代=600時間(A)×1,786円(B)×125%(C)=133.95万円

【具体例2】
正社員、1日8時間が所定労働時間、月給は30万円(諸手当除く)。入社後20か月に渡って毎月40時間の残業をしていた場合。

残業時間(A):月40時間×20か月=800時間
1時間当たりの基礎賃金(B):30万円÷168時間=1,786円(端数切り上げ)
割増率(C):100%+25%=125%
残業代=800時間(A)×1、786円(B)×125%(C)=178.6万円

【具体例3】
正社員、1日8時間が所定労働時間、月給は20万円(諸手当除く)。入社後20か月に渡って毎月20時間の残業をしていた場合。

残業時間(A):月20時間×20か月=400時間
1時間当たりの基礎賃金(B):20万円÷168時間=1,191円(端数切り上げ)
割増率(C):100%+25%=125%
残業代=400時間(A)×1、191円(B)×125%(C)=59.55万円

どうでしたか。おおまかな残業代のイメージが浮かんできたでしょうか。今回の具体例では深夜労働や休日労働、遅延損害金などを含めていないため、実際の残業代請求では、これらの金額よりも多くなる可能性もあります。

残業代請求・簡易計算ツールで、ざっくり残業代がいくらかを計算する

残業代請求・簡易計算ツールをご用意していますので、ぜひ一度やってみてください。あくまでもの簡易のシミュレーションですので、参考情報としてとらえ、正確な残業代計算は様々な情報に基づいて計算しましょう。

まとめ

残業代の計算方法のキホンが分かりいただけたでしょうか。残業代計算って面倒かな?と思っても、ひとつひとつ考えていけばそれほど複雑ではないのです。
残業代請求では、残業代の計算が出発点です。おおまかな計算ができることで、次のステップを踏み出すきっかけとなりましたら幸いです。
残業代の証拠収集方法について知りたい方は、「未払い残業代請求のための証拠の集め方」をご覧ください。

 

この記事の監修者

弁護士 水本 佑冬第二東京弁護士会 / 第二東京弁護士会 消費者委員会幹事
一つひとつの案件が、ご依頼者さまにとって重大な問題であることを忘れずに、誠実に職務に取り組みます。