芸術(アート)・エンターテイメント業界の残業代について詳しく解説いたします!
ざっくりポイント
  • アート、エンターテイメント業界は残業代を払わないブラックな企業が多い
  • 偽装請負で労働者保護の規制を回避しようとすることもある
  • フリーランスでも労働者と認められ残業代を請求できる場合がある

目次

【Cross Talk 】芸術(アート)・エンターテイメント業界は残業代が出ないのが当たり前なの?

エンターテイメント業界で働いていますが、毎日深夜まで長時間働いているのに残業代が出ません。でも周りもそれが当たり前だと思っているのか、残業代を請求しようという人はいません。エンターテイメント業界は残業代をもらえないのでしょうか?

そんなことはありません。労働基準法に言う労働者にあたる場合には、エンターテイメント業界で働く方も残業代を請求することができます。

やっぱり請求できるんですね。どうやって請求すればいいか教えてください。

芸術(アート)業界・エンターテイメント業界の残業代の実情と対策とは?

芸術(アート)業界やエンターテイメント業界では、いまだに長時間労働、低賃金など劣悪な労働条件で働く方が多く、残業代が支払われないことも珍しくありません。
今回は、これらの業界で残業代の不払いが横行している理由を紹介したうえで、残業代を請求するための対策等について解説いたします。

アート・エンターテイメント業界の残業代請求の実情

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 「好きでやっている」「お金ではない」から残業代は払わないと言われる
  • 業務委託契約だから残業代を支払う必要はないと言われる

そもそもどうしてエンターテイメント業界では残業代が支払われないことが多いのですか?

アート業界やエンターテイメント業界で働く方は、もともとアート・エンターテイメントに関心があり、その業界に入ったという方が多いでしょう。
そのため、使用者から「好きでやっているのだろう」「お金のためにやっているわけではないのだろう」と言われ、残業代が払われないケースがよくあります。
残業代の支払いを避けるために、業務委託の形式をとる偽装請負が利用されることもあります。

好きでやっている・お金ではない…と残業代を出さない

アート業界・エンターテイメント業界で働く方の多くは、もともとアート・エンターテイメントが好きで、それに携わりたいと考えてアート業界・エンターテイメント業界に飛び込んだのだと思われます。
そのため、一般的な会社員等と比べると、仕事と趣味の境が曖昧になりがちです。
そうなると、使用者にそこに付け込まれ、「好きでやってるんでしょ」「お金のためにやってるんじゃないでしょ」と言われてしまい、結果として長時間労働や低賃金、残業代の不払いなどが横行する劣悪な労働条件による労働を強いられることになりやすいのです。

偽装請負

使用者が残業代を払わないための方便として、偽装請負があります。

使用者が労働者を直接雇用する場合や労働者の派遣を受ける場合、労働基準法や労働者派遣法などによる労働者保護の規制が適用されることになります。
労働者に残業をさせた場合には、使用者は残業代を支払う必要があります。

これに対し、請負契約は、請負人がある仕事を完成させる義務を負い、注文者が仕事の完成に対して報酬を支払う義務を負う契約です。
建物の新築工事を工務店に依頼したというケースを思い浮かべると、請負契約をイメージしやすいと思われます。
請負契約では、定められた期限までに仕事を完成させる(上の例で言えば建物を完成させる)ことが請負人の義務であり、請負人が実際に1日当たり何時間の作業をするかは問われません。
そのため、請負人が長時間作業をしたとしても、注文者は超過の報酬を払う必要はないのです。

そこで、使用者がこれを利用して、実態は労働者(あるいは労働者の派遣)であるにもかかわらず、請負契約という形式をとることで、労働者を保護するための規制を免れようとすることがあります。これを儀容請負といいます。
偽装請負は、労働基準法や労働者派遣法の規制を先達する行為であり、違法となります。

残業代請求のコツ

知っておきたい残業代請求のポイント
  • フリーランスは原則労働者ではないが例外的に労働者と認められる場合もある
  • 使用者の指揮命令下に置かれていたことの証拠が重要になる

フリーランスとして仕事を請けているのですが、毎日長時間作業をしています。残業代を請求することはできませんか?

フリーランスは原則として労働者に該当しないので、残業代を請求することはできません。ただし、使用者の指揮命令下に置かれていた場合など、実質的に労働者と認められるときは、残業代を請求できる可能性があります。

フリーランスでも労働者と認定してもらえる場合

フリーランスは、会社や組織に所属せず、個人として仕事を請け負って働く方のことをいいます。
フリーランスは、通常は契約で定められた仕事を完成させさえすれば働く時間や場所などは指定・制限されないため、自由な働き方ができるのが特徴で、近年、フリーランスとして活躍される方が増えています。

ただ、フリーランスは、長時間働いたとしても、契約で特別な定めをしない限り、原則として残業代を請求することはできません。
というのも、残業代の支払い等を定める労働基準法によって保護されるのは、「労働者」に限られるからです。
労働基準法の「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいいます(労働基準法9条)。
先ほど紹介したフリーランスの特徴に照らせば、フリーランスは一般的には労働基準法にいう「労働者」にはあたりません。
労働者にあたらないということは、労働基準法が適用されないということですから、労働基準法に基づく残業代の請求もできないということになります。

ただ、フリーランスでも例外的に労働者と認められる場合もあります。

使用者の指揮命令下におかれていたと認定してもらえるように

厚生労働省は、労働基準法にいう「労働者」にあたるかについては、雇用契約や請負契約といった形式的な契約形式のいかんにかかわらず、実質的な使用従属性を、労務提供の形態や報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素をも勘案して総合的に判断する必要があるとしています(昭和60年「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について))。

ここでいう使用従属性とは、労働が他人の指揮監督下に置かれているかどうか(他人に従属して労務を提供しているかどうか)ということであり、仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指導監督の有無などによって判断されます。
仕事の依頼、業務従事の指示等に対して自由に承諾や拒絶ができるとすれば、対等な関係であり、他人に従属しているとは言えないということになるでしょうし、逆にこれらの自由がないことは他人に従属していることを推認させる事情となります。

フリーランスは、請負契約や業務委託契約という形式の契約を締結している場合が多いですが、上記の厚生労働省の判断基準からすれば、労働者にあたるかどうかは契約の形式ではなく、実質的な使用従属性等によって判断されるということになります。
したがって、フリーランスであっても、仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無などによっては、労働者にあたるかと判断される可能性があるのです。

証拠をしっかり残す

残業代を請求するには、請求する側が証拠を集める必要があります。
残業代に関する証拠には、残業代を計算する基礎となる賃金を定めるための証拠(雇用契約書等)と、労働時間に関する証拠(タイムカード、入退館記録、パソコンのデータ更新記録等)があります。
労働時間に関する客観的な証拠がない場合には、個人的な日記や手帳を資料とすることもあるので、使用者が労働時間を適切に管理していないときは、自分で証拠を残しておく必要があります。

また、フリーランスが残業代を請求するには、上記の証拠に加えて、「使用者の指揮命令下におかれていたと認定してもらえるように」で解説した労働者性を認めてもらうための証拠、つまり仕事の依頼、業務従事の指示等に対する拒否の自由がないことや業務遂行上の指揮監督を受けていることに関する証拠が必要になります。

まとめ

芸術(アート)業界やエンターテイメント業界は構造的にブラックな使用者がいまだに多いようですが、
これらの業界で働く方も労働者と認められる場合は、労働基準法等が定める労働者を保護する規定の対象になりますので、残業代も請求することができます。
ご自身が残業代を請求できるかどうか気になる方は、労働問題に詳しい弁護士に相談するといいでしょう。