運送業(タクシー、トラック、配送の運転手等)で働いている方が残業代請求を行う際のポイントを詳しく説明します。
ざっくりポイント
  • 業務委託で働いている運転手が残業代を請求するには、まず「違法な傭車契約」であることを証明する必要がある
  • 残業代請求に必要な証拠として「タコグラフ」は便利だが、頼りきるのではなく、日頃から自分で労働時間を管理・記録していくことが大切
  • 荷物の受け取り先や届け先で待機する「荷待ち」の時間も労働時間に含めること
  • 固定残業制、歩合制、みなし労働制などを理由に残業代の支払いを拒むような会社は「ブラック」である可能性が高いので、ひとりで戦わず、労働法に詳しい弁護士など専門家の助けを借りよう
 
目次

【Cross Talk】運転手は残業代をもらい損ねているかもしれない!

トラック運転手として働き始めて2年になるのですが、残業代をもらった記憶がほとんどないんです……。

運送業は単なるデスクワークとは違い、労働時間が不規則で残業時間が発生しやすい仕事です。あなたの場合も、きちんと精査すれば、もらい損ねている残業代が見つかるかもしれませんよ。

会社に対してどうやって残業代を請求したらよいかわからないので、ぜひ色々教えてください!

運送業の残業代請求で気を付けることは?

トラック運転手のような運送業は、「昼夜を問わず運転しないといけない」「荷物の届け先が遠方にある」「渋滞に巻き込まれる」といった理由で、拘束時間が不規則ですし、どこからどこまでが労働時間なのかも分かりづらいのが特徴です。

そのため法定労働時間と残業時間の区別がしにくく、現場で働いている方も、自分の残業代がどのくらい発生しているのか把握できていないことも珍しくありません。

「残業代といっても、いつも不規則に働いているから、どこからが残業かもよくわからないし……」などと、残業代請求をあきらめている運転手の方もいるのではないでしょうか?

この記事では、

  • 残業代未払いの元凶である違法な「傭車契約」の見抜き方
  • 残業時間を計算する際の証拠や注意点
  • 会社から残業代の支払いを拒まれたときの考え方

など、運送業(タクシー、トラック、配送等運転手)で働く方が残業代請求をするために知っておきたいポイントを説明しますので、参考にしてください。

運送業に多い業務委託契約は実質的には労働契約かもしれない

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 運送業では長時間労働や残業代未払いが常態化している
  • 運送業で業務委託契約が多いことの背景には、「労基法上の義務を免れたい」という会社側の思惑がある
  • 指揮監督命令関係があれば実質的に労働契約となる

先輩ドライバ―から「ドライバーは業務委託か請負だから残業代なんて支払われないさ」と言われたのですが、本当ですか?

「違法な傭車契約」こそ未払い残業代が発生する最大の原因です。なぜ違法な傭車契約が蔓延しているのか、違法な傭車契約の見抜き方とともに説明しましょう。

運送業とは、手数料と交換で貨物・旅客の輸送を行う事業のことで、海上運送業、航空運送業、自動車運送業があります。もっともポピュラーなのがトラック・バス・タクシーの運転手に代表される自動車運送業です。本記事でも自動車運送業を想定して説明します。

労基法違反が常態化する自動車運送業

厚生労働省の調査によると、自動車運送業を営む会社の84%がなんらかの労働基準法違反を犯しており、特に顕著なのが長時間労働(違反率58.2%)と残業代の未払い(同21.5%)でした。

図解

引用:厚生労働省「(別紙1) 自動車運転者を使用する事業場に対する監督指導、送検等の状況(平成29年)」(参照 2019/3/14)

実態に沿わない業務委託契約が横行する運送業界

運送業(タクシー、トラック、配送の運転手等)においては、「荷主や運送事業者」と「個人事業主である運転手」との間で結ぶ「業務委託契約」であることが多いです。実は、残業代の未払い問題が生じてしまう最大の原因は、この業務委託契約にあります。残業代は、労働契約が締結されている場合にしか支払われません。

企業が業務委託契約を締結したがるのは、業務委託にすれば「残業代の支払い」のような労基法上のさまざまな義務を免れることが可能だからです。

重要なのは実質的に労働契約といえるかを見抜くこと

業務委託契約に基づいて旅客や貨物を輸送するにあたり、会社側からあれこれ業務指示を受けているなら、それは形式だけ業務委託契約ということになりますので、いわゆる実質的には労働契約と言えるでしょう。実質的に労働関係が認められれば、残業時間に応じた残業代が請求できます。

「指揮・監督・命令関係の有無」をチェックすべし

実質的に労働関係にあたるか否かは、会社側と運転手の間に「指揮・監督・命令関係があるか」で判断します。

<指揮・監督・命令関係の判断要素>
  1. 具体的仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
  2. 業務遂行上の指揮監督の有無
  3. 勤務場所及び勤務時間の拘束性の有無
  4. 労務提供の代替性の有無

そして、指揮・監督・命令関係は上記の事情などの多様な事情を考慮して判断されます(最判平成16・4・20判タ1150号119頁)。具体的には、以下の事情が存在すると、指揮・監督・命令関係が認められやすくなります。

〈指揮・監督・命令関係が認められる方向に傾く事情〉
  • 会社所有の車両だけを輸送に使うよう指示される。それにもかかわらず車両のリース料を徴収されている
  • 荷受の時間について運転手の裁量が認められず、会社が指定する時間に受け取るよう厳命される
  • タイムカードで出退勤時間を管理される
  • 社員ドライバーと同じ制服を着用する
  • 輸送中に会社への経過連絡を厳しく義務付ける
  • 休憩の時間や場所に制限がある

逆に、以下の事情が存在すると指揮・監督・命令関係が認められづらくなります。

〈指揮・監督・命令関係が認めらない方向に傾く事情〉
  • 自己所有のトラックを持ち込んで運送業務に従事するいわゆる「傭車運転手」である場合
  • 会社からは、運送先、荷物の個数、納入時刻といった最低限の指示がなされ、運送ルートや出発時刻、休憩時間について具体的な指示を受けていなかった
  • タイムカードで出退勤時間を管理や運転日報の提出が求められていない
  • ガソリン代、修理費、高速道路料金等は自己負担

実質的に労働契約といえるかどうかは、多角的観点から、専門的に判断する必要があります。もし、一般の従業員と同じように労働をしているのに、「業務委託だから。」「請負だから」という理由で残業代が支払われないのであれば、一度専門家にご相談されることをお勧めします(弁護士の探し方については、「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」を参考にしてみてください。)。

運送業特有の証拠「タコグラフ」は取り扱いに注意!

知っておきたい残業代請求のポイント
  • タコグラフを過信せず、自分の労働時間は自分で管理する意識が重要
  • 荷待ちの時間も労働時間に算入する

運送業界の実態には驚きました。業務委託契約という形にして、会社の残業代を抑えようとする姿勢に問題があるんですね……。

契約自体は業務委託契約という形式でも実質的には労働契約というパターンは運送業に限った話ではないですが、運転手は特に多いようですね。では、あなたが会社に対して残業代を請求するためにどんな点に注意すれば良いか、詳しく説明していきましょう。

残業代を請求するには残業時間を特定することが必要です。残業時間を特定するには、「労働時間全体の把握」と「法定外労働時間の算出」が必要です。

運送業の場合、走行時間や走行距離はタコグラフ(タコメーター)のデータで客観的に証明できます。そのため一見すると、労働時間全体や残業時間を容易に把握・算出できるようにも思えます。しかし、必ずしもそうではありません。

タコグラフは万能ではない

トラック、配送等の運転手の労働時間は、運転している時間だけでなく、荷物の上げ下ろしや待機時間なども含まれます。これらの時間をタコグラフで記録することはできません。タコグラフが稼働していないので「運転していない」という事実は証明できますが、その時間に何をしていたかまでは証明できないのです。もし、運転していない時間に何らかの業務をしていた場合、タコグラフだけでは、その分の労働時間を証明できないのです。

このようにタコグラフは運転中の労働を証明するのには役立ちますが、万能ではないです。

会社側に提出が義務付けられている日報があれば、休み時間も含めて労働時間を証明する証拠になるので、会社に提出する前にコピーを取る、写真を撮るなどして、手元に残しておきましょう。手元に残すことが困難でしたら、せめて、自身の労働時間や労働内容について日記やメモに記録しましょう。

荷待ち時間も労働時間に算入することを忘れない

たとえば長距離トラックのドライバーであれば、「目的地に到着するのが深夜や早朝で、荷物の届け先である会社が営業していない」「先客が列をなして待機していて、荷物の上げ下げがスタートするまで数時間待たされる」といったことがよくあります。

営業開始まで待機する時間(いわゆる「荷待ち」)も会社から指揮命令監督下にあるのであれば、労働時間にカウントされます。

〈トラック運転手の労働時間の内訳〉

図解

※休憩時間には仮眠時間を含む。
※作業時間(運転・整備・荷扱い)
※手待ち時間(荷待ち等)

引用:国交省「トラックドライバーの労働時間等のルールの概要」(参照 2019/3/14)

ただし、荷待ち中に運転席を自由に離れることができる状態であれば、その時間は休憩時間にカウントされる可能性があるので注意しましょう。

たとえば「配達先の敷地内にある荷待ち専用車線で待機している」というケースでは、運転席を自由に離れることができませんので、休憩時間にはカウントされません。それに対して「道の駅やサービスエリアなどで待機し、荷物の上げ下げが始まりそうな時間を見計らって現場に行く」というケースでは、運転席を自由に離れることができるので休憩時間にカウントされる可能性があります(休憩時間について詳しく知りたい方は、「労働時間か?休憩時間か?知っておきたい休憩時間の法規制」をご覧ください。)。

会社側から想定される反論Q&A

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 会社側が固定残業制を理由に残業代の支払いを拒否するためには、少なくとも、「労働契約書に明記されている」「固定給と基本給の各部分が明確に分けられている」といった要件を満たすことが必要
  • 会社側が歩合制を理由に残業代の支払いを拒否するためには、「歩合給の金額が、実際の労働時間に応じて適切に増額されている」「給与明細上、通常の労働時間の賃金と残業代の賃金が明確に区別できる」という2つの要件を満たすことが必要
  • 「そもそも残業代を支払う必要はない」という会社側の反論は一切認められない
  • みなし労働制であっても、法定外時間外労働を超えた労働については残業代が発生する

運転手が残業代を請求する際のポイントがわかってきました。ただ、会社側が素直にこちらの言い分を受け入れないこともあるのでは?

残業代請求について豊富な知識を持った労働者はあまり多くありませんから、そういう面倒な事態も十分ありえますね。想定される会社側の反論をあげて、その妥当性をチェックしてみましょう。

会社側に残業代を請求した場合、会社側からは以下のような反論が出ることが想定されます。会社側の反論の妥当性をチェックしましょう。

残業代が固定だから支払う必要はない

この反論は「固定残業制(みなし残業制)」を示唆しています。固定残業制とは、一定時間分の残業代をあらかじめ給料に含めて支給する賃金制度です。労基法の条文に定めはありませんが、最高裁判例によって確立された法理です。

固定残業制が有効であるためには、少なくとも

(1)労働契約書や定款に固定残業制(みなし残業制)であることが明記されている
(2)固定給と基本給の各部分が明確に分けられている

といった要件を満たすことが必要です。

これらの要件を満たさないのであれば、固定残業制(みなし残業制)は無効となり、固定残業代に基づく金銭の支払いも無効になります。そのため、実労働時間に基づいて算出した残業代満額を請求することになります。

したがって「残業代が固定だから」というだけでは妥当な反論とは言えません。この問題については、固定残業制に関するコラムも参照してください。

歩合給だから支払う必要はない

労働法においても歩合制は認められますが、歩合制を理由に残業代の支払いが一律免除されるわけではありません。

この点判例は、

(1)歩合給の金額が、実際の労働時間に応じて適切に増額されている
(2)給与明細上、通常の労働時間の賃金と残業代の賃金が明確に区別できる

という2つの要件を満たす場合にかぎり、歩合制を残業代の支払いに代えることができるとしています。

したがって「歩合給だから支払う必要はない」という会社側の反論は妥当ではありません。この問題については、歩合制に関するコラムも参照してください。

そもそも残業代を支払う必要はない

雇用関係にある当事者においては、「残業代を支払わない」という主張はどんな理由があっても認められません。残業代に関する労基法の規定は、例外を許さない強行規定だからです。

したがって、たとえ当事者が自由意志のもと「残業代は一切請求しないし、支払わない」との特約を結んだとしても、その特約は無効です。この問題については、基本給の残業代の計算方法に関するコラムも参照してください。

みなし労働制を採用している

みなし労働制とは、実際の労働時間が何時間かは問わず、各会社の所定労働時間(就業規則などでその会社の労働時間と定められている時間)または通常その業務を遂行するのにかかる時間だけ労働したものとみなす制度です。

みなし労働制であっても、労基法が定める労働時間を超えた労働については残業代が発生します。したがって「みなし労働制を採用している(から、残業代を支払わない)」という会社側の反論は妥当ではありません。この問題については、みなし労働制に関するコラムも参照してください。

まとめ

個人事業主である運転手の立場は非常に弱いのが現実です。しかし、だからといって不当な処遇に甘んじる理由はありません。
特に残業代は労働に対する正当な対価であり、すべての労働者の権利です。これを放棄することは、自分が損をするだけでなく、企業の遵法精神を麻痺させることになります。
「残業代を請求できるなんて考えもしなかったな……」というドライバーのみなさんは、今回ご紹介した情報を参考に、ぜひ一度ご自分の残業代について見直してみることをおすすめします。

この記事の監修者

弁護士 水本 佑冬
弁護士 水本 佑冬第二東京弁護士会 / 第二東京弁護士会 消費者委員会幹事
一つひとつの案件が、ご依頼者さまにとって重大な問題であることを忘れずに、誠実に職務に取り組みます。