会社が残業代を相殺することができるかを詳しく解説します!
ざっくりポイント
  • 遅刻した分の賃金を他の日の残業による賃金と相殺することはできない
  • 残業・休日出勤による賃金を代休日に発生する賃金で相殺することはできない
  • 残業代をボーナスで相殺することはできない

目次

【Cross Talk】遅刻したら残業代と相殺すると言われた!そんなことできるの?

先日寝坊して遅刻してしまったのですが、会社から、遅刻した分の給料は残業代と相殺すると言われました。
確かに遅刻したことは自分が悪いと思いますが、そんなことができるのでしょうか?

なるほど、会社から、遅刻した分の給料や代休日に発生する給料と残業代を相殺すると言われるというケースがあるようですね。
しかし、本来支払うべき残業代を相殺することはできません。ですから、遅刻を他の日の残業と付け替えたり、代休を取らせて残業代と相殺したりすることはできません。

できないのですね!会社に残業代を払ってほしいと言ってみます!

本来支払うべき残業代を相殺することはできない!

遅刻をした場合、その時間分の賃金と残業代と相殺されたり、一定の残業をした場合に代休を取らされて残業代と相殺されたりした経験をお持ちの方がいらっしゃるかもしれません。

遅刻した時間を残業時間から差し引いてもトータルの労働時間は変わりませんから、一見すると問題ないようにも思えますが、このような処理は許されるのでしょうか?

今回は、残業代を相殺することができるかについて、遅刻や代休などケースごとに分けて解説したいと思います。

遅刻分に相当する賃金と残業により発生する賃金を相殺していいの?

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 同日内で労働時間が8時間を超えなければ可能
  • 他の日の残業で相殺することはできない

先日、1時間遅刻してしまった際、終業時間を過ぎてさらに1時間働きました。1時間分の残業代を請求できるのでしょうか?

遅刻をした日に関しては、労働時間が8時間までであれば残業代を請求することはできません。
これに対し、他の日の残業と相殺することはできませんので、たとえば1時間遅刻をした翌日に1時間残業した場合、1時間分の残業代を請求することができます。

遅刻をした同日内の相殺は可能?

遅刻分に相当する賃金と残業代を相殺することができるかを解説する前提として、残業代とは何かについて簡単に確認しておきましょう。

労働基準法は、使用者は、休憩時間を除き、労働者を1週に40時間、1日に8時間を超えて労働させてはならないと定めています(労基法32条)。これを法定労働時間といいます。
そして、例外的に法定労働時間を超えて労働させることができる場合においては、法定労働時間を超過した時間に対して残業代(時間外の割増手当)を支払わなければならないとしています(労基法37条1項)。

たとえば、就業時間が9時から18時(1時間休憩あり)とされている場合に、休憩を挟んで9時から19時まで働いたとすると、労働時間は9時間となりますので、1時間の残業(時間外労働)をしたことになり、1時間分の残業代(割増賃金)を請求することができるということです。

これに対し、上の例で1時間遅刻して10時から休憩をはさんで19時まで働いた場合、本来の終業時間を過ぎたあと1時間働いてはいるものの、労働時間は8時間ですから時間外労働には当たらず、したがって時間外の割増賃金を請求することもできません。

このように、遅刻をした日と同日である場合、労働時間が1日8時間を超えない範囲であれば、残業代を払わないことは違法ではありません。

他の日での付け替えは違法になる

これに対し、上の例で1時間遅刻をした日の翌日、休憩を挟んで9時から19時まで働いた場合、遅刻をした日の翌日は9時間労働したことになりますから、1時間分の残業代(時間外の割増賃金)を請求することができます。

残業代(時間外の割増賃金)について定めた労基法37条は、当事者の意思で排除できない強行法規とされていますから、遅刻をした日の労働時間が所定より1時間少ないからと言って、翌日の1時間超過した分と差引きして残業代を支払わないという扱いは違法になります。

割増賃金について詳しく知りたい方はこちらもご参照ください!
【図解】残業代の計算に必要な時間単価の「割増率」とは?

変形労働時間制を採用している場合には可能になることがある

例外的に、変形労働時間制を採用している場合、残業の付け替えが可能になることがあります。

変形労働時間制とは、一定の期間を平均して1週間あたりの所定労働時間が法定労働時間を超えない範囲で、1週または1日の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。
変形労働時間制には、忙しい時期の労働時間を長くし、そうでない時期の労働時間を短くするなど、業務に応じて労働時間を配分することができるというメリットがあります。

変形労働時間制を正しく運用している場合、法定労働時間の規制が修正されることになるので、変形労働時間制の枠内で、他の日の残業を付け替えることが可能になるのです。

残業代は代休を取れば相殺することは可能か?

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 残業により発生した賃金を代休日に発生する賃金で相殺することはできず、25%の割増賃金を支払う必要がある
  • 休日出勤により発生する賃金を代休日に発生する賃金で相殺することもできず、35%の割増賃金を支払う必要がある

うちの会社では、8時間残業をするごとに代休をとることになっていて、それが残業代の代わりだと言われています。
会社の説明は正しいのでしょうか?

会社の説明が間違っていますね。
代休を取っても残業がなかったことにはなりませんから、残業代(割増賃金)が発生します。同じように、休日出勤をして代休を取った場合も、休日出勤の割増賃金を請求することができます。

残業により発生した賃金を代休日に発生する賃金で相殺できるのか?

たとえば労働時間が月曜日から金曜日まで1日8時間と定められている場合に、月曜日から木曜日まで毎日10時間働いたときに、金曜日を代休にして残業と相殺するという処理をしている会社があるようです。

1週間の労働時間だけをみれば40時間となり、あらかじめ決められた労働時間を超えていないように見えます。
しかし、上の例で言えば、月曜から木曜まで1日2時間ずつ残業しており、その時点で残業代が発生しているわけですから、あとで代休を取ったからと言って残業代がなくなるわけではありません。

したがって、代休を取ったことを理由に残業代を支払わないことは違法になります。
残業(時間外労働)の割増率は25%ですから、労働者は25%の割増賃金を請求することができます。

休日出勤により発生する賃金を代休日に発生する賃金で相殺できるのか?

休日出勤により発生する賃金を代休日に発生する賃金で相殺できるかについても、残業を代休で相殺できるかの問題と同様に考えることができます。
つまり休日出勤をした時点で休日の割増賃金が発生しているので、あとで代休を取ったからと言って相殺することはできません。
代休を理由に休日の割増賃金を支払わないことは違法であり、労働者は35%の割増賃金を請求することができます。

残業代をボーナスで相殺することは可能か?

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 残業代をボーナスで相殺することはできない
  • 年俸制でも残業代を請求できる

うちの会社では残業をしても残業代を払ってもらえず、ボーナスで清算することになっています。会社の処理に問題はないのでしょうか?

ボーナス(賞与)と残業代は全く別ものです。ですから、ボーナスと未払いの残業代を相殺することはできません。また、ボーナス月にまとめて残業代を払うということも違法で、もしそのような支払いをするときは、利息を払う必要があります。

残業代は毎月払われなければいけない

賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければなりません(労基法24条2項)。
ここでいう賃金とは、名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいいますから(労基法11条)、残業代も賃金に含まれます。
したがって、使用者は残業代を毎月払わなければなりません。

ただし、国家資格の取得時に報奨金として支給される資格手当などは、毎月払いの原則の例外となります。

残業代をもらったらボーナスが減らされる?

残業代は、時間外労働に対する賃金のことをいいます。
これに対し、ボーナス(賞与)は、「対象期間中の企業の営業実績や労働者の能率等諸般の事情により支給の有無及びその額が変動する性質のものである」とされています(小暮釦製作所事件・東京地裁平成6・11・15労働判例666・32)。

このように、両者は全く別のものですから、未払いの残業代をボーナスと相殺することはできません、
また、残業代を受け取ったことを理由にボーナスを減額することもできません。

さらに、未払いの残業代をボーナス月にまとめて支払うことは、賃金の毎月払いの原則に反し、違法となります。
仮にそのような支払いをする場合、本来は各月の給料日に支払うべき残業代を遅れて支払うということになりますから、利息を支払う必要があります。

年俸制の場合はどうなるのか?

これまでの解説は年俸制にも当てはまります。

年俸制は、給与の額を1年単位で決定するというものですが、支給方法については毎月払いの原則が適用されます。

また、年俸制というと1年分の給与の支給額が決められていて、残業代を請求できないというイメージをお持ちの方が多いようですが、実はそれは誤解です。
年俸制であっても労働者である以上は労働基準法が適用されますので、残業をした場合には残業代を請求することができます。

会社は「年俸に残業代が含まれている」と主張する可能性がありますが、残業代として支払われる額が明示されるか、容易に算定可能でなければ、残業代を支払ったとはいえません。
また、仮に残業代として支払われる額が明示されるか容易に算定可能であっても、その額が労基法所定の計算で算出した額を下回るときは、差額を請求することができます。

年俸制の残業代請求について、詳しくはこちらをご参照ください!「年俸制の場合、残業代請求できるの?

まとめ

残業代の相殺は、遅刻した日に終業時間後も働くなど、当日に行うのであれば可能ですが、他の日で相殺することはできません。
また、残業代は当月分の給与で支払うのが基本ですから、ボーナスで相殺することはできず、仮にボーナスで一括払いする場合には別途利息が発生します。
会社から残業代を相殺されている方には、一度専門家である弁護士に相談し、会社の対応が適法なものか確認することをお勧めします。