うつ病を原因とする解雇において、不当解雇となるケースについて解説いたします。
ざっくりポイント
  • うつ病になったことを理由に従業員をすぐに解雇することは、不当解雇として認められない
  • 従業員がうつ病になった場合は、会社はまず就業規則の休職期間を与える必要がある
  • 従業員の復職にあたっては、会社は配置転換や準備期間の設定などをする

目次

【Cross Talk 】うつ病を理由に、会社がすぐに解雇することは認められるの?

うつ病になってしまったのですが、会社から働けないので解雇すると言われました。うつ病を理由に、会社がすぐに従業員を解雇していいのですか?

うつ病になったことを理由に、会社が従業員をすぐに解雇することは、一般に不当解雇にあたります。会社は従業員を休職させたり、復職のための工夫をしたりしなければなりません。

うつ病を理由に、すぐに解雇するのは不当解雇になるんですね。うつ病で不当解雇された場合に、どうすべきかについても教えてください!

うつ病を理由とする解雇が不当解雇にあたるケースや、不当解雇された場合の処理について解説

うつ病になると、それまで従事していた業務を行うことが一般に困難になり、うつ病になったことを理由に会社から解雇されてしまうケースもあります。
ただし、うつ病になったからといって会社がすぐに従業員を解雇することは、一般に不当解雇にあたるので認められません。

うつ病が原因で不当解雇をされた場合は、会社と交渉したり労働審判や裁判を起こしたりして、従業員としての地位の確認や、未払いの賃金の請求などが可能です。

そこで今回は、うつ病を理由とする解雇が不当解雇にあたる場合について解説いたします。

うつ病を理由とする解雇

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 従業員がうつ病になったことを理由にすぐに解雇することは、一般に解雇権の濫用にあたるので認められない
  • 休業期間を終えて復職する場合は、配置転換や準備期間の提供などが企業に求められる

うつ病になったことを理由に、解雇すると会社に言われました。うつ病になったからといって、会社はすぐに解雇できるのですか?

うつ病になったことを理由に、会社が従業員をすぐに解雇することは、一般に不当解雇にあたります。会社は従業員を休職させたうえで、配置転換や準備期間などの実施が求められるのです。

うつ病その他精神疾患にかかったからといって解雇にすることはできない

従業員がうつ病などの精神疾患にかかったからといって、会社は従業員をそのまま解雇することはできません。法律により、解雇権の濫用にあたるような解雇は無効とされているからです(労働基準法第16条)。

誰しもが病気にかかる可能性がある以上、病気になったというだけで解雇されてしまっては、安心して働くことができません。従業員がうつ病になってしまった場合、会社としては、まずその会社のルールである就業規則に従って、従業員を休職させるべきです。

単にうつ病などの精神疾患になったことを理由に、何らかの施策もせずすぐに従業員を解雇することは、一般に解雇権の濫用にあたるので、無効な解雇になります。

休職期間が満了しても復職できるほどに回復していない場合

うつ病に限りませんが、病気になった従業員が休職できるのは、原則として就業規則に規定されている期間です。休業の期間が満了すると、従業員は復職して労働を再開するか、退職して仕事自体を辞めるかのどちらかになります。
休業期間が満了しても、復職できるほどに回復していないと医師が判断した場合は、会社による従業員の解雇が認められる可能性があります。
従業員のうつ病の程度と、会社の業務の内容などを比べて、復職できるかどうかを医師が判断します。

会社によっては、休業期間が満了しても復職できる状態でない場合は、自動的に退職扱いになると就業規則に規定されている場合もあります。

配置転換や復職のための準備期間を設ける必要がある

もとの職場や業務で十分に仕事をこなせないからといって、それだけで会社による解雇が認められるわけではなく、配置転換や復職のための準備期間などを設ける必要があります。
うつ病は症状がよくなるまでに長期化する場合もあるため、休職期間が満了した時点で、従業員がもとの職場や業務で十分に働けるとは限りません。もとの仕事をこなせないとしても、配置転換などの工夫をすれば、十分に復帰できる可能性があるのです。

そこで、解雇を回避するために、負担の軽い仕事に配置転換したり、準備期間として短時間勤務にしたりなどの配慮をしなければならないことが、会社に要求されます。

ただし、配置転換や準備期間の提供などが十分に行われており、それでも復職して仕事をすることが困難であると判断された場合は、解雇が認められる可能性があります。

うつ病を理由とする解雇が不当解雇である場合の処理

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 会社が原因でうつ病になった場合、会社は勝手に解雇することはできない
  • 不当解雇について争うだけでなく、障害年金などの手当を申請することも大切

うつ病を理由に会社を解雇されてしまいました。これからどうすればいいのでしょうか?

不当解雇として会社と交渉したり、労働審判や裁判を起こす方法があります。それとは別に、うつ病が原因で働けない場合には、障害年金などの手当をきちんと申請することも重要です。

不当解雇では何を争うか

会社に不当解雇された場合、会社との交渉や労働審判・裁判などにおいて、会社が行った解雇は不当解雇として無効であり、依然として従業員としての地位を有することの確認を求めます。
そして、不当解雇であることを前提として、不当解雇された期間の賃金、不当解雇されたことへの慰謝料、退職金(会社を退職する場合)などを請求します。

慰謝料や退職金などは、不当解雇された場合に必ず請求するわけではなく、不当解雇の態様や自身の希望(会社で働き続けたいかなど)などによって、請求するかどうかを決めます。

うつ病になった原因が会社にある場合には

職場で長時間労働やセクハラ・パワハラなどを繰り返された結果、うつ病になってしまったなど、うつ病になった原因が会社にある場合は、原則として会社は解雇することができません。

労働基準法において、「労働者が業務に起因して負傷したり病気になったりした場合は、療養のために休業する期間とその後の30日間は、解雇が制限されるからです(労働基準法第19条)。
会社による長時間労働が原因となってうつ病になった場合などに、療養中の従業員を解雇することは、一般に不当解雇と判断されます。

実際の裁判例として、大手メーカーに勤務していた女性従業員がうつ病となり、休職後に復職できなかったために会社が解雇した事例において、不当解雇であると判断された事例があります。

女性従業員が休職する直前の6ヶ月の時間外労働について、平均が約70時間に達していたことなどから、うつ病の発症は長時間労働が原因であると認定されました。
もしうつ病になった原因が会社にあるにもかかわらず、不当に解雇された場合には、労働問題に詳しい弁護士に相談し、不当解雇であると主張することをおすすめします。

障害年金の受給・生活保護などすぐ生活に必要な手当を受け取る

うつ病が原因で不当解雇された場合、不当解雇が認められて未払いの賃金が支払われるまでは、会社から給料が支払われなくなってしまうので、生活に必要な収入を確保しなければなりません。
収入を確保する方法として、障害年金や生活保護などの手当があるので、受け取ることができる手当については忘れずに申請をして、受け取りましょう。

うつ病の状態では各種の申請などをするのは難しい場合もありますが、きちんと休養に専念するためにも、手当を受け取れるようにすることはとても重要です。
うつ病の症状によって障害年金を受け取れる可能性がありますが、初診日に被保険者であることや、一定の期間について保険料をきちんと納付していることなどの要件があるので、注意しましょう。

生活保護は様々な理由によって働けない方などを対象に、最低限の生活を保障するための制度です。
生活保護を受けるには収入や財産などの制限がありますが、生活保護法という法律に基づく権利なので、必要な場合はきちんと受給しましょう。

まとめ

うつ病になったことを理由として、会社がすぐに従業員を解雇することは、一般に不当解雇にあたるので認められません。
従業員がうつ病になった場合、会社はまず従業員を休職させて休ませなければなりません。そのうえで、配置転換や準備期間などを設けて、従業員が復帰できるように工夫することが求められます。
うつ病を理由に不当解雇された場合は、会社との交渉や労働審判・裁判などによって、従業員としての地位を確認したり、未払いの賃金を請求したりできるので、気になる方は労働問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。