残業代を取り戻す場合知っておくべき訴訟・差し押さえの基礎知識
ざっくりポイント
  • 残業代を取り戻すための道筋を知り、訴訟・差し押さえがどの段階でされるものかを知る
  • 訴訟の基礎知識
  • 差し押さえの基礎知識

目次

【Cross Talk】裁判・差し押さえ、最低限知っておくべきことって?

残業代請求を考えていて、裁判や差し押さえが必要だと思っています。
その手続きについて自分でやるにしても、弁護士に任せるにしてもある程度の事は知っておいた方がいいと思っているのですが、基本的なところを教えてもらえませんか?

残業代請求の中でも最終段階になるのが訴訟・差し押さえです。基本的な事を知っておきましょう。

残業代請求の流れの中で最終的な段階で利用される訴訟・差し押さえについての基礎知識を知ろう

残業代請求をする場合の手続には様々な種類がありますが、その方法として訴訟を起こして会社の財産を差し押さえる、という事を考える方も多いでしょう。
実は訴訟・差し押さえは一連の手続の中でも最終段階に行われる事になっています。残業代請求の一連の流れと訴訟・差し押さえの関係および、訴訟・差し押さえの概要について知りましょう。

残業代を取り戻すための手続の流れと訴訟・差し押さえの関係

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 残業代を取り戻すための手続の流れ全体を知る
  • 訴訟・差し押さえは手続全体の最終段階であるという事を知る

残業代を取り戻す場合の手続はどのように進行するのでしょうか。訴訟や差し押さえって手続全体でいうとどういった時に使うのでしょう?

訴訟や差し押さえは手続全体でいうと最後の段階で行うことになります。手続の種類とその流れについて知っておきましょう。

残業代請求をするためには様々な手続がありますが、その流れ・相互の関係はどのようになっているか知りましょう。

残業代を取り戻すための手続きの基本的な知識

残業代を取り戻すための手続きの基本的な事をおさらいしましょう。
未払いの残業代が発生している場合に、払われていないからといって会社に赴いて現金を持って帰る、通帳と銀行印を取り上げて銀行から引き下ろす、かわりに自動車を持って帰る、というような行為はできません(自力救済といいます)。

もし相手が任意に支払をしない場合でもあっても、裁判所を利用した強制執行によって差し押さえを行い、お金に換えるなどしてその配当を受け取るという形で行われます。
強制執行をするための前提として民事執行法所定の「債務名義」というものを取得する必要があり、その代表的なものが裁判で勝訴してもらえる判決になります(当然敗訴した場合には取得できません)。

任意の交渉や、裁判の進捗を見て交渉をして任意に支払ときには訴訟・差し押さえは必要ないということになり、会社が支払わないような場合の最終局面が訴訟・差し押さえとなります。

任意の交渉

残業代請求に関してはまず任意の交渉から始まります。
会社が自主的に支払うというのであれば何も訴訟・差し押さえを行う必要はないのですから、まずは会社に自主的な支払いを求めるのが妥当でしょう。
そのためまずは任意での支払いを求める交渉をします。
なお、給与債権は2年で時効となるので、時効の完成を止めるために内容証明を送ることになります。

債務名義を得る方法

任意に支払いに応じない、支払うことには合意していても残業代の支払条件・方法について争いがあるなどした場合には、強制執行に向けての行動をとることになります。
強制執行は民事執行法に規定されており、民事執行法では「債務名義」が必要とされています。
債務名義には様々な種類があるのですが、残業代請求との関係では次の3つの種類を利用して取得します。
一つ目の訴訟をおこして勝訴判決をもらうことです。

二つ目は労働審判の申し立てをして残業代の支払いを命ずる内容の労働審判を下してもらう方法です。
三つ目は民事調停の申し立てをして、残業代の支払いを認める調停が成立する方法です。
労働審判・民事調停については不服があれば訴訟手続に移行することになりますので、どのような場合にも最終的には訴訟を利用するという事になります。

差し押さえ

債務名義を手に入れて強制執行を行い、会社の財産の差し押さえをします。

残業代を取り戻すための訴訟・裁判手続

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 裁判の種類
  • 裁判が始まってから終わるまでの手続きの概要

訴訟を起こす場合の概要を教えてもらえますか?

訴訟にも種類があるのと、裁判が始まってから終わるまでの流れを知っておきましょう。

訴訟についての概要を確認しましょう。

裁判の種類

まず「裁判」といってもいくつか種類があるのを知っておきましょう。
ここでは、通常の民事裁判と、訴額が少額の場合の少額訴訟を知っておきましょう。
残業代請求は金銭の支払を求めるものなので、60万円以下の金銭の支払い求める場合に利用ができる少額訴訟が利用できます。

少額訴訟は全部の過程を原則として1日で終わらせ、その日のうちに判決を出すなど、手続が簡素化されたものです。
通常の民事訴訟は、訴額が140万円をこえる場合には地方裁判所に、140万円以下の場合は簡易裁判所に提起をします。
いずれも同一の建物あるいは近くにあります(東京地方裁判所・東京簡易裁判所は隣同士でビルが異なります)。

裁判を起こすための手続

裁判を起こすためには、訴状と証拠を提出して行います。
訴状には請求の内容を記載し、請求の内容を裏付ける証拠を一緒に提出します。
訴状には印紙を張り付けて提出をします。
証拠には原告(請求をする側)となる場合のため、「甲第◯号証」と訴状に記載した順番に番号を振って提出をします。

証拠がある場合には通常証拠説明書も一緒に提出しますが、必須ではありません。
訴状が受理されると被告である会社に送達されて訴訟が開始します。
ここから先は裁判所での審理の期日が設定されますので、期日までに裁判所から不明点の主張や証拠の提出を求められた場合にはこれに応じることになります。
裁判中には当事者で和解ができないかを探る和解期日というものも設けられ、裁判所で話し合いをすることもあります。

実務上は多くの訴訟がこの裁判上の和解で終了をします。
最後まで和解ができなかった場合には裁判所は当事者の主張内容と提出された証拠を見て判決を下します。
残業代請求においては原告である労働者の側に基本的な証明責任がありますので、十分な証拠が出せなければ敗訴となります。
勝訴をした場合には、相手が控訴しなければそのまま勝訴判決が確定し、債務名義となります。
控訴をした場合には控訴審での審理を行い、控訴審での判決に不服であれば上告を行います。

残業代を取り戻すための差し押さえとは?

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 差し押さえの概要を知る

次に差し押さえについて教えてもらってもよいですか?

強制執行ともいい、民事執行法に基づいて行うものです。手続の概要を知っておきましょう。

上記の判決を得た、労働審判・調停で残業代の支払いが認められた後にまだ支払わない場合の差し押さえについて確認しましょう。

差し押さえとは

差し押さえとは、民事執行法に基づいて行う強制執行によって債務者の財産の処分の禁止・お金に換える(換価)を行うことをいいます。
残業代の支払いをしないのであれば、会社が持っているものをお金に換えて支払にあてることになります。
これを行うのが強制執行・差し押さえとなります。

差し押さえるもの

基本的に債務者のすべての財産が対象になります。
絵画・自動車・備品などの動産、土地・建物などの不動産、預金・売掛金などの債権、特許権・商標権・著作権などの無体財産権などが差し押さえの対象になります。
もし会社ではなく個人から雇われていたような場合には個人の資産について差し押さえを行うことになりますが、個人については生活に必要な最小限度の資産などは差し押さえ禁止財産として規定されています(民事執行法第131条・第152条)。

差し押さえ方法

手続は申立書を作成して添付資料・収入印紙・切手を添付して裁判所の強制執行の窓口で手続きを行います。
通常は裁判所の中に強制執行に関する窓口があるのですが、東京地方裁判所民事第21部(強制執行を取り扱う部署)は目黒区にあります。
その後は動産執行・不動産執行・債権執行などの手続によって換価が行われ、配当がされます。

まとめ

このページでは、訴訟と差し押さえの手続について、残業代請求全体との関係と個別の手続きの概要についてお伝えしてきました。
訴訟・差し押さえは残業代請求をする場合に相手が支払わない場合の最終手段として行うもので、実際は証拠などがきちんと揃っているような場合には差し押さえまで行くケースは稀です。
裁判にしても強制執行にしても、手続は専門的で細かい上に、差し押さえる財産をうまく見つけるなど実務上のテクニックも必要です。
訴訟・差し押さえが必要になると考えられる案件については弁護士に依頼をするのが確実といえます。