法人破産の場合、法人の債務の責任を代表者が負うか、社長も自己破産しないといけないのか?について解説いたします!
ざっくりポイント
  • 法人と代表者は法律上別人とされる
  • 代表者は原則として法人の債務の責任を負わない
  • 会社の保証人になっている場合など、例外的に法人の債務の責任を負う場合もある

目次

【Cross Talk】法人破産の場合、法人の債務の責任を代表者が負うか、社長も自己破産しないといけないのか?について解説いたします!

小さな会社を経営しているのですが、経営状態が悪化しています。もし会社が倒産(法人破産)したら、会社の借金は私が支払わないといけないのでしょうか?

法律上、会社は「法人」にあたり、社長個人とは別人として扱われます。
そのため、会社の社長は、会社が倒産(法人破産)したとしても、会社の債務を支払う義務はありません。ただし、社長が会社の債務の保証人になっている場合など、例外的に責任を負う場合もあります

なるほど、当然に会社の借金を個人で負わないといけないわけではないのですね!

法人と代表者個人は別人として扱われる

法人の財産を全て処分しても借金を返済しきれなかった場合、借金はどうなるのでしょうか?
社長や理事など法人の代表者は、法人に代わって法人の借金を返済する義務を負うのでしょうか?今回は、法人が倒産・法人破産した場合の法人の代表者の責任について解説いたします。

法人(会社)と代表者個人は法律上別扱い

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 法人と代表者個人は別人とされる
  • 別人の借金の返済義務を当然に負うことはないので、原則として代表者に法人の債務の責任はない

何故、社長は会社の借金を返さなくていいのですか?社長の経営判断で借金をし、倒産してしまったとしても責任を取らなくていいのでしょうか?

会社は、「法人」です。法人とは、法律によって人として扱われるものですから、会社と社長は別人格ということになります。
社長にとって会社の借金は別人の借金ということになりますから、法人が破産したような場合、当然に社長が会社の借金を返済する責任を負うわけではないのです。

法人破産をしたら代表者個人が借金を背負う?

「法人」とは、人間(法人との対比で自然人といいます)以外で、法律によって人とされ、権利義務の主体となることができるものをいいます。法人自身が権利を持ち、義務を負うわけですから、法人の財産は法人のもの、法人の債務も法人のものということになります。

そのため、法人が倒産・破産したとしても、その効果は法人自身の財産や債務に及ぶものであり、別人である社長や理事といった法人の代表者に対して直接及ぶことはありません。したがって、会社が倒産・破産したからといって、社長が会社の借金の返済義務を負うことは、原則としてありません。

個人事業主の廃業の場合は借金が残る点に注意が必要

個人事業主が事業を廃業した場合には、個人に借金が残ります。
個人事業主は屋号をつけて開業しますが、借金などの債務はあくまで本人が負うことになります。
個人事業の廃業は個人が負っている債務に影響せず、個人の借金は残ります。

社長や理事が責任を負う場合

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 法人破産の場合、例外的に社長や理事が責任を負う場合がある!
  • 代表者が損害賠償責任を負うことがある
  • 会社の保証人になっている場合や会社から借入をしている場合は、返済する義務がある

会社と社長が別人として扱われることはわかりましたが、社長が会社の借金の責任を負うことは絶対にないのですか?

法人破産・倒産の場合、原則として社長が会社の債務を負うことはありませんが、社長をはじめとする役員等が第三者に対して損害賠償責任を負う場合、社長が会社の債務の保証人になっている場合、社長が会社から借入をしている場合など、例外的に社長など代表者が責任を負う場合もあります。

会社や第三者への損害賠償責任が生じる場合

会社などの法人は、社長や理事といった代表者によって運営されます。
つまり、会社がどのような取引をするか等は社長の経営判断によるものですが、会社の経営が上手くいかず、会社が法人破産・倒産するに至ったというだけでは、社長が責任を問われることはありません。

しかし、社長をはじめとする取締役は、会社に対して善良な管理者の注意義務を負い(会社法330条、民法644条)、また、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実に職務を行わなければならないとされているので(忠実義務、会社法355条)、取締役が職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、取締役はそれによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負うとされています(会社法429条1項)。

法人(会社)の保証人になっている場合

社長が会社の保証人(または連帯保証人)になっている場合、本来の債務者(主債務者といいます。)である会社が法人破産・倒産したとしても、保証人(連帯保証人)としての責任はなくなりません。

そのため、会社が法人破産・倒産したとしても、社長は保証人(連帯保証人)として、会社に代わって、会社の債務を弁済する責任を負います。

これまで解説したとおり、社長は会社の債務を当然に負うわけではありません。

もっとも、中小企業が銀行など金融機関から融資を受ける場合、ほとんど場合、社長個人が保証人(連帯保証人)になることを要求されるのが実情です。

会社に借金をしている場合

社長が会社からお金を借りている場合、社長は会社に借金を返済する義務を負います。
会社が破産した場合を例にすると、裁判所に選任された破産管財人が会社の財産を管理し、換価(売却)などして、債権者に分配(配当)します。
債権も財産の一種ですから、会社の社長に対する貸金返還請求権も、破産管財人の管理に移ります。
そのため、破産管財人から社長に対し、貸金の返還を請求される可能性があるのです。

ただし、社長個人も破産手続をしている場合は、会社に対する借金も破産手続内で処理することが可能です。

代表者や理事が破産しても「自由財産」内で残せるものがある

自己破産をする場合には全ての資産を失う、と考える方も多いのですが、「自由財産」に該当する資産については残すことができます。
どのような財産が「自由財産」にあてはまるかについては

・差し押さえをすることができない財産
・自由財産の拡張によって自由財産と決定された財産(破産法34条4項)

例えば、99万円までの現金については「差し押さえをすることができない財産」に該当します。
自由財産を拡張してもらって手元においておける財産は、その人の状況によって異なります。
例えば、重病の人は生命保険を解約されると以後生命保険に加入できる見込みがないので、生命保険を自由財産の拡張で維持できることがあります。
また、足が不自由で自動車がないと生活がない場合には、その自動車を自由財産の拡張で維持できることがあります。

法人(会社)が破産する場合の注意点

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 破産手続きで行ってはいけないことなどの注意点について確認

会社の法人破産・倒産について注意すべきことはありますか?

法人破産・倒産をする場合に絶対に行ってはいけないことをいくつか確認しておきましょう。


法人破産・倒産をする場合に注意すべきことを確認しましょう。

会社財産を代表者に移したりしない

会社・法人の破産をする際に会社財産を代表者個人のものにして、そのまま利用しようと考えることもあるでしょう。例えば、会社名義で購入した車を代表者の名義に移してしまって、法人破産後もそのまま乗りたい…ということが挙げられます。

このような行為は、破産手続きにおいて禁止される財産隠匿行為になり、最悪の場合では詐欺破産罪に問われる可能性もあります。自己破産をすることを検討するようになったときには、安易に会社財産の名義を変えるべきではなく、どうしても何かの必要がある場合には弁護士に相談をするようにしましょう

会社財産や在庫の処分をしない

同様に法人破産・倒産となるような状況で、不良在庫を抱えていて在庫を廉価で処分する・会社の財産を売却するという行為にも注意をする必要があります。

このような売却行為を行うと、法律的に贈与や不当に会社財産を減少させたという評価をされる可能性があります

一部の取引先や親族にだけ返済をしない

法人破産・倒産をしなければいけない…と考えたときにお世話になった一部の取引先だけは信頼を維持したいので返済をしておきたい、親族には迷惑をかけられないので親族には返済をしておく、という一部の債権者にのみ返済、支払いをしてしまうことがあります。

破産手続きにおいては全ての債権者を平等に取り扱う必要があり、上記のような一部の債権者に対する返済を行うことは、偏頗弁済(へんぱべんさい)として禁止されています。

役員報酬の支払い

会社の理事・代表者は、会社から役員報酬を得ています。
しかし、会社の経営が厳しくなると、この役員報酬の支払いをしないことが多くなります。会計上は未払いの役員報酬が存在している状態となり、このまま法人破産・倒産をするときには会社の破産においては、理事・会社代表は債権者ということになります。

なお、役員報酬でも実質的には労働者と認められる場合には、労働債権の支払いとして優先される可能性もあるのですが、会社の従業員が取締役になっているような場合で、実質的には労働者という場合に労働債権と同視できることがあっても、理事・代表者の場合は、このような認定がされるのは稀でしょう。未払賃金分だからといって支払いをすると、偏頗弁済(へんぱべんさい)となることにもなりかねませんので、弁護士に確認しながら行うのが良いでしょう。

代表者の家族に影響はある?

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 代表者が破産する場合の各種制限は家族には影響しない
  • 事実上影響する場合を知っておく

代表者が破産すると家族にはどのような影響がありますか?

破産をする場合の家族への影響を確認しましょう。

代表者が自己破産をする場合に家族にはどのような影響があるのでしょうか?

代表者に対する制限などは家族には影響しない

代表者に対しては各種制限が課せられます。
例えば、住所の制限・職業の制限・郵送物の制限など破産法上の制限や、本人の信用情報に事故情報が載るため(いわゆるブラックリスト)これによって借金やクレジットカードをつくることができなくなります。

これらの制限は代表者本人のみなので、家族が同じように破産法上の制限や、ブラックリストによる制限を受けるわけではありません。

事実上の影響がある場合がある

ただ、代表者本人が制限を受けることで、家族に事実上の制限がある場合もあります。
例えば、代表者本人の名義で家族カードを作って家族が使っていた場合には、家族カードは使えなくなります。
また、子どもがいる場合に、奨学金を申し込む際の連帯保証人には、ブラックリストの期間中だとなれません。ただし、実際の影響や不都合については、個々の債務者ごとに異なります。

まとめ

法人破産・倒産時に、社長や理事などの法人の代表者が法人の債務を負うかについて解説しました。
社長などの代表者も債務を負う場合、法人だけでなく代表者も自己破産等が必要になることがあります。法人と代表者が一緒に破産申立てをすれば、同一の破産管財人が選任され、引継予納金を抑えることができるというメリットがあります。
法人の破産を検討している代表者の方は、ご本人にも責任が及ぶか、責任が及ぶ場合にご本人も自己破産するかなどについて検討する必要がありますから、できるだけ早めに法人破産や自己破産、債務整理に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。