日給で賃金を受け取っていても、残業代の請求は可能です。計算方法や請求方法についてご説明します。
ざっくりポイント
  • 日給制でも残業をしたときには残業代を請求できる。
  • 法定労働時間を超えて労働したときには割増賃金を請求できる。
  • 日給制で未払い残業代があるときは労基署や弁護士に相談する。

目次

【Cross Talk】日給制では残業しても残業代はもらえない!?

日給制でドライバーの仕事を始めてから半年程度になります。
人手不足の業界ですので、雇用契約上の労働時間を超えて残業をすることも多いのですが、雇用契約書には「残業代は支払わない」という条項があります。
月給制の仕事をしている友人はちゃんと残業代をもらえているので、うらやましくて仕方ありません。

日給制でも所定の労働時間を超えて仕事をした場合には残業代は受け取ることができます。
これは労働基準法で決められたルールですので、個別の雇用契約で「残業代は支払わない」という条項があったとしても、労働基準法が優先されますよ。

そうなのですか?
日給制では残業代は支払われないものだと勘違いしていました。私は残業代をいくらもらえるのでしょうか?

日給制でも残業代は請求できます。まずは残業代の計算を行いましょう。

「日給制だと残業代はもらえない」というのは間違いです。
たとえ日給制でも、所定の労働時間を超えて働いた分については残業代を請求することができますし、法定労働時間を超えた分については割増賃金を請求できます。
残業代を請求するためには、まず所定賃金や実労働時間を元に残業代の計算を行いましょう。

日給制における残業代とは?

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 残業代は1時間あたりの賃金×実労働時間が支払われるのが原則
  • 法定労働時間を超えて働いた分については25%加算される。

残業代の計算方法について、まずは簡単に教えていただけますでしょうか。

所定労働時間を超えて働いた分に、1時間あたりの給与を掛けて算出するのが原則です。
ただし、労働基準法で労働時間について制限が設けられており、それを超えて働かせることは原則としてできないとされています。
労働基準法の定めに違反する内容の契約が結ばれたときには、自動的に労働基準法のルールに則った契約に読み替えられ、残りの労働時間は残業代として処理することになります。

こんがらがってきました。
具体的に説明していただけますでしょうか。

日給制における残業代の考え方について説明します。

日給制における残業代の支給義務

残業代とは、労働契約や雇用契約によって定められた所定の労働時間を超えて働いたときに支払われる賃金のことをいいます。
日給制だと残業代は出ないと思っている方がいらっしゃいますが、日給制でも残業代は支払われます。
たとえば、週5日勤務、1日の所定労働時間が6時間で日給が12,000円の雇用契約を結んでいたとします。
このうち2日間について2時間ずつ残業をしたとすると、1時間あたりの賃金2,000円×4時間で8,000円の残業代が支払われます。

上限時間を超えた労働契約を結んだ場合

労働基準法32条2項では、使用者は1日8時間、1週40時間を超えて労働者を働かせることは原則としてできないとされています。
したがって、1日10時間労働で日当1万円という契約を結んでも無効になります。
このような契約を結んだ場合、自動的に1日8時間労働で日当1万円に読み替えられ、10時間働いた場合は2時間分の割増賃金が発生することになります。

日給制の残業代計算方法について

知っておきたい残業代請求のポイント
  • まずは所定賃金から1分あたりの基礎賃金を算出する。除外賃金に要注意。
  • 実労働時間はタイムカードや勤怠管理法を元に確認する。
  • 割増賃金分の計算も忘れずに。

残業代について基本的なことは理解できました。では、実際の残業代を計算するにはどうすればよいのでしょうか?

残業代は1分単位で計算しますので、まずは1分あたりの基礎賃金を求めます。
基礎賃金は契約書の内容を元に計算します。1分あたりの基礎賃金に、実際に働いた時間を掛けて残業代を算出します。

労働基準法の上限を超えて働いた部分についてはどうなるのでしょうか?

それについては割増賃金を請求することができます。詳しくご説明しましょう。

残業代の計算方法について説明します。

所定賃金の確認を行う

所定賃金とは、雇用契約や労働契約で定められている賃金のことをいいます。日給制であれば契約書に「日給は○○円とする」といった賃金規定があるはずですので、それが所定賃金となります。
なお、実費で支給される通勤手当は賃金には含まれません。

1分あたりの基礎賃金を算出する

次に1分あたりの基礎賃金を算出します。
基礎賃金とは、所定賃金から家族手当や住宅手当など(「除外賃金。」といいます)を除外したものをいいます。除外賃金は労働と直接的な関係が薄く、個人的事情に基づいて支給されていることなどにより基礎賃金からは除外されます。
除外賃金とされるのは次の7つです。

①家族手当
②通勤手当
③別居手当
④子女教育手当
⑤住宅手当
⑥臨時に支払われた賃金
⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

所定労働時間が日によって異なる場合では、平均所定労働時間を算出します。
基礎賃金を所定労働時間(雇用契約や労働契約で定められている労働時間)で割って1時間あたりの基礎賃金を算出し、これを60で割れば1分単位の基礎賃金を求めることができます。

実際の労働時間を確認する

続いて実際の労働時間を確認します。所定労働時間とは異なり、実際に労働をした時間ですので、タイムカードや勤怠管理表の記録によって算出することになります。
残業代は1分単位での支払いが原則とされているため、実労働時間も1分単位で算出するのが一般的です。

割増賃金を算出する

最後に割増賃金を算出します。
割増賃金とは、法定時間外労働、休日労働、深夜業を行ったときに支払われる賃金で、基礎賃金から25%~50%の割増となります。法定時間外労働とは、週40時間、1日8時間を超えた分の労働時間をいいます。
計算方法は次のとおりです。

・1時間当たり基礎賃金×法定時間外労働時間×1.25=法定時間外残業代の金額
・1時間当たり基礎賃金×深夜労働時間×1.25=深夜手当の金額
・1時間当たり基礎賃金×休日労働時間×1.35=休日手当の金額
※大企業の場合は月に60時間を超える部分の時間外労働について割増率が50%になります。

日給制で未払い残業代がある場合の対処法

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 労働基準監督署に相談すれば、事業所に調査や指導が入ることがある。
  • 弁護士に依頼すれば、交渉や裁判を全て任せることができる。

どうやら今まで働いた分について未払いの残業代がかなり発生しているようです。
会社に請求するとともに、今後はきちんと労働基準法を守ってもらいたいと思うのですが、どうすればよいのでしょうか。

労働基準監督署に相談すれば専門家からアドバイスをもらうことができます。
労働基準監督署から会社に調査や指導が入ることもありますので、それをきっかけに労務環境の改善が行われることもあり得るでしょう。未払いになっている残業代を支払うよう会社と交渉を行ったり、裁判を起こしたりするときには弁護士に依頼するのが良いでしょう。

弁護士ですか。
なんだか敷居が高いイメージがあるので心配ですが、とりあえず、詳しく教えてもらえますでしょうか。

日給制で未払い残業代がある場合の対処法について説明します。

労働基準監督署に相談する

労働基準監督署(労基署)は、全国に321署ある厚生労働省の出先機関で、労働基準法などの関係法令に関する監督指導や、仕事に関する負傷などに対する労災保険給付などの業務を行っています。

労働基準監督署には賃金、労働時間、解雇などの法令違反について相談できる窓口があります。違法行為があった場合にはそこに相談することにより調査のうえ会社に対する指導をおこなってくれることがあります。
残業代の未払いなどの違法行為について相談する際には、労働契約や労働時間に関する資料など根拠をもって相談すると具体的な回答を得られる可能性が高くなります。

また、厚生労働省の委託事業として「労働条件相談ほっとライン」というものがあります。これは労働法に関する問題について専門知識を持つ相談員と相談することができる電話窓口です。労基署のように事業所に対する指導をしてもらうことはできませんが、労基署に相談する前に「これって違法ではないの?」といったちょっとした疑問を解消するのに利用することができます。

弁護士に相談する

弁護士は法律と交渉ごとの専門家です。
弁護士に依頼することにより、未払い分の残業代の計算、相手方との交渉や訴訟などの手続を全て一任することができます。また、相手方と交渉をする際に弁護士の名前で内容証明郵便を送付することにより、相手方に本気度を見せることができ交渉がスムーズに進むことがあります。

弁護士とひと言で言っても、労働事件を多く取り扱っている弁護士と、それ以外の分野(離婚、相続、交通事故、債務整理など)に注力している弁護士がいます。

無料相談を実施している弁護士事務所も多くあります。残業代の支払い請求を依頼するのであれば、労働事件に関する知識と経験があり、親身になって具体的な解説方法をアドバイスしてくれる法律事務所に相談することをお勧めいたします。

まとめ

残業代の計算方法や請求方法についてご理解いただけたでしょうか。
まずは日給制でも残業代が発生することを認識しておきましょう。
たとえ会社と契約を結ぶときに「残業代は支払わない」という合意がなされていたとしても、労働基準法のルールが優先され、上限を超える労働等に関しては残業代を請求することができます。
「日給制だから」「そういう契約だから」と諦めず、まずはどれだけ残業代が発生しているか確認してみてはいかがでしょうか。