- 回収見込みの判断、時効の中断の措置、証拠集めが重要
- 交渉方法はご自身で行う方法、弁護士を使う方法の2つ。
- 残業代計算は正確な計算のためにもプロに任せると良い。
- 事前に回収できる残業代を計算し、「費用倒れ」に注意する
- 残業の証拠になる資料は、実はたくさんある。
【Cross Talk】残業代はこれ以上でないの?
先生、僕は毎日終電くらいまで働いていますが、残業代が毎月一定の額しか給与として支払われません。タイムカードも定時に押すように言われているし……。実際に働いている分の残業代を請求したくても、どうすればいいか分かりません。このまま泣き寝入りするしかないんでしょうか。
時間外労働が発生した場合には、未払いの残業代を請求できる権利があります。タイムカードで正確な時間が記録されていなくても、業務用メールの送受信履歴などがあれば、残業を立証できる可能性はあります。
そうなんですね。先生、会社に残業代を請求するときのポイントを教えてください。
長時間労働が社会問題としてますます認識され始めていますが、労働関係のトラブルによる相談は未だに絶えません。その中でも、残業しているのに残業代をもらえないという人も多く、残業代請求のための相談を弁護士事務所に持ちかける人も増えています。
しかし、残業代請求には、事前の証拠集めや残業代計算などやるべきことが多くあります。今回は、複雑な残業代請求の際に押さえておきたい3つのポイントをご紹介します。
未払い残業代請求には、事前の準備が重要です
- 回収見込みの検討、時効中断措置、証拠集めが3つのキホン
- 残業代請求は成否は3つのキホンにかかっている
残業代請求をしたいんですけど、何から始めたらいいか分かりません。大まかな流れから説明してもらえませんか?
大まかな順序としては、回収見込みを立て、時効中断措置を取り、証拠集めをする形になります。細かな話はあとで詳しくしますので、まずは流れを感覚的に理解してみましょう。
残業代請求はすべきことが多く、何から始めて良いか分かりにくいでしょう。そこで、簡単に流れを説明いたします。
残業代請求を行うための準備としては、残業代の回収見込みを立てる、時効中断措置を取る、証拠集めをすることの3点が必要です。
まずは、残業代請求がどの位できそうか判断します。大まかな計算で結構です。次に、時間や費用の面を考慮して、ご自身で請求を行うか弁護士に依頼して請求を行うか決めます。そして、時効中断措置を取った後に、残業代請求のために必要な証拠集めを行うといった流れになります。
それでは、各項目について順次解説していきましょう。
残業代の回収見込みを立てよう
- 会社と交渉する前に、会社が正しい方法で残業代を計算しているかチェックする
- 残業代の計算方法は{(月給-家族手当-通勤手当-住宅手当)÷の労働日数×1日あたりの所定労働時間数 }×割増率×残業時間数
- 割増率は勤務時間や休日などで25%~60%以上とそれぞれ異なる。
- 詳細な計算は、弁護士などの専門家に任せよう。
費用の計算、残業代請求の交渉、弁護士に依頼するかどうか……。考えなければいけないことが多すぎて、どうしようか迷ってしまいます。はぁ……、憂鬱です……。
費用の計算や交渉などは専門的で複雑なので弁護士などの専門家に任せると安心ですね。ただし、専門家へ任せる場合には費用がかかります。ご自身で請求するのと、どちらがあなたに合っているか、ひとつひとつ解説しますのでご安心ください。
残業代請求の交渉方法
残業代請求の交渉方法としては、ご自身で請求する方法と弁護士に依頼して請求する方法の2つがあります。どちらの方法を取るか決めることは難しいでしょう。そこで、両者の特徴を簡単な図にまとめてみました。
(A)ご自身で会社と交渉する
ご自身で会社と交渉する方法は、会社側にとってもトラブルを公にされず、請求側の費用もかからないというメリットがあります。残業代を請求できる確実な証拠を持っていたり、会社側に法令遵守の意識があったりする場合には、自分で会社と交渉するのが良いでしょう。
ただ、後述しますが、ご自身で残業代の計算をすることは難しかったり、何が必要な証拠であるか判断することが難しかったりするため、相当な時間と労力がかかるでしょう。
(B)弁護士依頼して交渉する
弁護士を雇って交渉するメリットは、迅速に手続が行われて、短い期間で解決できる可能性が高まることです。また、交渉のプロフェッショナルであり、複雑な事案であっても法律の根拠に基づいて冷静に対応することができます。弁護士が交渉を代行するので、空いた時間で転職活動などを行うこともできます。
ただし、弁護士を雇って交渉するのは費用がかかります。回収できる残業代とともに、トータルでいくら回収見込みがあるのかも計算しなければなりません。
弁護士費用は、相談料や着手金、手数料、成功報酬などが含まれており、事務所によっては実費やタイムチャージがある場合もあります。
成功報酬以外の合計平均は、およそ20万円〜50万円と考えられます。また、弁護士事務所によっては、完全成果報酬で依頼できるところもあります。
弁護士に残業代請求を依頼した場合のメリットについては「残業代請求を弁護士に依頼するメリット」を参考にしてみてください。
請求する未払い残業代の計算は、労働者側が計算する
請求する残業代は、労働者側で計算しておきます。また、会社側がきちんと正しい方法で残業代を計算しているのかもチェックしておきましょう。
残業代の計算方法
残業代の基本的な計算には、月給・家族手当・通勤手当・住宅手当・月の労働日数・1日あたりの所定労働時間数・割増率・残業時間数を把握しておく必要があります。
これらの要素を式で表すと、
となります。
割増率の計算
割増率とは、残業・時間外労働に対して通常の料金よりも割増して支払われる賃金の割合を指します。残業代の割増率は以下のように決められています。
法内残業に注意
雇用契約で定められた労働時間以上に残業をしても、割増賃金とならない場合があるので注意しましょう。法定時間外労働(法外残業)は、労働基準法で定められた労働時間以上の残業にあたります。
労働基準法では1日8時間、1週間に40時間の労働時間が定められています。例えば、契約等で決められた所定労働時間が7時間で実労働時間が9時間のケースを考えましょう(単純化のため休憩時間は考慮しない)。
このケースでは、2時間の残業を行ったことになります。法外残業となるのは、8時間働いた以降の部分の1時間です。この部分は割増率が25%となります。しかし、残りの1時間は法内残業であるので、割増賃金とはなりません。
このようにどの残業が割増賃金となるかは、少し複雑と言えます。さらに、雇用形態や勤務形態によっては、どこまでが時間内労働なのかを判断するのは難しいこともあります。
自分で大まかな計算をしてみた後に、弁護士などの専門家に相談して正確な残業代を計算してもらうのが良いでしょう。
時効中断措置を取る
- 時効が完成してしまうと、残業代請求はできなくなる
- 給料日翌日から2年後に時効が完成する
- 内容証明郵便の郵送の後から6ヵ月のうちに訴訟の提起等をして時効中断措置を取る
時効中断措置って何ですか。残業代請求には期限があるって聞いたけど、具体的にどうしたらいいんでしょうか?
端的にいえば、2年で時効が完成してしまいますので、それまでに会社に残業代を請求しなければなりません。細かな法律用語もありますので難しければ「知っておきたいポイント」だけ読んでください。
請求する残業代は、労働者側で計算しておきます。また、会社との交渉の際には、会社側がきちんと正しい方法で残業代を計算しているのかもチェックしておきましょう。
残業代の請求には2年の消滅時効が設定されています。
消滅時効とは、一定期間権利を行使しない場合に、権利を消滅させてしまう制度です。これは「権利の上に眠るものは保護されない」という法律の立場を示しています。
そこで、この時効が完成しないようにするために取る措置が、時効中断措置です。
具体的には、配達証明書付き内容証明郵便などを会社に郵送して裁判外での請求した後(「催告」と言います。)、6ヵ月間のうちに訴訟の提起や差押えなどをすることで、時効の完成を阻止します(「時効の中断」と言います。)。
時効の起算点は給料支払日の翌日です。各月の給料支払日からそれぞれ2年が経過してしまうと、時効が完成してしまい、それぞれの分の残業代請求ができなくなります。したがって、残業代請求は早めのアクションを起こす必要があります。
内容証明郵便の書き方については「在職中の会社との残業代請求交渉とは?~内容証明郵便の書き方~」を参考にしてみてください。
証拠が命~未払い残業代請求には根拠が必要~
- 証拠集めが残業代請求の肝!
- 就業規則、雇用通知書、雇用契約書、は必ず保管する
- タイムカード、日報、受信記録、タクシーの使用履歴も重要な証拠
- 家で残業した時は、上司からの指示を残しておく
回収見込みを立てて、時効中断措置のことも考えました。次は証拠集めですね。請求を成功させるカギになるような証拠ってあるんでしょうか?
何が重要な証拠となるかは個別の事案によりけりですが、雇用条件や就業規則のコピー、始業・就業時間が分かるものが大切ですね。証拠がなくても焦らずに、弁護士に相談してください!
残業代請求の要は「証拠集め」です。
残業を行ったという確固たる証拠がなければ、残業代を請求するのは非常に困難になります。残業を証明する書類などは、少なくともコピーを持っておくのが条件となります。
雇用条件や就業規則のコピー
「雇用通知書」や「雇用契約書」などの書類には、給与の計算方法や残業代についての規定が記載されています。これらの書面は、労働者と会社の基本的な契約関係を示す書類です。
また、「就業規則」も重要な証拠の1つです。就業規則とは会社側が定めた決まりで、就業時間や時間外労働、休日などの規定があるのが普通です。
会社は、就業規則を労働者の見える場所に掲示しておくなど措置を講じる必要があり、労働者が就業規則を見せるように請求した場合には、労働者に示す義務があります。会社が見せてくれない場合には、労働基準監督署に相談して、見せるように請求しましょう。
残業代を計算する上では欠かせない資料なので、これらの書類はコピーをとって大切に保管しておきましょう。
始業・終業時刻が分かるもの
始業・終業時刻が分かる資料では、刻印されている時刻まで会社にいたことを立証します。例えば、タイムカードや日報、備忘録など、毎日機械的につけている資料が用意できると良いでしょう。
上記に挙げた書類がない場合やタイムカードを実際の終業時刻より早く押すよう言われている場合もあるでしょう。その場合は、業務用メールアカウントの送受信記録の履歴や、終電を逃してタクシーを利用したときの使用履歴などを証拠として用いることもあります。
これらは、証拠として弱いものですが、手帳の記載などの他の証拠と併用することで、出退勤自体の証明に成功した事例もあります。
家で残業をしなければならなかったときには、上司からの指示を証拠として残しておきましょう。
残業時間中の業務内容が分かるもの
会社に残っていた時刻をきちんと記録していたとしても、さらに会社で何をしていたかの立証を求められることもあります。会社側は「残業の指示をしていなかったのに自分で勝手に残っていた」などと反論するからです。
そこで、残業時間中に行っていた業務内容や上司からの指示内容を証拠として出す可能性があります。残業の指示が分かるメールやメモ書き、残業を承認する書面などは、交渉の際にも非常に有用です。
上司や同僚からの残業の指示が形として残っていない場合には、残業時間中に利用した業務用メールアカウントの履歴や、業務内容が分かる業務日誌などをコピーしておくと良いでしょう。
会社と交渉する場合には、書面やメールを保管するだけでなく、スマートフォンの録音機能やレコーダーなどを使い、会話を録音しましょう。
メールなどの文書のやり取りは記録に残りますが、会話は発言内容の食い違いで揉めることがあります。会話の録音は重要です。
これ以外にも、「未払い残業代請求のための証拠の集め方 」でも証拠の集めについて詳しく説明しているので、気になる方はご参照ください。
残業代請求に必要な証拠は個別の事案で異なる
雇用契約書や就業規則、業務内容を確認できるものは証拠として基本的なものです。
これら以外でも、個別の事案によって必要な証拠が変わってきます。業界や職種がその例です。
ご自身で証拠を判断するのが難しいと感じたら、弁護士などの専門家に相談したうえで、証拠の収集を行うことが良いでしょう。弁護士の探し方や相談の仕方については「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」を参考にしてみてください。
まとめ
残業代請求は、最初にお話しした通り、 残業代の回収見込みを立てる、時効中断措置を取る、証拠集めをすることが大切です。
これら一連の作業をご自身で行うこともできますが、多くの時間と労力がかかるので、弁護士などの専門家に相談するのが良いでしょう。計画的な準備こそが残業代請求を成功させるカギです。
証拠を集め、大まかな残業代を計算したら、弁護士など法のプロフェッショナルに相談して、請求できる残業代や回収見込みなどについて把握しましょう。