残業代計算の割増率についての基本的な考え方を解説します。
ざっくりポイント
  • 一日8時間を超えたときの割増率は25%
  • 実際の割増率の計算にはどの時間帯で労働したかに左右される
 
目次

【Cross Talk】どういう場合に割増になる?

先生、僕は、居酒屋で前日の夕方から、翌日まで勤務して残業代が発生してるんですけど、その割増率について良く分かりません。店長に残業代を支払うように要求したら、日付を跨いだ分は、翌日の勤務となるので、残業とならないので、割増はないと応えられてしまいました。

ざっくり簡単に言うと、割増率については、8時間労働を超過した残業深夜残業休日残業の三つの要素があり、これらが重複する場合は、それぞれを足した割増率となります。また、日を跨いだ場合であっても、始業日を基軸として残業は考慮するので、前日から連続で8時間以上の勤務があれば、残業代として割増率が発生します。

じゃあ、ぼくの場合でも、日を跨いでも、残業代が発生するのですね!

残業代の割増率はどうやって把握すればいいの?

残業代の計算には、まず、自分の時間単価に割増率を把握する必要がありますが、この割増率の把握は少々複雑です。もしかすると、休憩を除いて勤務時間が8時間を超えると、割増率が25%となることは、ご存じかもしれません。しかし、割増率についてはこれだけではなく、法定時間外労働以外にもいくつか割増賃金の発生原因があります。

割増率のまとめ

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 割増率の基本は25%から
  • 複数の割増が重複する場合は、その全て合計が割増率となる

割増率ってどのようなものがあるのですか?時間外残業割増と、深夜残業割増で25%だってことくらいは知っていますが……。

そうですね、おっしゃるとおりです。しかし、他にも休日に勤務した場合には、その勤務全体が残業となり、割増率は35%となります。他にも、いくつか細かいものがあります。一緒にみて行きましょう。

まず、割増について簡単に説明すると、会社は所定の労働時間を超えた場合、および所定の時間帯に勤務した場合に、会社側は割増賃金を支払う義務があります(労基法37条)。割増率は政令によってその最低率が決まっています(労基法37条1項関連政令)

残業代・割増率の図解

あなたの残業代における割増率がいくらなのかは、残業した時間帯によって異なります。まず、8時間を超えて勤務した場合には、残業代が発生し、時間単価に対して25%の割増賃金となります。ただし、時間外の残業と、下に説明する深夜残業が重複する場合には、割増率は50%となります。

また、8時間以内の勤務であったとしても、22時以降に勤務した場合には、その時間以降の勤務について、深夜割増賃金という形式で、25%の割増の賃金が支払われます。ただし、この深夜残業の時間において、すでに8時間以上の勤務をしていた場合には、割増率が重複して計算され50%となります。

更に、雇用契約上、休日と定められた日に呼び出されて、勤務を行った場合には、その勤務時間のすべてに残業代が発生しその割増率は35%となります。

法定時間内労働、法定時間外労働、法定休日労働、深夜労働とは

上記に先に割増率について結論を説明しましたが、基本的な用語の説明と考え方について触れていませんでした。そこで、残業代の割増率の計算に必要な基本的な用語について簡単に説明いたします。

法定時間内労働とは、労働基準法32条に規定される法定労働時間内での労働を言います。法定労働時間とは、1日8時間、週に40時間であって、原則、使用者はこの時間を超過して労働者に勤務させることはできません。また、原則として休日を週に1回与えることとされ(労基法35条)、これを法定休日と言います。使用者は原則として、法定労働時間を超え、又は法定休日において、労働者を勤務させることはできません。

しかし、例外として、労働基準法36条に規定される36協定と呼ばれる、協定を使用者と労働者の代表等と締結している場合には、合法的に法定労働時間を超過して労働させることができます。この場合、法定休日以外の、労働日において法定労働時間を超過して勤務すると、法定時間外労働となり、使用者は割増賃金を支払う義務が生じます(労基法37条1項)。36協定については、「36(サブロク)協定があれば残業(時間外労働)は自由にさせられる?残業代請求はできるの?」を参考にしてみてください。

また、法定休日において、使用者が労働者を勤務させた場合、その勤務の全部が法律上、法定休日労働となり割増賃金を支払う義務が生じます(労基法37条1項)。

これとは別に、法定労働時間を超過しない場合であっても、勤務する時間によっては、深夜労働となり、使用者は割増賃金を支払わなければなりません(労基法37条4項)。深夜労働とは、労働基準法37条によって規定され、原則として、22時から翌朝の5時の間の時間に勤務した場合の労働を言います(深夜労働について詳しく知りたい方は、「深夜残業の残業代はいくら?残業代計算方法を解説」を参考にしてみてください。)。

具体例を見てみよう

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 割増率の把握はどの時間帯に勤務したかによる
  • 休日労働の場合には、1日に又は週当たりの法定労働時間を超過していても割増率は35%

でも、具体的にはどうやって計算すればいいのかよくわかりません。

それでは、具体例をあげながら、説明をしていきましょう。

※休憩時間が1時間であることを前提としています。

(1)9時から24時まで働く場合

<図解> 残業代につき9~18時は割増率0%、18~22時は割増率25%、22~24時は割増率50%

まず、9時から18時まで勤務した場合を考えます。例えば、就業規則上、その会社の勤務時間が9時から17時までだったとします。この場合、会社の定めた勤務時間からすると、1時間の残業となりますが、1日8時間の枠内に収まるので、賃金の割増はありません(法内残業)。

一方で、9時から勤務を始めて終業時間が20時であった場合には、1日の勤務時間が8時間を超えるので、18時以降の2時間は法定労働時間を超えた残業となり、その割増率は25%となります(法外残業)。

(2)17時から翌2時まで働く場合

残業代につき9~18時は割増率0%、18~22時は割増率25%、22~24時は割増率50%

次に、夕方の17時から勤務を始めて、深夜2時までの勤務を行った場合は、勤務時間の把握は始業日から起算するものの、1日の勤務時間は8時間に収まります。しかし、労働基準法37条1項の規定により、夜の22時以降に勤務する場合には、深夜残業代が発生し、その割増率は25%となります。したがって、この例で言うと、夜の22時から深夜2時までの4時間は深夜割増賃金が発生します。

では、昼の13時から勤務を行い、深夜24時まで勤務した場合は割増率はどのようになるのでしょうか。まず、1日の勤務時間が10時間となるので、残業代が発生します。残業が発生するのは、夜22時以降となりますが、この際の割増率の計算は、時間外割増と深夜割増の2つの割増率を足し、50%となります。

(3)法定休日に18時から24時まで働く場合

残業代につき18時~22時までは割増率35%、22時~24時までは割増率60%

法定休日に、18時から24時まで勤務した場合には、そのすべての勤務時間が休日労働としての残業代が発生し、割増で賃金が支払われます。ここで、注意をしていただきたいのは、仮に勤務した法定休日が含まれる週に、週40時間を超過した場合や、一日8時間を超過していた場合であっても、割増率が重複されず、一律35%となります。

したがって、原則として、休日労働の割増率は35%ですが、休日労働であっても、夜22時以降は、深夜割増が発生するため、22時から24時までの2時間は合計で60%の割増率の賃金が発生します。

まとめ

残業代が発生するのは、1日8時間を超えて勤務した場合に限定されず、この他には、夜の22時から翌朝5時まで勤務した場合の深夜残業代、また、休日に勤務した場合の休日労働としての残業代が発生します。
なお、月間の残業時間が合計60時間を超えた場合、会社は50%以上の割増率で計算した賃金を支払う義務がありますが、中小企業の場合、当面の経過措置(平成35年4月1日に見直し)として、残業時間が60時間を超えても割増賃金の規定は適用されません(労働基準法改正附則1条3号)。
割増率に関連するものとして、「「残業」とは?残業の種類と定義について」や「残業代計算における法定労働時間「週40時間超」の計算方法」や「残業代計算に必要な「月平均所定労働時間数」とは?算出(計算)方法も解説」などもあるので、そちらもご覧ください。