変形労働時間制の残業代の計算方法を分かりやすく解説します。
ざっくりポイント
  • 1週あたりの平均所定労働時間が重要
  • 変形労働時間制が認められる要件は厳しい
  • 残業代はこう計算する
 
目次

【Cross Talk】変形労働時間制でも残業代請求できる?

会社が変形労働時間制を導入しているのですが、決められた時間以上に働いています。残業代を請求することができますか?

ざっくり言えば、1週40時間、1日8時間を超える労働時間が決められている週または日はその決められた時間を、それ以外の週または日は1週40時間、1日8時間を超えた時間について残業代を請求することができます。

それなら残業代を請求できそうです!

変形労働制でいくら残業代をもらえるのか知りたい!

繁忙期と閑散期の差が大きい事業などで変形労働時間制を採用する会社は少なくありません。

変形労働時間制には、事業の繁閑に合わせて労働時間を配分できるというメリットがありますが、固定労働時間制と比べて労働時間の管理が複雑になるというデメリットもあります。

そのため、所定の時間より長く働いているはずだが、残業代を請求できるのかわからない、残業代の計算方法がわからないとお悩みの方は少なくないでしょう。

そこで今回は、変形労働時間制についての一般的な解説と、変形労働時間制の残業代の計算方法を解説します(類似制度であるフレックスタイム制と裁量労働制については、「フレックスタイム制とはどんな制度?残業代請求に必要な基礎知識を解説」、「裁量労働制とはどんな制度?残業代請求に必要な基礎知識を解説」を参考にしてみてください。) 。

変形労働時間制ってなに

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 1週当たりの平均所定労働時間が40時間を超えるかがポイント
  • 超えない場合には一時的に法定労働時間を超えることがあっても残業代は請求できない

変形労働時間制という言葉は聞いたことがありますが、そもそもどういう制度なのですか?

ざっくりいえば、一定の期間内において1週平均の労働時間が法定労働時間(原則40時間)を超えなければ、その期間内の特定の日または週の所定労働時間が法定労働時間を超えても、法定労働時間を超えたと扱わなくてよい(残業代を払わなくてよい)という制度です。

変形労働時間制とは

労働基準法は、使用者は労働者に、1週40時間、1日8時間を超えて労働させてはならないとしています(労基法32条1項、2項)。これを法定労働時間といいます。

しかし、事業によっては繁忙期と閑散期の差が大きく、繁忙期は一時的に法定労働時間を超えて労働させる必要があるのに対し、閑散期は法定労働時間を下回る労働で足りるものもあります。

そのような場合に漫然と労働時間を1日8時間と決めてしまうと、労働者は閑散期でも8時間は労働せざるを得ず、繁忙期には1日8時間を超えて労働することになり、長時間労働を強いられることになります。

そこで、「労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化し」「業務の閑散に応じた労働時間の配分等を行うことによって労働時間を短縮することを目的と」して作られたのが、変形労働時間制です(昭63・1・1基発1号参照)。

変形労働時間制は、一定の期間(1か月以内または1年以内)において、1週当たりの平均所定労働時間が法定労働時間を超えない場合、その期間内の一部の日または週で法定労働時間を超えて労働させることができるというものです(労基法32条の2~同条の5)。

このままではわかりにくいかもしれませんので、具体例を用いて解説しましょう。

たとえば、隔週で忙しくなる事業があり、繁忙期の第1週と第3週は所定労働時間(会社が決める労働時間)が45時間、閑散期の第2週と第4週の所定労働時間は35時間と定められていたとします。

第1週と第3週は法定労働時間(週40時間)を超えているので、変形労働時間制を採用していない会社では超過分について,残業代(割増賃金)を支払わなければなりません。

しかし、4週(1か月以内の期間)を平均すると、1週あたりの所定労働時間は40時間となり、法定労働時間を超えません。 そのため、変形労働時間制を採用すれば、繁忙期に法定労働時間を超える労働をさせることができ、かつ割増賃金を支払う必要がなくなります。

労働者に不利益と思われるかもしれませんが、労働者にも閑散期には仕事が早く終わるというメリットがあります。

所定労働時間等の規制

変形労働時間制では、1週あたりの平均所定労働時間が法定労働時間(週40時間)を超えてはいけません。

したがって、労働時間の上限は、

  • 40時間(法定労働時間)×暦日数÷7

で計算されます。

1か月単位の場合、28日で160.0時間、29日で165.71時間、30日で171.42時間、31日で177.14時間の範囲で所定労働時間を定めることになります。

また、1年単位の場合、365日で2085.7時間、366日(閏年)2091.4時間の範囲内で所定労働時間を定めることになります。ただし、1年単位の場合、対象期間が長期にわたることから、期間内の所定労働時間の上限以外にも規制があります。

もし上限の規制しかないとすると、労働者に閑散期にまとめて休みをとらせ、繁忙期に極端な連続勤務、長時間勤務をさせることができてしまいます。

そのような事態を防止するため、1年あたりの労働日数は280日(年間休日85日)、労働時間についても1日あたり10時間、1週間あたり52時間が限度とされています。

また、連続で労働させることができる日数は原則として6日とされています(特に業務が繁忙な期間を定めたときは最大連続12日とすることができます)。

変形労働時間制導入の要件

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 変形労働時間制の導入には厳しい要件がある
  • 要件を満たさない場合には無効となり、通常通りの残業代を請求できる

会社が変形労働時間制にしようとしているのですが、会社が自由にできるものなのですか?

変形労働時間制を導入するには、労基法所定の事項について労使協定や就業規則で定める必要があります。要件が厳しいため、会社が変形労働時間制だと言っても、実際には要件を満たさず、無効である場合もあります。

1か月単位の場合

1か月以内の期間(多くは1か月単位)の変形労働時間制を導入するには、次の要件を満たさなければなりません

・対象期間と起算日を定める

単に「1か月の変形労働時間制とする」という記載では足りません。

「1か月とは、毎月1日から末日までとする」というように、変形期間の起算日を記載する必要があります。

・期間内の1週あたりの平均所定労働時間が40時間を超えないようにする ・期間内の労働日と所定労働時間を定める

変形労働時間制では、まず、法定労働時間を超えて労働させることができる週を特定する必要があります。

また、1週あたりの平均所定労働時間を計算するには、それ以外の週の労働日や労働時間を定める必要があります

そうなると、結局、期間内の全ての日について、労働日か休日か、労働日の場合は労働時間を定めなければならないということになります。

・上記の3つを労使協定等または就業規則(これに準ずるものを含む)で定める

就業規則に記載した場合は、労基署への提出は必要ありません。

1年単位の場合

1か月を超える期間(多くは1年単位)の変形労働時間制を導入するには、次のようにより厳しい要件が課されています。

  • 対象となる労働者の範囲を明らかにする
  • 対象期間と起算日を定める
  • 対象期間を平均して1週当たりの所定労働時間が40時間を超えないように労働日と労働時間を定める
  • これらの事項を労使協定等で定める

1か月単位と違って就業規則(又はこれに準ずるもの)で定めることはできず、必ず労使協定等で定める必要があります。また、労使協定は、労働基準監督署長に提出しなければなりません。

要件を満たさない場合

このように、変形労働時間制の導入には厳しい要件が課されています。

そのため、会社が変形労働時間制を導入したと主張しても、実際には要件を満たさず、変形労働時間制が無効の場合もあります。

変形労働時間制が無効の場合、法定労働時間を超える労働については、労基法の原則通り残業代(割増賃金)を請求することができます。

変形労働時間制の残業代計算方法

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 1日ごと、1週ごと、全変形期間の順に時間外労働を計算する
  • 法外残業は割増賃金を、法内残業は通常賃金を請求できる

変形労働時間制が認められる場合はどうやって残業代を計算するのですか?

法定労働時間を超える労働時間が定められた週または日においては所定労働時間を超えた部分が、それ以外の週または日においては法定労働時間を超えた部分が時間外労働となり、残業代(割増賃金)を請求することができます。

変形労働時間制における時間外労働とは

時間外労働となるのは、以下の通りとされています(昭63・1・1基発1号)。

  • ア 1日については、法定労働時間8時間を超える労働時間が定められた日はその所定労働時間を、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間、
  • イ 1週については、法定労働時間40時間を超える労働時間が定められた週はその所定労働時間を、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間(アを除く)
  • ウ 全変形期間については、変形期間の法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(ア、イを除く)

アとイは毎月計算できますが、ウについては変形期間が終了しなければ計算ができません。

そのため、アとイで計算される残業代は毎月、ウで計算される残業代は変形期間終了後の直近の給料日に支払われることになります。

具体例

次の具体例を用いて残業代を考えてみましょう。

出典:日本労働弁護団『働く人のための労働時間マニュアルVer.2』163~165頁(日本労働弁護団、2015年)

所定労働時間

 

所定労働時間

 

所定労働時間

 

所定労働時間

 

所定労働時間

緑の部分が所定労働時間にあたります。1か月(31日)の総所定労働時間は173時間で、31日の法定労働時間177.14時間以内となっています。白色のイ~トは所定労働時間を超えて労働した時間です。したがって、総労働時間は 183時間となります。

ア 1日ごとの時間外労働

法定労働時間8時間を超える所定労働時間が定められた日については、その所定労働時間を超えて働いた時間、上の図の「ホ」の部分が時間外労働になります。 所定労働時間が8時間以内の日については、8時間を超えて働いた時間、上の図の「イ」の部分が時間外労働になります。

イ 1週ごとの時間外労働

法定労働時間40時間を超える所定労働時間が定められた週については、その所定労働時間を超えて働いた時間、上の図の「ニ」の部分が時間外労働にあたります。なお、「ホ」は、アで計算していますので、1週ごとの計算ではカウントしません。

所定労働時間が40時間以内の週については、40時間を超えて働いた時間、上の図の「ハ」の部分が時間外労働になります(アで計算した「イ」を除くと、労働時間は41時間となるため)。

ウ 全変形期間の時間外労働

アとイで計算した1日ごと、1週ごとの時間外労働を除いた労働時間は、179時間(183時間-4時間)です。

したがって、法定労働時間177.14時間を超える1.86時間(上の図の「チ」の部分)は、所定労働時間ではありますが、時間外労働になります。

エ 時間外労働のまとめ

以上から、時間外労働となるのは、ア~ウの合計、上の図でいえば「ホ」「イ」「ニ」「ハ」「チ」の合計5.86時間です。

他方、「ロ」「へ」「ト」は、所定労働時間は超えますが時間外労働には当たりません(法内残業に当たります)

オ 残業代の計算

時間外労働のうち、「ホ」「イ」「ニ」「ハ」については125%以上の割増賃金を請求することができます。 「チ」については、所定労働時間に含まれているため、通常賃金は支払われているはずですので、割増賃金25%以上のみ請求することができます。

「ロ」「へ」「ト」の合計6時間は法内残業にあたり割増賃金を支払う必要はないので、100%の所定外賃金を請求することができます。

まとめ

変形労働時間制の解説と残業代の計算方法を紹介しました。変形労働時間制が無効になる場合もありますし、有効である場合でも固定労働時間制と比べると残業代の計算方法は複雑です。
ご自身の残業代についてより正確に知りたい方は、労働問題に詳しい弁護士に相談するといいでしょう(弁護士の探し方については「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」を参考にしてください。)。