介護福祉士、薬剤師、看護師用の医療職で未払い残業代を請求するためのポイントをご紹介します。
ざっくりポイント
  • 看護師や介護福祉士、薬剤師であっても残業代の請求はしてよい
  • 看護師や介護福祉士、薬剤師であっても等しく「労働者」である
  • 残業代は正当な対価

目次

【Cross Talk 】介護福祉士、薬剤師、看護師用の医療職で未払い残業代を請求するためのポイントをご紹介します。

私は看護師として都内の病院に勤務しているのですが、とにかく慢性的な人員不足で、日勤として朝8時から勤務を開始したのに、仕事を終えるのは、準夜勤時間帯の22時です。
私の気持ちとしては、患者様に寄り添った看護を行いたいという気持ちがあるのですが、こうした気持ちと、残業代を請求してしまうこととが対立してしまい、残業代の請求がまるで悪いことのようなうしろめたさを感じています。

なるほど、相談者さんは余程真剣に看護師としてお仕事に取り組んでいらっしゃるのですね。わたしも、看護師の方だけではなく、介護福祉士、薬剤師といった医療関連・福祉関連の方から同様の相談を受けることがあります。
医療人としての使命感と、一般の労働者としての権利とは、心理的に対立してしまうことがあったでしょう。
しかしながら、看護師や介護福祉士、薬剤師であっても、雇用関係にあるならば「労働者」であることには変わりなく、等しく労働法規の保護のもとにあります。
したがいまして、労基法32条にあるとおり、原則的には1日8時間、週に40時間を超過したのであれば、その分の賃金を請求する権利があります。逆を言うと、病院などの医療機関にはきちんと残業代を支払う義務があります(労基法37条)。
お気持ちがつらく、お悩みの際は是非、弁護士を頼ってください。

ありがとうございます。先生にご相談して本当によかったです。

福祉関連職は長時間労働が常態化していますが、未払いの残業代請求はどうすれば良いのでしょうか

少子高齢化にともなって、福祉関連職(看護師、介護福祉士、薬剤師、ケアマネージャーなど)の人員が追い付かない状況が散見されます。このような状況から、福祉関連職の方々の労働時間が恒常的に長時間となっている場合が少なくありません。
また、職種の特殊性などから、未払いの残業代があるといったことが、多く報告されています。
ここでは、こうした実態を踏まえて、未払いの残業代を請求するポイントについてご説明します。

介護・医療職で残業代未払いが多い理由

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 残業代請求そのものが悪いことのように扱われる空気感がある
  • 慢性的な人員不足と予算不足から残業が多くなりがちである
  • 業界全体として未払いの残業代がある場合が少なくない

介護職、医療職では、シフトが複雑で、準夜勤をしたのちに日勤といったことがよくあります。

介護職(介護福祉士、ケアマネージャー、ホームへルパー)、医療職(看護師、准看護師、看護助手、薬剤師)の方々は慢性的な人手不足により、恒常的な長時間労働となっているようですね。

このような介護・医療職で残業代の未払いが多い理由としては、冒頭でもご紹介したとおり、介護・医療の職業イメージとして、神聖さや清廉さ、あるいは、献身的であるなどといった印象や、使命感などが、残業代請求の心理的な障害となっているものと考えられます。
また、このような空気感は少なくない職場でみられるため、献身的に仕事をするのであれば残業もやむなしといった雰囲気と、こうした献身とは対極と思える残業代の請求を快く思わない病院や医療機関の体質、あるいは医療費抑制の圧力からくる予算的な制限から、残業代の未払いが生じているものと推察いたします。

介護・医療職で残業代を請求する6つのポイント

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 残業代請求には証拠集めが重要
  • 証拠集めは在職中に行うべきである。
  • 医療機関側のみなし残業(固定残業制)であるとか、管理職であるから残業代は支払う必要がないといった主張は鵜呑みにしない。
  • 夜勤の仮眠時間についても残業代請求できる可能性がある

先生、私は勇気を振り絞って、残業代を請求しようと決意しています。どうしたら良いのでしょうか。

なるほど。それほど固い決意をされたということは、大層ご心労があったということでしょうか。残業代を請求するためには、いくつかポイントがあるので、下に説明させていただきます。

残業代請求の基礎知識を得る

残業代の請求は、まずは、次項で紹介する証拠の確保が重要です。証拠の確保は、退職後でもある程度可能ではありますが、その場合、一般的には弁護士を通じて、医療機関などへ請求することとなります。
したがいまして、残業代請求を決意された場合には、可能な限り在職中に証拠を確保するようにすれば良いでしょう。
残業代は、確保している証拠をもとに残業代を計算し、医療機関等へ請求します。証拠内容がしっかりとしている場合には、交渉の段階で相手方が話し合いに応じ、残業代が支払われることがあります。
しかしながら、証拠が不足していたり、請求の内容に争いがあると、多くの場合、労働審判、訴訟へと請求の場が転じていきます。詳細は「業界的に「サービス残業」が当たり前になってしまっている場合の残業代請求交渉」をご参照ください。

介護・医療職特有の証拠

介護・医療職特有の証拠としては、下記のものがあげられます。

  • 介護、看護日誌
  • 介護記録や看護記録における経過記録
  • 申し送り表記載の時刻

証拠の集め方については「未払い残業代請求のための証拠の集め方」をご覧ください。

「みなし残業制(固定残業制)だから残業代は出ない」は誤解

みなし残業制(固定残業制)であったとしても、実質的に時間外手当として支払われていないなど、制度に不備があるような場合には、残業時間の全額について請求できる可能性があります。

一方でみなし残業制(固定残業制)自体に不備がなかったとしても、みなし残業として規定されている時間を超過して労働していれば、超過分につき残業代の請求が可能です。

みなし残業制(固定残業制)について詳しく知りたい方は「みなし残業制(固定残業制)で月30時間・40時間・50時間の場合の残業代計算方法」をご覧ください。

夜勤の仮眠時間も労働時間に該当するかもしれない

夜勤の仮眠時間であっても、患者からのナースコールなどがあれば、人命にかかわるため、即応しなければなりません。こうした場合、「不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保証されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである」(大星ビル管理事件:最1小判平成14・2・28民集56巻2号361頁参照)として、労働時間であると評価される可能性があります。

仮眠時間について詳しく知りたい方は、「仮眠時間、移動時間は労働時間・残業の計算に含まれる?」をご覧ください。

管理職だから残業代請求ができないのは誤解

労基法41条に該当する管理監督者の定義は非常に厳格です。
したがいまして、管理職のような肩書であったとしても、残業代の請求ができる可能性があります。迷いが生じた場合には、弁護士に相談してみると良いでしょう。

管理監督者について詳しく知りたい方は、「支店や店舗の店長は「管理職(管理監督者)」にあたり、残業代は出ないの?(名ばかり管理職)」をご覧ください。

退職しても残業代請求はできる

退職しても残業代の請求は可能です。しかし。「残業代請求の基礎知識を得る」で説明したとおり、証拠収集の難度が上がる(医療機関側の任意の開示によらざるを得ない面がある)ため、在職中に残業代の請求準備を進めるのが良いでしょう。
なお、残業代の請求権は毎月の給与支給日から2年が経過すると、経過した月の給与に係る部分がその都度時効(ある法的な請求権を行使できる期間を指します。)で消滅しますので、退職後に請求をお考えの場合はお早めに法律事務所へご相談されるべきです。

退職後の残業代請求については、「【退職後の残業代請求】残業代請求は退職後もできる?時効は?」をご覧ください。

まとめ

いかがでしたでしょうか。人の命を預かる大切な仕事である、介護・医療職。しかしながら、ここで取り上げましたとおり、現場は長時間労働や人員不足によって大変に苦労されていることでしょう。残業代請求をしてしまって良いのか、と気に病んでしまう場合には、弁護士に相談してみると良いでしょう(弁護士をお探しの方は「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」を参考にしてみてください。)。