景気がよさそうなイメージのある建設業界においても未払い残業代があります。どのように未払い残業代を請求するのかについてご紹介します。
ざっくりポイント
  • 建設業は2024年3月31日まで残業時間の労基法改正による上限規制は適用除外となる
  • 残業時間の上限がなくとも残業代の支払い義務はある

目次

【Cross Talk】裁量労働制が導入されても残業代請求はできる

先生、ちょっとわからないのだけど、最近、うちの若い衆が残業代をよこせとうるさくて。私は建設業界に入って長いが、今の若いのよりももっと厳しいなかで修行してきたんだが、残業代を支払ってやる必要があるだろうか。こんなこと請求して良いのでしょうか。

なるほど。相談者さんは昔かたぎの職人気質をお持ちなのですね。若い時分に大変に修行されて、また、そうして得た技能を生かされて、若いとび職の職人を抱えながら立派にお仕事をされることは、大変に素晴らしいと思います。

ありがとうございます。

相談者さんのおっしゃるとおり、現在のところ、建設業関連では残業時間の上限規制は除外されています(厚生労働省労働基準局通達 平成30年9月7日基発907第1号:令和6年(2024年)3月31日まで適用除外)。
しかしながら、残業時間の上限が適用されないということと、時間外の労働に対して残業代を支払わないことは別の問題です。
1日8時間、週に40時間を超える時間の労働に対しては、キチンと残業代を支払う義務があります(労基法37条)。
したがいまして、相談者さんのところの若い従業員(職人)の方々が、会社に対して残業代の請求することは、何もわるいことではありません。逆に、若いのに面と向かって主張するなんて、気骨があって素晴らしいではありませんか。

なるほど。先生、よくわかりました。なんとか、若い衆に支払うべき残業代を工面しようと思います。やっぱり、弁護士の先生に相談してよかったです。

建設業界で未払い残業代を請求するポイントとはなんでしょうか?

建設業界では、大工、左官、とび職、電気工事などは、残業時間に上限がなく、いくらはたらかせても残業代を払う必要はないと言われることがよくあります。

建設現場の職人たちは無限に働かせてよいといった誤解を、少なからず生みだしているようです。大工、左官、とび職、電気工事などの当事者である職人たちも、業界の古くからの因習から、長時間の労働に対しての正しい認識を持っていない場合があるようです。この記事では、建設業界で働く人向けに、残業代請求するポイントについて説明します。

建設業で残業代未払いが多い理由

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 工期が短く、人員が少ないため、決められた期限に間に合わせるため長時間労働になりがち
  • 勤務時間の区分けが難しく、同様に勤務時間の記録を取りづらいため残業代の支払いがあいまいとなる
  • コスト面の問題から、暗黙のサービス残業が発生しがちである。

私は型枠大工をしているのだけど、残業代の支払いがありません。とび職の友人も日当が高いから許せるが、そういえば残業代の支払いはもらった覚えがないといっています。

建設現場では、工期が細かく決まっていて、かつ、一つの工期がずれると全体の工期を見直す必要があることから、なかなか、柔軟に工期を調節することができません。
また、建設業界の競争の激しさなどもあり、短い工期にも関わらず、人員が不足しているといったことも珍しくはないようです。
したがって、建設現場では長時間労働となりがちですが、元請け、下請け、孫請けなどのコストなどの問題から、残業代を支払うことに対して、コスト上の抵抗がつよく、結果として残業代の未払いが発生してしまうといった状況があるようです。
このようなことから、暗黙のうちにサービス残業が行われている場合もあります。
このほかにも、会社のデスクなどで勤務する場合と異なり、大工やとび職は、現場を飛び回る仕事であることから、勤務記録を記録することが難しく、また、移動時間がおおいことから、どこまでが勤務時間なのかを判断するのが困難であるといった事情もあります。

建設業で未払い残業代請求する5つのポイント

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 退職すると証拠収集が困難であるため、なるべく在職中に証拠収集を行う
  • 会社が主張する、管理監督者だから残業代請求ができない、固定残業制だから残業代はないといった主張をうのみにしない
  • 残業代請求の時効期間は2年間である

建設業でも残業代請求するためのポイントを教えてください。

建設業でも残業代の請求はもちろん可能です。以下にそのポイントを記載するので、確認してみてください。
もし、わからなかったり、疑問が生じた場合には、お気軽に弁護士にご相談ください。

残業代請求の基礎知識を得る

残業代請求のながれは、残業代の計算、、証拠収集、交渉、審判・訴訟と進んでいきます。まずは、次項で説明するとおり、勤務時間についての証拠を集めて、その証拠にもとづいて、残業代の計算を行います。

計算した残業代を、会社に提示して請求を行うのですが、最近はこの段階で双方に合意が得られて解決する場合があります。

建設業特有の証拠

建設業特有の証拠としては、業務日誌、スマホ上のメールのやりとり(会社からの指示内容の記録)、作業後の記録として撮影する写真などがあります。

証拠の集め方については、「未払い残業代請求のための証拠の集め方」を参考にしてみてください。

「現場監督者だから残業代がでない」は誤解

現場監督が管理職だから、残業代の支払義務がないといった理解は誤解です。

労基法41条に該当する管理監督者とは、判例法理上および行政解釈としては、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」(旧労働省通達 昭和22年9月13 発基17号、昭和63年3月14日 基発150号)を指します。

このように、労基法上の管理監督者は、管理職の名目を与えるだけで容易に認められるものではなく労働の実態から判断されます。。そのため、現場監督であっても残業代が認められる可能性があります。

詳細は「業界的に「サービス残業」が当たり前になってしまっている場合の残業代請求交渉」を参照してください。

名ばかり管理職であれば残業代請求できる。詳細は「管理監督者とはどんな立場?「名ばかり管理職」チェックリスト」をご覧ください。

「みなし残業(固定残業制)だから残業代は出ない」は誤解

みなし残業代(固定残業制)であっても、そもそも、労働契約書や就業規則に規定されていない場合や、基本給にあたる部分と、残業代にあたる部分を明確にしていないなどの場合には、みなし残業代の制度は無効になります。

また、仮に有効であるとしても、みなし残業代に含まれる労働時間を超過すれば、残業代を請求することができます。

みなし残業(固定残業制)の要件は厳格、詳細は別コラムをご参照ください。

退職しても残業代請求はできる

退職してしまった場合でも、残業代の請求は可能です。

ただし、残業代の請求には証拠収集が重要ですので、在職中に残業代請求の準備を進めるのが良いでしょう。また、残業代の請求には、時効期間が2年間ですので注意が必要です(時効期間とは、その期間を超過すると請求権が行使できなくなる期間を言います。)。

退職後の残業代請求については、「【退職後の残業代請求】残業代請求は退職後もできる?時効は?」をご覧ください。

まとめ

いかがでしたでしょうか。建設現場は常に人手不足であり、一方で、競争が厳しいため、残業代の請求をすることが業界の雰囲気的に厳しいといったことがあるかもしれません。しかしながら、労働者には働いた分の賃金をもらう権利があります。どうすれば良いのか悩んだ場合には、弁護士に相談すると良いでしょう(弁護士の探し方については、「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」をご覧ください。)。