広告代理店・ウェブデザイン会社で働く人が未払い残業代の請求をするためのポイントについてご説明いたします。
ざっくりポイント
  • 広告代理店・ウェブデザイン会社では、サービス残業を美徳とする文化が少なからずある
  • 労働の対価である残業代は、サービス残業であっても、会社に請求することは悪いことではない

目次

【Cross Talk 】広告代理店・ウェブデザイン会社では、サービス残業が当然であり、「残業代」はでないのが常識なのでしょうか。

私はウェブデザイン会社に勤務してまだ日が浅いのですが、毎日、22時頃まで働いています。締め切り前だと、さらに、終電間際となることも珍しくはありません。
それでも、毎月の給与は変わらないのですが、先輩社員に相談したところ、私たちの業界はこれが当たり前だと言われてしまいました。

相談者さんは、毎日、遅くまでお仕事をされて、さぞかし大変だったことでしょう。
しかしながら、各業界の常識感や慣習と、法的な残業代支払い義務は別の問題です。
また、残業代を請求することは、悪いことではなく、労働の対価として認められる正当な請求権です。仕事で努力を重ねることは良いことですが、その対価である残業代はしっかりと請求しましょう。残業代の請求について、お悩みでしたら、お気軽にご相談いただければと思います。

ありがとうございます。先輩やまわりのみんなが頑張っているのに、私だけ残業代について請求することに、後ろめたさを感じていました。もう少し詳しくお話を相談させてください。

広告代理店・ウェブデザイン会社で働く人が残業代請求をするにはどうすれば良いのでしょうか。

広告代理店・ウェブデザイン会社では、発注元からの無理な要請や、極端に短い納期、あるいは、締め切り直前の変更指示などにより、長時間労働となり易い環境のようです。また、業界の雰囲気や会社の空気感として、サービス残業でがんばる姿に美徳を感じて、評価するといった文化が残っているようです。このように、広告代理店・ウェブデザイン会社では、長時間の労働の実態があり、かつ、残業代の支払いを受けていないといったことが少なくはないようです。ここでは、こうした方々が、残業代の請求をするためのポイントについて説明をいたします。

広告業で残業代未払いが多い理由

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 長時間労働を良とする体質は従前からかわらないところが少なくはない
  • 広告費のインターネットメディアへのシフトが業務量を増加させサービス残業を誘発している

広告業(ウェブデザイナー、CMプランナー、プロダクションマネージャー)では、どうして残業代未払いが発生してしまうのでしょうか。

広告業全体の流れとして、従来の新聞、テレビなどのメディアから、インターネットへ広告費を集中させる現象が加速してきています。

昨年の電通の発表の日本の広告費(2017年)のうち、テレビメディアの広告費は約1兆9500億円であったところ、インターネットメディアでは、約1兆5000億円であり、前年比115.2%増であったとの調査報告があります。

トレンドとして、スポンサーの予算がインターネットの広告媒体へと流入しているなか、インターネット広告は「1クリック100円」など、その単価が低い一方で、広告マーケティング上の膨大なウェブデータの分析が必要となるなど、業務量が膨大となりがちです。

他方で、競争環境の激化などの理由から、十分な受注予算を確保できず、社員のサービス残業を黙認する場合や、そもそも、会社が行うべき適切な労働時間の管理義務(改正労働安全衛生法66条の8の3参照)を果たさないといった現実が少なくはありません。

また、業界全体の課題として、以前から、定時の労働時間では到底こなせないような業務量を、一人の社員に負担させるといった体質があります。事例としては、前出の電通では、有名な判例として、平成12年の最高裁の判決があります(電通事件最高裁判決(最高裁第2小法廷平成12年3月24日判決))このほかには、同社の平成28年に過労自殺した女性社員の事件が記憶に新しいでしょう。

このようなことから、広告業界の会社では、サービス残業が横行し、未払いの残業代が生じているのではないかと推察されます。

広告業で未払い残業代請求する5つのポイント

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 会社が主張する無茶な時間の固定残業制は裁判所に無効として否定される場合がある
  • 会社が勤務記録を合理的な理由なく提出しない場合でも、残業代の請求ができる場合がある
  • 残業代請求権は2年間の時効期間があるため、退職より2年以上たつと請求できない可能性がある

先生、私は毎日12時間以上も勤務し、土日もいずれかがつぶれるような企業の体質についていけず、残業代を請求して転職しようと検討しています。広告業で残業代請求するポイントなどはあるのでしょうか。

相談者さんのように、毎日の激務が継続すると、心と身体に深刻な影響が起きることは珍しくはありません。また、転職を機に残業代を請求することを考える方は、一般的だと考えます。
ところで、残業代を請求するためには、「残業を行った証拠」が必要となります。それだけではなく、相談者さんと会社との契約内容がどのようなものであったかについて、確認をする必要があります。
また、会社側は人件費削減のため「どうしても残業代を支払いたくない」という考えに陥りがちであるため、さまざまな言い訳を用意します。したがって、残業代を請求するには、下記に記載するようなポイントが考えられます。

残業代請求の基礎知識を得る

まず、残業代請求の基礎知識についてご説明します。
上で説明したとおり、当たり前のことではありますが、残業代の請求には「証拠の収集」が重要です。

証拠を収集し、労働時間の証明に十分な証拠を集めることができ、会社側の反論が困難である場合には、この段階で会社が話し合いに応じ、未払いの残業代の全額を支払う約束をする場合があります。

しかし、残業代請求は、会社に未払いの残業代を支払うことを約束することだけでは終了しません。その理由は、会社が支払いを認めたからと言って、実際に支払うとは限らないためです。また、法的なことを知らない労働者が交渉を行うと、会社はその場しのぎの言葉を語り、いろいろと理由をつけては、残業代の支払いを免れようとします。

このような場合には、訴訟手続きなどが必要な場合もありますが、弁護士が介入することにより、裁判しなくても、確実に未払い残業代を回収する可能性があります。弁護士は法的交渉のプロですので、残業代を請求しようと考えたら、早期に相談してみると良いでしょう。

詳細は「業界的に「サービス残業」が当たり前になってしまっている場合の残業代請求交渉」を参照してください。

広告業特有の証拠

広告業特有の証拠として、下記のものがあります。

広告業特有の証拠

  • 広告のアップロード履歴
  • パソコンの使用履歴、サーバーログインログ等
  • チャットワーク、Slackなどのオンラインツールの履歴
  • 営業日報
  • クライアントと飲み会日程確認メール、上司とのメールの履歴
  • スケジュール管理ツール上の記録

このほかにも、googleカレンダー上の記録や手帳の記録などの自分でメモした記録などが、証拠として採用される場合もあります。

一般的な証拠の集め方については、「未払い残業代請求のための証拠の集め方」を参考にしてみてください。

「現場責任者だから残業代がでない」は誤解

管理職だから残業代の支払い義務がないといった会社の主張の多くは、誤った理解です。労基法41条2号の管理監督者に該当すると法的に評価される場合は、非常に限定したケースに限られます。

したがって、一般的な労働者において、会社が上記のように主張してきても、そのような主張は法的には認められず、原則どおり残業代の請求をすることができます。

名ばかり管理職だと、原則的には残業代請求ができます。詳細は「管理監督者とはどんな立場?「名ばかり管理職」チェックリスト」をご覧ください。

「みなし残業(固定残業制)だから残業代は出ない」は誤解

会社が残業代の支払いを回避する目的で、みなし残業制(固定残業制)を規定しても、法的にはその有効性が問題になります。

例えば、会社の主張に、営業手当の名目で割増賃金を支払っているため、「これにより割増賃金の支払義務は消滅した。」との主張について、判例では、36協定で認められる残業時間の上限を「月45時間」と解し(※2019年4月1日以降は労基法36条4項上、規定されることとなりました。)、「100時間という長時間の時間外労働を恒常的に行わせることが上記法令の趣旨に反するものであることは明らかである」として、会社側の主張を否定し、営業手当を基本給に組み入れた計算にて算定した残業代を認めるものがあります(東京地判平成23年10月25日労働判例1041号62頁)。

みなし残業(固定残業制)の要件は厳格です。詳細は「みなし残業制(固定残業制)で月30時間・40時間・50時間の場合の残業代計算方法」をご覧ください。

退職しても残業代請求はできる

未払い残業代の証拠収集は、在職中に行うのが肝なのですが、すでに退職しているからといっても、あきらめる必要はありません。

弁護士の介入により、退職済みの広告業の会社へ、勤務時間の記録や、就業規則などの資料を請求することが可能です。一般的には、弁護士が介入してきた時点で、素直にタイムカードの記録を提供するのですが、中には、「既に破棄した」などと嘘をつき、弁護士の照会に応じない場合があります。

このような場合でも、「被告は、労働時間管理のための資料を合理的理由なく廃棄したなどとして提出しないから、公平の観点上、本件では推計計算の方法により労働時間を算定するのが相当である」(東京地判平成23年10月25日労働判例1041号62頁)とした判例があります。

なお、残業代の請求権には時効により制限があり、一般的には退職から2年以上経過してしまうと、請求権を喪失してしますことがあります(時効について知りたい方は、「【退職後の残業代請求】残業代請求は退職後もできる?時効は?」をご覧ください。)。

このほか、労働時間の推計時間による算定などは、法的判断を伴うため、弁護士などの専門的な知見が必要です。証拠がない場合や、退職した会社が資料の提供に応じない場合も、あきらめずに弁護士に相談してみましょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。広告業界(広告代理店・ウェブデザイン会社)で働く方は、日々、ハードに働いていることが多いことでしょう。長時間のサービス残業は、最終的にはご自身の健康を害すことがあります。それだけのリスクを負担する一方で、残業代が未払いであることを我慢する必要なないでしょう。迷いが生じたら、一度、弁護士に相談してみてください。
弁護士の探し方については「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」をご覧ください。