残業代の支払い義務の内容と会社が義務を履行しない場合の対応策を詳しく解説いたします!
ざっくりポイント
  • 所定労働時間を超えれば残業代を請求でき、法定労働時間を超えるときは割増賃金を請求できる
  • 遅延損害金や付加金を請求することもできる
  • 会社が残業代を支払わないときは弁護士に依頼するのがおすすめ

目次

【Cross Talk 】残業代をもらっていないとき会社に何を請求できるの?

求人には1日の労働時間が7時間30分と書いてあったのに、実際に入社してみるととてもそんな時間では仕事が終わりません。なのに給料はもともと聞いていた額しかもらえません。これっておかしくないですか?

そうですね。
会社で定められた労働時間を超える労働をした場合、基本的に超過した分の賃金として残業代を請求することができます。もし法律で定められた労働時間を超える労働をした場合は、超過した部分について通常の賃金に割り増しした賃金を請求することができます。
実際にどれだけの時間、労働したかの資料を集めて、残業代を計算してみてはいかがでしょうか。

残業代を請求できるんですね!

残業代の支払い義務についての基礎知識を紹介いたします

従業員に長時間の労働をさせながら残業代を支払らない、いわゆるブラック企業がいまだに後を絶ちません。
おかしいと思いながらも、残業代を請求できるのか、会社が請求に応じない場合にはどうすればいいのか分からず、そのまま働き続けている方も少なくないでしょう。

そこで今回は、残業代が支払われていない場合に請求できる権利の内容や、会社が支払いに応じない場合の対応策など、残業代についての基礎的な知識を詳しく解説いたします。

残業代の支払い義務となるのはどんな請求権か

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 所定労働時間と法定労働時間の違いを把握する!
  • 支払われるまでの遅延損害金や付加金を請求することができる

入社以来一度も残業代をもらっていないので残業代を請求したいです。具体的にどのような請求ができるのですか?

会社で定められた労働時間を超える労働をした分について、基本的に残業代を請求することができます。さらに、法律で定める労働時間を超えた場合には、超えた分について法律で定める割増率をかけた割増賃金を請求することができます。また、残業代が支払われるまでの遅延損害金や、使用者に対するペナルティとしての付加金を請求することができます。

残業代は所定労働時間を超える労働に対する給与

残業代は、労働契約などで定められた労働時間(所定労働時間)を超える労働に対して支給される給与(賃金)です。

通常、労働契約などで1日の労働時間が定められており、それに基づいて月給などの賃金が計算されています。
そこで、所定労働時間を超える労働をした場合は、超過部分について別途、賃金を支払う必要があるのです。

残業代の不払いは給与不払いである

「残業代は所定労働時間を超える労働に対する給与」のとおり、残業代は給与ですから、残業代の不払いは給与の不払いということになります。
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立するものです。

したがって、賃金を払うことは使用者のもっとも基本的な義務であり、残業代の不払いはこの基本的な義務を怠っていることになるのです。

法定労働時間を超える場合には割増賃金の支払い義務がある

労働基準法は、原則として1日8時間、1週40時間を超えて労働させてはならず(法定労働時間といいます)、例外的に労働させることができる場合であっても、通常の労働時間の賃金に法律で定める割増率をかけた割増賃金を支払わなければならないと定めています。

所定労働時間と法定労働時間について具体的にみてみましょう。
労働契約によって勤務時間が午前9時から午後5時まで、午後0時から午後1時間までが昼休み(休憩)と定められていたとします。
この場合、所定労働時間は休憩を除いた1日7時間です。

午後5時になっても仕事が終わらず午後6時まで労働した場合、所定労働時間を超えて1時間労働したことになるので、残業代を請求することができます。
さらに、午後6時でも終わらず午後7時まで労働した場合、1日の労働時間が法定労働時間である8時間を超えることになるので、法定労働時間を超える1時間分(午後6時から午後7時まで)について通常の賃金に1.25倍以上の割増率をかけた割増賃金を請求することができるのです。

支払い日までの法定利率

「残業代は所定労働時間を超える労働に対する給与」、「法定労働時間を超える場合には割増賃金の支払い義務がある」の残業代や割増賃金のほかに、実際に残業代等が支払われるまでの間、法定利率に基づく遅延損害金(支払いが遅れたことによる損害賠償金)を請求することができます。

法定利率は、2020年3月31日までのものについては年6%(ただし、使用者が学校法人や医療法人など商人ではない場合は年5%)、2020年4月1日以降のものは年3%です。

また、労働者が退職した場合、退職した日の翌日から残業代が支払われるまでの間の遅延損害金の法定利率は年14.6%になります(賃金の支払の確保等に関する法律6条1項、同法施行令1条)。

残業代不払いの使用者に課せられるペナルティ

さらに、残業代不払いに対する使用者のペナルティとして、残業代と同額の付加金を請求することができます。

ただし、付加金は、労働者の請求により裁判所が決定するものですから、裁判をしなければ請求することができないことに注意が必要です。
また、付加金の支払いを命じるかどうかは裁判所の裁量にゆだねられており、裁判所は使用者による労働基準法違反の程度や態様、労働者が受けた不利益の性質や内容、前記違反に至る経緯やその後の使用者の対応などの諸事情を考慮してその支払の可否及び金額を検討するとされています(松山石油事件/大阪地裁判決平成13・10・19労働判例820・15)。

残業代の支払い義務を履行しない場合の対応策

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 労働基準監督署の指導勧告も効果がなければ裁判手続きを利用する
  • 円滑・迅速に進めるためには弁護士に依頼を

残業代の内容はわかったので会社に請求しようと思いますが、もし会社が払ってくれなかったらどうすればいいですか?

労働基準監督署に相談して、労働基準監督署から会社に指導勧告してもらうという方法があります。それでも会社が支払わないようなら、会社に内容証明郵便を送り残業代の支払請求を行い、それでも会社が支払わない場合は裁判手続きを利用するという流れになるでしょう。

労働基準監督署に相談をする

会社が残業代を支払わないのは、労働基準法について誤解していたり単純な計算ミスをしていたりする場合を除き、残業代を支払う義務があることを知りながらあえて支払わないという場合でしょう。
そうすると、従業員から残業代を請求されても、会社が易々と応じるとは限らないということになります。

そのような場合には、労働基準監督署に残業代の不払いを相談することが有効です。
労働基準監督署は、企業が労働基準法等の法令に違反している場合や、法令には違反していないが改善すべきことがある場合に、監督や指導をすることができます。

そこで、労働基準監督署に相談し、労働基準監督署に動いてもらうことで、残業代の支払いを間接的に促すことができるのです。

内容証明郵便を送り支払わない場合には裁判手続きを利用する

労働基準監督署の指導や勧告には強制力がないので、会社がこれらを無視して残業代の支払いに応じないということもありえます。

そのような場合には、強制力のある裁判手続きを見据えた行動をとる必要があります。
具体的には会社に対して残業代を請求する内容証明郵便などを送付し、それでも支払いがない場合には労働審判や通常訴訟といった裁判手続きを利用することになります。
残業代の支払いを命じる審判や判決が確定した場合、会社が任意に支払いに応じないときは、会社の財産を差し押さえる等して強制的に回収することができます。

弁護士に依頼するのがスムーズ

労働基準監督署に動いてもらうには法令違反の疑いがあることについての証拠が必要であり、証拠が不十分である場合には労働基準監督署に動いてもらえないおそれがあります。
また、内容証明郵便を作成したり、裁判を起こしたりするには専門的な知識が不可欠であり、独力で対応するのは難しいでしょう。

そこで、残業代請求をスムーズに進めるには、弁護士に依頼をして、必要な証拠とその収集方法について助言を受けたり、弁護士に書類の作成や裁判への出席を任せたりすることが効果的です。

まとめ

残業代の支払い義務に関する基礎知識を解説しました。
残業代や遅延損害金等を請求するには、証拠を集め、残業代を計算したうえで会社と交渉し、交渉で解決できないときは裁判手続きを利用するという過程が必要になります。
専門的な知識がないと難しいので、残業代を請求したい方には、早めに専門家である弁護士に依頼することをおすすめいたします。