会社を退職することを決めた人が行うべきポイントを説明いたします。
ざっくりポイント
  • 1ヵ月前に「退職届」を出せば、退職がスムーズに!雇用期間によって例外も
  • 失業保険だけではない!雇用保険の活用でお金がもらえる
  • 退職後の手続きをリスト化しよう
 
目次

【Cross Talk】退職の手続きには何が必要?何をしたらいい?

食品工場で働いています。次の仕事が決められなくて、何だかんだ5年いましたが……サービス残業が多くて。ところで、退職の手続きって何が必要ですか?

まず退職の意思を伝えることが必要です。退職届の提出が必要になるかは、勤務先によるでしょう。あとは退職の理由や、退職後どうするかによっても、何を準備するか多少変わります。まずは基本的な流れを知っておきましょうか。

先生、お願いします!知恵を貸してください!

退職が決まったら、することって何だろう?

仕事を辞める前には、することや考えることがたくさんあります。まずは、お世話になった会社に迷惑をかけないよう、引き継ぎ期間も考えて「退職願」を提出しましょう。

退職後も、クレジットカードの手続きや確定申告、保険・年金など多くの手続きがあります。

身の回りの整理に関すること

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 退職を決めたら、1か月前には「退職願」を申し出よう
  • 退職届は、退職願が受理されてから届け出る
  • 早めに私物整理、業務の引継ぎをして,有給休暇を消化しよう!

先生、よく「退職の申し出は2週間前で良い」って聞きましたけど、前に、辞めた正社員が工場長に怒られてたんですよ。「退職は1か月前に言ってくれ」って。どっちが本当なんですか?

民法では、雇用期限が定まっていない雇用の場合は、退職の申し出から原則2週間で辞職できます。ただ、契約によっても若干違いがあるので、次のまとめを参考にしてください。

退職届を出す

雇用期間が決まっていない場合(無期労働契約)

→原則として2週間前に申し出る
※ただし、月給制・年俸制の場合の例外アリ(改正法では例外はなくなる)

雇用期間が決まっている場合(有期労働契約)

→期間の満了によって雇用契約が終了するのが原則だが,やむを得ない事情があれば、いつでもやめることができる

→また,5年以上たてばいつでも退職できる

(労働契約期間が上限3年の場合は、1年を過ぎればいつでも退職できる)

雇用期間が決まっていない場合

民法第627条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

2 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。

3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。

雇用期間が決まっていない場合(無期労働契約、いわゆる正社員に多い)は原則として2週間前に退職を申し入れれば、いつでも辞職できます(民法627条第1項)。

ただし、2019年2月現在では、月給制や年俸制の場合には、辞職の制限があります(民法627条第2項、第3項)。

月給制の場合では、月の前半に申し出なければなりません。例えば、1月1日~15日に辞職の申し出をした場合には、1月末で辞職の効力が生じ、1月16日~1月31日に辞職の申し出をした場合には、2月末に辞職の効力が生じるということです。

年俸制の場合には、3ヵ月前までに辞職の申し入れをする必要があります。ただ、就業規則で3ヵ月より短い期間を定めている場合には、就業規則の規定が優先されます。

これらの辞職の制限については、2020年4月1日に施行される改正民法でなくなります。改正後の条文では、民法627条第2項に「使用者から」という文言が加わることになるので、月給制や年俸制の場合であっても労働者側からの辞職の申し入れであれば、2週間前に行うことで効力が生じることになるのです。

雇用期間が決まっている場合

民法第628条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

期間の定めがある雇用契約の場合(無期労働契約、いわゆるアルバイト・パート、契約社員など)は原則として、その契約期間中は辞職できません。

ただし、やむを得ない事情がある場合には、期間中であっても、いつでも辞職することができます(民法628条前段)。ここにいう「やむを得ない事情」とは、例えば、本人の病気や家族の介護の必要がある等の事を言います。

また、1年を超える契約期間であれば、1年を経過した段階でいつでも辞職することができます(労働基準法附則137条)。ただ、契約期間は半年や1年と定められていることも多いので注意が必要です。

引継ぎを行う、私物の整理

退職届を出し、辞める日が正式に決まったら次に、自分が受け持っていた仕事を、他の人に引き継ぐ、ロッカーや机の私物を少しずつ片付けていきましょう。

また、健康保険証や社員証、社章や社名の入った名刺、作業服や制服など、会社から借りていたものは返却しなければなりません。会社の規則に従って、返却するようにしましょう。

お世話になった人へ挨拶する

お世話になった他部署や、お得意様などに退職の挨拶をします。たとえ、嫌な職場であったとしても、「お世話になりました」と気持ちを伝えるのが良いでしょう。

有給を消化する

退職を決めた時にしておきたいのが、残っていた有給休暇を消化することです。有給休暇は、アルバイトやパートでも、6か月継続勤務をしていれば、年10日の有給休暇は発生します。もちろん、定年退職者も同様に、有給を消化するのは当然の権利です。また、有給を与えない、10日残っている所を5日しかつけないなども認められていません。有給の取得は,労働者の権利です。使用者は,正当な理由がある場合にのみ取得時季の変更を求めることができますが,有給の取得自体を拒否することはできません。

有給休暇を消化している間は、あくまでも社員として籍は残っている状態です。就業規則で副業を禁止されている場合は、有給中にアルバイトなどをしない方が無難です。次の仕事を探したり、スキルアップに努めたり、あるいはゆっくりと休養したり、自由に時間を使いましょう。

退職後の手続きに備える

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 離職票を受け取ったらハローワークへ
  • 退職後でも、前の会社の保険に入ることが可能
  • 国民年金保険・国民健康保険の切り替えは14日以内に!
  • 退職後の住民税手続きは退職月によって異なる

先生、失業保険って支給されるまでに時間がかかるじゃないですか。だったら、その間に次のバイトした方が得じゃないでしょうか?

待ってください。雇用保険は、単に失業保険をもらうためのものじゃないんです。他にもお金をもらえる制度があるんですよ。

本当ですか!教えてください!

失業保険の手続き

退職する時に、会社から受け取る書類があります。退職後は、失業保険などの手続きに、これらの書類が必要になるので、なくさないようにしましょう。

退職時に受け取る書類

  • 離職票→失業保険の給付に必要。退職後に自宅等に郵送されることも多いが,会社から離職票が交付されない場合には,会社に交付するように問い合わせましょう。
  • 源泉徴収票→所得税の年末調整に必要。転職先で提出を求められることもあります。
    ※その他、雇用保険被保険者証・年金手帳を会社で管理している場合は、退職時に受け取る

退職後、離職票を受け取ったら早めに、失業保険の給付手続きをしましょう。失業保険の手続きは、居住地のハローワークで行いますが、その際に離職票、雇用保険被保険者証、身分証明書、印鑑、顔写真2枚、本人名義の預金通帳が必要になります。失業保険の手続きから、受給までの流れは以下の通りです。

失業保険の手続きの流れ

  • ハローワークで失業保険の手続き
  • (手続後、7日間の待機期間)
  • (待機期間後、自己都合で退職した場合は3か月の給付制限あり)
  • 雇用保険受給説明会と失業認定日に出席後、1週間程度で給付
  • 以降、4週間に1度の書類申請と、面談をして1週間程度で給付

失業保険は、「就労の意思があるが働けていない」「離職日からさかのぼって最低12か月以上働いていたか」「ハローワークで求職の申し込みをしているか」の3点が確認されてはじめて、給付を受けることができます。なお、給付の間も就職活動をしているかを問われます。

よく「失業保険の手続きが遅いから」と、手続きをせず、給付を受けないまま就職する人がいます。もちろん、すぐに働けるのであれば、給付を受ける必要はありません。ただ、雇用保険には、失業保険以外にもメリットがあるので、この機会に雇用保険の活用法を知っておきましょう。

雇用保険でできること

  • 公共職業訓練を受ける場合、「受講手当」「通所手当」など
  • 技能就職手当(公共職業安定所もしくは地方運輸局長の指示で公共職業訓練を受ける場合)
  • 寄宿手当(公共職業訓練を受ける場合に、別居する必要がある時)など
  • これらが、失業保険とは別にもらえることがあります。

その他、病気やケガなどで就職が難しく、失業保険の基本給付を受けることができない場合は、「傷病手当」が給付されることがあります。また、定年退職などで受給者が高齢(65歳以上の、日雇い労働者等ではない場合)の場合は、失業保険ではなく「高年齢求職者給付金」が給付されます。

ご自身が、各手当の給付条件に当てはまることがあるので、すぐに再就職しないのであれば、離職票を受け取ったらハローワークに行くことをおすすめします。

なお、失業保険の給付期間中に、申告なしで仕事をした場合、「不正受給」として給付された保険金の返還を求められます。受給中にアルバイトをする場合などは、注意しましょう。

健康保険の切り替え

退職後、すぐに就職する場合でも、社会保険の加入にならない期間があります。その間、保険がなければ医療費も全額負担になってしまうので、退職したら健康保険の切り替えをしましょう。主な選択肢は、以下の通りです。

健康保険の切り替え

  • 会社の保険を利用する(任意継続保険制度)→退職から20日以内に手続き
  • 国民健康保険に加入する→退職から14日以内に手続き
  • 家族の扶養に入る→なるべく早く(被保険者の会社を経由して手続き)

退職後でも、これまで在籍していた会社の社会保険に、「任意継続被保険者」として加入を続けることができます。退職後すぐに次の就職先が見つかっている場合は、この手続きをするといいでしょう。なお、加入の条件として、「退職の日まで社会保険に2か月以上加入していること」「2年間を限度として加入すること」があります。

これまで同様に社会保険を継続する場合は、会社または社会保険事務所で、「健康保険任意継続被保険者資格取得申し込み書」と住民票、1か月分の保険料、印鑑を用意して手続きします。

また、国民健康保険に加入する場合は14日以内に、居住地の市区町村役場の健康保険窓口で、加入の申し込みをします。持参するものは、「健康保険資格喪失証明書」、身分証明書、印鑑です。その他、市町村によっては退職した会社の退職証明書を求められることがあります。

さらに、被扶養者になる場合は、保険に加入している家族の勤務先を通して届け出ることになります。被扶養者になるには「年収130万円(60歳以上もしくは一定の障害者は180万円)以下であること」「被保険者に生計を維持されている第3親等以内の家族・親族」であることが条件です。手続きには源泉徴収票、退職証明書または離職票のコピー、必要に応じて住民票や預金通帳などのコピーなどが必要です。

年金保険の切り替え

健康保険と同様、退職後には国民年金の手続きも必要です。国民年金の被保険者になる手続きですが、被保険者には「第1号被保険者」から、「第3号被保険者」まで3種類あります。会社で厚生年金に加入していた時は「第2号被保険者」という区分なので、単独で加入する第1号被保険者か、家族の国民年金に加入する第2号被保険者になるでしょう。

第1号被保険者と、第3号被保険者では、必要な手続きが異なります。以下のまとめを参考にしてください。

国民年金の手続き

  • 第1号被保険者→退職後14日以内に手続v
    (市区町村役場で手続き。年金手帳、離職票または退職証明書、身分証明書、印鑑を持参)
  • 第3号被保険者→なるべく早く手続き
    (年金加入者の会社などを通じて手続き。国民年金第3号被保険者該当届、源泉徴収票が必要)

国民健康保険の手続きで家族の扶養に入る時と同じように、第3号被保険者になる場合は、必要に応じて住民票、離職票または退職証明書のコピーが必要です。また、失業保険や年金を受給している場合は、受給が分かる預金通帳などが必要になります。


住民税の支払い方

仕事を辞める前は、給与から住民税が引かれていることが多いでしょう。しかし、退職後はご自身で住民税を払わなくてはなりません。そこで、これから手続きをしていきますが、住民税の支払いは退職月によって手続きが異なるので注意しましょう。

なお、次の就職先が決まっている場合は、新しい会社で「特別徴収への切り替え」をしてもらえるので手続きは必要ありません。ただし、新しい会社で手続きが難しい場合は、退職する会社で「普通徴収への切り替え」と、転職先での「特別徴収への切り替え」を行います。以下のまとめを参考にしてください。

退職月による住民税手続きの違い

  • 6月から12月に退職した場合→退職月の住民税は給与から引かれ、翌月分から自分で納める
    (自分で納める「普通徴収」への切り替えが必要になるが、一括で支払うか分割は選べる)
  • 1月から5月に退職した場合→5月までの住民税を一括で給与から天引きされる
    (例:4月で退職した場合、1月から4月までの4か月分が給与から引かれる)

退職月によっては、給与や懐事情が大きく変わってしまうことがあります。仕事を辞める前に、お住まいの地域の住民税がどのくらいか、調べてから退職月を考えてもいいでしょう。また、退職した年の年末までに再就職をしていない場合は、確定申告が必要です。確定申告をすると、退職所得控除や社会保険料控除があり、戻ってくるお金が増えることがあるので、面倒でもしておきましょう。

まとめ

退職が決まったら、することや必要な手続きはたくさんあります。手続きの期限があるものも多いので、チェックリストなどを使いながら、一つひとつ終わらせていきましょう。

もし、残業代の支払いや有給休暇などで「おかしいな」と感じたら、「退職前に確認したい法的な4つのポイント」をご覧ください。