- 普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3種類がある
- 要件を満たさない解雇は無効
- 不当解雇に対しては地位の確認、賃金、慰謝料請求などができる
【Cross Talk】会社は簡単に解雇できるの?
上司から突然、クビだと言われました。自分なりに会社に貢献してきたつもりなのに納得できません。でも家族の生活もありますし…。諦めて再就職先を探すしかないんでしょうか?
解雇については法律や裁判例の積み重ねによる規制があり、会社が自由に解雇できるわけではありません。不当な解雇をされた場合には、復職や復職が認められるまでの賃金を請求することができます。ですから、簡単に諦めないでください。
わかりました。解雇について詳しく教えてください!
「明日から来なくていいよ」、「就業規則に違反したから懲戒解雇します」「人件費を削減したいから解雇します」、などと様々な理由で会社は従業員を解雇します。本コラムでは、解雇とは何か、どのような類型があるのか解説いたします。
解雇の種類
- 解雇には普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3種類がある
- 解雇は法律や判例法理で規制されており、使用者が自由にできるわけではない
そもそも解雇って何ですか?会社は自由に従業員をクビにできるんですか?
解雇とは、会社の一方的な意思表示で雇用契約を解約することをいいます。解雇には普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3つがありますが、会社が自由に解雇できるわけではありません。それぞれ法律や判例で確立された要件を満たさなければ不当解雇になります。
解雇の種類
解雇とは、使用者が一方的に雇用契約を解約することをいいます。 解雇には
の3つの種類があります。
解雇は、生活の基盤である給与を失うことになる点で、生活に与える影響があまりにも大きいため、法律・判例で様々な規制が加えられています。 以下解雇の種類ごとに確認しましょう。
普通解雇とは?その要件は?
普通解雇とは、整理解雇・懲戒解雇を除いた解雇のことを言います。 典型的な例としては、
が挙げられます。
普通解雇をする場合は、
という要件が必要です(労働基準法20条1項・労働契約法16条)。 普通解雇をするのは実務上難しく、万が一普通解雇を言い渡されたような場合には本当に要件を満たしているのか弁護士に相談することをおすすめします。
整理解雇とは?その要件は?
整理解雇とは、経営上の必要に迫られて行う人員整理のための解雇をいいます。 一般的に「リストラ」と呼ばれるものがこれにあたります。
整理解雇については
の4つの要素(整理解雇の4要素)から解雇の有効性を判断します。
これらは解雇を個別に検討する必要があるので、整理解雇に不服である場合は必ず弁護士に相談することをおすすめします。
懲戒解雇とは?その要件は?
懲戒解雇とは、会社が懲戒処分として行う解雇のことをいいます。 懲戒解雇については、
という要件を満たす必要があると過去の判例の蓄積によって判断されます。
刑事事件を起こして会社に多大な損害をかけたなど、よっぽどのことがあれば懲戒解雇も適法ですが、ささいなことで解雇されたり、重いものでも始末書の提出や降格・減給などの処分が一切されずに突然解雇をされたような場合には弁護士に相談すべきであるといえます。
解雇と退職勧奨の違い
解雇と同じように問題になるのが退職推奨です。 退職推奨とは、会社が労働者に働きかけて自主的な退職を促す行為のことをいいます。 退職推奨のよくある例としては、希望退職者を募集するものです。 退職推奨自体は会社と労働者の話し合いをするにとどまるものなので一概に違法とはいえませんが、退職をしない旨を伝えても執拗に長期間退職を迫ったり、応じないからといって無視をする・仕事を与えない・長時間何もない部屋に留め置くなど、やり方次第では違法となります。
不当解雇の見分け方と注意点
- 不当解雇かどうかは個別に判断する必要があり必ず弁護士に相談する
- 日本では解雇が厳しく多くの場合で不当解雇となっている
- 解雇をされた際には解雇理由証明書をもらう
解雇が適法かどうかは明確に分かるものでしょうか?
解雇は個別の事情を踏まえる必要があるので是非弁護士に相談してください。ただ一般論として日本での解雇は非常に制限されていることから、多くの場合で不当解雇と判断されることが多いです。まずは解雇理由証明書をもらってください。
解雇をされたときに、不当解雇かどうか、どのように見分ければ良いでしょうか。
不当解雇の見分け方
不当解雇かどうかは、上記のように解雇の種類に応じて要件を満たすかどうかを個別に判断する必要があります。 なお、上記のような要件を満たす正当な解雇をすることができる場合は実際には非常に限られており、解雇の多くは不当解雇であるのが現実です。 そのため、解雇の対象になったときには、自分の解雇が不当解雇かどうか、見分けるために弁護士に相談することをおすすめします。
不当解雇をされたら解雇理由証明書を必ずもらう
解雇をされた場合に必ず行ってほしい手続きが解雇理由証明書を元の勤務先からもらうことです。 労働基準法22条1項は、労働者が請求すれば、退職の理由が解雇である場合にはその理由を記載して遅滞なく渡す義務を明示しています。
解雇の理由がどのようなものかは、不当解雇をされたのかを判断する材料にもなりますので、必ず元の勤務先に請求しましょう。 元の勤務先が提出を拒む可能性があり、その場合には労働基準監督署に請求を拒まれたことを伝えると行政指導をしてもらえます。 そのため、請求をしたことを証明するために、内容証明で請求するようにしましょう。
要件を満たさない解雇は不当解雇となる
- 不当解雇は無効!
- 解雇がなければ支給されていたはずの賃金も請求できる
- 違法性が著しい場合には慰謝料請求も
解雇されても要件を満たしていなかった場合はどうなるのですか?会社に対して何か言えるのですか?
要件を満たさない解雇は不当解雇となり、無効です。使用者に対し、解雇が無効であるため、労働者として働き続けると主張することができ、使用者がこれに応じないときは、裁判所の手続によって労働契約上の地位の確認を求めることができます。 解雇が無効とされた場合には、解雇後の賃金を請求できますし、悪質な不当解雇については慰謝料を請求できる可能性があります。
不当解雇は無効
使用者から解雇と告げられたとしても、上で解説した解雇の要件を満たさない場合には、解雇は不当解雇となり、無効です。 解雇、つまり使用者による労働契約の解約が無効ということは、いまだに労働契約が有効ということになります。
不当解雇かどうかをチェックしてみたい方は、「これって不当解雇?不当解雇チェックリスト」をご覧ください。
解雇無効確認(労働契約上の地位の確認)請求
労働契約はいまだ有効ですから、復職を希望する場合には、使用者と復職について交渉することになります。しかし、使用者が簡単に自身の解雇通知を不当解雇と認めるとは限りません。使用者が不当解雇を認めない場合には、公的機関(労働局など)のあっせんを利用する方法もありますが、強制力がないため、相手方の態度が強硬であるときは得策とは言えません。
そこで、強制力のある方法として、裁判所の手続を利用することが考えられます。具体的には、解雇が無効であることを理由として労働契約上の地位があることの確認を求める訴訟を提起するというものです。 訴訟では、裁判所が、上で解説した解雇の要件を満たすかを判断し、解雇が有効か無効かを判断します。
裁判所の判決には強制力があるので、労働契約上の地位があることを確認した判決が確定すれば、使用者の意向に関わらず復職することができます。
賃金請求
ノーワーク・ノーペイの原則
解雇無効とあわせて、解雇後の就労を拒否された期間の賃金を請求することができます。 本来であれば、労働者は労働契約に基づいて労働に従事する義務を負い、使用者はこれに対して賃金を支払う義務を負います。 したがって、労働者が労働していない場合には、賃金は発生しないはずです(ノーワーク・ノーペイの原則)。
危険負担
しかし、民法には危険負担という考え方があり、債権者の責任(責めに帰すべき事由)で債務の履行ができなくなったときは、債務者は反対給付の権利を失わないとされています(民法536条2項本文)。 不当解雇の場合、債務者=労務を提供する義務を負う者=労働者は、債権者=労務の提供を受ける者=使用者の責任で(無効な解雇で就労を拒否されたため)、労務を提供できなくなったといえます。
そのため、債務者(労働者)は、労務提供の反対給付(賃金請求権)を失わないとされています。
なお、ここでいう賃金とは、解雇がなければ確実に支払われていただろうといえる賃金です。手当については、手当の性質から考える必要があります。
例えば通勤手当については、それが労働者の現実に要した実費を補填するもの(定期代の実費が支給されている場合など)であれば、実際に就労していない不当解雇の場合には、請求できないと考えられます。 また、時間外手当や精勤手当については、「これらの手当の支払請求権は、単に従業員が使用者との間に労働契約関係を有するということだけから当然に発生するものではなく、従業員が現実に時間外勤務を命ぜられて所定時間就労し又は右規程にかなう精励勤務をした場合にはじめて具体的に発生すると解すべきである」として、不当解雇の場合は就労していないのであるからこれらの手当を請求できないとした裁判例があります(東京地判平7・12・25労判689・31[三和機材事件])。
中間収入の控除
ところで、解雇無効の裁判を起こしても、裁判の結論が出るまでには相当の時間を要します。そのため、労働者が裁判の結論が出るまでに他の使用者のもとで就労することは珍しくありません。解雇が無効とされた場合に解雇期間の賃金の全額を請求できるとすると、結果的に解雇がなかった場合よりも多くの収入を得ることになってしまいます。
先ほど解説した危険負担に関して、民法は、「自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない」としています(民法536条2項後段)。 したがって、労働者が、労務の提供を免れたことで他の使用者に労務を提供することができ、収入を得たときは、副業的なもので解雇がなくても得られたような特段の事情がない限り、これを使用者に償還しなければならないとされています。
具体的には、使用者が支払う解雇期間中の賃金から、他の使用者から得た収入を差し引きます。これを中間収入の控除と言います。 ただし、労働基準法26条が、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100の60以上の手当を支払わなければならない」と定めていることから、控除は平均賃金の4割までとされています。
慰謝料請求
解雇が無効とされ、復職や解雇期間中の賃金が支払われたとしても、解雇されたことで労働者が受けた精神的苦痛が消えるわけではありません。ですから、使用者に対して別途慰謝料を請求したいと考える方もいらっしゃるでしょう。 しかし、不当解雇の場合に常に慰謝料を請求できるわけではありません。
不法行為の成立を認め、慰謝料の支払いを命じた裁判例としては、次のようなものがあります。
「不法行為」と認定されるためには、会社が行った解雇が不合理・不当であるといっただけでは足りず、以下のような「違法性が強い場合」であることが必要です(参照:静岡地判平成17・1・18労判893号135頁)。
残業代は請求できる
不当解雇をする使用者の場合、解雇前の残業代がきちんと支払われていないことも多いようです。実際に労働した時間についての残業代は、解雇された後でも(解雇が有効であっても)請求することが可能です。 もっとも残業代については各支払月ごとに時効が到来するのでお早めに弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ
解雇の要件を不当解雇された場合の対処法について解説しました。 解雇は労働者やその家族の生活に重大な影響を与えるものですから、使用者に解雇と言われても簡単に受け入れる必要はありません。 ただ、解雇の要件を満たすかの判断は簡単ではありませんので、解雇された、あるいは解雇されそうだというお悩みを抱えている方は、労働問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします(弁護士の探し方については「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」を参考にしてみてください。)。