業界別の残業代・残業時間の平均はどのようになっているのかについてご紹介いたします。
ざっくりポイント
  • 残業代・残業時間は業界ごとに異なり、残業代支給額は、電気・ガス業がもっとも高額で、残業時間は運輸業・郵便業がもっとも長い

目次

【Cross Talk】残業代・残業時間の平均は年代・業界ごとに異なるものなのでしょうか

私の会社は残業が非常に長いです。同様の他の会社もかなり長いようなのですが、業界ごとで残業が長いということはあるのでしょうか。

そうですね、おっしゃるとおり、特定の会社がというより業界まるごと残業が長いということもあります。

そうなんですね…なにか傾向はあるのでしょうか?

業界別に比較してそれぞれの残業代・残業時間の平均を知りましょう。

残業をたくさん行っている等の状況がある場合、業界別の平均がどのようになっているのかを知ることで、会社がブラックであるのかを確認する機会となります(ブラック企業かどうかの判断については、「あなたの会社は大丈夫!?ブラック企業チェックリスト」を参考にしてみてください。)。

ここで引用する統計調査は「全国平均」です。もとより、東京や大阪等の中心都市における人口の集中を勘案された中央値を求めるものではないため、実感としての生の残業時間の平均とは、いささか乖離があります。

この前提の上で、ここでの記事の内容をみて、転職して業界をかえることや、会社に具体的な残業代請求を行うことへつなげていきましょう。

職種別の残業代・残業時間の平均

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 医療、福祉が最も残業時間の平均が短い
  • いずれの業種の一部を除いて、平均11時間前後の残業がある

冒頭でも触れましたが、職種別の残業代の平均はどのようになっているのでしょうか。

職種別の平均については、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」の令和3年8月分調査結果を参照いたしますと、下記のとおりとなります。(※パートタイム労働者を除く。)

職種別の月間残業代の平均

職種別での残業代がもっとも多いのは、電気・ガス業です。しかし、電気・ガス業は他の業種と比較すると、必ずしも、残業時間が長いわけではなく、基本給の高さによって、他の業種より高額な残業代となっているものと考えられます。
他方で、残業時間が短く、かつ、残業代が低いのは、「飲食サービス業等」となっています。

令和3年8月

業種 残業代 残業時間
電気 ・ ガス業 48,862円 14
運輸業、郵便業 38,590円 21.4
情 報 通 信 業 32,290円 14.4
製  造  業 28,913円 13.4
建  設  業 24,507円 13
学 術 研 究 等 23,859円 12.4
鉱業、採石業等 23,727円 10
金融業、保険業 23,632円 10.9
不動産・物品賃貸業 18,285円 10.4
調 査 産 業 計 17,710円 9.1
その他のサービス業 17,391円 9.9
医 療、福 祉 13,741円 4.7
卸売業、小売業 11,256円 6.9
複合サービス事業 8,252円 6.1
生活関連サービス等 7,853円 5.7
教育、学習支援業 5,752円 4.9
飲食サービス業等 3,958円 3.1

上の表を見ますと、残業代1位は電気 ・ ガス業、2位は運輸業、郵便業、3位は情 報 通 信 業です。
逆に残業代が少ないのは、1位は飲食サービス業、2位は学習支援業、3位は生活関連サービス業等でした。

参照:毎月勤労統計調査 令和3年8月分結果確報

変則的な労働時間・働き方まとめ

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 残業時間が長い会社は特殊な労働時間制や働き方などを導入している
  • 変則的な労働時間・働き方と残業代請求について

そういえばうちの会社は、いわゆるみなし残業という制度を導入しているのですが、残業時間が長い会社はほかにもいろんな制度を使っているのではないでしょうか?

おっしゃるとおりで、いろんな制度を利用しているのでその概要を確認してみてくださいね。


残業時間が長いことが多い業界の方は労働時間・働き方について変則的な制度をとっていることがあります。
それらの概要と、残業代請求について確認しておきましょう。

変形労働時間制

変形労働時間制とは、繁忙期と閑散期の差が大きい事業などで用いられる労働時間の形態で、一定期間において、1週当たりの平均労働時間が法定労働時間を超えない場合に、その期間内で一部の日や週で法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。
たとえば、隔週で忙しくなる事業があるとして、忙しくなる第1週と第3週については45時間、そこまで忙しくない閑散期である第2週と第4週に関しては35時間の労働時間とするような場合です。
このような労働時間の制度を認めたからといって残業代を支払わなくて良いというわけではありません。

変形労働時間制に関しては:「変形労働制を採用している場合の残業代計算方法」を参照してください。

みなし残業・固定残業

みなし残業・固定残業とは、一定時間残業した場合に発生する残業代を、残業の有無に関わらず支払う制度のことをいいます。
あらかじめ、月○○時間のみなし残業・固定残業代の支払いをするという契約を結んでおき、残業時間の管理や残業代計算のための管理コストを下げるのが本来の目的です。
しかし実際にはこの時間を超える残業があるにもかかわらず、みなし残業制度を導入している、固定残業代は支払っているとの理由でみなし残業代・固定残業代として支給する額を超えて残業代を支払わないというケースが多いです。
しかし、みなし残業・固定残業を支払えば、残業代を払わなくて良いとする理由はありません。

みなし残業・固定残業に関しては、「固定残業代とは?(残業代請求に必要な基礎知識を解説)」で詳しく解説していますので参照にしてください。

管理職問題

残業時間が長時間にわたることが多い業界の中には、管理職として長時間拘束をすることがあります。
労働基準法の「管理監督者」にあたる場合には労働者とはいえず労働基準法の適用がないので、労働時間の制限を受けなくなり、残業代を支払う必要がなくなります。

そのため、店長や課長・部長などの一定の役職以上の管理職については長時間の残業をさせる・残業代の支払いをしない、などとする会社が跡を絶ちません。
しかし、「管理監督者」にあたるかどうかは、労働の実態で判断するのであって、肩書だけで判断するのではないので、こういった役職にある方でも労働者と判断できる人は労働時間の制限・残業代の支払いをしなければなりません。

管理職問題に関する詳細については「支店や店舗の店長は「管理職(管理監督者)」にあたり、残業代は出ないの?(名ばかり管理職)」で詳しく解説していますので参考にしてください。

フレックスタイム制

フレックスタイム制とは、一定の時間(コアタイム)の出社を除いては、労働者が出退勤時間を自分で決めることができる制度をいいます。
自分のライフスタイルに合わせた勤務をしやすいことから、人材確保がしやすくなるという労使双方のメリットがある制度です。
当然ですが出退勤時間が自由になるだけで、残業を自由にさせるための制度ではないので、残業が発生した場合には残業代の支払い義務があります。

フレックスタイム制については、「フレックスタイム制を採用している場合の残業代計算方法~残業代請求できる?~」で詳しく解説していますので参考にしてください。

年俸制

年俸制とは、給与を1年ごとに労使で決めていく給与の決定方法をいいます。
成果主義の報酬体系をとる会社の中には、前年度の評価に対して年俸という形で決定するなどすることが多いです。
年俸制はあくまで給与の決定方法であるので、これをもとに長時間労働・残業代を支給しないとすることまではできません。

年俸制について詳しくは「年俸制の場合、残業代請求できるの?」で解説していますので参考にしてください。

裁量労働制

裁量労働制とは、実労働時間にかかわらず一定時間労働をしたとみなす制度のことを言います。
研究開発者・システムエンジニアなどの専門職や、企画・立案・調査・分析などを行う働き方をしている人など、労基法規則24条の2の2第2項に限定列挙される範囲で認められます。
裁量労働制が適用されれば、長時間労働した場合でも事前に契約をした内容での給与の支払いになるのですが、実際にこの裁量労働制が適用される範囲は非常に狭いにもかからず、裁量労働制が適用されるとして残業代の支払いをしないケースがたくさんあります。

裁量労働制については「裁量労働制とはどんな制度?残業代請求に必要な基礎知識を解説」を参考にしてください。

労働時間が長い場合の対処法

労働時間が違法に長い場合には労働基準監督署に通告をするのが最も効果的です。
労働時間は労働基準法の問題で、労働基準法に違反する事業者には、労働基準監督署が行政指導をすることで改善を促します。
この通告をする際には、違法な長時間労働に従事させられていることを証拠として示せることが望ましいといえます。

残業時間の証拠については、「未払い残業代請求のための証拠の集め方」こちらの記事が参考になります。

未払い残業代を請求しようと悩んだら

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 残業代請求を個人で会社に対して行うのは難しい
  • 残業代請求で悩んで会社を喜ばせるよりも、残業代請求を弁護士に依頼しましょう。

とはいえ、長年働いていた会社に対して残業代請求をするというのはどうしても気が引けます。

訴訟をするような場合には裁判所に出頭するなどの負担も伴います。関係が悪化した会社の担当者と交渉するのは心理的な負担でしょう。弁護士にまかせていただければ楽に残業代請求が可能となりますよ。


残業代を会社に請求することは、なかなか、心理的な問題や時間の都合などがあって、難しいかもしれません。しかし、長時間労働に悩んで、会社を喜ばせることは妥当ではありません。残業代請求で悩んだら、ぜひ、専門家に相談をするようにしましょう(詳細は「これだけは押さえておきたい残業代請求の3つのポイント」を参照してください。)

まとめ

いかがでしたでしょうか。ここでの記事で、何度も取り上げたように、もっとも残業時間が長くなっている業種は、運輸・郵便業でした。この結果は、すでに報道などで一般に知られるところと、乖離はなかったものと思われます。
残業代請求についてもっと詳しく知りたい方は、一度弁護士に相談することをおすすめします。