働き方改革・コロナウィルスの残業代への影響について詳しく解説します!
ざっくりポイント
  • 働き方改革で長時間労働の是正やテレワークなどの柔軟な働き方ができる環境整備が推進された
  • コロナウィルスの影響でテレワーク・時短勤務が増加した
  • 残業代カットにはきちんと対策

目次

【Cross Talk 】残業が少なくなったのは働き方改革の影響?

うちの会社はもともと残業が多かったのですが、最近は上司に残業せずに早く退社しろと言われるようになりました。でも仕事量は変わらないので、家に持ち帰って仕事をすることもあります。それなら会社で残業して残業代をもらった方がいいのですが…

いわゆる持ち帰り残業ですね。おそらく働き方改革の影響で会社側は何とか残業時間を減らそうとしているのでしょう。それ以外にテレワークの増加などもあり、近年、労働時間に大きな変容が生じているのです。とはいえ、持ち帰り残業やテレワークでも残業代を請求できる可能性はあるので、会社の言い分をうのみにしないでくださいね。

本当ですか!私も残業代を請求できるのか教えてください!

働き方改革・コロナウィルスで労働時間が変わる?残業代は請求できる?

働き方改革によって残業時間の上限が法律で罰則付きで規制されることになり、2019年4月からは大企業に、2020年4月には中小企業にもそれが適用されました。また、それと前後して、新型コロナウィルスの流行によってテレワークや時短勤務等が増加しています。
今回は、このような労働時間の変容や、それによる残業代請求への影響等について解説します。

働き方改革・コロナウィルスの影響で労働時間に変容が

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 働き方改革で長時間労働の是正、柔軟な働き方ができる環境整備が促進された
  • コロナウィルスが労働時間にも影響を及ぼしている

どうして働き方改革で労働時間が変わるのですか?

働き方改革の大きな目的の一つが長時間労働を是正することで、労働時間の上限が法律によって罰則付きで定められることになりました。それによって、労働者と使用者の合意があっても無制限に残業をさせることができなくなったのです。また、最近ではコロナウィルスの自粛によるテレワーク、時短勤務などが増えたことも、労働時間の変化に影響しています。

働き方改革とは

働き方改革とは、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や労働者のニーズの多様化などの課題を解決するため、労働者が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を選択できるようにするための改革です。

働き方改革の大きな柱の一つに、長時間労働の是正があげられます。
というのは、長時間労働によって仕事と家庭生活の両立が困難になることが、少子化や女性のキャリア形成の阻害などの原因となっているという実状があったからです。

残業(時間外労働)についていえば、かつては厚生労働大臣の告示によって上限が定められていましたが、
罰則がなく、労働者と使用者の合意によって上限なしに残業をさせることが可能でした。
そこで働き方改革の一環として労働基準法が改正され、残業(時間外労働)の上限が法律によって定められ、違反した場合の罰則も設けられたのです。

改正法は、大企業には2019年4月から、中小企業にも2020年4月から適用されているので、改正法に違反しないよう残業を削減する使用者が増えたのです。

コロナウィルスの自粛でテレワーク・時短勤務などが促進された

長時間労働の是正以外にも、働き方改革には重要な柱があります。その一つが、多様な働き方の実現です。
多くの会社員がしているような、平日の朝から夕方まで会社で仕事をするという働き方しかなければ、育児や介護のために労働意欲があるのに仕事を辞めざるを得ない事態が頻出してしまうでしょう。
そこで、労働者のニーズに合わせた多様で柔軟な働き方ができる環境整備が求められており、その一環としてテレワークの普及が推奨されたのです。

そのため、厚生労働省が働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)などのテレワーク普及促進関連事業に取り組んでいたところ、昨今の新型コロナウィルスの感染拡大により、テレワーク、時短勤務などが大きく促進されました。
このように、働き方改革や新型コロナウィルスの影響で、労働者の労働時間が大きく変容しようとしているのです。

新しい会社の残業代カットの手口と対策を知ろう

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 持ち帰り残業やテレワークでも残業代を請求できる場合がある!
  • 世の中が大変だというのは残業代カットの理由にならない

本当に労働時間が短くなるならいいのですが、実際は会社での労働時間が短くなるだけで、家で続きをしなければ仕事が終わりません。でも会社は残業と認めてくれず、残業代を払ってくれません。これでは会社が得をするだけじゃないですか?

持ち帰り残業を利用して残業代をカットする手口ですね。ほかにもテレワークを理由に残業代を出さない会社もあります。しかし、会社で仕事をしていないからと言って、残業代を一切請求できなくなるわけではありません。残業代を請求できるかどうかは、仕事をする場所ではなく、労働時間にあたるかどうかが重要なのです。労働時間にあたる場合には、持ち帰り残業やテレワークでも残業代を請求することができます。

仕事量が変わらないのに20時には強制退社!あとは家でやることになる

働き方改革による残業の上限規制を守るために、例えば20時に強制退社と決めている会社があります。
それで仕事が終わればいいのですが、仕事量が従前と変わらない場合、20時までに仕事を終えることができず、家に持ち帰って仕事をせざるを得ないこともあるでしょう。
このように、本来は職場でするべき仕事を自宅など職場の外ですることを「持ち帰り残業」といいます。

持ち帰り残業は、一般的に使用者がその実態を把握することが難しいため、持ち帰り残業をしたからといって当然に残業代を請求できるわけではありません。
そのため、残業を禁止あるいは制限して持ち帰り残業をさせることによって、残業代をカットしようとする会社もあるようです。

しかし、持ち帰り残業であっても、残業代を請求できる場合があります。
そもそも残業とは、定められた労働時間を超えて労働することを言います。ここでいう労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。

例えば、家で一人で作業をした方が集中できるから自主的に仕事を家に持ち帰ったような場合、使用者の指揮命令下に置かれているとは言えません。そのため、労働時間にはあたらず、したがって残業代も請求できないということになります。
これに対して、上司の指示に基づいて持ち帰り残業をした場合は、使用者の指揮命令下に置かれていたといえるので、労働時間にあたることになり、残業代を請求することができます。

また、明確な指示がなかったとしても、残業が禁止または制限されているにもかかわらず、定時または制限された残業時間内では終わらないような仕事を指示し、労働者が持ち帰り残業をせざるを得ないことを使用者が認識していたような場合には、黙示の指示があったものとみることができ、労働時間にあたるとして残業代を請求することができるでしょう。

テレワークを理由に残業代が認められない

テレワークの場合、会社が労働時間を把握・管理することが難しいため、残業代を払わないという会社もあるようです。
しかし、残業代の支払いを定めた労働基準法の規定は、職場での勤務だけでなく在宅勤務にも同じように適用されます。
したがって、定められた労働時間を超えて労働した場合には、残業代を請求することができるのです。

なお、テレワークを採用した会社から、「事業場外みなし労働時間制」を採用したから残業代は払わないと反論される可能性があります。
事業場外みなし労働時間制とは、労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で仕事をする場合において、労働時間を算定し難いときは、あらかじめ定めた時間労働したものとみなすという制度です。
つまり、この制度を採用すれば、実際の労働時間にかかわらずあらかじめ定めた時間だけ労働したものと扱われるので、残業代を払う必要はない、というのが会社の理屈です。

しかし、事業場外みなし労働時間制を採用するには、単に事業場外で仕事をするだけでは足りず、「労働時間を算定し難いとき」という要件を満たさなければなりません。
そのため、テレワークを導入したとしても当然に事業場外みなし労働時間制が適用されるとは限らないのです。

携帯電話やスマートフォン、パソコンなどの電子機器、通信手段が発達した現代においては、事業場外にいる労働者の労働時間を把握することはそれほど難しくありません。
そのため、「労働時間を算定し難いとき」という要件を満たさず、事業場外みなし労働時間制が適用されないケースが多いのです。
事業場外みなし労働時間制が適用されなければ、原則通り実際に働いた時間が労働時間ということになりますから、残業をすれば残業代を請求することができます。

世の中大変なので残業代をカットする

「世の中が大変な状況だから」などと言って残業代をカットする会社もあるようです。
たしかに新型コロナウィルスの影響で景気が悪化し、業種によっては深刻な打撃を受けたり倒産に追い込まれたりした会社も少なくありません。

そのような状況では、「会社も苦しいのだから残業代をくれとは言えない」「仕事があるだけまし」などと考えてしまうかもしれません。
しかし、残業代は法律で定められた労働者の権利であり、使用者の義務ですから、世の中が大変というのは、残業代カットの理由にはなりません。

まとめ

昨今、働き方改革やコロナウィルスの影響等により働き方や労働時間に大きな変容が見られます。
しかし、定められた労働時間を超える労働をした場合に残業代を請求することができるのは労働者の基本的な権利であるということに変わりはありません。
残業代のカットにお悩みの方は、一度労働問題に詳しい弁護士に相談してみるといいでしょう。