長時間労働は残業代だけでなく、損害賠償を請求できる可能性があります。
ざっくりポイント
  • 長時間労働は未払いの残業代だけでなく、病気になった場合は損害賠償を請求できる
  • 下級審の判例においては、具体的な病気にならなくても損害賠償を認めたケースがある
  • 慢性的な長時間労働や残業代の未払いなどは、無理せず弁護士に相談すべき

目次

【Cross Talk 】長時間労働を理由に、会社に損害賠償を請求できるの?

会社に毎月長時間労働をさせられていて、心身ともに限界です。このままでは病気になってしまいそうなので、未払いの残業代はもちろん、損害賠償も検討したいです。

長時間労働が原因で病気になった場合は、会社に安全配慮義務違反として損害賠償を請求することができる可能性があります。下級審においては、具体的な病気がなくても損害賠償を認めた裁判例もあります。

会社に対して損害賠償を請求できる可能性があるんですね。裁判例についても詳しく知りたいです!

長時間労働は未払いの残業代だけでなく、ケースによっては損害賠償を請求できる可能性がある

長時間労働は労働者の心身に大きな悪影響を及ぼす可能性があります。また、長時間労働をした分の残業代がきちんと支払わないケースもあります。
長時間労働が原因で病気になった場合は、会社に対して損害賠償を検討できますが、下級審においては、具体的な病気がなくても損害賠償を認めた例もあります。

そこで今回は、長時間労働をした場合に会社にどんなことを請求できるかを、関連する裁判例も含めて解説いたします。

長時間労働によってどのような請求が可能か

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 長時間労働による残業代が未払いの場合は、会社に支払いを請求できる
  • 長時間労働が原因で病気になった場合、会社に損害賠償を請求できる

毎日長時間労働をしているにも関わらず、会社がきちんと残業代を支払ってくれません。慢性的な睡眠不足もあって、このままだと病気になってしまいそうです。

長時間労働をした分の残業代が支払われない場合、会社に対して未払いの残業代を請求することができます。また、長時間労働が原因で病気になった場合は、会社に損害賠償を請求することを検討しましょう。

割増賃金

会社は原則として、1日8時間・週40時間を超えて労働者を働かせることはできません(労働基準法第32条)。これを法定労働時間といいます。

法定労働時間を超えて従業員が労働した場合は、会社は原則として割増賃金(通常よりも多い賃金)を支払わなければなりません(労働基準法第37条)。
労働者が時間外労働をしたにも関わらず、会社が正当な理由なく割増賃金を支払わない場合は、労働者は会社に対して割増賃金を支払うように請求できます。

未払いの場合の残業代請求

所定労働時間とは、会社と従業員間の契約で定められた労働時間のことであり、就業規則や雇用契約書などで定められていることが一般的です。

所定労働時間(休憩60分を含む、9時から17時30分までを労働時間とするなど)を超えて労働した場合、原則として会社は残業代を支払わなければなりません。

ところが、本来は残業代を支払わなければならないところ、「1時間残業をしただけなんだから、残業代を支払うほどのことではない」などと、会社が不当に残業代を支払わないことがあります。
就業規則等に残業代を支払う旨の規定があるにも関わらず、会社が本来支払うべき残業代を支払わない場合に、労働者は会社に対して未払いの残業代を請求することができます。

病気になった場合の請求

長時間労働が原因でうつ病などの病気になってしまった場合は、会社に対して慰謝料などの損害賠償を請求できる可能性があります。

労働契約法第5条において、「使用者(会社)は労働契約に伴って、労働者が生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」旨が規定されており、これを安全配慮義務といいます。
長時間労働が原因で労働者が病気になってしまった場合、会社は安全配慮義務を怠ったと評価できる場合もあるので、労働者は会社に対して安全配慮義務違反として損害賠償請求をすることができる可能性があります。

長時間労働が原因で病気になっていないようなケースでも損害賠償を認める判例が

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 長時間労働で病気になっていないケースでも、損害賠償金の支払いを認めた裁判例がある
  • 慢性的な長時間労働や残業代の未払いは、無理せず弁護士に相談するべき

会社から長時間労働を強いられても、病気にならなければ損害賠償は請求できないのでしょうか?

従来は会社に損害賠償を請求するには、具体的な病気を発症することが重要だと理解されていました。ところが、地方裁判所のレベルにおいては、具体的な病気がなくても損害賠償を認める裁判例が登場しています。

長崎地裁

具体的な病気を発症していなくても、慰謝料を支払うことを認めた裁判例があります。長崎地裁令和元年年9月26日判決です。(事件番号 平成29 年(ワ)127 号)

長崎県大村市にある製麺会社で働いていた元従業員の男性が、長時間労働に伴う未払い賃金や、慰謝料の支払いなどを会社に請求した事例です。
元従業員の男性は2012年6月頃から2017年6月頃まで、ミキサーに小麦粉を投入する業務などに従事していました。

約5年間の業務のうち、2015年6月頃からの約2年間においては月90時間以上の時間外労働があり、最長で160時間を超える月もあったとのことです。
長崎地裁は長時間労働を原因とする体調不良を認定しませんでしたが、「会社は安全配慮義務を怠り、心身に不調をきたすおそれがある長時間労働をさせることで、労働者の人格的利益を侵害した」旨を判断しました。

それによって、具体的な病気の発症を認めないにも関わらず、会社側に慰謝料30万円の支払いを命じました。また、未払いの残業代などの289万円や、違法性が大きい場合に科される「付加金」として157万円の支払いも命じられています。
具体的な病気が発症していなくても慰謝料の支払いを認めた異例の判例といえます。

東京地裁

長崎地裁の判決を受けて、具体的な病気の発症がなくても慰謝料の支払いを認める判決が、東京地裁でも出されました。

生命保険の会社に勤務していた社員が、長時間労働を強いられたとして会社を提訴した事例で、東京地裁令和2年6月10日判決です。(事件番号 平29(ワ)38309号)
原告の社員は、都内の保険会社の営業所の部長として2015年11月から2017年3月頃まで勤務していた際に、1月あたりで30〜50時間の時間外労働に従事していました。

東京地裁は「心身の不調を認めるに足る医学的な根拠は乏しいものの、具体的な疾患の発症に至らなくても心身の不調を来す可能性があった」旨を判断し、長時間労働を放置していた会社側に安全配慮義務違反があったと認定し、慰謝料10万円の支払いを命じました。

本件においては、以下のように会社に複数の背信的な行為があったことが、具体的な病気の発症がなくても安全配慮義務違反を認めるという結論の一因になった可能性がある、と言われています。

・原告が時短勤務の適用を受ける社員であったが時短勤務が行われていなかったこと
・労働組合から長時間労働に関し苦情をが出され、アンケートも実施されていたことから会社が長時間労働の実体を知っていたこと
・労働基準監督署から会社に是正勧告があったこと
・36協定を締結せずに時間外労働をさせていた期間があったこと

こんな長時間労働は弁護士に相談してみよう

長時間労働はモチベーションを低下させる要因になるだけでなく、心身に以下のような悪影響を及ぼす可能性があります。

・心筋梗塞や狭心症などの心疾患や、脳梗塞や脳出血などの脳疾患を引き起こす可能性がある
・慢性的な睡眠不足や気分が晴れない状態になり、うつ病の原因となる可能性がある
・長時間労働に伴う睡眠不足や過労によって、事故を引き起こす可能性がある

また、長時間労働自体も問題ですが、労働時間を超えて労働したにも関わらず、その分の残業代がきちんと支払われない場合も要注意です。
働いた分の賃金を受け取ることは、法律で保護された労働者の正当な権利なので、泣き寝入りすることなく会社にきちんと請求することが重要です。

とはいえ、労働者個人が会社にかけあったとしても、会社がきちんと対応してくれない場合もあります。以下のような長時間労働は無理して自分だけで解決しようとせずに、弁護士に相談することをおすすめします。

・月に何十時間もの残業が何ヶ月も続いている
・長時間労働をしているにも関わらず、残業代がきちんと支払われていない
・長時間労働や残業代の未払いを相談しても、会社が対応してくれない

まとめ

このページでは、長時間労働をした場合に得られる可能性のある賠償について解説いたしました。
長時間労働をした場合、未払いの残業代があれば会社に残業代を請求できるだけでなく、場合によっては損害賠償が認められる可能性があります。
長時間労働が原因で病気になった場合は、安全配慮義務違反として損害賠償を請求できる可能性があります。下級審の裁判例では、具体的な病気がなくても損害賠償を認めたケースも存在します。
長時間労働による心身の不調や未払いの残業代などで苦しんでいる場合は、無理せず弁護士に相談しましょう。

この記事の監修者

弁護士 鈴木 奏子第二東京弁護士会
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