会社が倒産した場合の残業代請求の方法を解説します。
ざっくりポイント
  • 国が行う未払賃金立替制度を利用する
  • 会社の経営状態が悪化しているときは一刻も早く請求する
 
目次

【Cross Talk】会社が倒産したら未払い残業代はあきらめるしかない?

残業しても残業代を払ってもらえなくて、残業代の請求をしようと準備をしていた矢先に会社が倒産してしまいました。未払いの残業代はあきらめるしかないのでしょうか?

会社に支払ってもらうのはまず無理でしょうが、国が行っている未払賃金立替制度というものがあります。この制度を利用すれば、国が未払賃金の最大8割を立替払いしてくれます。労働債権は一定の範囲で財団債権という優先的な債権になります。

8割でももらえないよりはいいです。詳しく教えて下さい!

会社が倒産した…未払い残業代はどうなる?

使用者が残業代を支払わない理由の一つに、経営状態がよくないということが考えられます。なかには、残業代を含めて賃金を全額支払わないまま倒産してしまう会社もあります。

会社がつぶれてしまった場合、会社から未払いの残業代を支払ってもらうことは非常に難しいと言わざるを得ません。それでは、労働者は泣き寝入りするしかないのかというと、そんなことはありません。一定の要件を満たした場合には、政府が未払い賃金の一部を立て替えてくれる制度があるのです。

今回は、その「未払賃金立替制度」の要件や手続の流れを解説します。倒産前にできる対策もあわせて紹介しますので、会社の経営状況が悪いと感じている方は、ぜひ参考にしてください。

未払賃金立替制度を利用する

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 未払賃金立替制度の利用で原則として未払額の8割を立替払いしてもらえる
  • 中小企業の場合は事実上の倒産でも利用できるが手続が複雑になる

先ほどおっしゃっていた未払賃金立替制度ってどんな制度なんですか?

企業が倒産したことで賃金の支払いを受けられないまま退職した労働者を救済するため、国(正確には独立行政法人労働者健康安全機構)が、一定の要件を満たした場合に賃金の一部を立替払いする制度です。立替払いされるのは未払総額の8割が基本ですが、年齢によって限度額が定められており、未払総額が限度額を超えるときは、限度額の8割が支払われることになっています。

未払賃金立替制度とは

未払賃金立替制度とは、企業の倒産によって賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、一定の要件を満たす場合に、厚生労働省所管の独立行政法人である労働者健康安全機構が、未払賃金の一部を立替払いを行う制度をいいます(賃金の支払の確保等に関する法律7条)。

会社が破産した場合、労働者の賃金債権は、財団債権または優先的破産債権という、一般的な債権よりも優先して扱われる債権になります。

しかし、優先されるといっても、会社に未払賃金の総額を下回る財産しか残っておらず、未払賃金全額の支払いを受けられないことも珍しくありません。

使用者が破産などの法的手続をとらず、事実上倒産した場合(経営者が夜逃げしてしまった場合など)は、破産した場合の破産管財人のように、会社の財産の調査・管理・処分、債権者への配当などをしてくれる人がいません。

そのため、労働者自身が会社の財産を調査し、訴訟等の法的手続をとらなければならず、未払賃金の回収は非常に困難です。

そこで、賃金が支払われない労働者を救済するため、一定の要件を満たした場合に、未払賃金の一部を立替払いする制度が作られたのです。

立て替えを受けるための要件

使用者側の要件として、1年以上事業活動を行っていること(賃金の支払の確保等に関する法律7条、同法施行規則7条)、倒産したこと(賃金の支払の確保等に関する法律7条、同法施行令2条)の2つが挙げられます。

倒産には、法律上の倒産(裁判所の手続による倒産)と、事実上の倒産の2種類があります。

法律上の倒産は、破産、特別清算、民事再生、会社更生に分けられます。

これらの手続が始まっている場合は、破産管財人等に倒産の事実等を証明してもらう必要があります。必要な用紙は労働基準監督署に備え付けられています。

法律上の倒産のほか、使用者が中小企業の場合、事実上の倒産でも未払賃金立替制度の対象になります。ここでいう事実上の倒産とは、事業活動が停止し、再開する見込みがなく、かつ、賃金支払能力がないことをいいます(施行令2条1項4号、施行規則8条)。

事実上の倒産の場合、所轄の労働監督基準署長から倒産の認定を受ける必要があるので、労働基準監督署で認定の申請をしなければなりません。

次に、労働者側の要件として、法律上の倒産の場合は裁判所への破産等の申立てがあった日、事実上の倒産の場合は労働基準監督署への認定の申請があった日の6ヶ月前から2年の間に退職した者であることが挙げられます(施行令3条)。

労働基準監督署

これらの要件を満たした場合、未払賃金の8割を立替払いしてもらえます。

ただし、退職日における年齢に応じて、次の限度額が定められており、未払賃金の総額が限度額を超える場合には、限度額の8割が支払われることになります(施行令4条)。

30歳未満:110万円
30歳以上45歳未満:220万円
45歳以上:370万円

たとえば、退職日に50歳であった労働者の未払賃金が300万円であった場合、上記の限度額を超えていないので、立替払額は未払賃金総額の8割にあたる240万円となります。

これに対し、同じ労働者の未払賃金総額が400万円であった場合、上記の限度額を超えるので、立替払額は、限度額の8割にあたる296万円となります。

ただし、未払総額が2万円未満の場合は、立替払の対象とはなりません(施行令4条)。

未払賃金立替制度の利用の流れ

法律上の倒産の場合

未払賃金立替払請求書と証明書が一体となった書式が、独立行政法人労働者健康安全機構のWebページでダウンロードできるほか、労働基準監督署にも備え付けられています。

参考:独立行政法人労働者健康安全機構「未払賃金の立替払事業 Ⅱ 未払賃金立替払請求書・証明書及び立替払請求における各種届出一覧」(参照 2019/3/29)

まずはこの用紙を用いて、破産管財人等に、使用者が1年以上事業を行っていたこと、裁判所への申立日、退職日、未払賃金の額などについて証明してもらいます。

破産管財人等の証明書を入手できたら、立替払請求書に、氏名、生年月日、住所、立替払請求額、立替払金の送金先口座など必要事項を記入し、労働者健康安全機構に提出します。

労働者健康安全機構は、立替払いの要件を満たしているかを審査し、要件を満たしている場合には、2)のとおり計算した立替払額を、労働者の指定する振込口座に送金します。

事実上の倒産の場合

労働基準監督署長に対し、事実上の倒産の認定の申請をします(同じ会社の労働者がすでに申請をして認定を受けていた場合は、する必要はありません)。

労働基準監督署は、会社の状況を調査し、事実上の倒産状態にあると認めた場合には、申請者に認定通知書を交付します。

次に、退職日、未払賃金額などの必要事項を記載した確認申請書を労働基準監督署に提出します。未払賃金額についての資料がある場合には、資料を添付します。

提出を受けた労働基準監督署は、申請者に確認通知書を交付します。

確認通知書は、立替払請求書と一体になっていますので、請求書に氏名、住所、立替払請求金額、振込先口座など必要事項を記入し、労働者健康安全機構に提出します。

事実上の倒産の場合、破産管財人等が未払賃金額を証明してくれるわけではないので、未払賃金があることを証明する資料が必要になります。

主な資料としては労働契約書、就業規則、給与明細、タイムカードなどが考えられますので、可能な限り事前に確保しておくといいでしょう(証拠の集め方については、「未払い残業代請求のための証拠の集め方」を参考にしてみてください。)。

労働者健康安全機構は、審査の結果、要件を満たすと判断した場合には、指定の振込口座に立替払額を送金します。

倒産前ならば一刻も早く未払い残業代請求すべき

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 全額回収したいなら倒産前に対策を
  • 会社から債権譲渡を受けて残業代を回収する方法もある

よくわかりました。8割でももらえるだけましですが、せっかく働いたんだから、やっぱり全額支払ってもらいたいです。どうにかなりませんか?

倒産した後に請求しても全額を回収するのはほぼ不可能です。ですから、倒産前に一刻も早く請求する必要があります。

上で解説したとおり、未払賃金立替制度によって立替払いされるのは、未払総額または限度額の8割です。 通常、倒産した会社にはほとんど財産が残っていませんので、倒産した後では未払賃金を全額回収することはほぼ不可能です。

しかし、労働者からすれば、働いた分は全額きちんと支払ってほしいと考えるのが当然です。全額回収するためにはどうすればいいでしょうか。

倒産した後はほぼ不可能になるわけですから、倒産前にアクションを起こすことが重要です。

具体的には、会社に対して未払い残業代の請求をし、任意交渉をセッティングします。

会社の経営状態が悪化しており、まとまった現金を支払う余裕がない場合には、会社の取引先に対する売掛金などの債権を譲り受け、取引先から回収するという方法も考えられます。

任意交渉は、相手方次第で迅速、柔軟な解決ができる可能性があるので、一刻も早く任意交渉の申入れをすべきです。

まとめ

未払賃金立替制度について解説しました。勤務先が倒産してしまったという方がいらっしゃったら、この手続をすることを忘れないようにしてください。ただし、おそらく多くの方にとってなじみのない手続でしょうから、お一人ですることは難しいかもしれません。
特に事実上の倒産の場合、残業代を含む未払賃金を自分で計算しなければならないので、いっそうハードルが高くなります。手続のことでわからないことがあれば、労働問題に詳しい弁護士に相談するといいでしょう(弁護士の探し方については、「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」を参考にしてみてください。)。
未払い残業代を請求するためには残業代の計算も必要となってくるので、「私の残業代はいくら?残業代計算方法【図解で分かり易く解説】」も参考にしてみてください。

この記事の監修者

弁護士 今成 文紀
弁護士 今成 文紀東京弁護士会 / 一般社団法人日本マンション学会 会員
一見複雑にみえる法律問題も、紐解いて1つずつ解決しているうちに道が開けてくることはよくあります。焦らず、急がず、でも着実に歩んでいきましょう。喜んですぐそばでお手伝いさせていただきます。