歩合制における残業代の考え方と計算方法を詳しく説明します。
ざっくりポイント
  • 労基法が認める歩合制は「一定の賃金を支払うこと」が有効要件
  • 歩合制で残業代を請求するためには2つの要件をクリアする必要がある
  • 歩合制の残業代計算においては、「時間単価」と「割増率」の考え方に大きな特徴がある
  • 歩合制で残業代を計算する場合、歩合給の残業代だけでなく、基本給部分についても残業代を計算して合算するのを忘れない
 
目次

【Cross Talk】歩合制と残業代の関係

先生、歩合で給料をもらう仕事でも残業代はもらえるのでしょうか?

歩合という言葉には「所定の労働時間とは関係なく働く」というイメージがあるため、残業代がもらえないと思っている人が多いのですが、ちゃんともらえるので安心してください。

それを聞いてほっとしました……。今日は歩合制の正確な知識をしっかり身につけて帰りたいので、ご指導のほどよろしくお願いします!

営業職の歩合給って残業代を含んでいるの?歩合制でも残業代請求がしたい。

保険の営業職のように歩合給で働く人にとって、気になるのが「残業代」ではないでしょうか?「私、こんなに働いているのに、普通のサラリーマンみたいな残業代ってもらえないのかしら……」などと不安に思っている人も多いのでは?

この記事では、歩合制で働くすべての人々に向けて、「歩合制と残業代請求」に関する重要な知識をまとめています。

労働基準法が認める歩合制の条件は?

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 労働法が認める歩合制は「基本給+歩合給(インセンティブ)」
  • 雇用契約を結んだ当事者間で完全歩合制を採用することは労基法27条違反となる
  • 雇用契約当事者間で歩合制を採用する場合は、最低でも「平均賃金の6割程度の賃金保障」が必要となる

歩合制で働くということは、基本給がもらえないってことですよね……?

労働法の下では、基本給のない「完全歩合制」は違法です。ただし、違法な歩合制がただちに無効となるわけではありません。有効となる条件をチェックしていきましょう。

「歩合制でも残業代請求ができるか」を考えるためには、まず歩合制の定義を押さえる必要があります。

労働基準法が認める歩合制は「フルコミッション」ではなく「インセンティブ」

歩合制とは、売上高や契約高に比例して報酬が増減する制度です。出来高払制と呼ばれることもあります。

歩合制には次の2種類があります。

  • 完全歩合給…フルコミッション
  • 基本給+歩合給…インセンティブ

労働法が認める歩合制とはインセンティブのことです。条文を見てみましょう。

(労働基準法27条)
出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。

このように歩合制においては、労働時間に応じた一定額の賃金を保障することが義務づけられています。この「一定額の賃金」が基本給部分に該当し、それを超えた成果に対する報酬(出来高払)が歩合給部分となるわけです。

雇用契約での完全歩合制は違法となる

一定の時間給が保障されていることが歩合制の必要条件ですから、雇用契約を結んでいるにもかかわらず完全歩合制(フルコミッション)を採用すれば、労基法27条に違反し、無効となります(労基法13条)。

もっとも、完全歩合制なら例外なく無効になるわけではありません。判例は「(歩合制において)保障給の定めが明確にはなされていなくても、現実に労基法27条の趣旨に合致するような給与体系が確立されており、適正に運用されていると認められれば、当該労働契約が無効であるとはいえない」と判断しています。

なお、労働基準法は労働者に適用されるため,業務委託契約(請負契約、委任契約・準委任契約)の場合,完全歩合制を採用することも可能です。ただし、業務委託とは名ばかりで,企業の指揮監督下に置かれるようなケースでは、実質的に雇用契約関係と同一であるため、完全歩合制を採用すると違法になります

歩合制で保障される「一定額の賃金」とは?

労基法27条が保障する「一定額の賃金」については、「通常の実収賃金とあまり隔たらない程度の保障がされるべき」というのが行政解釈です。

では、実際にどれだけの賃金保障が必要なのでしょうか。行政解釈では「平均賃金の6割程度の保障でよい」としています。 他方、学説には「通常の収入を算定して、その6割程度を保障すべき」とする見解もあります。 経営者としては「人件費はできるだけ抑制したい」と考えるでしょうから、行政解釈を採用する可能性が高いでしょう。

この論点は難しい問題ですので、「歩合制で働いているが、基本給の金額がなんだか少ない気がする…」と感じている方は、ひとりで悩まず、弁護士などの専門家に相談するのがおすすめです。

民法の請負契約との混同に注意

労基法27条の文言には「請負」という言葉があるため、歩合制と民法の定める「請負契約」とを混同しがちですが、もちろんそうではありません。

民法の請負契約は、完成した成果物に対して報酬を支払う契約ですので、労働力をどれだけ提供しようとも、成果物が完成しなければ報酬は発生しません。これに対して、労基法27条は、労働契約が締結されているものの、労働時間ではなく、仕事の成果内容等に応じて定められた賃金が支払われる場合を想定しています。それに対して両者は本質的に異なる契約ですので注意してください。

「歩合制で残業代請求ができない」は誤解!

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 歩合制でも一定の残業代が発生しうる
  • 会社の「残業代は歩合給で支払い済み」との主張が認められるのは、「歩合給の金額が、実際の労働時間に応じて適切に増額されている」「給与明細上、通常の労働時間の賃金と残業代の賃金が明確に区別できる」という2つの要件を充たすときだけ

歩合制で残業代が請求できる場合はどのようなケースなのでしょうか?

はっきりと規定する条文はありませんが、リーディングケースとなった重要な最高裁判例がありますので、詳しく解説しましょう。

歩合制における出来高は労働時間に比例して増える傾向があります。そのため、残業代はすべて歩合給に含まれ、別途「残業代」という名目の割増賃金が発生することはないようにも思えます。しかし、この理解は間違いです。

残業代は「法定労働時間を超えた労働」に対して支払われます。これは歩合制でも同様に扱われます。実際に働いた時間が1日8時間または週40時間という法定労働時間を超えていれば歩合制の基本給部分と歩合給部分について残業代が発生するのです。

「歩合給に残業代が含まれている」は言い訳にはならない!

このように、基本的には、歩合制においても残業代が発生するのですが、いざ残業代を請求すると、使用者からは、「残業代は歩合給に含めてすでに支払い済みである!」と主張されることが多いです。このような会社側の主張が認められるかについては「高知県観光事件」という重要な先例があります。

高知県観光事件:最判平成6・6・13労判653号12頁
(事実の概要)
原告は、タクシー業を営む高知県観光(被告)と雇用契約を結び、タクシー運転手として勤務していた。被告は賃金体系として完全歩合制を採用している。勤務時間は隔日の午前8時から深夜2時までと決められていたが、実際には深夜2時以降も勤務を続けていた。時間外労働や深夜労働に対する割増賃金が支払われなかったため、原告が被告に対して割増賃金を請求した。被告は「時間外労働や深夜労働の手当は歩合給のなかにすべて含まれている」と回答し、原告の請求に応じなかった。
(争点)
歩合給の支払いをもって時間外および深夜労働の割増賃金に代えるには、どのような条件が必要か。
(結論)
歩合給の額が、原告が時間外および深夜の労働を行ったにもかかわらず、被告が支払った歩合給の金額は増額されなかった。また給与明細上も、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外および深夜労働の割増賃金に当たる部分とを区別することもできなかった。このような事実のもとでは、被告が原告に支払った歩合給をもって時間外および深夜労働の割増賃金に代えることはできない。

本事件は「雇用契約を結んでいるにもかかわらず、賃金は完全歩合制を採用する」という特殊なケースです。すでに説明したとおり、雇用契約のもとで完全歩合制を採用することは違法ですが、ただちに無効となるわけではなく、労働に見合うだけの賃金が支払われているのであれば有効となります。

本事件でも、雇用契約のもとで完全歩合制を採用することの是非は争点となっておらず、「歩合制のもとで残業代を請求できるのはどのような場合か」が争われています。

最高裁は、次の2つの要件を満たせば、歩合給の支払いをもって時間外労働および深夜労働の割増賃金に代えることができると結論づけています。

〈歩合給の支払いをもって時間外労働および深夜労働の割増賃金に代えるための要件〉
要件1. 歩合給の金額が、実際の労働時間に応じて適切に増額されている
要件2. 給与明細上、通常の労働時間の賃金と残業代の賃金が明確に区別できる

【具体例】歩合制の残業代計算

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 歩合制における残業代の計算式は基本給部分と歩合給部分に分けて計算する。
  • 歩合制の「時間単価」は、総労働時間で算出する。
  • 歩合給部分の「割増率」は、基礎賃金部分(100%)は含めず、時間外労働の割増分(25%)だけをあてはめる。これは基礎賃金に相当する部分も歩合給全体のなかに含まれているから。

歩合制の基本的な内容はよくわかりました!あとは実際に残業代をどう計算するのか、気になります。

歩合制における残業代の計算方法は、時間単価と割増率の捉え方に特徴があります。固定給の残業代の考え方と大きく異なる点ですので、注意してくださいね。

ここからは、歩合制における残業代の計算方法を、一般的な月給制と比較しながらチェックしましょう。

歩合制における残業代の計算式は、以下で説明するとおりです。

※なお、労基法は完全歩合制について原則無効と扱っているので、インセンティブの場合を前提に説明します。

時間単価の違い

  • 月給制の時間単価…月給金額を「所定労働時間」で割って算出(労規則19条1項4号)
  • 歩合制の時間単価…歩合給総額を賃金算定期間の「総労働時間」で割って算出(労規則19条1項6号)
  • インセンティブの時間単価…基本給部分(月給制なら月給金額)と歩合給部分を分けて時間単価を求める(労規則19条1項7号)

月給制の場合、会社が定めた「所定労働時間」労働したことに対して、固定の月給が支払われるため、一時間当たりの単価を計算する際には、月給を「所定労働時間」で割れば求めることができます。

他方、歩合制の場合、労働者が実際に労働したすべての時間の出来高に対して支払われるものなので、歩合給部分については、総労働時間数で除することによって時間単価を計算します。

割増率の違い

  • 月給制の割増率・・・100%+25%
  • 歩合制の割増率・・・基本給部分については100%+25%
歩合給部分については25%

月給制の場合、時間外に労働をしている以上、少なくとも通常の賃金(100%)は支払われて当然です。そして、労基法37条では、25%の割増賃金を支払う必要があるので、割増率は125%になります。

他方、歩合制の場合、基本給部分については、月給と同様に考えることができるのですが、歩合給部分については、歩合給が実際に労働したすべての時間に対して支払われるものであるため、通常の賃金の「100%」の部分はすでに支払い済みといえ、25%の支給だけで足りるとされています。

したがって、歩合部分の残業代を計算する場合は、割増率のなかに基礎賃金部分(100%)は含めず、時間外労働の割増分(25%)だけをあてはめることになります。

歩合制の残業代計算の具体例

(例)ある月の総労働時間200時間、所定労働時間176時間、基本給25万円、歩合給5万円

時間単価を算出しましょう。基本給部分については、基本給を所定労働時間で割り、歩合給部分については、歩合給総額を総労働時間で割ります。

基本給部分:250,000円÷176時間=1,420円
歩合給部分:50,000円÷200時間=250円

時間単価を算出したら、それぞれの時間単価に割増率と時間外労働時間を乗じて残業代を算出します。

基本給部分:1,420円×125%×24時間=42,600円
歩合給部分:250円×25%×24時間=1,500円

なお、基本給の残業代の計算方法については詳しくは、別コラムを参照してください。

まとめ

歩合給には成果を上げる成績ほど報酬も上がるというメリットがあります。しかし、このメリットだけに目を奪われると「働き過ぎ」を招くおそれがあります歩合で働く社員の残業代を不当に低く計算するブラックな会社もないわけではありません。
歩合制で働いている方は、ぜひ一度は給与明細をチェックして、自分の残業代が正しく支払われているか、弁護士などの専門家に相談にしてみるとよいでしょう(弁護士に依頼したい場合には、「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」を、未払い残業代について弁護士費用がどのくらいかかるか知りたい場合には「残業代請求のための弁護士費用・相場はどのくらい?」を参考にしてみてください。)。

 

この記事の監修者

弁護士 水本 佑冬
弁護士 水本 佑冬第二東京弁護士会 / 第二東京弁護士会 消費者委員会幹事
一つひとつの案件が、ご依頼者さまにとって重大な問題であることを忘れずに、誠実に職務に取り組みます。