勤務時間が長くなりがちな飲食店特有の残業代請求のポイントを解説します。
ざっくりポイント
  • 通常の残業代のほか、深夜労働や休日手当まで支払われているか必ずチェックしよう
  • 休日手当は法定休日に働いたときしか支給されないことに注意!
  • 週40時間の法定労働時間を超えても残業代が出ない場合がある
  • 残業時間の証拠としてはタイムカードが基本
  • 会社にタイムカードがない場合には,毎日出退勤時間を業務日誌や日記に記録しておくことが重要
  • 同僚や取引先の証言も労働時間の証拠となりうるが,協力が必要なうえ,正確性に欠くことも多いため,それだけでは請求が難しい場合も。
  • 会社の反論で一定の説得力を持つのは「固定残業制」と「管理監督者」の2つだけ
 
目次

【Cross Talk】 残業時間が増えても残業代が変わっていなかったら注意!

学生時代にバイトからスタートした居酒屋の仕事、やっと店長に昇進できたんです!

それは良かったですね!でも、それにしてはなんだか浮かない顔ですね?

実は、店長になってから山ほど残業しているというのに、残業代が全然増えなくて……。

居酒屋や喫茶店、レストランなどの飲食店で働く人は残業代請求できる?

こんな悩みをお持ちの方はいませんか?
「居酒屋で毎日夜遅くまで働いているけれど、給与明細を見るとなんだか少ないような気がする……」

飲食店は労働時間が長時間になりやすいもの。となれば残業代もたくさんもらえるように思えますよね?
しかし実際には、本来もらえるはずの残業代をもらえていない方も多いのが現実です。

そこでこの記事では、飲食店で働くみなさんが店側に対して残業代を請求する場合に、必ず押さえておきたいポイントを解説します。

社員でもアルバイトでも未払い残業代請求はできる

残業代がもらえないなら、店長になれた喜びも半減しちゃいますよ……。

働き損ですよね。残業代はすべての労働者の権利です。取りはぐれることのないよう、これから説明するポイントをしっかり理解して、会社に請求することをおすすめしますよ!

あらためて言うまでもないことですが、社員かアルバイトかに関わらず、労働基準法上の「労働者」である以上、残業代は誰でも請求できます。

「管理監督者」や「雇用関係が認められない」といったケースにおいては残業代が請求できないこともあります。この点は後述する「会社側から想定される反論Q&A」でくわしく説明します。

残業代の割増率に注意

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 時間外労働の割増賃金は25%増し、残業が深夜に及べば合計50%増しとなる
  • 休日労働の割増賃金は35%増しとなる。
  • 休日労働に残業代は支給されないので、8時間以上働いても割増率は一律35%だが、深夜労働になれば25%加算される
  • 休日には「法定休日」と「法定外休日」の2種類があり、休日手当が支給されるのは法定休日のみ
  • 飲食店は「週44時間までなら残業代なし」も可能

店長になってから連日帰宅が深夜になるので疲れ切っています……。

身体を壊さないように注意してくださいね。労働時間が深夜や休日に及ぶ場合は、通常の残業代だけでなく、深夜労働や休日労働の割増賃金も請求できますよ。

飲食店のなかには24時間営業や日曜祝日営業の店もあります。そこで注意したいのが、深夜労働や休日労働に対する割増賃金も正しく支払われているかという点です。

深夜労働に対する割増賃金は「25%増し」

深夜労働の割増賃金は「25%増し」です。22時以降早朝5時までの勤務時間帯には25%の割増賃金の支払義務が発生します。
また,労働時間が8時間を超える時間が22時から早朝5時の時間帯に重なる場合には更に25%の割増賃金が加算されるので、合計50%割増賃金を支払う義務が発生します。が支給されます。

休日労働に対する割増賃金は「35%増し」

休日に勤務する場合は、「35%増し」の割増賃金が支給されます(労基法37条1項、平成12・6・7政令第309号参照)。また労働時間が深夜に及べば、深夜労働手当が加算されるので合計60%増しとなります。

割増率が適用されないケースに注意!

時間外労働や休日労働の割増率については、以下の3点に注意してください

①休日労働が1日8時間を超えても「25%増し」にはならない

休日労働に対する手当としては,8時間を超えたとしても「35%増し」にとどまり,更に25%加算されることはありません。
たとえば法定休日に10時間働いても、8時間を超える2時間分について「25%+35%=60%増し」とはならず、35%増しにとどまります。
ただし、深夜労働をすれば25%増しの割増賃金が加算されるので、「35%+25%=60%増し」の割増賃金が支給されます。

②法定外休日に労働しても休日手当は支給されない

休日には、労基法が義務づける「法定休日」と、就業規則などで設ける「法定外休日」の2種類があります。このうち35%増しの割増賃金が支給されるのは法定休日におこなった労働だけです。
法定外休日におこなった労働に支給されるのは基礎賃金ですが、8時間を超えた場合や、すでに週40時間を超えて労働していたような場合には25%増しの残業代が支給されます。

③週44時間までなら残業代なしでも合法

飲食店のような「接客娯楽業」については、特例として法定労働時間を週44時間まで増やすことが認められています(労基法40条、同法別表第1、同法施行規則25条の2参照)。
この特例の存在を知らないと、「おかしいな……。月〜金で40時間、土曜日に4時間働いたのに、土曜日に働いた分に残業代がついてない!これは違法だ!!」などと早合点してしまうので、注意してください。

飲食業で有力な証拠は?

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 残業代を請求する場合、「雇用関係を証明する証拠」と「残業時間を証明する証拠」という2つの証拠が必要
  • 飲食店のスタッフの場合、通常であれば雇用関係を証明する必要はない
  • 残業時間は全体の労働時間から法定労働時間を引いて算出する
  • 飲食業の労働時間を把握するのに有力な証拠として「タイムカード」と「関係者の証言」がある

先生のアドバイスを聞いて、残業代を請求する勇気がわいてきました!

私も力になりますよ!まずは、証拠集めから始めましょう。残業代を請求する場合、「雇用関係を証明する証拠」と「労働時間を証明する証拠」という2つの証拠が必要です。

 

雇用関係を証明する証拠

残業代とは、雇用契約関係にある労働者と使用者との間において,労働者が使用者に対して法定労働時間を超えて労務提供した場合に,使用者に発生する割増賃金のことをさします。したがって、残業代を請求するには、前提として使用者と労働者との間に雇用関係があることを証明する必要があります。

雇用関係を証明する証拠としては,雇用契約書,労働条件通知書,給与明細書等,が典型です。とはいえ、飲食店のスタッフの場合、正社員かバイトかを問わず雇用契約関係にあることがほとんどです。そのため,雇用関係を証明するのにさほど労力は必要ないでしょう。

残業時間を証明する証拠

雇用関係の次に証明する必要があるのは「残業時間」です。

手順としては
①全体の労働時間を把握する
②時間外労働の時間を特定する
という流れになります(労働時間全般について知りたい方は「「残業」とは?残業の種類と定義について」をご覧ください。)。

たとえば1日の労働時間が12時間だとすれば、法定労働時間(8時間)を超えた4時間が時間外労働となり、その4時間について25%増しの残業代が発生することになります。

〈労働時間を把握するのに有力な証拠は?〉

ここでポイントとなるのは、「飲食業の労働時間を把握するのに有力な証拠は何か?」ということです。主に次の2つが考えられます。

①タイムカード

タイムカードに打刻された時間は、労働時間全体を把握するのに役立ちますし、訴訟になった場合でも極めて有力な証拠として採用されます。
もっとも、タイムカードがない飲食店も多いですし、悪質なケースではタイムカードの記録改ざんも皆無ではないので、日頃から自分の勤務時間を手帳やスマホなどにメモしておくと良いでしょう(タイムカードがない場合の証拠の集め方については、「タイムカード等の証拠がない場合の残業代請求方法」を参考にしてみてください。)。

②他者の証言

同じシフトで勤務する同僚や食材の配送スタッフに、
「Aさんとは毎日一緒に片付けをしている。作業が終わるのはいつも深夜」
「食材を届けるのは〜時頃。調理場のAさんには、いつも商品を検品してもらってますよ」
などと証言してもらえれば、労働時間や残業時間を把握する証拠となります。

タイムカードや証言以外にも、帰宅時に利用したタクシーの領収書、家族との通信記録(メールやLINE)なども証拠となります。捨てたり消したりせず、保存しておくようにしましょう。

会社側から想定される反論Q&A

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 修行中であっても残業代は請求できる
  • 「うちの店では誰も残業代を請求しない」ことの理由は「残業代を請求できる権利がないから」ではない
  • 準備作業が、経営者や店長などからの指示でおこなわれていたり,準備作業を余儀なくされていたのであれば,その時間も労働時間といえ,賃金が発生する
  • 固定残業制であることのみを理由に残業代支払いを拒むことはできない
  • 店長であっても労基法上の管理監督者でなければ残業代を請求できる

残業代を請求したものの、やはり会社は残業代の支払いを拒んできましたね……。

ここまでは予想通りですよ。こちらの要求に対して先方が書面であれこれ反論していますが、どの言い分もまったく通りませんから安心してくださいね。

飲食店で働くあなたが会社側に残業代を請求した場合に、すんなり支払ってくれれば良いのですが、色々と反論を述べて残業代の支払いを拒んでくることも十分ありえます。

そこでここからは、想定される会社側の反論をいくつかピックアップし、その妥当性をチェックしていきましょう。

独立するまでの修行に残業代は支払わない

あまりにも常識的なことですが、修行中であっても、労働の対価である賃金、そして時間外労働の対価である残業代は当然発生します。

「右も左もわからない私に仕事のイロハを教えてくれて、そのうえ給料までいただけるのだから、残業代を請求するなんておこがましいことはできない!」と考える方もいるかもしれません。

しかし、そのような過剰な自己犠牲の精神は、ビジネスマンとしての成長と無関係であるだけでなく、心を無駄に疲弊させ、最悪の場合はうつ病などの引き金となるおそれもあります。
労働者は,自らの貴重な労力と時間を会社のために日々費やしており,会社はそれによって利益を得ているのですから,その対価はきっちり請求しましょう。

うちでは残業代を誰も請求していない

「残業代を誰も請求していない」という事実が仮にあったとしても、単に残業代請求に関する知識がないか、職場の先輩や上司の圧力や,上記のような過剰な自己犠牲の精神に縛られて残業代を請求できない等というのがその理由であり、残業代を請求できる権利がないからではありません。
権利行使をするか否かは,その権利者個人の自由です。残業代の請求権について,きっちりとした知識をつけて,請求をするかどうか決定しましょう。

もっとも、あなたが管理監督者の立場にある場合には残業代を請求できないケースがあります。くわしくは「支店や店舗の店長は「管理職(管理監督者)」にあたり、残業代は出ないの?(名ばかり管理職)」で解説します。

準備時間分は賃金を支払わない

この反論には、「準備作業はそもそも労務を提供している時間ではない。労務提供がされていない以上、いくら働いても労働法の定める労働時間にカウントされないので、その対価である賃金も発生しない」という主張が隠れています。

そこで問題となるのが、どういう準備作業であれば、労働法の定める労働時間と言えるのかということです。

判例は、労働時間について次のように定義しています。

〈判例による労働時間の定義〉

労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」である

この定義をふまえると、準備作業について店側から一切指示がなく、スタッフが自主的におこなっているなら、「使用者の指揮命令下に置かれている」とは言えないので残業代は発生しません。反対に、準備作業が店側の指示でおこなわれていたのであれば残業代が発生します。

この場合の「店側の指示」とは、必ずしも経営者や店長の指示に限られないことに注意しましょう。フロアチーフやアルバイトの現場リーダーといった一定の発言権を持つ者からの指示であれば、店側の指示と同視できる可能性があります。
また,明示の指示がなくとも,業務開始にあたって余儀なくされる準備作業については,その時間も労働時間にあたり,賃金が発生するケースもあります。

準備時間について詳しく知りたい方は「早朝出勤、始業前の準備も「残業(労働時間)」にあたるの?」をご覧ください。

残業代が固定だから支払う必要はない

「残業代が固定だから」=「固定残業制」という意味に解釈できます。固定残業制とは、一定時間分の残業代をあらかじめ給料に含めて支給する賃金制度であり、最高裁も一定の要件の下にこれを認めています。

もっとも,固定残業制で一定額を支給しているのだからいくら残業させてもそれ以上に残業代を支払う必要がないものではありません。固定残業制が残業代の支払として認められるためには、2つの要件を満たすことが必要です。

〈固定残業制が有効となる2要件〉

①労働契約書に明記されている

②固定残業代と基本給の各部分が明確に分けられている

この2要件を満たさない場合は固定残業制が認められないので、実際の労働時間に応じた残業代が発生します。また,固定残業制が認められたとしても,実際の労働時間に対価として支給すべき総額を下回る場合には,その不足分については別途残業代を支払う義務が発生します。この問題について理解を深めたい方は、固定残業制に関する別コラムを参照してください。

店長だから残業代の支払いはいらない

「店長だから……」という店側の反論には、「店長は管理監督者なので残業代をもらう権利がない」という主張が隠れています。仮に店長が労働基準法の定める管理監督者と認められるなら、残業代に関する規定が適用されないため(労基法41条2号)、店側の主張は法的に認められる余地があります。

ただし、と社会一般に通用している管理職の立場にあるからといって労基法が定める「管理監督者」にあたるわけではありません。

労基法が定める管理監督者かどうかは、その肩書きではなく,実際の権限や業務内容,管理職にふさわしい相当の手当が支給されているかといった事情を総合考慮して決定します。特に全国規模でチェーン展開している飲食店の場合、「店長」という肩書きには、「統轄店長」や「エリア店長」などさまざまなバリエーションがあり、権限も業務もその手当もその内容が異なるため、実態をよく見極めることが重要です。

管理監督者の権限としては、次のような例が考えられます。

〈管理監督者の権限の具体例〉

  • 勤務シフトの作成や人事考課の決定権があり,経営方針決定へ参与している
  • 労働時間が固定されておらず,出退勤時間に裁量が与えられている
  • 他のスタッフよりも大幅に高額の給与をもらっている

このような特別な権限が多いほど管理監督者と認定されやすくなります。詳細が知りたい方は別のコラムをご覧ください。

まとめ

飲食店での労働は不規則で長時間になりやすいもの。その対価をきちんともらえるなら、残業代や深夜手当、休日手当が加算されることで、給料もかなり増えるはずです。

飲食店には「営業時間」という労働時間の大枠がありますから、現場で働く方の労働時間も比較的把握しやすい職場だと言えます。ご自分の給与明細をよく確認し、残業代の未払いを疑った方は、ぜひ一度弁護士などの専門家に相談してみてください(弁護士の探し方については、「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」を参考にしてみてください。)。