「残業」の定義と典型例を説明いたします。

残業の法的な意味を知りたい!

さあ!残業代請求をしよう!と考えたところで、自分の働いている時間の内どの時間が「残業」といえるか判断するのは難しいですよね。そこで、「残業」そのものの解説と、争いとなる典型例を見てみることで、「残業」の基本的な考え方をマスターしましょう。

Cross Talk : どこから「残業」?

僕の上司は、「今日は帰って良いけど、家のPCでこの仕事やっといてね」なんて言って、必要な残業を会社でさせないんですよね。絶対、残業代をケチってますよ。これって実際残業とおんなじですよね?法的な意味の「残業」を知りたいです。

簡単にいうと、会社が定めた所定労働時間を超えて働くと「残業」になります。ただ、実際に「残業」と言えるかどうかは、労働基準法における「労働時間」にあたるかの判断が大切です。この説明だけでは難しいと思うので、典型例を交えて解説しましょう。

僕今まで「残業」って一言でいってたけど、なにやら複雑そうですね。じっくり聞きます。

ざっくりポイント
  • 残業には「法内残業」「法外残業」の2種類がある
  • 法外残業(法定時間外労働)には25~50%の割増賃金の支払いが義務付けられる
  • 残業時間か否かは使用者の指揮命令下に置かれているかで個別に判断される

目次
「「残業」とは。そもそもどういう場合が残業と言えるの?」の目次

  1. 「残業」ってそもそもなに?
  2. 法定時間外労働ならば割増賃金となる
  3. 【具体例】これは?あれは?残業に当たるの?
  4. 1)通勤時間
    2)準備時間
    3)待機時間(手持ち時間)
    4)出張
    5)社内研修
    6)接待
    7)持ち帰り残業

  5. まとめ

1.「残業」ってそもそもなに?

「所定労働時間」を超えたら「残業」って言ってましたよね……「所定労働時間」ってなんですか?それに、法律で1日8時間、週40時間以内で労働しなきゃならないって聞きましたけど、これって何か関係あるんですか?

所定労働時間を超えた「残業」には2つあって「法内残業」と「法外残業」に分けられるんです。1日8時間週40時間という法定労働時間を超えるか否かで分けられるんですね。概念がややこしいので、ひとつひとつ解説していきましょう。

「残業」、「所定労働時間」と聞いたこと自体はある言葉でしょうが、詳しく理解している人は少ないと思います。「残業」と「所定労働時間」、労働基準法の関係をそれぞれ順を追って説明しましょう。

「残業」とは?

会社は就業規則や個別の労働契約によって労働者の労働時間を定めており、この会社の労働時間の定めを「所定労働時間」と言います。そして、実際に労働者が働いた時間が、会社が決めた「所定労働時間」を超えたら「残業」になります。固い説明では分かりづらいと思うので具体例を見てみましょう。

【具体例1】就業規則で勤務時間が9:00~17:00と定められている。12:00~13:00が休憩時間である。休憩時間は労働時間に算定しない。

この場合、「所定労働時間」は9:00~17:00のうち、休憩時間の1時間を除いた7時間となります。つまり7時間以上働いた場合には「残業」となるのです。

ただ、「所定労働時間」には法律上の制限があり、何時間でも設定できるものではありません。労働基準法では、1日8時間または週40時間が所定労働時間の上限とされています(法定労働時間)。法律で決められているので、会社が規則などでいくら長く労働時間を決めていたとしても、1日8時間、週40時間を超えたら所定労働時間を超えることになり、残業代が発生します。

「法内残業」と「法外残業」

実は「残業」には2つの種類があります。「法内残業(法定内残業)」と「法外残業(法定外残業)」です。

「残業」であっても先ほど挙げた法定労働時間の中で行われた残業は「法内残業」で、法定労働時間外に行われた残業は、「法外残業」と分けられます。労働者と使用者が協定を結ぶなどの場合には、労働基準法は例外として1日8時間を超え、週40時間が所定労働時間の上限を超えることを許容しています。

ただ、労働基準法は労働者の保護目的で長時間の労働を抑制するために、法外残業については割増賃金の支払いを会社に義務付けています。詳しくは、次の項目で説明いたします。

なんだか説明だけでは分かりにくいですよね。また具体例でみてみましょう。

【具体例2】就業規則で勤務時間が9:00~17:00と定められている。12:00~13:00が休憩時間である。休憩時間は労働時間に算定しない。この場合で、労働者が実際に9:00~19:00まで働き、12:00~13:00に休憩を取ったとする。

実労働時間は休憩時間1時間を除いた9時間です。会社の所定労働時間は7時間ですので残業時間は2時間です。労働基準法で定めた法定労働時間は8時間であるため、8時間を超えた部分の1時間は法外残業となり、残りの1時間は法内残業となるのです。

<ポイント>

  • 会社が定めた所定労働時間を超えたら「残業」
  • 法定労働時間を超えた残業は「法外残業」、法定労働時間内の残業は「法内残業」

2. 法定時間外労働ならば割増賃金となる

残業には割増賃金の支払いが義務付けられるって聞きました。割増ってどのくらいになるんでしょうか?

「残業」全てが割増賃金となるわけではありませんので注意してください。「残業」のうち「法外残業」が割増賃金の対象です。割増率は25~50%です。ついでに他の割増賃金となるケースも簡単に図で説明しましょう。

法外残業は、労働基準法で定められた、1日8時間または1週40時間を超えた場合(小規模企業の場合:44時間になることもある。)の残業であり、これは「法定時間外労働」になります。法定時間外労働は法律の例外であって、このような働き方は長時間にわたると労働者の健康を害する可能性が高いといえます。

そこで、労働基準法は、長時間労働を抑制する趣旨で、法定時間外労働に対して、会社に25%の割増賃金を払わせるように義務付けています。さらに法定時間外労働で1か月60時間を超えた場合は50%の割増賃金となります。

この割増賃金は、労働者の1時間当たりの労働の時間単価に乗じて計算することになります。詳しい計算については、別のコラムで説明しますので、今は、法定時間外労働には25%か50%の割増賃金が支払われるということだけを覚えておけば問題ありません。

なお、割増賃金の対象は法定時間外労働だけではありません。労働者の健康を害するような労働時間に対して規制があるのです。ここでは表で簡単に説明します。

残業代・割増率の図解

<ポイント>

  • 1日8時間または週40時間を超えた残業は法定時間外労働(小規模企業の例外アリ)
  • 法定時間外労働は割増賃金の対象となり、割増率は25%で1か月60時間を超えたら50%

3. 【具体例】これは?あれは?残業に当たるの?

冒頭で話した僕の持ち帰り残業のケースは残業になるんですか?上司に指示されてるんですけど……。判断するための具体的な基準ってあるんですか?

法律上には規定はありませんが、判例で使用者の指揮命令下に置かれている時間を労働時間とする基準が示されています。ただ、指揮命令下に置かれているかの判断は、業務関連性なども含めて個別の事案ごとに具体的に検討することになります。色々な事案を見てみましょう。詳しく解説するので簡単に知りたい人は流し読みしてください。

この項目では、典型例を含めて、詳しく解説を行うつもりです。各項目の上部は簡単な説明で、下部に行くにしたがって細かな解説をしております。概要だけ知りたい方は、上部だけ流し読みするだけで充分です

労働時間の意義

労働基準法上の労働時間については、判例で、使用者の指揮命令下に置かれる時間を指し、客観的に決まるものとの基準が示されています(注1)。指揮命令下に置かれているかを判断する際には業務との関連性を重視する立場の裁判例もあります(注2)。

「指揮命令下に置かれている時間」って、いまいちピンときませんよね。簡単に言い換えると、「上司の明示・黙示の指示を受けて管理されている時間」といえるでしょうか。それでも分かりにくいと思います。そこで、典型例を通して見てみましょう。

1)通勤時間

通勤時間は労働時間と認められない可能性が高いでしょう。通勤時間は、使用者の指揮命令下に置かれているとはいえず、原則としては労働時間と認められません

通勤時間とは、住居と就業場所との往復や他の就業場所への移動に関して合理的な経路で移動することであって、業務の性質を除くものと定義されています(労働者災害補償保険法7条2項1号~3号)。このように、通勤時間は、労務を提供するということから離れた行動となっているため、原則として労働時間と認められません。

裁判例としては、事業場の入り口から業務に従事すべきとされる作業場が遠い場合であっても、労働時間としては認められなかったケースもあります(注3)。ただ、事務所への出勤後に他の現場に移動する場合は例外的に労働時間として認められたケースがあります(注4)。これは、事務所へ出勤したことで、使用者の指揮命令下に置かれたと判断されたため、労働時間と認められたと考えられます。

2)準備時間

業務開始前の作業服や保護具の着用、朝礼や体操を行わせることなどは、業務上もしくは法律上(労働安全衛生法など)義務付けられていたり、使用者に指示されたりする場合には、使用者の指揮命令下に置かれているといえることから、労働時間に該当します

準備時間は、実際に労務を提供する前段階の行為です。そこで、労働時間となるかの判断に関しては、業務に必要不可欠な行為か、準備行為をしなければ労働者に不利益が生じるか、参加が事実上強制されているかなど、業務関連性から判断することになります。

例えば、始業前の朝礼などでは、業務手順の説明や点呼が行われることが多く、朝礼に参加しなければ、一日の業務予定が立てられない場合や、参加が事実上強制されているという場合には、労働時間になる可能性が高いです。

裁判例としては、更衣所等において、作業着や保護具などを着用して準備体操場に移動するまでの時間や、作業場から更衣所に移動して作業着等を外す時間が労働時間として認められたケースがあります(注5)。ほかにも鉄道会社の駅務員の行う始業点呼・退社点呼の時間も使用者によって義務付けられていたことから、労働時間として認められたケースもあります(注6)。

ただ、入退門から更衣所までの移動時間や就業後の洗身、入浴の時間は、通勤に困難をきたすような事情がない限り、労働時間に該当しないという判断がされたケースも存在します(注7)。

3)待機時間(手持ち時間)

待機時間(手持ち時間)は使用者の命令があった場合、直ちに労務に取り掛かる必要があることから、使用者の指揮命令下に置かれているといえ、原則として労働時間に該当します

待機時間(手持ち時間)は厳密にいうと休憩時間か否かとの関係で問題になりますので、詳細は別コラムで話すこととします。休憩時間か否かの判断については、労働からの解放が保障されているかによって決まります。待機時間であっても、上司の指示によって業務を開始する必要がある場合には、労働からの解放が保障されていないといえるので、待機時間(手持ち時間)は労働時間に当たる可能性が高いです。

裁判例としては、コピーライターの作業と作業の合間の時間について、パソコンで遊ぶことがあったとしても、広告代理店の指示で直ちに作業に取り掛かる必要があったケースでは、労働時間と認められています(注8)。また、タクシーの客待ち時間も、客が乗車の意思を示した場合には運転に取り掛かる必要があるため、労働時間と認められています(注9)。

4)出張

通勤時間と同じく、使用者の指揮命令下に置かれていると判断することは難しく、労働時間性は原則として否定されるでしょう

出張は主に業務時間外に移動することとなりますので、出張の移動中に関しては労働者の行動の自由が認められ、指揮命令下に置かれているとはいえません。原則として、労働時間と認められません。

しかし、出張に上司が同行し移動中に打ち合わせを行う場合や、移動中に書類の作成と報告義務を負う場合などでは、行動の自由がない状態であり、指揮命令下に置かれているといえ、労働時間と認められる可能性があります。

また、物品の監視・管理や商品や現金、貴金属の運搬などの用務が命じられている特段の事情がある場合は、労働者の行動の自由がないために、移動中の時間は使用者の指揮命令下にあったと判断される可能性があります(注10)。

5)社内研修

研修等への不参加に対して不利益が科されるなど、事実上参加が強制されているような場合には、指揮命令下にあったといえ(業務との関連性)、労働時間性が認められるでしょう

研修、訓練、社内昇進試験、資格試験の受験等は自らのスキルを向上させるために参加する勉強会です。研修等への参加の自由が保障されているか否かに加えて、その研修が当該業務を行うことにどの程度密接な内容を有しているか(業務との関連性)が、労働時間性の判断に重要となります。

裁判例としては、WEB上のサービスを利用した学習活動の時間について労働時間性が肯定されたケースがあります(注11)。この裁判例では、学習教材の内容が業務と密接に関連しており、また業務上知識の習得の必要性が高く、上司が評価項目で明示的にスキルアップを求めているような事案であったため、当該学習時間が会社の業務上の命令であると認定され、労働時間性が肯定されました。

6)接待

営業担当者の接待は、業務関連性が不明確であるとして、原則としては労働時間性が否定されます

接待とは、仕事を円滑にするために取引先などを飲食店でもてなすことです。接待の多くは業務時間外になされ、事業運営上必要ではなく、業務関連性がなく、上司から積極的に命じられているわけでもないため、指揮命令下に置かれていたとはいえず、労働時間性は認められないでしょう。

ただ、裁判例では、接待への参加が命令された場合には、使用者の指揮命令下に置かれたと判断されるため労働時間と認められたケースがあります(注12)。このケースでは会社の費用負担のもとで接待が行われており、会議では議論しにくい技術的で具体的な会話が接待中になされており、かつ週5日程度接待が行われており、原告が業務の必要性を感じて毎回参加していたという事案であるため、業務との関連性が認められたものと思われます。

7) 持ち帰り残業

持ち帰り残業については、原則として私的な場所で自発的に行われたものであるから、使用者の指揮命令下に置かれていないといえ、原則として労働時間に当たりません

ただ、使用者から明示の指示があった場合、もしくは黙示の指示があった場合には使用者の指揮命令下にあったと判断され、労働時間と認められます。黙示の指示とは、例えば、翌日まで仕事を完成させなければならないのに、物理的に事業場が使用できない状況があった場合などが挙げられます。

裁判例としては、上司に時間外勤務をしたことを記載した整理簿を提出しており、上司がこれを黙認していたとした事案では持ち帰り残業の労働時間性が認められたケースがあります(注13)。

<ポイント>

  • 労働時間かの判断基準は、使用者の指揮命令下にあったかどうか
  • 指揮命令下かの判断には補充的に業務関連性を検討する裁判例もある
  • 残業時間にあたるかは、具体的な事案で個別に検討する必要がある

4. まとめ

「残業」そのものの概念と、残業に当たるか否か判断基準についておおまかにお分かりいただけたでしょうか。持ち帰り残業や準備時間など実際に争いになる事案では、残業時間として認められるかの判断は難しいでしょう。ご自身のケースが判断に難しければ、専門家に相談してみてください。

脚注
(注1)労働基準法には労働時間の定義規定は存在しません。この点について、三菱重工長崎造船所事件(最判平成12・3・9労判778号11頁)では労働基準法上の労働時間を「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない。」と解釈しています。指揮命令下に置かれているかの判断基準については、「労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ」るとしています。
(注2)使用者の指揮命令下か否かの判断に関しては、業務関連性があることを補充的に用いている裁判例としては、NTT西日本ほか(全社員販売等)事件(大阪地判平成22・4・23労判1009号31頁等)が挙げられます。詳しくは注11の社内研修の部分で解説します。
(注3)三菱重工長崎造船所第一次訴訟・組合側上告事件:最判平成12・3・9労判778号8頁
(注4)創設事件:東京地判平成20・2・22労判966号51頁
(注5)三菱重工長崎造船所(会社側上告)事件:最判平成12・3・9民集54巻3号801頁
(注6)東急電鉄事件:東京地判平成14・2・28労判824号5頁
(注7)前掲三菱重工長崎造船所(会社側上告)事件
(注8)山本デザイン事務所事件:東京地判平成19・6・15労判944号42頁
(注9)中央タクシー(未払い賃金事件):大分地判平成23・11・30
(注10)昭和33・2・13基発20号
(注11)NTT西日本ほか(全社員販売等)事件(大阪地判平成22・4・23労判1009号31頁等)。
(注12)大阪中央労基署(ノキア・ジャパン)事件:大阪地判平成23・10・26労判1043号67頁。なお、本件のケースは労災認定について接待の業務遂行性を争ったものです。
(注13)ピーエムコンサルタント事件:大阪地判平成17・10・6労判907号5頁