残業代計算の基礎である月ごとの所定労働時間数とは?
ざっくりポイント
  • 残業代の計算式は「残業時間」×「1時間当たりの基礎賃金」×「割増率
  • 残業代請求の基礎である、「1時間当たりの基礎賃金」の算出には月平均所定労働時間の把握が必要
 
目次

【Cross Talk】月平均所定労働時間の算出は不可欠

先生、私の会社では、毎日、定時を超えて2時間残業していて、週に何回かは帰宅すると、22時ぐらいになってしまいます。会社が残業代を支払ってくれないので、自分で計算して請求しようと思います。残業時間の計算は、例えば、毎日2時間の残業しているとしたら、その月の勤務日数に2時間をかければいいですか。

その計算は正確ではありません。ご理解のとおり、残業代の計算には、その前提として、残業時間の把握が必要です。しかし、残業時間の把握方法は、相談者さんの考えるように、日ごとの残業時間の類型ではございません。その理由は、月ごと、もっと言えばその年ごとに休日の日数にバラツキがあるためです。従いまして、残業時間の把握には、月平均の所定労働時間の算出(「月平均所定労働時間数」の把握)が必要となります。この月平均所定労働時間を、実際に勤務した月の実績から控除した時間が、その月のあなたの残業時間です。

なるほど、結構ややこしい計算が必要なんですね。私はもっと単純に考えておりました。確かに、その年ごとに曜日の割り振りがかわるので、所定労働時間を月平均でならさないと、不公平な気がします。

月平均所定労働時間数ってなに?どうやって計算すればいいの?

残業代の計算にはまず、残業時間の把握が必要です。残業時間の把握には、月単位の平均所定労働時間が何時間であるかを把握する必要があります。所定労働時間を月平均で計算する理由は、各月のバラツキをなくすことで、公平に残業代を請求することができるようにするためです。

月平均所定労働時間ってなに?

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 所定労働時間をこえて働いたら「残業」となる
  • 法定労働時間(1日8時間、週40時間*例外アリ)を超えて働いたら法外残業
  • 「月平均所定労働時間数」は「1時間当たりの基礎賃金」を算出するために必要

先生、月平均所定労働時間ってことばになじみがないのですが、一体どういうものなんですか?

まず所定労働時間とは、労働基準法施行規則19条4号に記載があります。その意味は、「月ごとの労働契約上の労働時間は何時間か」ということです。月平均所定労働時間とは、この所定労働時間の月ごとの平均といった意味になります。

残業時間とは

なぜ、月平均所定労働時間の計算が必要なのかの説明の前に、残業時間について簡単に説明します。

残業時間」とは、労基法上の規定の制限の上、労働契約によって定められた労働時間(契約上の始業時間から終業時間までの時間から休憩時間引いたもの)を超過した時間が残業時間となります。

事業者は、原則として労働者に1日8時間(労基法32条2項)を超過、また週においては40時間を超過して勤務させてはいけない(労基法32条1項)ということですので、1日の勤務のうち、8時間を超えると、その労働時間は残業時間となります(法外残業)。

残業について詳しくは、「「残業」とは?残業の種類と定義について」をご覧ください。

月平均所定労働時間数とは

月ごとの所定労働時間を基に「1時間当たりの基礎賃金」を算出すると、月の日数により1時間当たりの基礎賃金が異なることになり、バラツキがでてしまいます。例えば、暦上28日しかない月で計算すると、労働時間が短くなりすぎますし、逆に31日ある月で計算すると労働時間が長くなりすぎてしまいます。

そこで、バラツキがでないように平均の所定労働時間を算出する必要があります(月平均所定労働時間数)。

残業時間の算定の基礎としては、まず、月平均所定労働時間数を計算しないと、「1時間当たりの基礎賃金」を算出することができず、事業者に対して自分の残業代を正確に請求することができません。

参考までに残業代の計算式を掲載します。

残業代計算の方法の図解

この図にある「1ヵ月に働く平均時間数」が「月平均所定労働時間数」です。

月平均所定労働時間数の計算方法

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 月平均所定労働時間の計算の前提として年間休日日数を把握する
  • その月の実労働時間の合計から月平均所定労働時間を控除した時間がその月の残業時間

先生月平均所定労働時間の意味は理解できたのですが、計算方法がよくわかりません。自分でも実際にどのくらいの残業時間があるのか計算したいので、計算方法を教えていただけますか?

計算式は「月平均所定労働時間=(365日-1年の休日合計日数)×1日の所定労働時間÷12ヵ月」です。そこまで複雑ではありませんのでご安心ください。

月平均所定労働時間とは、1年を365日として、そこから1年の休日の合計日数を引いた日数に一日の所定労働時間を乗じます 。これを12か月で除すると、月平均労働時間の計算ができます。具体的には下記の計算式のとおりです。

月平均所定労働時間=(365日-1年の休日合計日数)×1日の所定労働時間÷12ヵ月

計算式をステップ別にしてみると以下の通りです。

月平均所定労働日数の計算方法
ステップ1:年間所定労働日数=1年間の日数(365日)- 1年の休日合計日数
ステップ2:年間所定労働時間数=年間所定労働日数×1日の所定労働時間
ステップ3:月平均所定労働時間数=年間所定労働時間数÷12か月

このように計算すると、例えば、28日しかない月と31日まである日とで、バラツキが平均化され、労働者にとって公平に残業時間の計算ができます。

ただし、ここでご注意いただきたいのは、月平均所定労働時間の計算には年間休日日数を把握する必要があるのですが、そのためには、その事業所ごとの就業規則を確認する必要があります

なかには就業規則がないといった事業所もありますが(法律上、就業規則を労基署に作成し届け出る義務があるのは10人以上の雇用の従業員がいる場合です(労基法89条1項)。この場合には、解釈が必要となりますが、一般的には、労働者に有利なように、暦に従って1年の休日の合計日数を計算すればよいと考えられます(国民の休日は法律によって決まっており、土曜日が休みと数えるか否かは、その業種ごとの慣例・慣習などに依拠すると考えられます)。

【具体例】月平均所定労働時間数の計算してみよう

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 月平均所定労働時間の把握には就業規則などを確認して自分の会社がどういう勤務形態を定めているか確認の必要がある。
  • 変形労働時間制の場合には1年単位のものと月ごとのものがあるのでそれぞれにあわせた計算を行う。

月平均の所定労働時間の計算方法は分かりましたが、より、具体的にはどのようになるのでしょうか。例えば、私は土日休みの週休二日制です。

月平均所定労働時間数の計算は、勤務形態ごと、正確には労働契約の内容ごとに異なってきます。 下には、3つの定型的な類型に分類して具体例を示します。

完全週休二日制の場合(一般的なケース)

一説には週休二日制を採用している企業は、日本の企業のおおよそ半分くらいと言われています。

このケースの場合の所定労働時間を求めてみましょう。前提としては、2019年を想定し、12月31日、及び正月の2日と3日(正月の3が日)は年末年始休暇として計算します。また、所定労働時間は8時間とし、夏季休暇の定めが特段ないといった場合を想定します。

上記条件ですと、年間休日の合計は125日となります。従いまして計算としては、下記のとおりとなります。

 月平均所定労働時間=(365日-125日)×8時間÷12ヵ月=160時間

一年間の変型労働時間制の場合

変形労働時間制の企業もありますので、1年単位の変形労働時間制の場合の月平均所定労働時間数を求めてみます。

この場合は、1年は365日として計算しますので、これを1週間の週の数である7日を除して、1週の法定労働時間である40時間を乗ずれば年間の所定労働時間の上限が出てきます。この数字を1年は12か月ですので12で除します。

式としては下記のとおりとなります。
 365日÷7日×40時間≒2085.714時間
 2085時間÷12ヵ月=173.75時間

一か月単位の変型労働時間制の場合

変形労働時間制の企業で1か月単位での場合を想定して計算してみます。

計算の前提としては、下記のとおりの計算が必要となります。

・31日の月(1月、3月、5月、7月、8月、10月、12月の7ヵ月)
 → 31÷7×40=177.142時間
・30日の月(4月、6月、9月、11月の4ヵ月)
 → 30÷7×40=171.428時間
・28日の月(2月)
 → 28日÷7×40=160時間

月平均所定労働時間の計算にはさらに、上記計算を平均する必要がありますので、下記の計算のとおりとなります。

177時間×7ヵ月+171時間×4ヵ月+160時間×1ヵ月=1239時間+684時間+160時間=2083時間
2083時間÷12カ月=173.583時間

まとめ

正しい残業代計算のためには、月平均所定労働時間を知る必要があります。月ごとに計算して、月月平均所定労働時間を超えた時間が、残業時間となりますので、その時間に時間当たりの時間単価を乗ずることによって、正確な残業代の計算ができます。残業代の計算方法につきましては「私の残業代はいくら?残業代計算方法【図解で分かり易く解説】」や「【図解】残業代の計算に必要な時間単価の「割増率」とは?」などを参考にしてみてください。

この記事の監修者

弁護士 今成 文紀
弁護士 今成 文紀東京弁護士会 / 一般社団法人日本マンション学会 会員
一見複雑にみえる法律問題も、紐解いて1つずつ解決しているうちに道が開けてくることはよくあります。焦らず、急がず、でも着実に歩んでいきましょう。喜んですぐそばでお手伝いさせていただきます。