見逃しがちな法定労働時間「週40時間超」の計算方法を解説します。
ざっくりポイント
  • 週40時間超は法内残業の累積で計算する
  • 具体例で週40時間の計算方法を理解しましょう
 
目次

【Cross Talk】法定労働時間週40時間超えってどう判断するの?

1日8時間、1週間40時間を超えて働くと残業代がもらえると聞いたことがありますが、具体的にどうやって計算するのですか?毎日のように9~10時間働くとどちらも超えてしまいますが、二重にもらえるのですか?

まず、1週40時間の計算方法を正確に理解する必要があります。1週40時間とは、法定休日労働時間と1日8時間を超える労働時間を除いた、1日8時間以下の労働の累積で計算することになっています。 たとえば、月曜から金曜まで毎日9時間働いたとすると、1日8時間を超える労働が合計5時間で、この5時間を除いた労働時間は週40時間となり、1週40時間を超えません。したがって、1日8時間を超える5時間分の残業代(割増賃金)だけを請求できるということになります。

そうやって計算するんですね!

法定労働時間の週40時間超ってどうやって計算するの?

労働基準法は、「1日8時間」「1週40時間」という労働時間を定め(法定労働時間)、これを超える労働(法定時間外労働)に対して割増賃金の支払いを義務付けています。

このことはよく知られていますが、「1日8時間」はともかく、「1週40時間」をどのように計算するかについては意外に知られていません。

そこで今回は、法定労働時間「週40時間」の計算方法について、具体例を挙げて解説します。

意外と忘れがちな「週40時間超」の残業代請求

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 法定労働時間週40時間超の計算に対応していない給与計算ソフト、アプリがあるので注意が必要
  • 週40時間を超えるかどうかは1日8時間以下の法内残業の累積で判断する

会社から残業代はもらっているのですが、自分で思っていたよりも額が少ないことが多いです。会社の計算が間違っているのでしょうか?

1週40時間を超える場合の残業代を見落としているために支給額が少なくなっている可能性が考えられます。

労働基準法は、原則として使用者は、労働者に1週40時間、1日8時間を超えて労働させてはならないとし(労基法32条)、例外的にこの制限を超えて労働させることができる場合であっても、超過した時間については25%以上の割増賃金を支払わなければならないと定めています(労基法37条)。

このこと自体は広く知られているのですが、一般的な会社が使用する給与計算ソフトやアプリの中には、「1週40時間」の計算に対応していないものが多いようです。

そのため、「1週40時間」超の残業代は見逃されがちで、結果的に労働者に支払われる残業代(時間外手当)が少なくなっているケースが珍しくありません。

ですから、会社から支給される残業代が少ないと感じた方は、1週40時間超の残業代が支払われているかを確認する必要があります。

法定休日の労働はカウントしない!

法定休日の労働は、「1週40時間」の計算ではカウントしません。

使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないとされており(労基法35条)、これを法定休日といいます。

法定休日に労働させた場合、使用者は労働者に35%以上の割増賃金(休日手当)が支払われます。

法律上、休日手当と重複して残業代(時間外手当)の支払いは予定されていないので、法定休日労働時間は残業代計算の「1週40時間」にカウントしないのです。

1日8時間の超過分もカウントしない!

1日8時間を超える労働をした場合の超過した時間も、「1週40時間」の計算ではカウントしません。1日8時間を超えた労働時間について 残業代を計算しながら、1週40時間の計算でも1日8時間を超えた労働時間をカウントすると、同じ労働時間に基づいて発生する残業代を二重に請求することになるからです。

たとえばある曜日に10時間働いた場合、1日8時間を超える2時間分の割増賃金が支払われますが、「1週40時間」の計算の場面では、1日8時間を超えるとして割増賃金の対象となる2時間分は除き、8時間だけを数えることになります。

1日8時間を超えた時間を「1週40時間」の計算にも含めると、結果的に重複して時間外手当をもらえることになりますが、そのような計算は認められないということです。

このようにみると、結局、「1週40時間」のカウントの対象となるのは、法定休日労働を除いた1日8時間以下の労働時間といえます。

たとえば、労働時間が午前9時から午後5時まで(休憩時間1時間)の場合、所定労働時間は7時間ですから、午後6時まで労働させても1日8時間の制限を超えません。 したがって、就業規則に特別な定めがない限り、割増賃金を支払う必要はありません。

このような、所定労働時間は超えるが1日8時間の法定労働時間を超えない残業を「法内残業」といいます。

「1週40時間」を超えるかは、法内残業の累積で判断します。つまり、1日ごとにみれば法内残業にあたる場合でも、これを繰り返して労働時間が1週40時間を超えた場合には、割増賃金の対象になるということです。

割増賃金について詳しくは、「【図解】残業代の計算に必要な時間単価の「割増率」とは?」をご覧ください。

【具体例】週40時間超の残業代計算方法

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 法定休日労働、1日8時間を超える労働時間を除いて計算する

大まかな考え方はわかりましたが、なかなか具体的なイメージがわきません。

それでは、いくつか具体例をあげて、週40時間の残業代計算方法をご説明しましょう。いずれも週の起算日については就業規則に定めがなく、法定休日は日曜日とします。どのように計算するのかご自身でも考えながら読み進めていってください。

例1:一日7h、月~土の6日間働いた場合

月曜日から土曜日まで毎日7時間労働した場合を考えてみましょう。

まず、法定休日労働はありません。仮に土日の週休2日であっても、そのうち日曜日が法定休日であれば、土曜日の労働は法定休日労働には当たりません。

次に、1日ごとの労働時間をみると、8時間を超えた曜日はありません。

したがって、1日あたりでは割増賃金は発生しませんが、労働時間の全てが「1週40時間」のカウントの対象になります。

そうなると、月曜日から金曜日までの労働時間の累積が35時間となりますから、土曜日の労働時間のうち5時間分だけが1週40時間の範囲内で、残る2時間は時間外労働ということになります。

したがって、2時間分の時間外手当(割増賃金)を請求できます。

例2:日2h、月火9h、水木金土7h働いた場合

次に、日曜日2時間、月曜日火曜日9時間、水曜日から土曜日まで7時間働いた場合を考えてみましょう。労働時間を単純に合計すれば週48時間となりますが、「1週40時間」の計算の場面ではどうなるでしょうか?

まず、日曜日の2時間の労働は法定休日の労働にあたり、休日手当の対象になるので、「1週40時間」の計算の対象にはなりません。

次に、月曜日と火曜日の労働時間9時間のうち、1日8時間を超える各1時間は法定時間外労働となり、時間外手当(割増賃金)の対象となります。

先に「1日8時間」を超える部分を計算しているので、「1週40時間」の判定の際には、時間外労働とした各1時間を除いた労働時間を数えます。

そうすると、月曜日から金曜日までの労働時間の累積は37時間となりますので、土曜日の労働のうち3時間だけが「1週40時間」の制限の範囲内で、それを超えた4時間が時間外労働となります。

図で表すと次のようになります。

赤の範囲が法定休日労働、青の範囲が1日8時間を超える時間外労働で、これらは「1週40時間」の計算ではカウントしません。

1日8時間以下の労働時間(緑の範囲)を累積すると、土曜日の3時間までが1週40時間の範囲内になるので、その後の4時間(黄色の範囲)は時間外労働となります。

まとめ

1週40時間の計算方法について解説しました。給与計算ソフトやアプリが未対応のために、会社も残業代の計算が間違っていることに気付いていない可能性があります。
ですから、残業代が少ないのではないかと疑問を持った場合、黙って引き下がる必要はありません。遠慮せずに会社に残業代の計算方法を確認すればいいでしょう。
いきなり会社に聞くのは気が引けるという方は、残業代に詳しい弁護士に相談し、残業代を正しく計算すればどの程度になるのか、おおよその見込みを確認したうえで、その後の対応を決めてもいいでしょう(弁護士の探し方については、「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」をご覧ください。)。
残業代の証拠収集方法については、「未払い残業代請求のための証拠の集め方」をご覧ください。

この記事の監修者

弁護士 水本 佑冬第二東京弁護士会 / 第二東京弁護士会 消費者委員会幹事
一つひとつの案件が、ご依頼者さまにとって重大な問題であることを忘れずに、誠実に職務に取り組みます。